185 / 240
五章
183.家族と再会
しおりを挟む体力も大分回復し、水を飲んだことで喉も復活した。
ようやくまともに動くことが出来そうだ、と安堵しながら準備を済ませたが、結局移動はロキの抱っこしか認められなかったので不服オーラを全開に放ってしまった。むぅ……。
曰く、見た目は回復していても疲れはどっと溜まっているだろうから、という理由らしい。
確かに昨夜あれだけアッハーンでウッフーンなチョメチョメを繰り広げたのだから、たぶん疲労はとんでもないくらい溜まっているだろうけど……それでも、流石にてくてく歩くくらいはできるぞ。
ふんすと拗ねながらも、大人しく抱っこされて向かった先は一階の客間。扉を開けた先には、何やらカオスな光景が広がっていた。
「──ど、どゆことぉ……?」
目の前に広がる光景を見てポカーンと目を見開く。中には思ったより多くの人がいた。
通常通りのニコニコ笑顔を浮かべるリカルド様と、そんなリカルド様に殺気を纏って銃口を突き付ける父。明らかに苛立った様子で机に踵を置きながら座るアンドレアや、壁際で真っ黒どんよりな空気を纏い項垂れるジャックとガウ、などなど。
何というか、この世の物騒な絶望詰め合わせみたいな、そんな空気感だ。
ちょっぴり発言を誤った瞬間に人生を退場させられちゃいそうな、ド級の地雷オーラをひしひしと感じる。特にアレだ、この中で一番ヤバそうな空気を醸し出している父がラスボスに違いない。
「ロキ、ロキ、おろしてくれ。歩いてくぞ」
「むぅ……大丈夫?身体痛くない?歩ける?」
「だいじょぶだぞ。ちょっぴり歩くくらい平気だぞ」
ぱたぱたと手足を動かし、心配そうに眉尻を下げるロキの抱っこからうにゅっと脱出する。
とたとたーっと中に入る俺に一早く気が付いたのは、イライラオーラを纏うアンドレアだった。
「……ッ!?ルカッッ!!」
アンドレアはめちゃんこ綺麗な二度見を決めてガタッと立ち上がり、光の速さで駆け寄ってきて俺をぎゅうっと抱き上げた。
まるで生き別れの家族にでも会ったかのような謎のクライマックス感。なんだかよくわからんが、とりあえず俺もむぎゅーっと抱き締め返してみる。むぎゅむぎゅ。
するとアンドレアは、なぜかお得意の無表情をへにゃあっと崩して眉尻を下げた。
な、なんなんだ、この感極まったような反応は……ちょっぴり大袈裟すぎて怖いぞ……。
むぅ?いやでも、考えてみれば俺、夜会で拉致されたあと一回も家族に会ってなかったんだよな?
となるとアンドレア達から見た俺は『拉致監禁されて少なくとも丸一日行方不明になっていた家族』ってことか?なにそれ、普通に感動の再会モノだぞ。
「お、おにーさま」
「ルカ、ルカ、ルカルカ……俺のルカ、ルカルカルカ」
どどっ、どうしよう。なぜかアンドレアが暴走している……!ショートしたロボットみたいにとち狂っちゃってる……!
むぎゅぅっととんでもない力で抱き締められ、片方の腕で腰を強く抱かれ、もう片方で後頭部をぐぐっ……と抱き寄せられるというこの状況。
とりあえず、後頭部は普通に痛いから力を弱めてほしいんだぞ……なんてシクシク嘆くものの、アンドレアは俺の泣き言なんて一切聞こえていない様子で抱っこの力を強めた。ふえぇ。
「おち、もち、おちついて、お兄さま。おれ、だいじょぶだぞ?」
「俺のルカ、俺のルカ……俺のルカが……」
だめだ、全然聞こえていないみたい。
この世の終わりみたいな顔で絶望するアンドレア。それを見てどうしたもんかと息を吐く。
さっきからブツブツと俺のルカだの何だの呟いているけれど、それが一体どうしたというのか。俺はちゃんとアンドレアの弟のルカだぞ。何かダメなことでもあるのかね。
ぱちくり瞬く俺をぎゅっと抱えたまま、アンドレアはふらりと頽れて地面に膝をついた。
絶望に染まった蒼白顔をしながら、アンドレアは涙ながらにぽつりと嘆く。
「俺のルカが……クソ野郎に食われた……初めては兄として俺が貰う筈だったのに……」
「聞き捨てならないね」
シクシクと悲痛を訴えるアンドレアを見てあわわと慌てる。
何やらとんでもない発言をかましたアンドレアの腕の中から、ロキがサッと俺を抜き取ってむぎゅっと抱き締めた。ロキの抱っこに元通りである。
「ふざけるな!ルカを返せ変態クソ野郎!」
「二秒前の発言を思い返してよ。変態クソ野郎はブーメランだよ」
俺を奪われてムッキーッとお怒りのアンドレアに、ロキが「えぇ……」と困惑顔を浮かべる。
確かに、言っていることはぶっちゃけどっちも同じかもしれない。共通しているのは悪びれもなくぶっ飛んだ発言をするってところだろうか。どっちもどっちね、うむ。
俺は一体どうすればいいんじゃ……と困り顔を浮かべていると、ふいにアンドレアの背後から今度は父がドタドタと近寄ってきた。
こっちも言わずもがな、目が血走っていてちょっぴり怖いぞ。
「ルカ」
「お、おとうさま……」
ロキの抱っこからひょいっと俺を奪い、むぎゅーっと強く抱き締める父。
さっきからひょいひょい奪われてばかりで俺の視界がぐるぐるしちゃいそうだ。ひとまず父にむぎゅむぎゅ抱きつき、落ちないようにぺたんと全身でくっつく。
鬼の形相はともかく、やっと父に会えてうれしいなー。なんてむふむふ頬を緩める俺を抱き締めながら、父は無表情を柔らかいものに変えて呟いた。
「あぁルカ……怪我が無くて本当によかった。お前を拉致したクソ共は粗方処理したから安心しろ。どうやら面倒な陰謀が一枚絡んでいるようだが直ぐに全員消し炭にするから心配するな」
「む、むん……?」
「よし、次はこのクソガキだな。ルカの初めてを奪った大罪は死に値する。今ここでぶっ殺してやるから心配するな」
「んまっ、まってお父さまっ!それだめっ!それはだめぇっ!」
流れるように物騒発言をかまし、そしてこれまた流れるようにロキへ銃口を向けた父を慌てて制止させた。判断に躊躇がなさすぎてびっくり仰天だぞ。
あわわっと取り乱しながら、父の構える拳銃をていっ!と押しのける。ふぅ、おーけーおーけー。
「お父さま、メッ!ロキはおれを助けてくれたのですっ!悪いことしちゃダメですっ!」
「なに……助けた、だと……?」
父が俺の手から引き離すみたいに、拳銃を内ポケットに仕舞いこむ。
俺のセリフを聞いた瞬間にバッと視線を向けてきて、訝し気にふむ……?と首を傾げる姿にうむうむと頷いた。
そのとーり、俺はロキにお助けしてもらったのだ。断じて無理やり襲われたわけじゃない。
「そうです!おれ、なんでか身体がとっても熱くて、熱くて熱くてもうだめだーってところを、ロキがお助けしてくれたのです!」
「身体が熱い……助け……?」
「うむっ!ロキはしっかりお助けしてくれましたっ!お尻におちんちんいれて、どちゅどちゅってして、“なかだし”してお助けしてくれたのですっ!なかだししないと、毒が消えなかったのですっ!」
「なぁッッ……──!?」
あれれ、おかしいな。
ロキのクールなお助け劇をしっかり説明してあげたのに、なぜか父が絶望顔でグハッ!と吐血しながらばたんきゅーしてしまった。
276
お気に入りに追加
8,043
あなたにおすすめの小説
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ある日、人気俳優の弟になりました。
樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる