余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
上 下
353 / 397
フェリアル・エーデルス

351.好き

しおりを挟む
 

「まだかな。まだかな」

「もう少しだよ。フェリ、眠気は大丈夫?こっくりしない?」

「大丈夫。しっかり起きてるよ。こっくりしないよ」

「普段ならもうとっくに眠っている時間だろうから、心配だな……フェリの可愛い瞳に隈が出来ちゃったら悲しいから、限界だったらきちんと言うんだよ?」


 時計塔の最上階。暗くて視界が見えづらい中、ライネスとしっかり手を繋いで大きな窓の正面に立つ。瞼をそっと撫でられながら掛けられた言葉にうむっと頷いた。
 さっきまでちょっぴりだけ眠くてこっくりこっくりしてしまったけれど、ここに来るまでの時間で眠気は完全に覚めた。だから問題なし、である。うむ。

 空を見上げてそわそわ。そろそろかなと背伸びをして待っていると、やがて広場の人混みががやがやと騒がしくなった。何人かが時計塔を見上げて楽しそうにしている辺り、どうやら時間になったようだ。
 窓枠に片手を置いてじーっと空を見上げる。同時に、綺麗な光の弾が地面から天へゆらゆらと軌道を描いて昇っていった。

 数秒の静寂。その直後、どんっと大きな音を立てて暗い空に鮮やかな花が咲いた。


「はわ……っ」


 視界いっぱいの大きなお花。ひとつめを皮切りにどんっどんっとたくさん咲く様子に思わず控えめにぴょんぴょん跳ねる。すごい、すごい。
 帝都のお祭りで見た花火よりも、何となく迫力が更に大きく見えるのは……きっと空に近い時計塔で眺めているからだろう。

 無意識に手を伸ばすけれど、それは当然窓でぺたんと遮られる。むぅ……と眉を下げる僕を横目で見ていたらしいライネスがふと動き出し、僕の手を引いてどこかへすたすた歩き出した。
 ぱちくり瞬く僕を連れて歩いたのは、さっきいたところからほど近い大きな扉。そこをキーッと開いて、躊躇なく外へ出る。どうやら時計塔には軽いバルコニーもあるようだ。

 僕より少し手前にいたライネスが振り返る。浮かんでいるのは、とっても優しいいつもの微笑み。いつもの……のはずなのに、何だか少し、いつもと違って見えるのはどうしてなのか。


「フェリ、ほら。ここならもっと綺麗に、大きく見えるよ」


 花火を背に微笑むライネスから視線が逸らせない。
 僕とちょっぴりお揃いで緩く編み込まれた長い黒髪、それが背景の夜空に溶け込んで見える。金色の瞳は花火を軽く映し出して、ほんのり七色に輝いているように思えた。
 柔らかい笑顔もいつものとは少し違う。同じはずなのに、何だか違う。

 何より一番違うのは、自分の心臓がドクドク高鳴っていること。花火が咲く音すら掻き消してしまいそうなくらい、それほどドキドキが大きいこと。
 どうして、どうして……なんて。

 本当は、理由なんてわかっているくせに。


「……ら、らいねす」


 紡ぐ声は酷く震えていて、小さい。当然花火の音に掻き消されてしまい、ライネスは斜め手前で空を見上げたままだ。
 その様子にほんのちょっぴり肩を落としつつ、まだ心の準備が出来ていないからよかったなんて息を吐く。抱く気持ちが完全に矛盾していることに微かに苦笑した。

 このドキドキを解消したい。痛いくらいに高鳴る心臓をどうにかしたい。きっとたった一言ライネスに痛みの原因となる気持ちを押し付ければ、このドキドキも少しはマシになる。
 あぁけれど、そこまでが本当に遠い。ライネスは手が届くくらい、こんなに近くにいるはずなのに。


「ライネス……」


 ほんのちょっぴり勇気を出す。声は震えてきっとうまく紡げないから、とにかく足を動かすことに。
 ささっと駆け寄り、背後からライネスにぴとっと抱き着く。背中にうりうり顔を埋めてむぎゅーっと抱き着くと、ライネスが驚いたように息を呑む気配を感じた。


「フェリ……?どうしたの、眠くなっちゃった?」


 ライネスが体の向きを変えてぎゅうっと抱き締め返してくれる。花火そっちのけでぎゅうぎゅうしてくれるライネスに心ぽかぽか。更にむぎゅーっと力を籠めてドキドキをちょっぴり抑えた。


「うぅん……違うの。あのね、あのね」

「うん?なぁに?」


 優しい声、表情。どきどき、どきどきって胸が高鳴る。花火の音で誤魔化すのももう限界だ。
 どーんと一際大きな花火が上がって、広場から興奮したような歓声が聞こえてくる。それがちょうどやんできた頃、正面にしゃがみ込んでくれたライネスの耳元にそっと唇を寄せた。


「あのね、僕ね……いま、とってもドキドキしてるの」


 ぴたっと硬直するライネスの体。顔を上げて表情を確認するのがどうしても怖くて、俯いたままライネスの大きな手をぎゅっと持ち上げる。
 胸の辺りにそっと手を押し当ててドキドキを伝える。きゅっと目を瞑ったまま、勢いに任せてわっと語った。


「ライネスと一緒にいるとね、どきどきするの……!」


 どうしてかな……なんてわざとらしい言葉を続けて頬を染める。
 祭りで浮かれているせいなのか、花火を見て夢見心地な気分になっているせいなのか。ずっと怖くて口に出来なかったことを衝動的に言ってしまったことに後からずーんと後悔する。
 我に返ってすぐ、赤い頬がさーっと蒼白した。こわい、ライネスの顔を見るのがこわい。


「あっ、あ、あの……っ」


 どうしよう。ここから誤魔化すなんてことはできない。あわあわと目をぐるぐるさせて震えていると、突然むぎゅーっと強く抱き締められた。


「へっ……?ら、らいねす」

「フェリ」


 不意に言葉が遮られた。ぱちくり瞬く僕の耳元に唇を寄せたライネスが、ひとつ熱い吐息を吐く。
 それにぷるぷると更に震える僕を抱き締めたまま、ライネスは小さく囁くみたいに呟いた。




「フェリ。好きだよ」



しおりを挟む
感想 1,700

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。