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フェリアル・エーデルス
379.仮面が剥がれる時(レナードside)
しおりを挟む彼が私の救世主。
あの子なら、私を救ってくれるはず。寂しい私を救って、一生傍にいてくれるはず。その為には絶対的な関係が必要だから……そうだ、それなら、恋愛なんてどうだろう。
互いの一番になれば、きっと彼は私だけを見てくれる。そうすれば、彼は私のものだ。一生私の救世主なのだ。
本気でそんなことを考えていた。今となっては、そんな馬鹿みたいなきっかけが本物に変わったことに違いないのだが。
それでも、きっかけは馬鹿だった。彼が選んだあの男とはまるで違う。あの男の包み込むような愛情と、私の焦燥感溢れる自分勝手な愛情はまるで違う。
私はただ、孤独が怖いだけだった。救世主なら私の孤独を晴らしてくれるだろうと、そんな己第一の思考を、きっとあの子は何となくでも察していたのだろう。
だから負けた。いや、負けたという表現がそもそも間違っているのかもしれない。少なくとも彼が選んだあの男なら、こんな幼稚な表現はしないはず。
ただ、そう……あの子の、フェリの求める愛情と、私がフェリに与えようとしていた愛情。それには大きな差があった。たったそれだけのこと。
与えられることに臆病になっていなければ、私にも少しは希望があったかもしれないのに。
与えて与えて、そうして相手を依存させて、逃げられないように。そればかり考える私の愛情は、フェリの求めるそれとは大きく異なっていた。
愛するということは、与えるだけじゃない。与えられることを恐れない。つまり、相手を信じる。私に足りなかったのはきっとそれだ。
フェリなら、なんて言う甘えが常にあった。フェリなら、一度選んだ相手を捨てることなんて絶対にしないだろう。だからフェリがいい、と。
己の幸福ばかりが先走った。そればかり望んで、フェリの幸福を後回しにしていた。
何が積極的だ。こんなの恥晒しにも程がある。まるで自分第一主義のあの男……父と同じじゃないか。
血は争えないということだろうか。いや、血のせいにするなんてそれこそ救えない。ただ、私が馬鹿だっただけ。全ては私の所為だというだけ。
それだけ、それだけ……。
それだけだと断言出来るほど、私はまだ強くないけれど。
* * *
「さぁ、そろそろアランの所へ戻ってください。話も済んだ事ですし、ある程度は手紙通りに動かなければ」
ぱん、と手を叩いて促す。フェリはまだ少し納得行かないような顔をしていたが、私がニコッと笑顔を浮かべるとほっとしたように息を吐いた。
ガタッと立ち上がるフェリの動きをじっと注視する。あ、一瞬転けた。可愛い。可愛いなぁ。
「レオ、レオ」
転けた事実を隠すように私を呼んでとたとたと駆け寄ってくるフェリ。若干赤く染った頬が、隠そうとしていることを全く隠し切れていないのがまた可愛らしい。
椅子に座る私の膝にちょこんと手を置いて、上目遣いで見上げてくる姿。あまりの愛らしさに鼻血を吹き出してしまいそうだがグッと堪える。
……可愛いと、そう思えるのは事実なのに。いや、きっと事実はそれだけだったのかもしれない。フェリのことが欲しいばかりに、必死に関係を探してしまっただけで。
私はフェリを愛らしいと思っている。守りたい、独占したい。その気持ちに繋がるのは恋愛感情だけだと、本当にその確証があるのだろうか。
感情。想い。愛情。
きっとそれは星の数程あって、まだ名前が付いていないものすらきっとあって。好きだから恋愛だとか、嫌いだから憎悪だとか、そう簡単に分かるものではない。
感情の名前が常に正解であるなんて、そんなのはきっと、御伽噺の中だけだ。
「レオ。レオの気持ちが一番大切。でもね、忘れないで」
瑠璃色の瞳は相変わらず美しく輝いている。この子の綺麗な瞳が陰ることの無いように、そんな国にしなければと不意に。
味方なんて居なかった初めの人生。フェリはきっと、この国に失望したはずだ。神のままごとに手も足も出ず、一直線に滅亡の道を歩んだこの国に。
それでもこの子は、きっと何度同じことを繰り返しても、同じ選択をし続けるのだろう。
魂が消滅するその時まで、全てを平等に愛し続けるのだろう。平穏を求めて、修羅の道へ踏み込むのだろう。
「レオ。僕はレオが大好きだよ。ずーっと、レオの味方だよ」
小さな手のひらが私の両手を包み込む。ふにっと柔らかいそれはとても温かい。
あまりに優しい温かさだったから、思わず視界が滲んだ。これはそう、ただ感動しただけで、それ以外は別に何も無い。
「……うん、うん。そう、でしたね」
フェリはずっと私の味方。私はただそれを信じればよかっただけだったのに、恐れてしまったから。だから選ばれなかったのだ。
ずっと味方だという確証が欲しくて、一番という立場を望んだ。明確な関係性があれば、この言葉が真実であると信じられるに違いない、なんて思って。
与えてばかりで、与えられることを恐れる。消極的がどうのこうのと、彼を貶している場合では無かったな。
「ありがとうございます、フェリ。私の味方でいてくれて、ありがとう……」
フェリが一瞬驚いたように瞬いて、かと思うと天使のようにふわりと笑った。
ありがとう、初めから、その一言だけで良かったのだ。信じられないからと要らないものを与えてばかりいないで、信じる強さを持つべきだった。
依存というのは、どちらか片方の一方的なエゴでしかない。相手を信じられないという想いの表れだ。
信じているなら、与えられることを拒むことなどしないはず。信じられないから依存する。依存させる。
無垢なように見えて酷く聡明なこの子には、きっと全て見抜かれていたのだろう。
「レオ。アランがね、とっても心配してたよ。あと、ライネスも、パパも。いつもレオのこと心配して、大切に想ってるよ」
涙が滲む。初めからこの言葉を信じていれば、もっと早く楽になれたかもしれないのに。
あの時のアランの言葉の意味がようやく分かった。本当に、私には味方が沢山いたのだ。私が見ないふりをして、信じていなかっただけで。
「レオ、わかった?きちんと、わかった?」
「えぇ、えぇ……わかりました。きちんと、分かりましたよ。だからもう大丈夫です。私は……大丈夫です」
もう大丈夫。前世の自分やこれまでの自分に無かった、信じる強さ。それを自覚した今なら、きっともう。
「フェリ。公子とのこと、本当に……おめでとうございます。フェリの幸せを、これからもずっと祈っています」
無意識に紡いだ言葉は本心。きっともう、信じる相手の前では、仮面のような笑顔は作れないだろう。
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