獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

上総啓

文字の大きさ
上 下
47 / 54

47.偉いひとにご挨拶

しおりを挟む

マキちゃんとご飯を食べた後、すぐにマキちゃんの職場である騎士団の基地に向かった。
途中で訓練場の近くを通ると、当然だけれどたくさんの騎士さんたちと鉢合わせる。みんなおっきくなった僕を二度見して、どうしてか慌ただしく悶絶した後、大変なものを見たみたいにふらりと倒れてしまった。

いっぱい訓練しているから、疲れて具合が悪くなっちゃったのかしら。
そう思って駆け寄ろうとしたけれど、マキちゃんが気にするなって言って僕の手を引くから、仕方なく「しっかり休まなきゃだめよ」とだけ残してその場を後にした。
それにしても、なんだかマキちゃんが異様に焦っているような気がして首を傾げる。とっても速足だけれど、何をそんなに急いでいるのかしら。
気になったから、僕は速足でてくてく歩きながら尋ねてみた。


「マキちゃん。ちょっぴり歩くの早いけど、なにかあったの」


建物内へ入り、もうすぐマキちゃんの執務室につくということで尋ねると、マキちゃんは呆れ顔で僕を見下ろしながら答えた。


「お前が大きくなったからに決まっているだろう。幼子の姿でもあれだけ魅力を撒き散らしていたというのに、こうして元の姿に戻ればどれだけの破壊力を周囲に与えるか分かっているのか」

「む?僕、なんにも壊してないよ。おりこうさんなの」


おっきくなった僕は、いっぱい破壊しちゃうらしい。
それを聞いてきょとんと瞬いた。おかしいねぇ、僕はなんにも壊していないのに。そう言うと、今度は表情じゃなくて呆れたようなため息まで零されてぱちくりした。
どうしてそんなに『仕方のない子ね』みたいな顔をしているのか。とっても不服だ。


「……やはり布に包んで簀巻きにして運んできた方がよかったか」


どうせ何一つ自覚出来ないだろうからな、なんて物騒な発言が聞こえて目を丸くした。
マキちゃんたらとってもひどい。僕をぐるぐる巻きにしようだなんて、どうしてそんなひどいことが言えるのだろう。ぐるぐる巻きで運ばなくたって、僕はしっかり一人で歩けるのにねぇ。

ふんすとぷんすかしていると、ふと背後から「……ヒナタ?」と聞き慣れた声が届いてハッとした。
思わずマキちゃんと繋いでいた手を離し、そろりと振り返る。どこかで運動でもしていたのか、額に汗を滲ませた赤髪の彼を見てぱあぁっと瞳を輝かせた。


「お兄さん!!」


「ヒナタ!」と嬉しそうに叫ぶお兄さんのもとに全速力で駆け寄り、勢いよくむぎゅっと抱きつく。
顔を上げると至近距離にお兄さんの綺麗な顔が映って、反射的にパッと俯いた。

まただ。心臓がばくばく、どきどきって鳴って、顔がぽっと熱くなる。
赤いほっぺがバレないように、俯いたままお兄さんの肩に顔を埋めてうりうりと擦り寄った。どうしてかわからないけれど、とっても恥ずかしくて視線を上げることができないから。


「とっくにちっこいヒナタに戻ったと思ってたが、まだデカいままだったんだな。身体は平気なのか?もう熱くねぇか?」

「もう大丈夫!あっつくないし、とっても元気!」


肩にうりうりと頬擦りしたまま元気よく答えると、お兄さんは「そりゃよかった」と笑って僕の頭を撫でてくれた。
その優しい手つきにまた顔が火照る。ぽぽっと全身を真っ赤に熱くする僕には気が付いていないらしいお兄さんが、ふと何かが気になった様子で呟いた。


「にしてもヒナタお前、なんか喋り方もデカくなったか?チビ助の時の喋り方と若干違うな」


予想外の発言にぱちくり瞬く。僕ったら、身体だけじゃなくて話し方もおっきくなったみたい。
あのちっちゃな子みたいな喋り方がだんだん治ってきたのかしら。そう考えるとちょっぴり嬉しくなって、僕はふふんと賢い子を全面に出して頷いた。


「とーぜんなの。僕、おっきくなったもの。おはなしの仕方も、とってもクールなの」

「……あぁ、俺の勘違いだったみてぇだな。お前はデカくなってもチビ助のままだ」

「ががーん!」


精一杯クールを引き出してドヤ顔したのに、お兄さんたら意地悪な答えを返すから思わずガーンと落ち込んでしまった。
ひどいの、お兄さんたらとってもひどい。今の僕、とってもクールでかっこよかったはずなのに。それをちびすけだなんて言うのは不服にも程がある。

ぷくぅとほっぺを膨らませて最大限の不服を申し立ててみたけれど、すぐにお兄さんのおっきな片手によってぷしゅーと潰されてしまった。むねん……。


「やっぱ最初だから、まだ完全には元に戻らねぇみたいだな。いや……つーか、そもそも前から“コレ”なのか。だったら治るもクソもねぇな」

「これってどれだろねぇ」

「あぁー……やっぱそうか。そうだ。お前、元から“コレ”なんだな。じゃあデカくてもチビでも変わんねぇな」


なんだかお兄さんたら、さっきから独り言ばっかり。
一体なんのお話を一人でしているのか気になって、きょとんと首を傾げてみると、お兄さんは何かに深く納得した様子でコクコク頷いた。
なにかしら。独り言の内容はまったく聞こえなかったはずなのに、どうしてかとってもぶれーな気配を感じる。ぶれーで、失敬な気配を感じるのよ。

不穏な予感にふすふすしたけれど、それをお兄さんに吐き出す前にマキちゃんの声が聞こえてハッと振り返った。


「おい。いつまでも廊下で駄弁っていないで中へ入れ。ヒナタを外に出したままにするな」


なんだか僕だけペットみたいな扱いをされたような気がしたけれど、マキちゃんが割と本気のお顔で手招くから大人しくスタスタと執務室に入った。
お気に入りの定位置にぽふっと腰掛け、クッションをもふもふと抱えて息を吐く。寛ぐ僕を横目に、二人は何やら真剣な顔をしながら部屋の奥で話し始めた。

テーブルにお菓子やツミキ、ぬいぐるみがたくさん置いてあるのを見る限り、どうやら初めから僕をここで遊ばせて、二人で仕事の話をするつもりだったみたいだ。
ちっちゃな子の扱いをされているみたいでちょっぴり不服だけれど、お仕事の邪魔をするわけにいかないから素直に二人の誘導に従うことにした。


「神殿の動きはどうなっている?」

「今は割と大人しいぜ。やっぱ昨日の脅しが効いたみてぇだな。ただ……その代わり王宮から動きがあった。陛下の命令だ、覚醒した予言の子を連れて来いだとよ」


マドレーヌとクッキーを交互に食べながら、ぬいぐるみのみんなの為にツミキでお城を作る。
ぬいぐるみたちと遊びながら、ふとペンちゃんは元気かしらと思い出して手を止めた。あの子を置いてけぼりにしたまま帰ってきちゃったから、今度会いにいかなきゃ。
二人のお仕事のお話が終わったら、ペンちゃんのことを伝えてみよう。


「ヒナタはまだ完全に覚醒したとは言えない。そんな命令さっさと断れ」

「国王の命令だぞ、断るもクソもあるか。それに覚醒つっても、身体が元に戻ったヒナタを見せろってことだろ。昨日の借りもあるんだ、なおさら無視なんて出来るか」


そういえばシューちゃん、ペンちゃんはペンギンさんじゃないって言っていた。
グルちゃんがどうたらって言っていたけれど、そういえばこの世界の動物さんは、元の世界のものとはちょっぴり違うのかしら。何が違うのかしら。
トラさんもオオカミさんもいるし、黒豹もいる。キツネさんも、わんちゃんも。知る限りの獣人さんたちは、みんな知っている動物さんだけれど……それ以外にも、元の世界には存在しない未知の動物さんがいるってことなのかしら。

それなら、とっても気になる。いつか初めてここに来た時みたいな森にもう一度行ってみたい。
そうしたら、知らないもふもふに出会えるかも。そう思うとすごくわくわくして、僕はペンちゃんのことだけじゃなく、このことも二人に話してみようと決心した。


「……そんなことは分かっている。だが今のヒナタを無闇に外へ出すのは……」

「お前の言いたいことは理解出来る。容姿や力のこともそうだが、一番はあの甘い匂いだろ。俺もそれは気になるが……そこは俺らがフォローすれば──」


うぅむ、この子はウサギのうーちゃん。この子はクマのくーちゃんねぇ。
このツミキのお城はちっちゃいから、うーちゃんとくーちゃんの二人のお家にしよう。ぬいぐるみは他にもいっぱいあるけれど、まずは二人のお城から。
みんなの分のお城も作らなきゃだけれど……と、そこまで考えてふと視線をチラッと移した。さっきからチラチラ様子を窺っていたけれど、見る限りそろそろお話が終わりそうね。

ソファからぴょんっと下りて、二人のもとにとたとた近付く。
足音に気が付いたらしい二人が振り返って、そわそわと身体を揺らす僕を見ると、二人して呆れたように苦笑した。


「なんだヒナタ、もうツミキ飽きちまったのか?」

「うぅん。でも、二人ともお仕事のおはなし、そろそろ終わりそうだったから」


ぽふぽふと頭を撫でられながら答える。二人はそうかそうかと頷くと、それじゃあ面倒事をさっさと済ませるかと言って動き出した。
面倒事って、なんのことかしら。きょとんと瞬く僕にお兄さんがフード付きのマントを着せ、更にマキちゃんが目深にフードを被らせながら答えた。


「国王……偉い人に挨拶しに行くぞ、ヒナタ。お前の好きな挨拶だ、いいか?」


ぱちくり。丸くした目を瞬いて、僕はぱあぁっと表情を輝かせた。
偉い人にご挨拶、とっても楽しみ!わくわくと身体を揺らし始める僕を見下ろし、二人は安心したように、けれどちょっぴり呆れた様子で微笑んだ。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

名前のない脇役で異世界召喚~頼む、脇役の僕を巻き込まないでくれ~

沖田さくら
BL
仕事帰り、ラノベでよく見る異世界召喚に遭遇。 巻き込まれない様、召喚される予定?らしき青年とそんな青年の救出を試みる高校生を傍観していた八乙女昌斗だが。 予想だにしない事態が起きてしまう 巻き込まれ召喚に巻き込まれ、ラノベでも登場しないポジションで異世界転移。 ”召喚された美青年リーマン”  ”人助けをしようとして召喚に巻き込まれた高校生”  じゃあ、何もせず巻き込まれた僕は”なに”? 名前のない脇役にも居場所はあるのか。 捻くれ主人公が異世界転移をきっかけに様々な”経験”と”感情”を知っていく物語。 「頼むから脇役の僕を巻き込まないでくれ!」 ーーーーーー・ーーーーーー 小説家になろう!でも更新中! 早めにお話を読みたい方は、是非其方に見に来て下さい!

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...