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13.騎士さんとマキちゃん
しおりを挟む少し落ち着いて、僕は改めて騎士さんたちにご挨拶をすることにした。
改めてというより、初対面で鬼ごっこしたまま自己紹介すらしていなかったのだけれど。
「はじめまして。僕、ヒト族のヒナタっていいますです。わるものから助けてくれた騎士さんたち、ありがとございますです」
しっかりお礼まで含めて頭を下げる。すると、僕を囲むようにして集まっていた騎士さんたちが、身内でソワソワと目配せし始めた。
何やら僕に近付くのを躊躇しているような、そんな迷いを察してぱちくり瞬く。
なにごと?と隣に立つマキちゃんを見上げると、マキちゃんは僕の頭をぽふぽふ撫でながら騎士さんたちに声を掛けた。
「この子供は肉食獣人に対する本能的恐怖を持たない。分かったら黙っていないで返事をしろ馬鹿共」
ちょっぴり言いすぎな気もするマキちゃんのセリフに、騎士さんたちはナンダッテー!と言わんばかりに瞳を輝かせた。
キラリンと輝く表情を見て、今のセリフのどこに嬉しがるところがあったのかしら……と僕ってば少し困惑しちゃう。
へにゃりと眉尻を下げる僕のもとに、つい数秒前まで僕を避けに避けまくっていた騎士さんたちが一斉に駆け寄ってきた。
「こ、こんにちはヒナタくん!えっと、俺、虎獣人のセシルです!よろし──ぐえッ!」
「どけ次は俺だ!はじめましてヒナタくん!俺は豹獣人の──グフッ!」
「てめぇも邪魔だ退け!よろしくね天使ちゃん、俺は熊獣人の──グハッ!」
あわ、あわわ。よくわからないけれど、何だかみんな乱暴さんねぇ。
お仲間さん同士で殴り合いながら命懸けの自己紹介をする騎士さんたち、そんな彼らを困り顔であたふた見つめる。
みんなものすごい速さで散っていくけれど、なんとか一人一人にうんうんよろしくねと相槌を打った。残念なことに、名前はまったく覚えられなくてごめんなさいだけれど。
聞き慣れない発音の名前を高速で耳に入れられるものだから、僕ってばすぐに混乱してあわわと目を回す。
そんな僕に気付いてくれたらしいマキちゃんが、僕を救出するみたいに抱き上げて、騎士さんたちにメッと顔を顰めてお説教した。
「自重しろ馬鹿共。本能的恐怖を抱かないとはいえ貧弱な子供であることに変わりはない。みっともなく迫って子供を困らせるな」
騎士さんたちが耳も尻尾もへにゃらせて「す、すみません……」と肩を落とす。
その様子がまるで叱られた子供みたいだったから、僕は思わず一番近くに立っていた騎士さんの頭を撫でながら、だいじょぶよと慰めてあげた。
「僕、もふもふな騎士さんたち好きよ。いっぱいご挨拶してくれてありがとねぇ。僕ね、お名前、覚えるのちょっぴり苦手なの。でも、いっぱいなかよくしてほしいねぇ」
数秒前までのしなり具合はどこへやら。花が咲き誇るみたいに、騎士さんたちの耳と尻尾がぱあぁっ!と天を向く。
尻尾も忙しなくぶんぶん振りまくりでとってもかわいい。もふっと抱き着いてうりうりしちゃいたいくらいのぶんぶんっぷりだ。
「う、うん!うんうんっ!よろしくねヒナタくんっ!」
「名前なんか覚えなくて大丈夫だよ!俺のことはお兄ちゃんとでも呼んで!」
「にぃに呼びも捨てがたい……」
フレンドリーな返事にほっと息を吐く。騎士さんたち、本当にみんないい人だ。
やっぱりいい人のそばにはいい人が集まるのかしら?そう思いながらマキちゃんを見上げると、騎士さんたちに向けられていた冷たい視線がのそりと僕に移される。
その視線はすぐに緩んで、ちょっぴり温かみすら感じる瞳が僅かに弧を描いたような気がした。都合のいい錯覚だったら、悲しいけれど。
「怖くないか」
「うん。ぜんぜん、怖くないのよ?」
そうか、と唇の端を微かに上げたマキちゃんが、僕のほっぺをさすさすと撫でる。
僕も堪らずうりうりと頬擦りしたりとマキちゃんに甘えていると、ふいに騎士さんたちのうち一人が、何かを思い出したように声を上げた。
「あ!でもそういえば……その子って、神殿に引き渡すんじゃなかったでしたっけ?」
「あぁそうだ、確かに団長がそう言っていたな。神殿との関係が悪化するような事態は避けた方がいいって」
一人が声を上げると、他の騎士さんたちもそれに続くようにザワザワと話し始める。
神殿?引き渡す?なんのことかしら。ちょっぴり不穏な会話に眉尻を下げ、ぎゅっと縋り付くみたいにマキちゃんを見上げる。
僕の困り顔を見下ろし、ほっぺやら頭やらを冷静に撫でるマキちゃん。
そんなマキちゃんは、騎士さんたちのざわめきを「やかましい」の一言で鎮め、お馬鹿さんでも嘲るかのように彼らを見据えた。
「馬鹿か、誰がそんな戯言を口にした?ヒナタは騎士団が保護するに決まっているだろうが。神殿連中に引き渡せば、この子がどんな扱いを受けるか分かったものではない」
ぱちくり。真ん丸に見開いた目を瞬いたのは、僕だけではなかった。
なんのおはなし?とそもそも話に着いていけない僕とは裏腹に、みんなはどうやら違う意味の瞬きだったらしい。
騎士さんたちは仲間同士で顔を見合わせながら、遠慮がちに手を挙げた。
「あ、あのぅ……でも、団長は確かに『ヒト族の子供など扱い切れるか』とおっしゃって……」
「『騎士が子供の世話だと?馬鹿げたことを』ともおっしゃっていたような……」
おろおろと控えめに声を上げていく騎士さんたち。彼らが語ったセリフを聞いて、僕は思わずむぐむぐと涙ぐんだ。
瞳を潤ませながらマキちゃんを見上げ、今のどういうこと?僕を捨てるの?ひどいねぇ、と目だけで訴える。するとマキちゃんは、スンとした無表情を一切崩さず、僕の頭をよしよしと撫でながら答えた。
「この俺がそんな無責任なことを吐くわけがないだろう。誇り高き騎士団の団長として、身寄りのない子供を見捨てるような真似をするはずなかろうが」
「──え、いやでも団長は割といつも薄情だよな?」
「──マジで戦闘力だけで団長に選ばれた人だしなぁ……」
「──騎士団長のくせしてめっちゃ人嫌い子供嫌い拗らせてるしな」
キリッとかっこいいことを言うマキちゃんをぱちくり見つめながら、ヒソヒソと人望の欠片もない内緒話を始める騎士さんたち。
あれあれ、どっちの言い分が正しいのかしらねぇ……と困惑する僕をマキちゃんが更に強く抱き締める。微かな笑みを向けられ、ちょろい僕はそれだけでマキちゃん側にストンッと傾いた。
無表情をやめて微笑むマキちゃん。ほんの一瞬だったけれど、今の微笑はとってもすてきだった。
嬉しくて、嬉しすぎて、僕はつい数秒前までの騎士さんたちのヒソヒソ会話を忘れ、マキちゃんにむぎゅっと抱き着いた。
「マキちゃんやさしい。マキちゃん好き。僕、マキちゃんといっしょに暮らせるの?」
「勿論だ。お前は俺が責任を持って保護したのだから、当然保護者の俺と暮らすことになる」
その瞬間「聞いてませんけどォ!?」「団長だけズルい!」「職権乱用だ!」と突如ぶーぶー叫び始める騎士さんたち。僕は彼らの突然の奇行をぎょっと見つめた。
あれま、みんな急にどうしたのかしらねぇと困惑していると、マキちゃんは無表情のまま冷静に「黙れ」と一言吐き捨てる。
その瞬間、騎士さんたちが全員ピシッとお口チャックした。
「報告は以上だ。全員さっさと訓練に戻れ」
騎士さんたちは恨めしそうにマキちゃんを睨みながら、それぞれ持ち場に戻っていく。
マキちゃんの死角で「またねヒナタくん!」「いつでも遊びにおいで!」と笑顔を向けてくれる騎士さんたちに気付き、僕もふにゃっと頬を緩ませながら手を振った。
みんなを見届け、ほくほく笑顔でマキちゃんを見上げる。
「みんないい人。僕、騎士団だいすきよ」
「そうか」
「うん。そうなの」
「……それはよかった」
初めて聞く、分かりやすく柔らかい声音。
よかったと呟くマキちゃんの顔には、無表情ではなく緩んだ笑みが浮かんでいた。
今度は見間違いなんかじゃない。確かにこの目でマキちゃんの笑顔を見た。それがとっても嬉しくて、僕はふにゃあっと今までで一番力の抜けた笑顔を浮かべてしまった。
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