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六章
204.呪いの気配
しおりを挟む「ちょちょっ、すとぉーっぷ!」
今にもロキに飛び掛かりそうなガウとジャックを慌てて止める。
しゅぴーんと両腕を万歳の形で挙げて叫ぶと、俺の制止に二人は大人しく動きを止めた。
よしよし、とりあえずロキの即死は免れたか。それじゃあ次は、適当にお話をして時間を稼ぎつつ、おバカな頭でなんとか状況の理解を追い付かせるんだぞ。
「ふ、ふたりとも、なんでここにいるんだっ?」
ひとまず、一番気になっていたことを直球でぶつけてみた。
いや、考えてみればあまりにタイミングが良すぎだったし。まるでずぅーっと俺の様子を見ていたみたいな……というより、ずっと俺を見ていないと絶対にありえないタイミングだった。
まさかこいつら!と考えた可能性は、どうやら大当たりだったらしい。
ジャックは俺の問いを受けてきょとんと瞬くと、すぐにニコッと満面の笑顔を浮かべて答えた。
「えぇ?だってぇ、僕達ご主人様の護衛だしぃ?お泊まりするって聞いたらぁ、まぁ普通に窓から監視するよねぇ」
「……ほぇ?」
「いつものことだよぉ?てかいつも見てるよぉ?ご主人様のかわいい寝顔もぉ、あのDV野郎との忌々しいえっちの様子もぉ」
機関車がしゅぽーってなるみたいに、顔が勢いよく真っ赤に染まった。しゅぽーって感じに。
あまりの衝撃で硬直してしまう。ジャックがどうしたのぉ!?とあわあわ慌て出すのを、あんぐり間抜けな顔で見つめた。
いやいや、聞いてないでござるよ。二人が常に俺を護衛しているってことも、ロキとのあんなことやこんなことを全部見ていたってことも、当人の俺、なんにも知らないでござるよ。
え?うそだろう?ほんとに全部見られてたの?
ロキとすっぽんぽんで抱き合っていたのも、お尻にアレをいれられてんむんむ喘いでいたのも、ちゅーやぎゅーの様子も、全部見られていたっていうのか?
そんなの、そんなのっ……
「ぷぎゃぁっー!」
「うわぁっ!どしたのご主人様ぁ!?」
八つ当たり気味にジャックの肩をぽすぽすっと叩く。
真っ赤な顔で暴走する俺を見下ろし、やがて全てを察したのか。ジャックはふにゃっと安心させるみたいに笑うと、俺をぽんぽん撫でながら「だいじょぶだいじょぶぅ」と言った。
「照れなくて大丈夫だよぉ。笑ったりなんかしてないからぁ。僕達いっつも、あのDV野郎のこと羨ましいなぁズルいなぁ死ねぇーって思ってただけだからぁ」
そ、それはそれでどうなんだ……。
どっちにしろヤバめな回答をするジャックに引いているうちに、羞恥心は大分薄れて真っ赤な顔も普通の色に戻ってきた。
これじゃだめだ、とりあえず切り替えないと。そう思いふぅっと息を吐いたと同時に、そういえば……と今になってジャックの言葉が気になり始めた。
ジャックってば、さっきからロキのことを『DV野郎』だなんて不名誉なあだ名で呼んでいるけれど……どうしてそんなひどい呼び方をするのだろう。ロキは優しいのに。
「ジャック。DVなんて言っちゃメッだぞ。ロキはとっても優しいんだぞ?」
「いやぁーっ!これってアレじゃんっ、洗脳段階ってやつじゃんっ!ガウぅ!ご主人様ってば、もうそのクソDV野郎に洗脳されちゃってるよぉ!」
ま、まずい。言葉選びを間違えちゃったみたいだ。とんでもない誤解を生んでしまっている。
俺は洗脳なんてされていないし、様子がおかしいのはどちらかというと俺じゃなくてロキの方だ。
ロキってば、完全にいつもと様子というか、キャラが違うし……絶対に、何かあるなら俺じゃなくてロキなんだ。ロキに何か、大変なことがあったに違いない。
そう思い、俺はジャックの抱っこからうにゅうにゅと抜け出して、とたたーっとロキのもとへ向かった。
「あっ、ご主人様ぁ!危ないよぉ!」
背後からジャックに引き留められる。俺を守るみたいに、おっきな獣姿のガウが隣に並ぶ。
大丈夫だよと軽く答えて、俺はロキの正面にしゃがみこんだ。
ロキは未だ、苦しそうに心臓を押さえて蹲っている。
はぁはぁと息を切らして、顔は真っ青で、まるで何か見えないものと戦っているみたいな、そんな必死の形相をしている。見ているこっちがそわそわしてしまいそうなくらいに。
「ロキ、ロキ。どうしたんだ?お話、できるか?だいじょぶか?」
さっきは、この発作の状態もすぐに収まって、大丈夫だと何度も言っていたけれど……。
やっぱり助けを、お医者さまを呼んだ方がいいのだろうか。困り顔を浮かべて手を伸ばし、乱れたロキの髪をそっと撫でる。
すると、突然ロキに手首をガシッと掴まれた。
「ひぅっ!」
驚いて声を上げる。また何か痛いことをされちゃうのか?と数分前のトラウマが蘇って、動いてすらいないのにちょっぴり息切れしてしまった。
ぷるぷる震えながら目を瞑るが、すぐにあれれ?と疑問を抱きながら開いた。さっきまでのロキなら、痛いくらいに手首を握り潰していただろうけれど……今は、全然痛くない。
繊細すぎるくらいに俺を優しく扱う、いつものロキの手加減だ。
「──ルカちゃ、ルカちゃんッ……」
か細い声が聞こえてハッと我に返る。
「ロキッ……!?」と目を見開きながら耳を寄せると、ロキは顔面蒼白で必死に声を紡いだ。
「げ、て……にげて、逃げて、ルカちゃん……っ」
「へ……?」
逃げて?
どうして?誰から?ロキから……?
困惑していると、ふいに背後からぐいっと抱き上げられた。びっくりして振り向くと、そこには笑顔を掻き消して警戒の表情をロキに向けるジャックがいた。
ガウもジャックと同様、険しい表情と威嚇するような唸り声をロキに向けている。
二人ともどうしたんだ?ロキはどうしちゃったんだ?一人あわあわと慌てていると、ジャックがふと不穏な声で呟いた。
「気を付けて、ご主人様。こいつから、面倒な呪いの気配を感じる」
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