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五章
187.ケジメの結婚
しおりを挟む「てことで、難しい話はとりあえず終わったね。それじゃあ婚約についての話に移ろうか」
「終わってないだろ死ね」
チェレスにまた会わなきゃなのかー緊張するなーそわそわ、と揺れていると、ふいにロキが超絶急カーブをつけて話を切り替えた。
あまりに突然の切り替えだったので、流石のアンドレアも雑なツッコミしか追い付いていない様子だ。普段ならもうちょい理論的に罵倒するのに、今のはただの暴言である。
婚約だとか結婚だとかの話、ロキの中ではまだ終わってなかったのね……。
へにゃりと眉尻を下げた困り顔を浮かべると、ロキはそんな俺を見下ろしてきょとんと首を傾げた。
「うん?どうしたのルカちゃん。心配しなくてもちゃんと結婚するから安心して」
「そんな心配はしていない。死ね」
一体何をどう解釈すれば、俺が『ふえぇ、ロキと結婚できないのかなふえぇ』と心配しているだなんて曲解するのか。
ロキのご都合思考に怯える俺の代わりに、アンドレアがまたもや雑だけれどきっちりツッコんでくれた。これまた単なる暴言と化しているけれど。
とはいえ、ロキは何年もアンドレアからの罵詈雑言を受けてきた訓練済みの人間だ。
特にアンドレアの暴言に反応することなく、サラッと話を進めるロキに恐々としてしまった。つ、つよい……ロキってば強すぎるぞ……。
「うーんどうしようかな。周囲への牽制も兼ねて、式は早い方がいいよね。ルカちゃん、今何歳だったっけ?十二歳くらい?そっかそっか、まぁイケるよね。ギリセーフ」
「アウトに決まってるだろ死ね」
俺のほっぺを上機嫌にぷにゅぷにゅしながらルンルンと語るロキ。
アンドレアの常識的なツッコミを聞き流して「子供はもう少し二人の時間を楽しんでからでもいいよね」と嬉しそうに呟くロキを見上げ、ちょっぴりビクビクしてしまった。
ロキってば気が早すぎだぞ。まだ結婚するかどうかも決まっていないのに、将来のこと考えすぎなんだぞ。子供なんて早くても、あと十年は先になるだろうに。
って、俺ってばなにフツーに考えてるんだっ!これじゃあまるで、ロキと子供を作るのは別に嫌じゃないって思ってるみたいじゃないかっ!
……ま、まぁ。べ、別に嫌じゃないけどな?むん。嫌がる理由とかも、特にないし?うむ。
「でもさぁアンドレア、普通に考えてみてごらんよ。なんか現実から目を背けているみたいだけど、俺とルカちゃん、一線越えちゃってるからね?」
アンドレアがギクッと肩を揺らす。俺も同時にビクゥッと震えてしまった。
ロ、ロキってばなんてこと言うんだ!身内にチョメチョメな話題を知られるのは羞恥具合が段違いなんだぞっ!他人に知られるよりもテレテレな感覚がぶっちぎりなんだぞっ!
なんてふすふすっと憤る俺を、ロキは軽く抑え込んでぎゅうっと抱き締めた。
まるで今は話に入らず大人しくしていろ、と言わんばかりの対応だ。
大人の話だからと仲間外れにされたみたいでちょっぴりショックだけれど、俺は空気を読める子なので大人しくふすふす……と身を縮ませた。しょんぼり。
「一夜の遊び程度、この世界じゃよくあることだけど……それはあくまで一線を弁えた場合のみに限定される話だ。まぁ言っちゃえば、中に出すか出さないかって話ね」
「ッ……」
「俺の場合は……まぁ普通にライン越えなんだよね。それに、子供には手を出すなって暗黙の了解があることも知ってるでしょ?俺、その掟破っちゃったから、ケジメをつける義務もあるのさ」
え、そんな了解あるの?
声には出さないけれど、俺ってばびっくり仰天である。そんな暗黙の了解とやらがあるなんて知らないぞ。教えられてないぞ。
というか、なんかロキってばシュン……って感じの空気纏っちゃってるけど、行為中はそんな謙虚な感じ微塵もなかったよな?むしろ遠慮の欠片もなく俺のことずっこんばっこん犯してたよな?
なんて、ジトーッと疑いの目を向ける俺からは器用に視線を逸らし、ロキは相も変わらず『反省してますしょんぼり……』って感じの雰囲気で語り続ける。
「でも仕方なかった、不可抗力だったんだ。俺がしないと、ルカちゃんは毒で藻掻き苦しんでいただろうし……俺は、ルカちゃんの苦しむ姿なんて見たくなかったから」
いやいや、ロキってば俺が何度も“こわい”だとか“やめて”だとか言っても全然止まってくれなかったじゃんか。嬉しそうに腰揺らしてたじゃんか。
快楽に堕ちて苦しむ俺を見て、あんなに愉しそうに笑っていたくせに……一体どの口がそんな主人公みたいなこと言っちゃってるんだ。いや、まぁロキは主人公なんだけれども。
「だからさ、アンドレア。俺にケジメをつけさせてよ。責任をとらせて。ルカちゃんに償わなければいけない義務があるんだ。償いには、俺の生涯を懸けるから……」
俺がひねくれているのだろうか。
『計画通り。これで結婚以外の選択肢はなくなったなニマニマ』って感じの訳が勝手に頭に流れてくるのだが、流石に考えすぎだよな?俺、ロキのこと信じてるぞ?
本当に、申し訳なく思っているからこその償いがしたいんだよな?そうだよな?決して下心なんて含まれていないよな?なっ?
ぷるぷる震える俺をぎゅうっと抱え込むと、ロキはそのままアンドレアに深く頭を下げた。
「君の大切な弟の初めてを奪ってしまったこと、本当に反省しているよ。でも、理解してほしい。全てはルカちゃんを守る為の判断だったんだ」
反省?反省……?と困惑する俺の口をさりげなく片手で塞ぐと、ロキは頭を下げたままもう一度アンドレアに「ごめんね」と謝った。
ちなみにこの間、俺の目の前には『何も言うなよ?』の圧を含んだ満面の笑顔が浮かんでいる。怖いので泣いちゃってもいいだろうか。
「……気に食わないが、貴様がルカとの一線を越えたという噂は既に周知されてしまっている。噂の出処が特定出来ていないことが少し気になるがな」
若干棘のあるセリフを吐いたアンドレアは、訝し気に探るような視線をロキに向けた。
ロキは顔を上げると、ふわりと穏やかな微笑を浮かべて口を閉ざす。ふぇっ、無言でにこやかに微笑まれるのが一番怖いぞ……。
「まぁいい。不快だが、確かに今はお前に預けるのが最も安全だ。下手をすればヴァレンティノも敵に回すというこの状況で、お前からルカを奪うような馬鹿はそう居ないだろう」
「そうだね。分かってくれたみたいで嬉しいよ」
「勘違いするな。お前を認めた訳ではない。あくまで最善策として受け入れたまでだ」
むぅ、なんだかちょっぴり寂しいぞ。当人の俺を抜きにして俺の話をスラスラーッと進める二人、ちょぴっとは俺のこともかまってほしいぞ。ふすふす。
軽くぷくっとほっぺを膨らませて裾を引っ張ると、ロキはすぐに俺を見下ろし、甘く蕩けるような笑みをふにゃっと浮かべた。
「うん?大丈夫だよルカちゃん。もう誰にも手出しはさせない。絶対に守るからね」
「む……うむぅ」
そういうことじゃなくて!と否定したかったけれど、諦めてもごもごと口を噤んだ。
別に、ロキに身を委ねることが嫌なわけじゃない。ロキのことが嫌いなわけでもない。
そう、むぅむぅと悩んではみるものの、よく考えてみれば、俺にはロキを拒む理由が何もない。
その事実に気が付いたら『むん?俺、大人しく黙っているのが一番いんじゃね?』と悟ってしまったので、特に抵抗することなく再びロキの抱っこにふすふすっと収まった。
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