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六章
227.ある日の昼下がり
しおりを挟む例のプロポーズを受け入れてしばらく経った。
式については、俺の十五歳の誕生日が過ぎてから行われるらしい。今は婚約期間だけれど、もう結婚は確定しているから、結婚した後、今の状況から何かが劇的に変わるわけでもない。
最近は、ヴァレンティノ邸に移るための荷造りを毎日のようにしている。というのも、早く慣れるためにも式より先に住まいを移ってはどうかとリカルド様に勧められたのだ。
アンドレアたちには強く反対されたけれど、俺は最終的にリカルド様の提案に乗ることにした。
確かに、結婚してすぐに家族と離ればなれ!という怒涛の流れに、ちょっぴりポンな俺がしっかりついていけるかは不安だったから。
大好きな家族がいない生活をきちんと受け入れるためにも、あまり忙しくない今からゆっくりと慣れていった方がいいだろう。
邸を出る日が数日後に迫った今日も、俺はだいぶ進んだ荷造りを着実に進めていた。
部屋のものはあらかたヴァレンティノ邸に送ったから、小物が減った自室は以前よりもちょっぴり寂しい雰囲気を漂わせている。
もうすぐここを出ていくんだ。その思いをゆっくりと、けれど明確に理解していく。広い部屋を何気なくぐるりと見渡すと、なんだか感傷的な気分になって肩を落とした。
「よっ、こらせっと……」
静かな空間がなんだか辛くて、わざとらしく声を出しながら立ち上がる。
ソファにぽすっと腰掛け、テーブルに置かれた新聞を手に取った。特にやることもないし、休憩がてら適当に読んでみよう。
「ふむふむ。うわさの人気スイーツ店に隣国の王子が来店してうんたらかんたらーとな」
まず目に入ったのは、見覚えのある店の外観が描かれた記事。
俺も常連の人気スイーツ店。ハオランが王国中に展開している、今話題のお店だ。
大きな不祥事もあり、悪い意味で新聞に載ることの多かったガースパレ家。けれど現当主であるハオランの評判は上々で、ガースパレ家の不名誉も徐々に払拭されてきているらしい。
そういえば、ハオランの父親でもある前当主の処罰は結局どうなったんだっけ?
なんて疑問がふと湧いて、ふむふむと記事を流し読みながらページを捲る。見開きに大きく載った記事を見て、これだ!と食い入るように目を通した。
「“反乱軍の結末”……」
反乱軍の主犯であるチェレスは斬首刑。ダミアーノの魂も消滅し、王家に伝わる呪いもなくなった。
反乱軍に加わった者は全員処刑と書かれているから、きっとあの狐獣人のフォルも同様に処刑されたのだろう。
まぁでも、あのチェレス大好き狐獣人さんなら、大事な主と一緒に処刑されて本望だったかもしれないけれど。
処刑やら斬首刑やらと物騒な単語が並び、グロテスクな想像をしそうになるのを堪えながら、ざっと記事を読み進める。
気になるガースパレ前当主の名前は、記事の最後ら辺にちょこんと載っていた。
「“ガースパレ前当主は北の塔にて終身刑に処す”……む、死刑じゃないのか。ふぅむ」
反乱軍に加わった者は処刑らしいから、てっきり前当主もとっくに首ちょんぱされたのかと思ったが……どうやら死刑じゃなく終身刑になったらしい。
理由は『反乱軍への直接的な援助が確認できなかったため』となっているけれど、たぶんウソだろうなぁ……。
仮にもマフィアの子として長年生きてきたのだ。これくらいは分かる。前当主は恐らく、裏社会への見せしめにされたのだろう。
サラッと書かれてはいるけれど、北の塔というと“地獄との境目”とまで呼ばれるめちゃんこ過酷な場所だ。ある意味、死刑よりも辛いかもしれない。
「むむぅ。こんど、ハオランのお店にパンケーキ食べにいくかぁ……」
ちょっぴり気分が悪くなり、新聞をぱたんと閉じてテーブルに放る。
なんとなくハオランの姿が頭に浮かんだので、近い内にスイーツ店へ出向こうと一人静かに決意した。いや別に、苦労人のハオランを労わってあげようとか、そういうつもりじゃなくてだな。
「ふんむぅ……」
ソファにごろんと寝転がり、サメさんをぎゅっと抱っこする。
ちょうど昼寝にぴったりの昼下がりだし、ちょっぴり眠るのもアリかなぁなんて考えていると、ふいに部屋の扉がコンコンとノックされた。
ふむ……ぬくぬくお昼寝しようと思っていたが仕方ない。よっこらせと身体を起こしながら「どうぞー」と返事をすると、静かに扉が開かれた。
「あ、お兄さまー。いらっしゃいだぞー」
現れたのはアンドレアだった。
肩に流した三つ編みがとっても素敵。いつもは一括りにしているだけだから、今日は髪型のおかげかいつもよりも少しだけ柔らかい印象だ。
眠気のせいで潤んだ瞳を擦っていると、アンドレアはきょとんと首を傾げながら歩み寄ってきた。
「悪い。昼寝中だったか?」
ぽんと頭を撫でられ、ふにゃふにゃと頬を緩める。
むんむんと首を横に振り、隣に座ったアンドレアにとすっと凭れかかった。
「うぅん、起きてたぞ。ちょっぴり寝ようかなーって思ってたら、ちょうどお兄さまが来たんだぞ」
アンドレアの腕にぎゅっと抱き着き、うりうりと頬擦りする。
俺を見下ろすアンドレアの表情は柔らかく、瞳は穏やかに弧を描いている。少し残った眠気と、昼時のゆったりとした空気のせいか、思考ものほほんと溶けてきた。
アンドレアが俺のふにゅんとしたほっぺを摘まみながら、優しく尋ねてくる。
「荷造りも大分進んだみたいだな。あとは何を持っていくんだ?」
「うーむ。あとは、特にないかもだぞ。あ、サメさんは送るんじゃなくて、一緒に行こうと思うんだぞ。えへへ」
「……そうか」
サメさんを掲げて笑うと、アンドレアも微かだけれど口角を上げた。
無表情じゃない、きちんと色のあるアンドレアの表情を見られたことが嬉しくて更に頬が緩む。
サメさんとアンドレアにまとめて抱き着きながら、そういえばと今更ながら問い掛けた。
「お兄さま、どうしておれに会いにきたんだ?一緒にお昼寝、したくなっちゃったのか?」
するか?とぱちくり瞬く俺をなでなでしながら、アンドレアが微笑み混じりに首を振る。
なんだ、お昼寝しにきたわけじゃないのか。それじゃあ一体どうして?
きょとんとする俺をよそに立ち上がったアンドレアは、とってもいい天気な外に視線を向けて答えた。
「時間があるなら、散歩でもどうかと思ってな」
「むっ!お散歩!」
魅力的なお誘いを聞いてすぐにしゅぴっと立ち上がる。
サメさんをソファに置き、アンドレアの手をぎゅっと握った。
「お散歩行きたい!お兄さまとお花見たいぞっ!」
わくわくっと身体を揺らす俺を見下ろし、アンドレアがふわっと微笑みながら「行くか」と頷いた。
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