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第二章

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 白詰草宮殿は一か月前とは全く異なる装飾がされている。汚れひとつない緋毛氈に、格式高い金細工の飾り。ステンドグラスから差し込む陽光が、神聖な空気を醸し出している。
 
 色とりどりの影が広間を輝かせる中、壇上に立つ黒きマントを羽織った艶美な主人は、圧倒的なオーラを放ち人々を魅了していた。

 (なんて……なんて美しいのだろう)

 浮世離れした主人の姿に、イアンは扉が開いた瞬間から、心臓がどきどきした。

 「薄い体ね……でも聖闘技祭で優勝したんでしょ?」

 「まぁそうらしいが……体格がよければ第三王子じゃなくて、もっといい職につけるだろうに」
 「やっぱりオメガに要職なんて無理なんだよ」

 両脇を貴族たちに囲まれながら、イアンは一歩一歩足を前に進める。観衆の囁きは、聖闘技祭で優勝しても、オメガをかわいそうだと信じて疑わない。前までならイアンも心の中で「そう思います」と返していただろう。

 けれど今は違う。

 (彼らは……以前の俺だ。知識のない……馬鹿な俺)

 オメガの体に騎士は無理だと信じていたあの頃。今ならはっきりわかる。運命の番を目標にして、本当に叶えたい夢に蓋をしていたんだと。

 でももう、知識のない馬鹿はいなくなった。オメガの体は、紺瑠璃花にとっての日陰のように、輝けるものだと知ったのだから。

 愛しい主人の前でイアンは跪く。陽光に照らし出されたロイは、神々しく眩しい。目を細めて見つめ合いながら、腰のレイピアを抜き、忠誠を誓う御身に差し出した。

 ロイは威厳を持ってレイピアを受け取ると、跪くイアンの左肩に剣先を置く。

 「イアン・エバンズよ。汝、神聖位近衛騎士となり、その力を以てロイ・ガーテリアに忠節を尽くすと誓うか」

 ロイの低い声がしんとした広間に響き渡る。イアンはロイにだけわかるように目だけで微笑み、

 「はい。この身命全てを献呈し、忠節を尽くすと誓います」

 とロイに命を預ける誓いを言う。

 「汝、我が大意のために、私欲を捨て、揺るぎない信念を捧げると誓うか」

 ロイのルビーの瞳が満足げにきらりと光った。

 「はい。この内界《ないかい》全てを献呈し、揺るぎない信念を捧げます」

 すでにイアンの心はロイのものだったが、公衆の面前で誓いを立てることに、少しだけ頬が赤くなった。

 「……我、ロイ・ガーテリアは汝、イアン・エバンズを神聖位近衛騎士《ロイヤルナイト・オブ・クラウン》として認める」

 ロイが小さく頷くと、背中から盛大な拍手の音が聞こえてくる。

 イアンはこの瞬間、ぴったりと重なった気がした。理想とする紺瑠璃花と。凛と美しく咲く、麗しい彼女と。
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