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第二章

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 「そういえば、学長は何か俺にお話でも?」

 いくつか雑談を交えつつ、聖闘技祭の件も、イアンのことも話し終わったところで、学長がなかなか本題を話し始めないので、ロイは自ら話題を振った。

 「うーん、今回の侵入に関係あるかと言われると微妙なんだけれど……」

 と悩みつつ学長の声が低くなる。

 「私の古い知人が二ヶ月前ほどから連絡が取れなくてね」

 「知人、ですか?」

 「そうなんだ。前まではネッサリアに住んでいたんだが、ガーテリアでの帰化を希望してね。二ヶ月ほど前にネッサリアを出国して宮廷直属の魔法陣作成技師になったはずなんだけど……所在を知らないかな? 私と同じハーフエルフなんだ」

 「ハーフエルフの魔法陣作成技師ですか……」

 魔法陣作成技師は、文字で魔素を操れるエルフの血が入っていないと、つけない役職だ。

 しかし宮廷には何人もの魔法陣作成技師がいる。一人のハーフエルフがいなくなったとしても、離宮に伝わるほどの噂はならないだろう。

 「すみません。俺のところには何も……今度探ってみます」
 「ああ。よろしく頼むよ」

 学長は話を終えたはずだが、椅子から立ち上がらない。まだ続きがあるのかと思い、「他に何か……?」とロイが言うと、学長は聖闘技祭の紙を持って
 「これは今日、研究室に持ち込んだかい?」
 と聞いた。

 「あ、はい。それが何か?」
 「いや、なんでもない。この紙、少し預かってもいいかな?」

 「はい。よろしければ学長に差し上げます」
 「ありがとう」

 そう言うと今度こそ学長は立ち上がって「じゃあ、私は先に失礼するね」と言ってから個人研究室から退出した。

 ロイは一人、散らかり放題の個人研究室を見渡す。全部の資料を確認するのに一体何時間かかるのか、想像もできなかった。

 「……でも、一人で考える時間ができたのはよかったか」

 『話すときは正直に。包み隠さず、誠心誠意伝えるのがいい』

 学長の優しい眼差しと、言葉が蘇る。

 「何をどうすれば、誠心誠意伝わるんだろうな……」

 散乱した紙を拾い、元の場所に戻す作業を繰り返す。同じ動作の繰り返しの中、自然とロイの思考は耽っていった。
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