余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-終幕】

291.皇太子の初恋

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 レオと手を繋いで庭を歩く。シモンとギデオンには待機をお願いしたけれど、あの二人のことだからきっと息を潜めて追ってくるだろう。喧嘩しないといいけれど。
 ちらりと見上げた先には月白色の髪に隠れた横顔があり、どんな表情を浮かべているのかは分からない。ぎゅっと手を握り直すと、一瞬だけレオの翠の視線がちらっと向けられた。


「レオ。元気だった?僕がいない間」


 小さく尋ねてみると、レオはぴくりと目を見開いてすぐに柔く微笑んだ。
 庭園の最奥。植物に囲まれた場所で、不意に立ち止まったレオにつられるように足を止める。髪の隙間からレオの少し上がった口角が見えてはっとすると同時に、レオは微かに笑んだ唇をそっと開いた。


「……いいえ、ずっと生きた心地がしませんでしたよ。何せ、愛する人が消えたまま二年も行方不明になってしまったのですから」


 ぐっと息を呑む。そんな場合じゃないと分かっていても、愛する人という言葉で頬が勝手に赤く染まった。

 兄様達や他の皆に言われる時と違って、レオの言葉には常にその他との温度差がある。
 何故ならレオの言葉にはいつだって熱が籠っているから。熱が籠っているということを、僕は既に知っているから。鈍感に聞き流せないからこそ、どんな顔をしていいか分からなくなる。
 そして何より、発言に滲む本気の色を明確に察することが出来る。反応に困るのは、至極当然のことだろう。

 だってレオは、僕のことがそういう意味で好きだから。


「フェリは小さいからまだ分からないかもしれませんけれど。愛する人が突然消えて長い間帰ってこないって、待つ側からすると地獄でしかないのですよ」

「……っ」

「ですが私は皇太子なので。どうしても、フェリから目を逸らして別件に力を注がなければならない時も当然ある。そういう時、私は己を酷く嫌悪します。優先順位の徹底が、生まれつき脳に染みついてしまっているのです」


 意図的に僕への心配から目を逸らす瞬間。レオはそれが大嫌いなのだと微かに口角を上げて語る。
 その笑みには確かに自己嫌悪のような感情が這うように滲んでいた。


「私としての優先順位と、皇太子としての優先順位は別物。私はそれを仕方ないと言い聞かせて無理やり納得しましたが、やはり違う。周囲を見渡せば分かるのです」

「……」

「ディランもガイゼルも、シモンも公子も、勿論それ以外も。皆フェリのことだけ。私だけが冷静な状況を見て、思い知りました。私はそもそも土俵にすら立てていない。それでも……」


 繋いだ手をぱっと離される。しょんぼり眉を下げて離れていく手を追うと、伸ばした手を不意にぎゅっと掴まれてぐいっと抱き寄せられた。
 むぎゅっと抱き締められて数秒。自分を好いている人に抱き締められているという状況にかぁっと頬が染まって、きゅっと唇を引き結んで緊張に耐えた。

 無言のまま静止していたレオがやがて動き出し、少し体を離して至近距離で顔と顔を見合わせる。
 ちょっぴりでも前に乗り出せば唇同士がくっ付いてしまいそうなくらい近い距離で、レオは感情の読めない表情を浮かべて呟いた。


「フェリ。私は君が好きです。君を愛しています。友情だけではなく、恋愛感情で」


 前世のような濁りはない。常に余裕を湛える瞳は、珍しく緊張を滲ませて揺れていた。
 真っ直ぐな言葉。真っ直ぐな表情。真っ赤な顔で硬直する僕を見下ろし、レオは何かに耐えるようにぐっと眉を寄せて言った。


「今のフェリの答えを聞かせてくれますか」

「っ、あ……」

「気遣うことはありません。ただ、フェリの気持ちをそのまま伝えてくださればそれで」


 気持ちをそのまま。思ったことを、そのまま。
 どうしても遠慮が消えてくれない頭をぶんぶんっと振る。気遣うより、真っ直ぐそのままを伝えた方が誠実だ。誤魔化すのは寧ろ不誠実に違いない。

 レオとずっと仲良しでいたい。今の心地良い関係をずっと続けたい。奥底から浮かんでくるそれらは全て僕の我儘で、レオの望みじゃない。
 真剣な表情のレオを見上げて、やがて覚悟を決めて頷いた。


「ぼ、僕は……」


 意味もなく両手の指先を絡めたり離したりとそわそわ緊張から目を背ける。
 翠色の瞳を一瞬ちらりと見てすぐに逸らし、視線を合わせられないままくわっと答えた。


「僕は、レオのこと大好き。でも、それはお友達として、だから……結婚したい方の、好きじゃない」

「……うん」

「ほ、ほんとうにレオが好き。でも、でも……」

「うん、ありがとうフェリ」


 どうしよう、どうしよう。レオを傷付けてしまったら……。
 おろおろと焦燥を顕にした動きをぎゅっと封じられる。きっと悲しいのはレオのはずなのに、どうしてか僕の方がぐっと顔が歪んで視界も滲み始めてしまった。
 うるうると潤む瞳を俯いて隠す。嗚咽が漏れないように唇を引き結んでいると、いつの間に気が付いたのかレオが困ったように微笑んで顔を覗き込んだ。

 引き結んだ唇にそっと指を当てられる。頬をむにむにと摘ままれると、一粒滲んでいた雫が瞳からぽろりと落っこちてしまった。
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