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第二章
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「ご、ごめん! 急いだんだけど、出るのが遅くなっちゃって!」
イアンがいつもの部屋についたのは指定の時間より一時間も後だった。日が沈みきった校内を走り、怒鳴られる覚悟をして扉を開けたが、ロイは静かに書類を見ているだけだった。
「大丈夫だ。それよりお前が事故にあってなくてよかった」
「え、あ、うん、俺は大丈夫」
心配されるとは思っておらず、それだけでふわっと胸があたたかくなる。ロイはイアンのときめきに気づくわけもなく「帰るか」と言って、書類をかたし始めた。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
イアンは真剣に話を聞いてもらうために、一呼吸置いてから声を絞り出す。
「……俺、聖闘技祭に出ようと思って」
「おお! いいじゃないか。お前なら絶対優勝できる」
「そ、それはわからないけど……」
「いや、お前なら大丈夫だろう」
あたたかな胸の熱が、ぽっと増した。優勝できるとまで断言してくれるロイの期待に応えたい。忠誠心だけではないからこそ、強く感じた。
「で、でね、もし俺が優勝できたら……ロイに聞いて欲しい話があるんだ」
イアンは前を真っ直ぐ見据えて宣言する。ロイの瞳が一瞬大きく開かれて、すぐに伏せられた。何かを察したかのように。
「……わかった」
ロイが悲痛で顔を歪ませる。
(きっと、騎士を辞める話だと思っているんだろうな……)
イアンは騙しているようで心が痛んだ。けれど聖闘技祭で優勝して堂々とロイの隣に立てるまで、この思いは告げないと決めた。
——君が好きだ。
黙っていられないほど咲きほこってしまった恋心を伝えたい。そのためなら、全てを捧げられる。
(振られたら悲しいけれど……ここをやめて運命の番を探せばいいよね)
すぐにそう、切り替えられるとは思えなかったが。
イアンがいつもの部屋についたのは指定の時間より一時間も後だった。日が沈みきった校内を走り、怒鳴られる覚悟をして扉を開けたが、ロイは静かに書類を見ているだけだった。
「大丈夫だ。それよりお前が事故にあってなくてよかった」
「え、あ、うん、俺は大丈夫」
心配されるとは思っておらず、それだけでふわっと胸があたたかくなる。ロイはイアンのときめきに気づくわけもなく「帰るか」と言って、書類をかたし始めた。
「あ、あの……」
「ん? どうした?」
イアンは真剣に話を聞いてもらうために、一呼吸置いてから声を絞り出す。
「……俺、聖闘技祭に出ようと思って」
「おお! いいじゃないか。お前なら絶対優勝できる」
「そ、それはわからないけど……」
「いや、お前なら大丈夫だろう」
あたたかな胸の熱が、ぽっと増した。優勝できるとまで断言してくれるロイの期待に応えたい。忠誠心だけではないからこそ、強く感じた。
「で、でね、もし俺が優勝できたら……ロイに聞いて欲しい話があるんだ」
イアンは前を真っ直ぐ見据えて宣言する。ロイの瞳が一瞬大きく開かれて、すぐに伏せられた。何かを察したかのように。
「……わかった」
ロイが悲痛で顔を歪ませる。
(きっと、騎士を辞める話だと思っているんだろうな……)
イアンは騙しているようで心が痛んだ。けれど聖闘技祭で優勝して堂々とロイの隣に立てるまで、この思いは告げないと決めた。
——君が好きだ。
黙っていられないほど咲きほこってしまった恋心を伝えたい。そのためなら、全てを捧げられる。
(振られたら悲しいけれど……ここをやめて運命の番を探せばいいよね)
すぐにそう、切り替えられるとは思えなかったが。
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