367 / 397
フェリアル・エーデルス
365.ライネスください
しおりを挟むチーズケーキもぐもぐ。たくさんお肉を食べさせられ……こほんこほん、たくさんお肉を食べたからデザートの分の胃が残っているかちょっぴり心配だったけれど、きちんと別腹だったみたいで安心。
けれど気になったことがちょっとばかし。チーズケーキをもぐもぐしているのは僕だけで、三人はデザート的なものを一切食べていない。なにゆえ。
パパはとっても苦そうなコーヒーを飲んでいるし、大公妃さまは美容に良さげなフルーツの飲み物を飲んでいる。ライネスに至ってはチーズケーキもぐもぐする僕のほっぺを上機嫌にツンツンするだけ。もはや飲んですらいない。
みんなは食べないの?と聞こうとしたけれど、それより先にパパが不意に声を上げた。
「そういや、フェリアルは今日帰っちまうのか。どうせうちの嫁になるんだしよ、このままここに置いても良いんじゃねぇの」
「駄目ですよ父上。ただでさえ父上は公爵に目の敵にされているんですから。きちんと今回の件を伝えて、正式にフェリとの婚姻を結ばないと」
はっ!と激震。そうだ、ライネスとおつ、おつきあいを始めたことをお父様達にも伝えなければいけないんだった。
どうしよう……うまく言えるかな。まずはお父様とお母様と、あとディラン兄様とガイゼル兄様に……うーむ、想像しただけでちょっぴり恥ずかしい。てれてれ。
……はっ!と再び激震。そうだ、相手の家族に今回の件を伝えなければいけないなら、それは僕も同じ。他人事みたいに聞いていたけれど、僕も当人の一人なのだ。
つまり!僕もライネスのご両親に今回の件を伝えて、ご挨拶なるものをしなければならない!なぬーっ!
「ぱっ……お義父さま!お義母さま!」
「お義父さま……?」
「お義母さま……?」
突然ガタッと立ち上がった僕にビクッと肩を揺らす三人。パパではなくお義父さま、大公妃さまではなくお義母さまと呼んだことにもびっくり仰天の様子。
カチコチな体を何とか動かし、パパと大公妃さまの前へ。真っ赤な顔を晒しながら、上擦った声で何とか元気いっぱい挨拶。初めの印象で全てが決まると言っても過言ではない、ごくり……。
「むっ、むすこしゃんをっ、ぼくにくだしゃいっ!」
おーけーおーけー。何だかいっぱい噛んじゃった気がするけれど、きちんと伝わる程度にはスラスラ言えたからおーけーおーけー。問題なっしんぐ。
ぷるぷる震えつつ、ずっと俯いたままでは事も進まないので恐る恐る視線を上げる。
視界に映ったのはぽかん顔のパパと、あらあらまぁまぁ!と言わんばかりに口元を手で覆う大公妃さま、そして真っ赤っかな顔のライネス。
静寂の広がる空間。何も答えがないことにびくびく。もしかして唐突すぎたのかな、前置きとかが大事なのかも……。
それなら、そうだ!ライネスの好きなところを何個か言えば、僕がライネス大好きってことを分かってもらえるはず!
天才的な考えに自画自賛しつつ、こほんっと咳払いを一つ。えぇっとえぇっと、と指で数えながらライネスの好きなところをプレゼンしていった。
「僕はライネスが大好きです。どこが大好きかと言うとね、えっとね。まず一つは、とっても優しいところです。ライネスは優しいお兄さんだから、周りの人をいつもよしよしします。パパに似て、とっても頼りがいがあって素敵な人です」
「……」
「あとね、笑ったお顔がとっても素敵なの。笑顔はね、綺麗な大公妃さまに似てるよ。ライネスがにこにこすると、僕もにこにこしちゃうんだよ。あと、大切な人の大切な人も、まるごと?大切にしてくれる人なの。あとね、あとね」
「っ……!分かった!分かったから!フェリもうやめて!」
「むぐっ」
るんるんとライネスの良いところを語っていた時、突然口をむぐっと塞がれぱちくり。いつの間に動いたのか、ライネスがすぐ傍まで来ていたみたいだ。
むぎゅーっと強く抱き締められて動けなくなる。口も塞がれているから声を発することも出来ない。あわあわと困惑しながらライネスの肩越しに顔を出す。するとパパと大公妃さまの顔が見えてきょとんと首を傾げた。なにごと、あの表情は……。
にんまり笑うパパとほくほく上機嫌な大公妃さま。ヒューヒューと今にも口笛を吹きそうな表情にぱちぱちと瞬いた。
「ど、どうしたの突然……こんな、こんな……」
真っ赤な顔で瞳をあわあわ揺らすライネス。やっぱり前置きなしに話し始めたのはだめだったかな、と反省しながらしっかり説明をしてあげる。
「ご挨拶だよ。僕とライネスは結婚するから、お互いの家族にくださいしないとダメでしょ?だから僕も、パパと大公妃さまにライネスくださいしたの」
「流石うちの嫁。ヘタレな愚息と違って行動力あるぜ」
「見習いなさいライネス。フェリちゃんの方がよっぽど男前よ」
「父上と母上は黙っていて下さい!!」
何やら楽しそうに口論する三人。いいないいな、僕もいつかこの輪の中に入れるくらい、大公家に溶け込めたらいいな。
「お前もちゃんとフェリアルくださいしてくるんだぞ」
「土下座でも何でもして確実に許しを得なさい」
「ちょっと、その顔やめてくださいよ。あぁもう……フェリも何か言ってやって……!」
「ふぇりあるください……ふぇりあるください……えへへ」
355
お気に入りに追加
13,546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。


ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。