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四章
133.どくたーとこーいしょー
しおりを挟む「うっ、うぅ、うわぁぁん!」
「……何故ルカが泣いているんだ」
鼻水たらたら、涙ぽろぽろ。
ボロボロの顔で泣き喚いていると、ふいに部屋の扉が開かれアンドレアが入ってきた。後ろにはミケも控えている。
胡坐をかいたガウにぎゅっと抱き締められてよしよしされている俺を疑問に思ったらしい。アンドレアは困惑を滲ませた表情を浮かべると、戸惑った様子でジャックに声を掛けた。
「おい、何故ルカが泣いている。ルカは何か痛いことをしたのか?隷従契約をすると聞いたが」
「いや?痛いことしたのはガウだよぉ。ご主人様はガウに痛いことしちゃったのが悲しくて泣いてるみたい。それをガウがよしよぉしって必死に慰めてるとこ」
普通逆では……というミケの言葉が続く。部屋に突撃してきて早々なに謎の会話をしているんだ、と涙をふきふきしながら振り返った。
「お兄さま、なにかごようですか。見てのとーり、いまとってもたてこみちゅーなんです」
「立て込んでいるんですって。まだ契約を終えていないのでは?出直した方がよいかと」
「いやけーやくはおわったぞ。おれの涙がたてこんでるだけだぞ」
終わってんのかーいと無駄のないツッコミがミケから返ってきたところで、よっこらせとガウの膝から抜け出し立ち上がる。
もう一度ガウの肩を覗き込み、さっきよりもグロテスクな感じが薄くなってきたことを確認してうむと頷いた。とりあえず、さっき使用人に呼ばせた医者が来るまで安静にさせとかなきゃだな。
俺が立ち上がったことで同時に動き出そうとしたガウを「おまえはやすんでろ」と慌てて止める。
ガウを動かさないようジャックに監視を頼んでから、アンドレアのもとへとてとてっと駆け寄った。
「お兄さま。おまたせしましたっ」
「あぁ。無事に終わったか。焼印を押したなら鏝を使っただろう、火傷は」
だいじょぶですっ!と手のひらをパッと見せると、アンドレアは安堵した様子でほっと息を吐いた。
それにしても、最初に心配するのが俺の火傷って。火傷というならガウの方が……というか、ガウしか心配の対象はいないだろうに。アンドレアってばそういうところは変わらず冷たいんだな。
アンドレアに手をもみもみされること数秒。火傷していないことはとっくに確認済みだろうに、何をそう熱心にもみもみし続けているんだ……と困惑してしまう。
「ふむ……今日もルカの手は柔らかいな。ぷにぷにしていて……まるで肉球のようだ」
「ルカ坊ちゃまは猫だった……?」
こんな時だってのに何やらふざけたことを言っている二人に呆れ顔を向け、溜め息を吐いた直後。
ふいに扉がノックされ、使用人と共に白衣のおじさんが入ってきた。どうやらガウの肩を診てくれるお医者様が到着したようだ。
慌ててアンドレア達をそそくさと部屋の隅に押し込み、ガウの治療をしてもらうべくササッと医者に駆け寄った。
***
「この程度であれば二日ほど腕を休めるだけで構わないかと。発熱の心配も無さそうですね」
「ほんとか?ほんとにほんとか?ちゃんとみたのかぁっ!?うそじゃないだろーなっ!」
「落ち着けルカ。話はしっかり聞きなさい。ヤブだったら俺が殺してやるから」
たらたらと冷や汗を流し始める医者が、蒼白顔でカタカタ震えながら頷く。
一見いつも通りでなんてことなさそうに見えるガウに抱き着きながら、むんっ!とジト目で医者を睨んだ。
いつもならアンドレアの物騒発言をメッしているところだが、今回ばかりは目を瞑る。なぜならこれは俺の大事なガウの身体に関わる問題だから。
はよう話せ!とふんすふんすする俺にあわあわ頷いた医者が、震える声でビクビクと答えた。
「ど、どうやら、焼印は何度も同じ箇所に上書きされていたようですので……肩の強度のみが他と比べ異常に発達しているようなのです」
「むぅ?きょーど、はったつ?」
難しいこというんじゃないよ、とぷんすかする俺を見下ろし、アンドレアが淡々と医者の言葉を補足するように語った。
「つまり、お前の獣人の肩は何度も焼かれて再生を繰り返したことでとてつもなく頑丈になっている、ということだ」
「むっ!なるへそ!ガウは肩だけスーパーマンってことだな!?」
「まぁそういうことだ」
本当にそういうことで合ってます……?というツッコミ役でお馴染みのミケの呟きは華麗にスルーして、ガウをぎゅっとしていた腕に力を籠めた。
キラキラ、と瞳を輝かせる俺を見下ろしたガウがふにゃりと笑う。ケモ耳に手を伸ばしてよしよしとモフると、ガウは更に嬉しそうに喉を鳴らした。
「ガウ!ガウは肩だけスーパーマンらしいぞ!まひ?とか、こーいしょーは残らないって!よかったな、よかったなぁ!あぁでもごめんなぁ!おれのしぇえでぇぇっ!」
「ご主人様、情緒おかしいよ、情緒」
ガウに焼印による後遺症が残らないことを嬉しく思う反面、そもそもこんなことになったのは俺が焼印を押したせいじゃろがい!という自己嫌悪も合わさり……。
つまりその、今のところ心情がとっても複雑なのである。それによって笑いながら号泣するというわけわかめな事態を発生させてしまった。
「主様。どうか頭を下げないで。私は嬉しいのです、本当に。肩なんて服に隠れる場所でなく、どうせなら所有痕の如く額や頬に……なんてことも考えてしまうのです。それほど嬉しいのです」
「ヘイどくたー!こーいしょー発見だ!ガウのあたまを診てやってくりぇっ!」
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