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番外編(短編)
ハロウィン番外編短編
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皆様お久しぶりです。栄円ろくです。
本日はハロウィンということで、ジルとライア様のif世界……ハロウィンver.をちょこっとだけ……
『もしもライア様が吸血鬼で、ジルが生贄だったら……』
的な『吸血鬼ライア様×生贄ジル』のお話です。本編とはまったく関係無しの、ただハロウィンを楽しみたいだけの話です。
* * * * * *
村の外れにある丘の上には、廃墟同然の大きな屋敷が立っている。屋敷は約200年前からあると言われ、人の血を吸う恐ろしい吸血鬼が住んでいると噂されていた。
しかし、それも御伽の話。村の子供達を怖がらせるための、大人の嘘。
——ひと月前の満月の夜に、生贄を求める手紙が領主宛に送られるまでは。
「ここが、俺の死に場所……」
無理やり着せられた妹のドレスの裾を踏まないよう、俺は慎重に馬車から降りる。御者はお礼をいう前に馬を走らせ、颯爽と去っていった。
あまりの潔さに半ば呆れつつも、『ダルトン公爵邸』と書かれた鉄柵を見上げる。
どうして俺が冬の寒空の下、まったく似合わない薄着の女装姿で立っているかというと、全ては一ヶ月前に父の元に送られた手紙のせいだった。
『お前の一人娘を差し出せ。さすれば金は貸してやる』
領地運営に失敗し、膨大な借金を抱えた父は村人全員に債券を発行した。しかし誰も買い手がつかず絶望していたところに、ライア・ダルトン公爵と名乗る謎の人物が、俺の妹リリーと引き換えに金を出すと手紙を送ってきたのだ。
その額はなんと、借金を全額返済してもお釣りがくるほど……
「ううっ……だからって俺が妹のふりをするのは無理があるって!」
俺は外気に晒された腕をさすりながら、門の前をぐるぐるする。
強欲な父は娘とお金を天秤にかけ、両方を得ることにしたらしい。
今朝突然呼び出されたかと思えば、「お前がリリーの格好をして屋敷へ行け」と告げられ、さすがにたまげたものだ。
けれどまともな文句を言う前に、あれよあれよと化粧をされ、ここに立っている。ほんと、最悪。ついてなさすぎる。
一応顔がわからないようにつばひろの帽子を被り、雑なかつらをつけ、過剰なほど派手な化粧を施されたが……正直、吸血鬼より俺のほうが化け物だと思う。
だって、いくら華奢とはいえ背丈はあるし。肩幅だって男のそれだ。一発で見破られ、殺されるに決まってる。
「でも、もう帰れないんだよなぁ……」
馬車もないし、実家に居場所もない。サイズの合わない靴じゃ遠くまで歩けないし……
お先真っ暗、さよなら俺の今世。
失意のどん底で心を彷徨わせていると——
「……えっ」
なぜか鉄柵の門が勝手に開いた。
……えっ、どういうこと? てかなんで勝手に開くの? 吸血鬼の力?
神のみわざのような能力に、恐ろしさが増す。
だが、俺に残された道は一つしかない。
手の震えを誤魔化すようにドレスを掴み、俺は一歩、屋敷へ踏み入れた。
「……し、失礼します……シャルマン家の者ですが……?」
玄関扉を叩いても誰も出てこなかったので、びくびくしながら勝手に中に入る。
屋敷の中は昼間とは思えないほど暗かったが、外観からは想像つかないほど綺麗な室内だった。
……なんで、埃一つないんだろう。
疑問と恐怖がないまぜになりつつも、扉から手を離す。するとバタンッ! と大きな音を立てて扉が閉まり、心臓が縮こまった。
「ひっ!」
「……その扉はかなり重い。開けるのに苦労しただろう?」
今度は静かな声が聞こえてきて、二重に飛び上がる。
ばっと声が聞こえてきた方に顔を向けると、中央の階段から恐ろしいほど美しい相貌をした青年が降りてくるところだった。
「あっ、えっと」
俺は慌てて帽子を取り、手を前に組む。挨拶をしようとしたが、咄嗟の出来事にうまく言葉が出て来ない。
「昼間は皆寝ているのだ。だから出迎えが無く申し訳ない。私がライア・ダルトン公爵だ。よろしく」
「あ、はい……よろしく、お願いします……」
ちゃんと返さないといけないのはわかっているのに、近づいてくる青年があまりにも麗しくて喉がつまる。
艶やかな黒髪、陶器のように白い肌。極めつけは真っ赤に輝く紅玉の瞳。
目の前までやって来た公爵様の顔を呆然と見ていると、ぱちっと視線が交差し、思わず目を伏せた。
「……ふっ、やはりいい匂いだな」
「えっ?」
「知っているだろう? 私が吸血鬼なのは。まさか知らずに来たわけじゃあるまい」
「!?」
ぐっと肩を引き寄せられ、晒された首筋を舐められる。思わず小さな悲鳴がもれて、ライア様を強く押してしまった。
「……はっ、あ! す、すみません! その……!」
「いや、こちらこそすまない。ジルの甘い匂いにつられて本能が暴れてしまった……こんな失態、これまで二百年一度も無かったのに」
耳に届いた二百年という数字に、目を見開く。じゃあ本当に、この浮世離れした美貌の青年は、人間じゃないってこと……?
って、その前に、今さらっと俺を『ジル』って呼ばなかったかっ?!
「ラ、ライア様、もしかして……!」
「……吸血鬼は一度嗅いだ香りは忘れない。この前シャルマン子爵から送られてきた手紙に、甘い匂いがついていたから、調べさせてもらった。そしたら、ジルに辿り着いたわけだ」
「っ!? じゃ、じゃあ、最初から全て知ってて……!」
「シャルマン子爵は下衆な野郎だ。他人が欲しがっているものが、よく見える。だからジルを欲しいと言えば簡単には渡さないだろうと思って、リリーを使ったのだ」
と丁寧に説明してくれている間にも、ライア様は苦しげに呼吸を乱れさせる。なんとか血を吸わないように手で鼻と口を抑えているが、非常に俺の血が物欲しそうなのは見てわかった。
「じゃあ……最初から俺が目的だったんですか?」
「そうだ。だが、やはりこんなこと、すべきじゃ無かった。今馬車を用意させる。すぐに家へ帰れ」
「……っ!? ど、どうして……!」
「どうして? それは私にとって吸血は、空かせた腹を満たすためだけの行為じゃないからだ」
ぎろりと睨みながら、ライア様が近づいてくる。足を一歩後ろに下げるが、背中が扉にあたり逃げられない。
怖い。恐ろしい。帰りたい——はずなのに、どうして彼に見つめられると、お腹の奥が疼くんだろう。
いつの間にか、俺の息も上がっている。頭の中が、熱くなる。
「……私にとって血を吸いたいという欲求は、人で言う愛しい、可愛がりたい、甘やかしたいと、同じなんだ」
ライア様は口元から手を離し、右手を扉にバンっとつける。目前に迫る鋭利な犬歯に
、なぜか俺の喉がごくりと鳴った。
「だから、嫌なんだ。同意のない吸血で、怖い思いをさせたくない」
理性と本能が揺れる瞳に、心臓が締め付けられた。今まで誰かに心配されたことも、身を気遣われたこともない。
息をしているだけで罵倒され、歩くだけで鞭を打たれる。
そんな家に帰るぐらいなら、今ここで、俺を必死に求めてくれる彼の贄になりたいと、思ってしまった。
「……いいですよ。血を吸って」
「……はぁ?」
赤い瞳が見開かれる。俺は熱くなる頬をそのままに、首周りが隠れるかつらを外し、帽子も下に落とす。
短い、男の髪。軽く首を振って整えても、長さは変わらない。
「俺は……男ですし、貧相ですし、きっと美味しくないですけど……それでもよければ、あなたの歯で貫いてください」
恥ずかしさに潤む視界で、ライア様を見上げる。眉根を寄せて震える彼は、まだ自分の理性と葛藤しているようだった。
「……っ! ああ、くそっ! あとで後悔しても知らないからな!」
「うわっ!」
急に抱きしめられたかと思えば、お姫様抱っこで運ばれる。辿り着いた部屋のベッドに寝かされると、強い力でドレスの襟を引っ張られた。
ビリビリ、と布が破れる音がする。同時に首筋に、湿った熱い舌が当たる。
まるで今からここに傷をつけると宣言するような、優しさに満ちた舐めかただった。
「……本当に、いいのか?」
「……はい。ひと思いに、やってください」
怖くないと言ったら嘘だ。でもそれ以上に、体の奥の疼きが彼を求めている。今すぐに貫いて、沸々と湧く熱に蓋をしてほしい。
「……わかった」
苦しそうな表情のまま、ライア様は俺の肩に顔を埋める。固い質感がぷつと当たり、じりじりと皮膚を侵食していく。
うっ……い、痛いっ、
思わずライア様の背中に腕を伸ばす。一瞬怯んだように鋭い牙の進行が止まったが、もう理性では止められないないのか、再び痛みが広がっていく。でもある一点を超えると、痛みより熱いという感覚が強くなった。
——そこからが、本当の吸血行為だった。
「うっ、んっ……」
なるべく声を出さないようにしたいのに、舌で舐められ唇で吸い付かれるたび、甘い痺れが体を駆け抜ける。
ちゅっちゅっと鳴る水音までが、耳を犯して体をおかしくさせた。
な、なんだこれ……! 血を吸われているだけなのに……どうして、気持ちいいの……!?
自然と内ももに力が入ってしまい、スカートの中でもじもじとさせる。片方の手で口元を抑えながらも、未知の快感に涙が溢れた。
けれどライア様は流れる血を舐めるのをやめない。すくうように下から上へ動かしたかと思えば、歯を当てて痛く無い程度の甘噛みをする。
なら、まだ強く噛んでほしい。痛みは知ってるから怖くないけど、腰回りが震えるような感覚は恐ろしい。
どうしよう……! 俺、こんなの知っちゃったら、元に戻れない気がする……!
でもどうしていいのかわからない。自分で快感を得るときとはまったく違う、けど似ている気持ちよさは、どう発散できるの?
ぽろぽろと涙をこぼし続ける俺に、やっとライア様が唇を首から離した。
「っ!? す、すまない!! つい、夢中になって、気づかなかった……! 痛むか!? 今すぐ痛み止めを……」
「ち、違うんです……っ! あっ、今、動かないでっ、んっ、ああっ!」
ライア様が動いた拍子にドレスがずれ、敏感な部分を擦る。そんな些末な刺激で果ててしまって、余計に目から雫が落ちた。
頬を伝う涙を、ライア様が裾で拭う。化粧がついて汚れてしまうと思ったけれど、ライア様は一向に拭くのをやめない。
すんすんと泣く俺の顔を一通り拭いてから、「素の顔が一番好きだ。可愛いな」と言って唇を寄せた。
俺はびっくりしたけれど、拒む気なんて一切起きなくて。柔らかな触れ合いを、目を瞑って受け入れた。
fin.
その後、羊の角をつけたセバスさんや、黒猫の耳をつけたナティさんにお世話をされる話とか……
でろでろにライア様に甘やかされつつも、貧血に悩む生活送る場面とか……
金欲しさにジルを脅す父を、こてんぱにやっつける話とか……
他にも色々ありますが、さすがにそこまで書くと本編ぐらいの長さになっちゃうので、ひとまずはここでおしまいです!
※最後にちょっとしたお知らせ※
現在、新章を勝手に改稿中です……!
だいぶ内容が変わると思うので、改めて上げなおしたらご報告します!
では、ハッピーハロウィン! ちょっとでも楽しんでもらえたら嬉しいです!
本日はハロウィンということで、ジルとライア様のif世界……ハロウィンver.をちょこっとだけ……
『もしもライア様が吸血鬼で、ジルが生贄だったら……』
的な『吸血鬼ライア様×生贄ジル』のお話です。本編とはまったく関係無しの、ただハロウィンを楽しみたいだけの話です。
* * * * * *
村の外れにある丘の上には、廃墟同然の大きな屋敷が立っている。屋敷は約200年前からあると言われ、人の血を吸う恐ろしい吸血鬼が住んでいると噂されていた。
しかし、それも御伽の話。村の子供達を怖がらせるための、大人の嘘。
——ひと月前の満月の夜に、生贄を求める手紙が領主宛に送られるまでは。
「ここが、俺の死に場所……」
無理やり着せられた妹のドレスの裾を踏まないよう、俺は慎重に馬車から降りる。御者はお礼をいう前に馬を走らせ、颯爽と去っていった。
あまりの潔さに半ば呆れつつも、『ダルトン公爵邸』と書かれた鉄柵を見上げる。
どうして俺が冬の寒空の下、まったく似合わない薄着の女装姿で立っているかというと、全ては一ヶ月前に父の元に送られた手紙のせいだった。
『お前の一人娘を差し出せ。さすれば金は貸してやる』
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「ううっ……だからって俺が妹のふりをするのは無理があるって!」
俺は外気に晒された腕をさすりながら、門の前をぐるぐるする。
強欲な父は娘とお金を天秤にかけ、両方を得ることにしたらしい。
今朝突然呼び出されたかと思えば、「お前がリリーの格好をして屋敷へ行け」と告げられ、さすがにたまげたものだ。
けれどまともな文句を言う前に、あれよあれよと化粧をされ、ここに立っている。ほんと、最悪。ついてなさすぎる。
一応顔がわからないようにつばひろの帽子を被り、雑なかつらをつけ、過剰なほど派手な化粧を施されたが……正直、吸血鬼より俺のほうが化け物だと思う。
だって、いくら華奢とはいえ背丈はあるし。肩幅だって男のそれだ。一発で見破られ、殺されるに決まってる。
「でも、もう帰れないんだよなぁ……」
馬車もないし、実家に居場所もない。サイズの合わない靴じゃ遠くまで歩けないし……
お先真っ暗、さよなら俺の今世。
失意のどん底で心を彷徨わせていると——
「……えっ」
なぜか鉄柵の門が勝手に開いた。
……えっ、どういうこと? てかなんで勝手に開くの? 吸血鬼の力?
神のみわざのような能力に、恐ろしさが増す。
だが、俺に残された道は一つしかない。
手の震えを誤魔化すようにドレスを掴み、俺は一歩、屋敷へ踏み入れた。
「……し、失礼します……シャルマン家の者ですが……?」
玄関扉を叩いても誰も出てこなかったので、びくびくしながら勝手に中に入る。
屋敷の中は昼間とは思えないほど暗かったが、外観からは想像つかないほど綺麗な室内だった。
……なんで、埃一つないんだろう。
疑問と恐怖がないまぜになりつつも、扉から手を離す。するとバタンッ! と大きな音を立てて扉が閉まり、心臓が縮こまった。
「ひっ!」
「……その扉はかなり重い。開けるのに苦労しただろう?」
今度は静かな声が聞こえてきて、二重に飛び上がる。
ばっと声が聞こえてきた方に顔を向けると、中央の階段から恐ろしいほど美しい相貌をした青年が降りてくるところだった。
「あっ、えっと」
俺は慌てて帽子を取り、手を前に組む。挨拶をしようとしたが、咄嗟の出来事にうまく言葉が出て来ない。
「昼間は皆寝ているのだ。だから出迎えが無く申し訳ない。私がライア・ダルトン公爵だ。よろしく」
「あ、はい……よろしく、お願いします……」
ちゃんと返さないといけないのはわかっているのに、近づいてくる青年があまりにも麗しくて喉がつまる。
艶やかな黒髪、陶器のように白い肌。極めつけは真っ赤に輝く紅玉の瞳。
目の前までやって来た公爵様の顔を呆然と見ていると、ぱちっと視線が交差し、思わず目を伏せた。
「……ふっ、やはりいい匂いだな」
「えっ?」
「知っているだろう? 私が吸血鬼なのは。まさか知らずに来たわけじゃあるまい」
「!?」
ぐっと肩を引き寄せられ、晒された首筋を舐められる。思わず小さな悲鳴がもれて、ライア様を強く押してしまった。
「……はっ、あ! す、すみません! その……!」
「いや、こちらこそすまない。ジルの甘い匂いにつられて本能が暴れてしまった……こんな失態、これまで二百年一度も無かったのに」
耳に届いた二百年という数字に、目を見開く。じゃあ本当に、この浮世離れした美貌の青年は、人間じゃないってこと……?
って、その前に、今さらっと俺を『ジル』って呼ばなかったかっ?!
「ラ、ライア様、もしかして……!」
「……吸血鬼は一度嗅いだ香りは忘れない。この前シャルマン子爵から送られてきた手紙に、甘い匂いがついていたから、調べさせてもらった。そしたら、ジルに辿り着いたわけだ」
「っ!? じゃ、じゃあ、最初から全て知ってて……!」
「シャルマン子爵は下衆な野郎だ。他人が欲しがっているものが、よく見える。だからジルを欲しいと言えば簡単には渡さないだろうと思って、リリーを使ったのだ」
と丁寧に説明してくれている間にも、ライア様は苦しげに呼吸を乱れさせる。なんとか血を吸わないように手で鼻と口を抑えているが、非常に俺の血が物欲しそうなのは見てわかった。
「じゃあ……最初から俺が目的だったんですか?」
「そうだ。だが、やはりこんなこと、すべきじゃ無かった。今馬車を用意させる。すぐに家へ帰れ」
「……っ!? ど、どうして……!」
「どうして? それは私にとって吸血は、空かせた腹を満たすためだけの行為じゃないからだ」
ぎろりと睨みながら、ライア様が近づいてくる。足を一歩後ろに下げるが、背中が扉にあたり逃げられない。
怖い。恐ろしい。帰りたい——はずなのに、どうして彼に見つめられると、お腹の奥が疼くんだろう。
いつの間にか、俺の息も上がっている。頭の中が、熱くなる。
「……私にとって血を吸いたいという欲求は、人で言う愛しい、可愛がりたい、甘やかしたいと、同じなんだ」
ライア様は口元から手を離し、右手を扉にバンっとつける。目前に迫る鋭利な犬歯に
、なぜか俺の喉がごくりと鳴った。
「だから、嫌なんだ。同意のない吸血で、怖い思いをさせたくない」
理性と本能が揺れる瞳に、心臓が締め付けられた。今まで誰かに心配されたことも、身を気遣われたこともない。
息をしているだけで罵倒され、歩くだけで鞭を打たれる。
そんな家に帰るぐらいなら、今ここで、俺を必死に求めてくれる彼の贄になりたいと、思ってしまった。
「……いいですよ。血を吸って」
「……はぁ?」
赤い瞳が見開かれる。俺は熱くなる頬をそのままに、首周りが隠れるかつらを外し、帽子も下に落とす。
短い、男の髪。軽く首を振って整えても、長さは変わらない。
「俺は……男ですし、貧相ですし、きっと美味しくないですけど……それでもよければ、あなたの歯で貫いてください」
恥ずかしさに潤む視界で、ライア様を見上げる。眉根を寄せて震える彼は、まだ自分の理性と葛藤しているようだった。
「……っ! ああ、くそっ! あとで後悔しても知らないからな!」
「うわっ!」
急に抱きしめられたかと思えば、お姫様抱っこで運ばれる。辿り着いた部屋のベッドに寝かされると、強い力でドレスの襟を引っ張られた。
ビリビリ、と布が破れる音がする。同時に首筋に、湿った熱い舌が当たる。
まるで今からここに傷をつけると宣言するような、優しさに満ちた舐めかただった。
「……本当に、いいのか?」
「……はい。ひと思いに、やってください」
怖くないと言ったら嘘だ。でもそれ以上に、体の奥の疼きが彼を求めている。今すぐに貫いて、沸々と湧く熱に蓋をしてほしい。
「……わかった」
苦しそうな表情のまま、ライア様は俺の肩に顔を埋める。固い質感がぷつと当たり、じりじりと皮膚を侵食していく。
うっ……い、痛いっ、
思わずライア様の背中に腕を伸ばす。一瞬怯んだように鋭い牙の進行が止まったが、もう理性では止められないないのか、再び痛みが広がっていく。でもある一点を超えると、痛みより熱いという感覚が強くなった。
——そこからが、本当の吸血行為だった。
「うっ、んっ……」
なるべく声を出さないようにしたいのに、舌で舐められ唇で吸い付かれるたび、甘い痺れが体を駆け抜ける。
ちゅっちゅっと鳴る水音までが、耳を犯して体をおかしくさせた。
な、なんだこれ……! 血を吸われているだけなのに……どうして、気持ちいいの……!?
自然と内ももに力が入ってしまい、スカートの中でもじもじとさせる。片方の手で口元を抑えながらも、未知の快感に涙が溢れた。
けれどライア様は流れる血を舐めるのをやめない。すくうように下から上へ動かしたかと思えば、歯を当てて痛く無い程度の甘噛みをする。
なら、まだ強く噛んでほしい。痛みは知ってるから怖くないけど、腰回りが震えるような感覚は恐ろしい。
どうしよう……! 俺、こんなの知っちゃったら、元に戻れない気がする……!
でもどうしていいのかわからない。自分で快感を得るときとはまったく違う、けど似ている気持ちよさは、どう発散できるの?
ぽろぽろと涙をこぼし続ける俺に、やっとライア様が唇を首から離した。
「っ!? す、すまない!! つい、夢中になって、気づかなかった……! 痛むか!? 今すぐ痛み止めを……」
「ち、違うんです……っ! あっ、今、動かないでっ、んっ、ああっ!」
ライア様が動いた拍子にドレスがずれ、敏感な部分を擦る。そんな些末な刺激で果ててしまって、余計に目から雫が落ちた。
頬を伝う涙を、ライア様が裾で拭う。化粧がついて汚れてしまうと思ったけれど、ライア様は一向に拭くのをやめない。
すんすんと泣く俺の顔を一通り拭いてから、「素の顔が一番好きだ。可愛いな」と言って唇を寄せた。
俺はびっくりしたけれど、拒む気なんて一切起きなくて。柔らかな触れ合いを、目を瞑って受け入れた。
fin.
その後、羊の角をつけたセバスさんや、黒猫の耳をつけたナティさんにお世話をされる話とか……
でろでろにライア様に甘やかされつつも、貧血に悩む生活送る場面とか……
金欲しさにジルを脅す父を、こてんぱにやっつける話とか……
他にも色々ありますが、さすがにそこまで書くと本編ぐらいの長さになっちゃうので、ひとまずはここでおしまいです!
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