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ひっ、と短い悲鳴を飲み込むと同時に、両手をベッドに押し付けられる。魔王の顔が近づき、唇が重なった。
反射で、拒むように体が固まる。けれど、嫌がってはいけないと思い直す。貞操と命、天秤にかけて、自分は命に比重を傾けたのだから。
リオンは鼻で息をして、なるべく力を抜く。それが正解かわからないけれど、魔王は了解を得たかのように、舌でリオンの唇を割り開いた。
——熱い。
じゅるり、と音を立てて、口内を蹂躙される。魔王の舌は長く、厚く、人ならざる動きをする。それが怖く、嗚咽しそうになり、震える指を魔王の指に絡ませた。
生娘みたいだ。リオンは頭の片隅で思う。
こんな厳つい男が、口吸いだけで震えてるなんて……どう考えてもおかしい。おかしいけど、何もできない。喉奥まで入ってくる舌に、「んっ、くっ……」と、えずかないようにするので精一杯だ。
生理的な涙が目の縁に溜まる。もちろん泣いたところで、魔王は動きを止めないだろう。なら激しいキスに溺れないよう、リオンは息継ぎをするしかなかった。
「はっ……ふっ……」
じんじんと唇が痺れ、感覚が鋭くなってきたとき、魔王の手が離れる。リオンが拒まないとわかったのか、魔王の両手はリオンの顎を包みこむようにがっしりと掴まれた。
「……んぅ」
鼻から漏れる自分の声が気持ち悪い。それは魔王も同じだと思うのだが、長い舌は歯列の裏をなぞり、上顎を撫で、リオンの喘ぎ声を引き出そうとする。
と同時に、ぎゅうと、耳裏から首にかけて圧をかけられた。魔王の指が、血の流れを止めるように食い込む。
——あっ、まずい、これは……
一気に空気が回らなくなり、顔が熱を持つ。頭の奥がぼーっと痺れ、宙に浮いたかのように、体がふわふわし始めた。
ぬるぬると舌が動き、口の中いっぱいに犯される。大きく鼻から空気を吸っても、全く足りない。
思わず、怖くて、魔王の肩を掴んだ。何かに掴まっていないと、どこかに落ちてしまう気がした。
「はっ、あ……」
——息が……できな……っ
何も考えられない……のに、気持ちいい。自分で自分の性器を扱うときみたいだ。思考がまとまらず、目の奥が白で塗りつぶされる。
もし、このまま意識が飛んでしまえば——この先起こる恐ろしいことも、怖いことも、気づかぬ内に終わる……と、希望を見出したところで、ぱっと手を離される。
口の中を占めていた厚い舌も、どろっと透明な糸を引いて離れた。リオンは勢いよく息を吸い、わずかにむせる。全力で走った後のように肺が空気を求め、じっとりと汗をかいた。
「……他のやつにも、この表情を見せたのか」
はぁ、はぁ、と肩も胸も大きく上下させながら息切れしていると、顎を掴まれ、ぐいっと顔を無理やり合わせられる。まだ闇に目が慣れていないが、青白い月光に、魔王の歪んだ顔が映った。
つい、とリオンは視線だけを逸らす。そんなわけないだろう、と心のうちで嘆きながら。
魔王の指摘通り、今までリオンは近衛騎士に求められる清廉潔白さを維持してきた。
地方都市で風俗店の勧誘にあうことはあったが、身元がわかってしまう危険性を考えると、利用しようなんて気は全く起きなかった。
本当は気弱で小心者の自分が、近衛騎士であることに、ただでさえ後ろめたさを感じているのだ。これ以上性欲にかまけて騎士として恥ずかしい行為は重ねたくなかった。
だが、今更、『経験が無いです』とは言えない。
「……そんなこと、どうでもいいだろう?」
リオンは手の甲で口元を隠しながら、息も絶え絶えに答えた。
「……そうだな。どうせ、忘れさせる」
魔王は心臓が寒くなりそうな声音で言うと、突然リオンのシャツを破り、首筋に歯を立てる。
「いっ!……っ!」
ぞわりと肌が粟立つ。さすがに押し返そうと魔王の肩を掴んだが、びくりともしない。ぐぐと歯を食い込まれ、痛みを超えた熱が生み出される。
瞬間、魔法の気配が漂った。くらりと目眩が襲う。
「な、なにを……」
「生気を増幅させる魔法を込めた……きっと、気に入るぞ」
——そ、それって……!!
答え合わせをする前に、ちゅっと首筋に吸い付かれ、ぞわわとした感覚が体の中心を走る。そのむず痒い感覚はまっすぐ下腹部に落ちて、留まってしまった。
「はっ……!」
まずい……まずい、まずい! と焦ってもすでに遅く、先ほどの意識が飛びそうな口吸いもあって、ぐんっと自身の性器が持ち上がるのがわかった。
それに気づいているのかいないのか、魔王の体がリオンの足を開き、布越しに互いの性器を合わせる。
「っ……!?」
リオンはぎょっとして、首だけを持ち上げて下半身を見た。服を着ているとわかりづらいが、触れているものの大きさがあまりにも違う。子ども用の木刀と、大人用の長剣なみの差だ。
リオンだって決して小さくない。なんなら年の近い近衛騎士たちからは、着替える際に羨望の眼差しを受けるほどの大きさだった。だからまさか魔王と己の差がここまで大きく離れているとは思っておらず、種族間の力量差をいやでも実感させられる。
「なっ、え」
「安心しろ、ちゃんと、ここで、気持ちよくする」
そう言って魔王は、大きな手でリオンの腰を掴み、親指で下腹部をぐっと押し込んだ。途端に、きゅうと筋肉が収縮し、「あっ……!」と声が出る。
何とはない刺激なはずなのに、声が抑えられない。
脈がどっ、どっ、どっ、と大きく動くのを感じながら、魔王の『それ』を入れると知り、目の前が暗くなった。
反射で、拒むように体が固まる。けれど、嫌がってはいけないと思い直す。貞操と命、天秤にかけて、自分は命に比重を傾けたのだから。
リオンは鼻で息をして、なるべく力を抜く。それが正解かわからないけれど、魔王は了解を得たかのように、舌でリオンの唇を割り開いた。
——熱い。
じゅるり、と音を立てて、口内を蹂躙される。魔王の舌は長く、厚く、人ならざる動きをする。それが怖く、嗚咽しそうになり、震える指を魔王の指に絡ませた。
生娘みたいだ。リオンは頭の片隅で思う。
こんな厳つい男が、口吸いだけで震えてるなんて……どう考えてもおかしい。おかしいけど、何もできない。喉奥まで入ってくる舌に、「んっ、くっ……」と、えずかないようにするので精一杯だ。
生理的な涙が目の縁に溜まる。もちろん泣いたところで、魔王は動きを止めないだろう。なら激しいキスに溺れないよう、リオンは息継ぎをするしかなかった。
「はっ……ふっ……」
じんじんと唇が痺れ、感覚が鋭くなってきたとき、魔王の手が離れる。リオンが拒まないとわかったのか、魔王の両手はリオンの顎を包みこむようにがっしりと掴まれた。
「……んぅ」
鼻から漏れる自分の声が気持ち悪い。それは魔王も同じだと思うのだが、長い舌は歯列の裏をなぞり、上顎を撫で、リオンの喘ぎ声を引き出そうとする。
と同時に、ぎゅうと、耳裏から首にかけて圧をかけられた。魔王の指が、血の流れを止めるように食い込む。
——あっ、まずい、これは……
一気に空気が回らなくなり、顔が熱を持つ。頭の奥がぼーっと痺れ、宙に浮いたかのように、体がふわふわし始めた。
ぬるぬると舌が動き、口の中いっぱいに犯される。大きく鼻から空気を吸っても、全く足りない。
思わず、怖くて、魔王の肩を掴んだ。何かに掴まっていないと、どこかに落ちてしまう気がした。
「はっ、あ……」
——息が……できな……っ
何も考えられない……のに、気持ちいい。自分で自分の性器を扱うときみたいだ。思考がまとまらず、目の奥が白で塗りつぶされる。
もし、このまま意識が飛んでしまえば——この先起こる恐ろしいことも、怖いことも、気づかぬ内に終わる……と、希望を見出したところで、ぱっと手を離される。
口の中を占めていた厚い舌も、どろっと透明な糸を引いて離れた。リオンは勢いよく息を吸い、わずかにむせる。全力で走った後のように肺が空気を求め、じっとりと汗をかいた。
「……他のやつにも、この表情を見せたのか」
はぁ、はぁ、と肩も胸も大きく上下させながら息切れしていると、顎を掴まれ、ぐいっと顔を無理やり合わせられる。まだ闇に目が慣れていないが、青白い月光に、魔王の歪んだ顔が映った。
つい、とリオンは視線だけを逸らす。そんなわけないだろう、と心のうちで嘆きながら。
魔王の指摘通り、今までリオンは近衛騎士に求められる清廉潔白さを維持してきた。
地方都市で風俗店の勧誘にあうことはあったが、身元がわかってしまう危険性を考えると、利用しようなんて気は全く起きなかった。
本当は気弱で小心者の自分が、近衛騎士であることに、ただでさえ後ろめたさを感じているのだ。これ以上性欲にかまけて騎士として恥ずかしい行為は重ねたくなかった。
だが、今更、『経験が無いです』とは言えない。
「……そんなこと、どうでもいいだろう?」
リオンは手の甲で口元を隠しながら、息も絶え絶えに答えた。
「……そうだな。どうせ、忘れさせる」
魔王は心臓が寒くなりそうな声音で言うと、突然リオンのシャツを破り、首筋に歯を立てる。
「いっ!……っ!」
ぞわりと肌が粟立つ。さすがに押し返そうと魔王の肩を掴んだが、びくりともしない。ぐぐと歯を食い込まれ、痛みを超えた熱が生み出される。
瞬間、魔法の気配が漂った。くらりと目眩が襲う。
「な、なにを……」
「生気を増幅させる魔法を込めた……きっと、気に入るぞ」
——そ、それって……!!
答え合わせをする前に、ちゅっと首筋に吸い付かれ、ぞわわとした感覚が体の中心を走る。そのむず痒い感覚はまっすぐ下腹部に落ちて、留まってしまった。
「はっ……!」
まずい……まずい、まずい! と焦ってもすでに遅く、先ほどの意識が飛びそうな口吸いもあって、ぐんっと自身の性器が持ち上がるのがわかった。
それに気づいているのかいないのか、魔王の体がリオンの足を開き、布越しに互いの性器を合わせる。
「っ……!?」
リオンはぎょっとして、首だけを持ち上げて下半身を見た。服を着ているとわかりづらいが、触れているものの大きさがあまりにも違う。子ども用の木刀と、大人用の長剣なみの差だ。
リオンだって決して小さくない。なんなら年の近い近衛騎士たちからは、着替える際に羨望の眼差しを受けるほどの大きさだった。だからまさか魔王と己の差がここまで大きく離れているとは思っておらず、種族間の力量差をいやでも実感させられる。
「なっ、え」
「安心しろ、ちゃんと、ここで、気持ちよくする」
そう言って魔王は、大きな手でリオンの腰を掴み、親指で下腹部をぐっと押し込んだ。途端に、きゅうと筋肉が収縮し、「あっ……!」と声が出る。
何とはない刺激なはずなのに、声が抑えられない。
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