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27.まもりあい

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「さ、先程は失礼いたしました……えぇっと、ヒナタ様?」


泡を吹いた状態から復活したキツネさんが、乱れた格好をピシッと直してお辞儀をした。
ちょっぴり首を傾げたキツネさんにこくりと頷き「ヒナタっていいますです」と改めて自己紹介をする。そしてすぐに、そういえばキツネさんのお名前を聞いていなかったなと思い出した。


「キツネさんは、おなまえなんていいますか」

「キツネさん……?えぇっと……私、閣下の補佐官をしております、オリバーと申します」


ふむふむ、と頷く。おりばー、おりば、おりちゃん、オリちゃんね。しっかり覚えたのよ。
「おりちゃ、よろしくねぇ」とふにゃふにゃご挨拶すると、オリちゃんは「おっ、おりちゃん?」と困惑した様子を見せながらもおずおずと頷いた。

よろしくねぇ、のご挨拶に頷いてくれたから、オリちゃんは僕とお友達になってくれたってこと。
オリちゃんとよろしくできた!とうれしくなって、僕は背後に立つマキちゃんのもとへとてとてと駆け寄った。やったのよ、とドヤ顔を浮かべながら。


「マキちゃん。僕、オリちゃんとなかよし、したのよ。うれしいねぇ。うれしいねぇ」

「あぁ。よかったな」


ぽふぽふと頭を撫でられ、僕ったらとってもご機嫌。
後ろから「なかよし……?」というオリちゃんの困惑混じりな声が聞こえた気がしたけれど、たぶん気のせいねと納得した。よろしくしたから、オリちゃんと僕はなかよしなのよ。

ごきげんにぴょこぴょこ飛び跳ねていると、やがてふいにオリちゃんが声を上げた。
なんだか焦れたような、マキちゃんにちょっぴり焦ったような顔を向けて。


「あの、閣下……そろそろご説明を願いたいのですが?」


オリちゃんの真面目な声を聞いて、マキちゃんは面倒くさそうにしながらもスタスタと歩き出す。
部屋の真ん中に置かれたソファに僕を抱っこしたまま座ると、そわそわしながらついてきたオリちゃんにサラッと吐き捨てた。


「予言の子を騎士団で保護した。ヒナタは公爵家の一員だ。表向きは賓客扱いだがな」

「はぁ、予言の子を……──予言の子ォッ!?」


オリちゃん、またもや泡を吹いてばたんきゅー。なんだかよく泡を吹く人だから心配だ。
もしかしてお身体が弱い人なのかしら……と眉尻を下げて見つめていると、今度は割と早めに復活して飛び起きた。


「予言の子っ……予言の子って!ん?た、たしかに耳がない……尻尾も……。はっ!ほんっ、本当にヒト族なのですかッ!?そんでもって予言の子!?あ、あぁっ……」

「おりちゃ!マキちゃん、オリちゃんふらふらよ」

「放っておけ。騒がしいだけで気が触れたわけではない」


オリちゃんったら、また一人でぶつぶつ言ったかと思えばふらりんっとよろけてしまった。
とっても虚弱な人みたいだから、僕ったら本当に心配。あわわと慌てる僕を、マキちゃんは至って冷静にぽふぽふと撫でた。
むぅ。マキちゃんがそういうなら、きっとだいじょぶなのね。僕ったら安心。ほっとひといき。


「まぁそういうことだ。至急ヒナタの部屋を用意するよう伝えろ。場所は俺の部屋の隣だ」

「は、はぁ、かしこまり……うぇっ?閣下の自室の隣?で、ですがあそこは……──」


マキちゃんがサラッと命令すると、オリちゃんはふらふらしながらもしっかりと頷いた。
けれどすぐに、何かが気になった様子で声を上げる。そんなオリちゃんを鋭く睨み付けたマキちゃんは、僕のほっぺを撫でながら低く吐き捨てた。


「至急と言ったはずだが」


這うような低音を聞いたオリちゃんは、ビクッと肩を震わせながら「りょ、了解しました!」と頭を下げて部屋を出ていった。
ぴゅーんって、キツネさんというよりは、まるでネズミさんみたいな素早さで。

オリちゃんたら、足がはやいのね。ほわぁと感心しつつ、ふと疑問が湧いて瞬いた。
そういえば、さっきマキちゃんが気になることを言っていたけれど、あれってどういうことかしら。


「マキちゃん。おへやってなぁに?まきちゃといっしょ、だめなの。かなしい。泣いちゃうのよ」


しくしく。しくしくしながらマキちゃんに縋りつく。
マキちゃんはまたお馴染みの呆れ顔を浮かべて、おでこをぴょいっと小突いた。優しい力だったから赤くはならなかったけれど、なんとなくさすさすと擦りながら顔を上げる。


「一緒がいいのか」

「うん。いっしょ。いっしょがいいのよ。まきちゃとねんねしたいのよ」


瞳をキラキラ輝かせながらこくこくっと頷く。お部屋よりも、僕はマキちゃんと一緒にすごせる時間がほしいのよ。そう訴えながら。
するとマキちゃんは目を細めて、低く「そうか」と呟いた。顔は無表情だし、声も相変わらず淡々としているけれど、それでもそう呟くマキちゃんは穏やかな空気を纏っているように見えた。


「何もお前を一人にするために部屋を用意するわけではない。賓客に部屋も用意しないようでは悪評が更に悪化するだろう。表向きの対応でしかないから気にするな」

「む。それじゃ、マキちゃんといっしょ?ずっとぎゅうしてていいの」

「あぁ。ずっと一緒だ」


むずかしいお話はよくわからないけれど、とりあえず、マキちゃんとは離れなくていいみたいだ。
それなら安心。ほっと息を吐いて、ふにゃふにゃ笑いながらマキちゃんに抱きついた。ぽわぽわ身体を揺らしながら「よかった。よかったの」とマキちゃんの胸に顔を埋める。


「疲れただろう、今日はもう寝るか。明日からは忙しくなるからな」

「むにゃ……むん。どして、明日はいそがしいの」


ふと、つかれたねぇと頭をこっくりし始めた僕に気が付いたのだろう。マキちゃんが僕の背中をぽんぽん撫でながらそう語る。
そのセリフの意味が気になって聞き返すと、マキちゃんはちょっぴり顔を顰めながら答えた。


「神殿が予言の子の降臨を大々的に公表するからだ。お前を狙う勢力も増えるだろう。なるべく騎士団と例のアホ虎がお前を守るよう尽くすが……それでも、お前の負担は少なからず増えるはずだ」


マキちゃんの無表情が申し訳なさそうに歪んだのを察する。
その表情を見てすっかり眠気が吹っ飛んだ僕は、ちょっぴり背伸びをして、マキちゃんの頭を抱えるみたいにぎゅっと抱き締めた。


「マキちゃん、だいすきよ。マキちゃんと、お兄さんと、みんなといっしょならしあわせよ。マキちゃんを苦しめるひと、僕がみんなメッてしてあげるの。だいじょぶよ」


マキちゃんのじゃまをするひと、だいきらい。僕はマキちゃんが大好きだから、そんなマキちゃんを苦しめるひとはきらいなの。
だから、なにかあったら僕がマキちゃんを守る。ぜったいよ。そう言うと、マキちゃんは眉尻を下げながらも穏やかに頬を緩めた。しかたない子ね、って呆れたみたいに。


「……あぁ。俺も、絶対にヒナタを守るからな」


ぎゅうの力が強くなる。マキちゃんは家族、家族が僕を守るって言ってくれた。とってもうれしくて、僕はおもわず泣きそうになるの。
ぎゅっと抱きつく力を強めて、マキちゃんにうりうり頬擦りする。そしたらマキちゃんは、やっぱり無表情を緩めて、優しく微笑んでくれた。

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