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四章
106.白熱!デタラメだらけの大激論!
しおりを挟むドンッ!と怒りの籠った音が響き渡る。
その音の重圧に、貴族達は怯えた様子でピタッとヤジを止めて硬直した。大勢の視線が全てこちらに向けられて、思わずぷるぷる震えながら俯いてしまう。
けれど、その視線は別に俺に向けられているわけじゃない。正確には俺の隣に立っている……音を立てた張本人に向けられているのだ。
「──……黙って聞いていれば偉そうに」
威圧的な低い声が地を這うように紡がれる。
公爵はアンドレアの形相を正面から見てしまったらしく、さっきまでの演技ぶった動きをやめて青褪めていた。何やら怯えている様子だ。
ちらり。俺も勇気を振り絞ってアンドレアを見上げる。けれどすぐに後悔した。
アンドレアの怒りの形相は、この睨みだけで人を殺せるんじゃないかと思うくらい歪んでいた。
「父の処分に関しても含めて今、こちらから話を進めようとしているのです。白々しく場を掻き回して趣旨を曖昧にするのは辞めて頂きたい」
むぐっと口を噤んだまま声を発することが出来ない。
それくらい、アンドレアから感じられる怒りの圧は異常だ。ギリギリ敬語を保っているけれど、今にも『死ね』と呟いて銃弾をぶっ放してしまいそうな危うさがある。
なんとなくチラリとロキの方を見てみると、ワクワクと楽しそうに瞳を輝かせるヴァレンティノ親子の姿がそこにはあった。あの二人は本当に……。
あの様子じゃフォローなんてしてくれそうにないな、と溜め息を吐き、仕方がないので俺がアンドレアの裾をくいくいと引っ張った。
「お兄さま、お兄さま、おちついて。おこ、しないで」
頼むよう、冷静なアンドレアに戻ってくれよう、と涙目で訴えると、アンドレアは徐々に怒りを収めて短い溜め息を吐いた。
「……。……怒ってはいない。若干苛立っただけだ」
若干……?と首を傾げてしまったが余計なことは言わずにお口チャックする。
そうだね、若干ちょぴっとほんの少しだけイライラしちゃっただけだよね。うむ。
はぁ、と小さく深呼吸してから、アンドレアが気を取り直したように顔を上げる。
窒息しそうなくらい圧のある怒りオーラが消え去って、貴族達が酷く安堵したように息を吐いたのが横目で見えた。
「陛下。たった今公爵が仰った件に関して、こちらからも言い分があります。お聞き頂けますね」
お願いするというよりは、遠回しに拒否権なんてないからなと脅すみたいな冷淡な声音だ。
その遠回しな脅しを突き付けられた王様はどんな反応をするのか。一応王様だし、こんな失礼な口をきいたら怒られるんじゃないか?なんてビクビクしながら答えを待つ。
「──ん、あー、あぁ。申してみよ」
「……??」
返ってきたのはパッとしない反応。王様の様子はなんだか挙動不審で、チラチラ視線を動かす姿はまるで周囲の空気を窺っているみたいだ。
なんだろう……なんというかこの、流れやすい気弱な子供みたいな……人の様子を窺って意見をコロコロ返そうなこの雰囲気は……?
なんて違和感を覚える俺の横で、アンドレアは予想通りの反応とばかりに言葉を続けた。
「陛下。初めに明言させて頂きますが、父の罪とやらは全くの出鱈目です。陛下直轄の警備隊が重大な冤罪事案を犯した件に関しては、後ほど責任を追及致しますが宜しいですね」
「は、あー……あぁ……冤罪、なのか?あー、其方の父の……」
「はい。証拠も揃っております。真犯人も既に捕えております。また、ベルナルディはルカの親権に関して、ジェルマーノ公爵が抱える重大な問題を考慮しての対応をしているつもりです」
「あー……待て。その……責任とやらは朕にあるのか?仮に冤罪だった場合……」
「警備隊は陛下直轄の組織ですので、責任の一端は陛下にもあるかと。話を戻しますが宜しいですか。ジェルマーノ公爵に親権の所有権を主張するに値しない問題があること、今ここで説明致しますので」
な、なんだろう、このおかしな感覚は。怒涛の会話が繰り広げられているわけだけれど、なんというか、まったく会話の体を成していないような気がする。
まるでアンドレアが王様を無理やり丸め込んでいるような、そんな感覚だ。
一応陛下が発言している最中ということと、アンドレアの怒涛のセリフの数々。それに圧倒されてか、外野の貴族達も何かヤジを飛ばしてくるような気配はない。
アンドレアの計画なのか策略なのか。ともかくその流れについていけずぽけーっとしていると、ふいにアンドレアが俺をひょいっと抱き上げた。
「……ほぇ?」
突然両脇を持ち上げられ、まるで周囲に掲げられるようにして抱っこされたことにポカンと瞬く。
急に何を……?と困惑していると、背後からアンドレアの唇を耳元に寄せられ、小さく指示を囁かれた。
「ルカ、俺の言葉に乗るようにして母親の悪事を嘆け。出来るだけ号泣しながら」
その言葉にハッとする。ついに俺のクールな出番がやってきたようだ。
ふんす!とやる気を漲らせて出番を待つ。アンドレアが王様にピシッと視線を向けて、高らかに訴えた。
「陛下。ルカは母から日常的に虐待を受けておりました。そしてその虐待は全て、ジェルマーノ公爵の指示だったのです!」
「なんだと!?」
──なんだとぅ!?
不覚にも悪者おじい様と反応が被ってしまった。声に出さなかっただけ偉いぞ、俺。
どちらかというと虐待を受けていたのはアンドレアの方では……と大困惑する俺を置いてけぼりに、アンドレアは無表情をわざとらしく崩して悔しさに顔を歪める。意外と演技派なのね。
突如放たれた衝撃の告白に議会場は大騒ぎ。ザワザワとどよめく空間を見渡して眉尻を下げる。
だ、だいじょぶなのかこれ……なんか大事になり始めちゃってるけども……。
「亡くなった母の部屋から、ジェルマーノ公爵とのやり取りを綴ったとみられる手紙が見つかったのです。そこには、公爵家の陰謀が事細かに記録されておりました」
「な、なにを!そんなものは知らんぞ!デタラメだ!」
「……公爵、いい加減認めては如何ですか。父が母を娶ったことから、全ての悲劇は貴方の策略の内だったのでしょう……」
悲痛そうに目を伏せるアンドレア。
そんなの俺知らないぞ、手紙とか何とかなんのこっちゃ、と混乱しながらアンドレアの様子をじーっと窺い、ふいに気が付いた。
あ、ちがう。これ全部でっち上げだ。
アンドレアってば、堂々と嘘ついてるんだ。
「……」
よもや……と白けたジト目を振り向いた先に向ける。
案の定、そこに座っているヴァレンティノファミリーは楽しそうにケラケラ笑い合っていた。なるほどやっぱり、全てがあの腹黒親子の入れ知恵か。
「母の虐待に日々耐えながら、弟がどれ程の地獄を味わってきたことか。貴方には孫の涙を嘆く心さえ無いのですか!」
アンドレアがそう語ると同時に、抱き上げていた俺をシュバッと掲げた。
この場の全員の視線が俺に向く。
ビシバシと容赦ない視線を受けて、俺はタラタラと冷や汗を流しながら、カクカクと覚束ない動きで瞳を手で覆う。
「う、うえぇぇーん」
かくして、俺の大号泣演技が始まった。
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