婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

1

　「おいおい、まじかよ……」
　というつぶやきは、肌寒い秋風に流された。
　
　セム・マイヤー、十八歳。
　俺は生まれて初めて、自分の婚約者が義弟とキスしているのを見てしまいました——


　遡ること前世。遡りすぎかとは思うけれど仕方ない。
　俺は超絶ブラック企業での過労に耐えきれず、ある日階段で転んで目が覚めたら、マイヤー伯爵家の長男として生まれていた。

　え？　情報過多だって？　そんなの俺もだよ。
　でもバブバブ言ってるうちに、ある程度この世界については詳しくなった。

　一、この世界には魔法がある。
　二、十歳になると魔力判定を受けて、十三歳で魔法学園に入学する。
　三、俺の実家は魔法薬草農園の大地主で、それなりに裕福な家らしい。

　物心もつき、ある程度喋れるようになったとき、俺は確信した。

　きっと十歳の魔力判定のときに、すっごい能力が覚醒するのではないか……！　と。

　けれど現実は残酷だ。
　俺に特別な能力は見つからず、それどころか『魔力欠乏症』なんて病名がついてしまった。
　要は、俺の体は魔力を貯めることができないため、魔法が一切使えないということらしい。

　最悪すぎ、この異世界。もう一回転生したい。

　でもそんなことはできないので、俺は少しでも実家に残れるよう、魔法薬草系の勉強に打ち込んだ。

　おかげで実技はからっきしだけど、座学が学年トップだったため、王侯貴族が通う魔法学園にはギリギリで入学できた。

　それから中等部、高等部を経て、なんとか毎日平穏に過ごしていたのだが……