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二章
32.かわいい
しおりを挟む俺が緊張して、怖がっているようだったから……?
アンドレアはそれを何とかしてくれようと、だから突然たんぽぽを差し出してくれたのか。
花をプレゼントしてくれるなんてあんまりにもアンドレアらしくなかったものだから、一体なんの罠かと勘繰ってしまったのを少し反省した。
「う、うぁ……ありがと、お兄さま」
俺を嫌っているはずの兄から不意打ちで向けられた真っ直ぐな好意。
それがなんだか擽ったくて、思わずぽっと顔を赤く染めてお礼の言葉を口にする。照れくささが一向に抜けず、もらったたんぽぽに顔を埋めるようにして俯くと、アンドレアはなぜか「ぐッ……!」と苦しげに呻いて悶えだした。
急にどうしたのだろう。大丈夫かなそわそわ。
「……少しは、落ち着いたか」
悶えた衝撃で地面に膝をついたアンドレアにボソッと尋ねられる。
それはこっちのセリフじゃが……と困惑の表情を浮かべようとしてハッとした。そうだ、そういえば『ここで何をしている?』という質問の途中なんだった。
たんぽぽに全部持ってかれて忘れそうになっていた……とちょっぴり反省。
たんぽぽを忙しなく撫でながら、こくこくっと頷いてアンドレアの問いに答えた。誤魔化した方がいいかとも思ったけれど、やっぱりここは正直に話した方がいいだろう。
ここで誤魔化して逃げたところで、ロキに何かあったら大変だし。それならちゃっちゃと白状して、アンドレアにもロキ探しを協力してもらおうじゃないか。
「あの、じつはロキ……わんこが、いなくなっちゃって」
「わんこ……?お前、犬を飼っているのか」
恐る恐る答えると、アンドレアは怪訝そうな顔をして問いを返してきた。
それに再びこくこくっと頷き、両手を駆使してジェスチャーでなんとかロキについてを説明してみる。
「このくらいの、もふもふで、もきゅもきゅしたわんこ。わたあめとか、マシュマロみたいで、とってもとっても、かわいいわんこです」
「……かわいい」
「……!うむ、うんっ!そうなの、そうなんですっ!わんこ、とってもかわいい!」
むむぅっ……!とジェスチャーを使って精一杯説明すると、アンドレアは何やらぐぅっと眉を顰めて頬を染め、なんだかよく分からない表情でぽそりと呟いた。
なぜかとっても熱心な視線を向けられていることを不思議に思いながらも、アンドレアの呟きにうむうむっと頷く。
わかっているじゃないか。そう、ロキはとっても可愛いわんこなんだぞ!
「ふふん、ふん、ふすふすっ」
「……かわいい」
可愛いロキを褒められたことが自分事みたいに嬉しくて、思わずえっへんと胸を張りながらふふんふすふすっとドヤ顔を浮かべてしまう。
アンドレアは未だロキのもふもふ姿を想像しているのか、ふふんっとドヤる俺をぼーっと見つめながら「かわいい」と繰り返し続けていた。
むぅ、俺を見つめながら言うのはやめてくれよぅ。まるで自分に言われているみたいでちょっぴり恥ずかしいぞ……てれてれ。
火照った頬を隠しつつ、さりげなくぷいっと顔を背ける。
するとアンドレアはふいに立ち上がり、俺をひょひょいっと抱き上げて無言で歩き出した。
あんまりにも突然の連行だったものだから、数秒かちこちに固まりやがてハッと我に返る。ぱたぱたっと抵抗しつつ「なにごとっ!」と目を丸くすると、アンドレアは無表情をこちらに向けてきょとんと首を傾げた。きょとんしたいのはこっちじゃよ。
「……?犬を探しているのだろう。暴れるな、落ちるぞ」
俺のクワッ!とした全力の抵抗もさらーっと軽々受け流し、アンドレアは相変わらずの言葉足らずを発揮してトコトコと歩き出した。ちょっとまてぃ。
わんこを探しているのはその通りだが、それで一体なぜ俺はアンドレアに連行される破目になっているのか。
説明が足りないぞっ!とぷくぷくしながらムスッと顔を顰めると、それを見たアンドレアがまたもや戸惑った様子で首を傾げた。
「……?犬を探さないのか?」
「むっ、探します!でもでも、お兄さまが離してくれないから、それは難しいのですっ」
むむーっ!と腕をぱたぱた、足をてちてち。
おこ!という感情を全身で表現する俺を見下ろし、アンドレアはぱちくりと瞬いて呆れ顔を浮かべた。
「……お前が自由に動いたら絶対に迷子になる。ちょこまかしないで大人しくしていろ」
「がーんッ!」
容赦の無い言葉にピシィッと固まる。そ、そこまで言わんでも……しょぼん。
確かに俺は方向音痴の節がちょっとだけ、ほんのちょこーっとだけあるにはある。けれど傍から見たら、俺はどう見ても超絶クールなスマートお兄さんだ。
だというのにアンドレアってば、俺のことを分かった風に愚弄して……!この俺のどこをどう見れば『絶対に迷子になる』だなんて断言できるのか。不服である。ぷんすか!
「むむぅっ……」
ぷくぅっとリスの如く最大限までほっぺを膨らませ、俺はこんなにおこなんだぞーと暗にアンドレアへ訴える。
けれどその訴えも虚しく、アンドレアは気付いていないのかただのフリなのか、一瞥すら俺に向けずスタスタと歩みを進めた。
むぅっ、淡々と周囲を探す冷静な姿が憎い……。
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