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六章

216.想いの答え

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 俺が二週間という時を経て目覚めたことが知れ渡ると、邸中が涙と歓喜に包まれた。
 当人の俺が一番あわわっ……と萎縮しちゃうくらいの大歓声。そんなに喜ぶことかね?と困惑気味に言うと、かっちんぷっちんしたアンドレアや父にあたりめーだろと言われつつデコピンされてしまった。ふえぇ、いたいよぅ。

 ふんふん……とはいえ、まぁ確かに、見方を変えればよくわかることだ。
 もしもこれが俺じゃなく、アンドレアだったら。アンドレアが大けがを負って二週間も目覚めない状況……それを仮に想像した瞬間、身を切るような恐怖に襲われた。
 だいじな人が倒れるって、とっても怖いことなんだ。それを例えによって思い知って、途端に申し訳なくなった俺は、みんなをぎゅっぎゅと抱き締めた。ごめんよ、ごめんよぅ。


「ふえぇ、ごめんよロキぃー」

「もういいから。謝らないで。泣かないで。ね?ほら、可愛い顔がくしゃくしゃだよ?」


 目覚めたことの周知を終えて、改めてロキにむぎゅむぎゅと抱き着く。
 ロキは俺が目覚めて早々、アンドレアや父に追い出されそうになっていたけれど、そこを俺が割って入って阻止した。せっかく久々に会えたのに、もうばいばいなんて辛いんだぞ。
 父やアンドレアとはずっと一緒に居られるけれど、ロキとは一緒に暮らしていないからな。今のうちにむぎゅっとしてロキの補充をしとかないとだぞ。

 自室に戻って、ロキをソファに座らせて。そんなロキの膝にのってむぎゅっと抱き着き、もうかれこれ数十分は経過しただろうか。
 号泣しながらうりうり頬擦りしているせいで、ロキの首元……特に襟がぐっしょりと涙で濡れてしまっている。けれどロキはそんなこと気にする様子もなく、優しく微笑んで俺を撫で続けた。


「ほらルカちゃん、顔上げて?かわいいお顔見せて?」


 ぶんぶんっと首を振ってロキのお願いを拒絶する。
 今は顔がくしゃくしゃだから、到底人に見せられたもんじゃないんだぞ……ふるふる、ふるふる。
 しばらくふるふるっと首を横に振っていたけれど、結局ロキの手によって無理やりぬんっとほっぺを持ち上げられてしまった。ふえぇ、意外と強引で泣いちゃったぞ。


「あーあ、こんなにぐっしょり濡らしちゃって……なぁに?たくさん心配かけちゃったから、俺に嫌われるかもって不安なの?」

「んむ、むぅっ……」

「まったくもう。寧ろ謝るのもお礼言うのも俺の方だって言ったでしょ?俺がルカちゃんに愛想尽かされるならまだしも、ルカちゃんのことを嫌うなんて絶対ありえないよ」


 額やら頬やらにちゅっちゅと唇をくっつけられて、んむっとちょっぴり俯く。
 ぽかぽかとロキの胸をぶん殴りながら、ぷんすか息巻いて反論した。


「ばかばかっ!おれがロキを嫌うわけないだろっ!おれがロキ大好きなの、知らないのかっ!」


 ふんすふんすと叫ぶと、ロキはふにゃっと頬を緩めて「知ってるよ」と囁いた。
 余裕げな態度を崩さないその姿に、ちょっぴりむぅっとほっぺぷくーする。俺はたくさん泣いて、たくさん叫んでいるのに、ロキはさっきからずっと冷静だ。悔しいぞ、ふすふす。


「ルカちゃんは俺のこと大好きだよね。俺のこと独占したいって言うし、嫉妬もしちゃうし。ルカちゃんは好きって気持ちが分かりやすいから、ほんと可愛いよ」


 突然のちゅっちゅ攻撃に慌ててむぐむぐとちゅーを受け入れる。
 んぐぅ……ロキの興奮ポイントが分からないんだぞ。急にちゅーしてくるから、俺ってばびっくりしちゃうんだぞ。むぐむぐ、むん。

 て、ていうか、分かりやすいってなんだこらだぞっ!独占したいなんて言ったことないし、嫉妬もしたことないぞ!ない……よな?ないぞ、うむ!
 むぅっ……何だかほんとに悔しいぞ。ぷくぅっと頬を膨らませながら、ロキの胸を意味もなくぺちぺちっと叩いた。完全に八つ当たりだぞ。


「むぅ……おればっかり、ロキのこと好き……くやしーぞ……」

「うぐぅッッ!」


 ぷくぷくしながらそう言うと、途端にロキがグハァッと仰け反った。なんだなんだ、急にどうした。
 ちーんと安らかな表情をするロキの頬をぺちぺち叩いて、戻ってこーいと声をかける。やがてロキがハッとしたように目を覚ますと、なぜか勢いよく俺をむぎゅっと抱き締めた。なにごとっ!


「もうっ、もうっ!ルカちゃんったらほんと小悪魔なんだから……ッ!」

「むん?おれ悪魔じゃないぞ。人間だぞ。ロキ、おばかさんなのか?」

「そういうところもほんと可愛いよ」


 なんだ、その赤ちゃんを見守るような微笑ましい笑みは。
 ばかにするなだぞ。ロキってば絶対俺のこと舐めてるんだぞ。むっきーだぞ。


「……ね、ルカちゃん。ルカちゃんは俺のこと、すごく好きだよね。俺も、ルカちゃんのこと愛してるよ」

「む?うむ。知ってるぞ」


 今度は突然なにごとじゃ。小悪魔だのなんだとと言ったり、スンと微笑んだり、忙しいやつじゃの。

 急に切り替えて話を移したロキに、ちょっぴり困惑しつつこくりと頷く。
 そ、そうだな?俺はロキのこと大好きだし、ロキも俺のこと大好きだな。そんなのとっくに知っているけれど、それがどうしたというのかね?
 きょとんと瞬く俺を抱き締めて、ロキが微笑みを甘く蕩けさせながら語り出した。


「キスもたくさんしているし、お泊まりの時はいつもえっちするよね。俺はルカちゃんの背中にほくろが二つあることも知っているし、項を舐めるととっても可愛く喘ぐことだって知ってるよ」

「きゅ、きゅーになんだっ!ふんす、ふんすっ!」


 何を言うかと思えば、ロキひどいぞ!俺をからかっているのか?そういう冗談は恥ずかしいからやめるんだぞ、顔が真っ赤になっちゃうんだぞっ!

 全身を熱く火照らせて、ぷしゅーっと縮こまる。
 ぽかぽかっとパンチを繰り出す俺をぎゅうっと抱き締めると、ロキは微笑みを湛えたまま耳元で囁いた。くそぅ、こいつ、俺が耳弱いの知ってるくせにぃ……。


「だから、ね?そろそろ、ルカちゃんの良いお返事が聞きたいなぁ……って、思ってるんだけど」

「っ……!」


 零された囁きに思わずビクッと肩を揺らす。
 そうだ、保留にしていた返事。いつも好き好き言い合っているから、ぶっちゃけちょっぴり忘れていたけれど……そういえば俺、まだ正式な返事をしたことがなかった。


「あんなこともあったし、本格的にルカちゃんの後ろ盾を強固なものにしたいんだ。反乱軍を捕らえて、ダミアーノ達の処刑も間近になった今が、ちょうどいいタイミングだと思う」

「むん……」

「正式に俺のお嫁さんになってくれれば、ヴァレンティノもルカちゃんを囲いやすいからさ」


 穏やかな声音で紡がれる説得の言葉。こんな静かな空間で、ロキの声しか聞こえない部屋の中で、そんなことをつらつらとそれっぽく言われれば反論なんて湧かない。
 ロキの服をきゅっと掴んで、むぐむぐと眉尻を下げる。


「お、おれは……」


 ほっぺをムニュッと掴まれ、そっと顔を上げられる。
 綺麗に透き通った赤い瞳と視線が合った瞬間、ちょっぴり残っていた迷いがスッと掻き消えた。

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