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六章

224.予感

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「も、むりだじょ……」


 ベッドの上にちーんとうつ伏せで倒れ込み、完全に力の抜けた身体を休める。
 もこもこガウンを持って戻ってきたロキが、寝転がる俺にガウンをひらっと羽織らせ、隣に潜り込みながらぎゅうっと抱き締めてきた。


「たくさんがっついてごめんね?そろそろ一休みしよっか」


 そう言って俺を抱え込み、大人しく寝る姿勢をつくるロキ。つい数分前までめちゃんこ激しくゆっさゆっさ動いていたくせに、ロキってばもう元気満々じゃないか。
 俺は今世紀の体力ぜんぶ使い果たした気分なんだが?とジト目をしつつ、ロキのムキムキな胸板をぽかぽかっとぶん殴った。


「もうお日さま出ちゃうぞっ!朝になっちゃうぞ!いっぱいやりすぎだぞっ!」


 ぷんすか!と激おこな俺を抱え込み、ロキは俺の背中をぽんぽんと撫でながら答える。


「うんうん、ごめんね。でも大丈夫。朝起きなくても大丈夫だよ。お昼まで寝ていようか。俺が傍にいるからね、ゆっくりおやすみ」


 むん……とほっぺぷくーしながらも、優しい声音に誘われるようにして胸元に顔を埋める。
 うりうりと頬擦りすると、同時にロキのぎゅーが強くなって……やがて眠気も深くなっていった。
 思えば夜通しあんなことやこんなことをしたのだから、ようやくロキの暴走が収まった今、気が抜けて一気に眠くなってしまうのも無理はない。

 もこもこ毛布でぎゅーっと全身を包まれ、ロキの温かい腕の中に閉じ込められ……。
 ロキの優しいなでなでに墜ちるみたいに、意識がゆっくりと闇の中に沈んでいった。



「──……やっと、一緒になれるね」




 ***



「──……ん、むぅ」


 二度目の目覚めの瞬間にロキはいなかった。
 重い瞼をぱちくり動かし、数秒経ってようやくのそりと起き上がる。一度めに目覚めた時と変わらないロキの寝室、静かな邸の中。どうやらまだお迎えは来ていないらしいな、と鬼の形相のアンドレア達を想像しながら苦笑しつつ、よっこらせとベッドから下りた。

 初めの頃みたいに、よろよろと力が入らず倒れたりはしない。
 どうやら何度もロキとあっはーんなことをして、そろそろ身体が慣れてきたらしい。そう思うとちょっぴり恥ずかしくなって、すぐにえっちな思考を振り払った。
 も、もう朝……ていうか昼だから、しっかりきっちり切り替えるんだぞ!えっちなこと禁止だぞ!


「よし、よし。とりあえずお着がえ、おきがえ……」


 はわわと赤面しつつ辺りを見渡す。
 ベッド近くのソファに替えの服が置かれていることに気付き、誰かが来ないうちにのそのそっと急いで服を着た。
 な、なんだか初めて着る割にはサイズがピッタリな気が……と思ったが気にしないことにした。まさか見るからにその辺の正装よりもお高そうなコレを、俺のお着替え用ってだけでロキが買ったなんてまさかそんなことはね。えへへ、あえぇ……?

 なんて、一瞬湧いた疑惑と困惑を慌てて振り払い、今度はそろりと部屋を出た。
 扉をちょっぴり開けて左右確認。うむ、誰もいないな。しっかりクリアリングを済ませ、とたとたっと駆け出す。
 特に急ぎではないけれど、とりあえずロキを探さないとな。待っていれば来たのかもしれないけれど……まぁあれだ、お散歩がてらって感じの探索だな。


「──あ、坊ちゃん。もう起きてたのか」


 てくてくっと廊下を歩いていると、ふいに声を掛けられてハッと振り返った。
 白衣を翻してやって来たお兄さんの名前はシド。ロキの側近さんだ。彼は俺に向かって爽やかな笑顔を浮かべ、手を振りながら駆け寄ってきた。


「シド。おはようだぞ。おれ今、ロキを探してたんだぞ」

「おう、おはよ。って、若を探してたのか?そうかそうか!そりゃ丁度よかった。俺も若に、坊ちゃんを連れてこいって言われて来たところなんだ」


 むん?と首を傾げる。珍しい。ロキが自分で来るんじゃなく、人に呼びに来させるなんて。
 不思議に思いつつ「ロキはどこにいるんだ?」と尋ねる。するとシドは中庭の方を指さして答えた。


「薔薇園の真ん中の……ガゼボがあるところ分かるか?ちょっと開けたところ」

「うむ!わかるぞ。おっきな噴水あるとこだなっ」

「おっ、そうそう。そこだ。若はそこで待ってるから、悪いが行ってやってくれるか?」


 ぴんっ!と手を挙げ、キリッとお兄さんの顔を作って頷く。
「りょーかいだぞ!」と言って瞳をキラキラ輝かせると、シドは俺の頭をいい子いい子と撫でながらも「おう、迷わないようにな」とちょっぴり不安そうに呟いた。
 むぅ……不服なんだぞ。しっかりきっちり行けるんだぞ。舐めるなだぞふすふす。


「それじゃ、おれは行くぞ!そだ、シドも来るか?」

「あー……俺はいいや。後から行く。誘ってくれてありがとな」


 何やら含みのある声音で答えるシド。少し気になったけれど、ありがとうと言って手を振るシドに、俺もふにゃりと笑顔で手を振り返した。


「わかったぞ!それじゃーまたなー」


 ばいばーいと手を振りながら駆け出す。ちょうど一階を歩いていたので、近くの扉からとたとたっと邸を出た。
 ここを真っ直ぐ歩いていけば、迷うことなく目的地に着くはずだ。

 てくてくっと走りながら、ふとある疑問が湧いた。


「むん……そいえば、めちゃんこ静かだな……」


 一度ピタッと立ち止まり、邸の方向を振り返る。
 そういえば、いつもなら朝方に騒がしく駆け込んでくるアンドレアや父も今日は来なかった。リカルド様にも会わなかったし、使用人ともあまりすれ違わなかった気がする。
 なんでこんなに静かなんだ?と眉を寄せたが、すぐに「まぁいっか!」と止まっていた足を動かした。


「はやく行かないとだぞっ!」


 ロキを待たせないように、びゅーんとなるはやで行くんだぞ!
 飛行機の気分になりながら、ぶぶーんと広い薔薇園を真っ直ぐ駆け抜けた。

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