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【聖者の薔薇園-開幕】
276.みんなのもとへ
しおりを挟む「魂の修復には、僕の神力の殆どを注がなければならない訳だけど…」
「健闘を祈る」
「無事を祈ります」
「がんばれー」
話し合いの後、ゼウス様の力で何やら神殿のような場所に転移した僕達。
リベラ様とゼウス様と僕の三人…のはずだったけれど、何故か雅様とねむくんが増えている。
困惑しているのは僕だけみたいで、三人は至って平然とした様子でゼウス様に激励を送っていた。激励と言うにはかなり適当だけれど。
三人の全然心配してなさそうな応援にぐぬぬと表情を歪めるゼウス様。なんだか僕の方が申し訳なくなってきた。ごめんなさい、いっぱい力使わせちゃって。
人が二十人くらいは余裕で収まりそうなくらい大きな魔法陣の上。その中心に立って、これから何が起こるのかなそわそわと体を揺らす。
説明を聞いたけれど、どうやらこの陣を発動させるとゼウス様の神力が僕の魂の修復を開始し、修復を終えた体がそのまま下界まで落っこちる仕組みらしい。
それだと地面に叩き付けられてしまうんじゃ…?と思ったけれど、ゼウス様は「大丈夫大丈夫」と言ってへらへら笑っていた。不安だけれど、リベラ様も特に反論していなかったから信じてみることにしよう。
「ふす…むぅ…くぅー…」
「緊張せずとも大丈夫だぞフェリアル。お前の無事は私が保証する」
「あ、今の緊張してる声だったんだ…」
緊張してそわそわふすふすしてしまう。かちこちの僕をなでなでしたリベラ様の言葉に、ゼウス様が小声で何やら呟いた。
むぅ…と緊張する体を解してふんすと覚悟を決める。
このそわそわを乗り越えたらまた皆に会えるのだ。満タンまで回復した魂で下界に戻って、みんなに会ってごめんなさいをしないと。みんなの心配や苦痛よりも、自分の気持ちと我儘を取ってしまったことをしっかり謝らないといけない。
きっとたくさん聞くことになるお説教の覚悟を今からしっかり決めておこう。
「フェリアルーまたきてねー」
「おいお前、それはまさか私の愛し子に死ねと言っているのか?」
「そういう意味じゃないもんー」
む?と振り返ると、そこには何故かねむくんの頭をわしっと掴んでぐわんぐわんするリベラ様の姿が。「あわわー」と揺れるねむくんを見てきょとんと首を傾げた。どうして喧嘩しているのだろう。
「これお前達、そんなことをしておる場合か。神界と下界のズレを忘れたのか?」
喧嘩する二人をぴしっと止めた雅様。言葉の意味がよく分からなかったけれど、どうやら二人には伝わったようだ。
ハッ…!とした様子の二人がお互いからぱっと離れスンと姿勢を戻す。下界と神界のズレとやらはかなり大変なものらしい。
「よーし…僕はやるぞ…超絶最強全知全能…やればできる子ゼウスちゃんだもの…」
静寂の広がる空間にゼウス様の呟きがぶつぶつ響く。
しーんとするみんなに気が付いたのかハッと我に返ったゼウス様が、何事もなかったかのようにコホンと咳ばらいを一つ零してキリッとした表情を浮かべた。
「コホンッ……それじゃあ始めようか」
ゼウス様を纏う空気が一瞬で張り詰めたものに切り替わる。
ゆらゆらしていた体をぴたっと止めると、ゼウス様は両手を翳して何やら小さく唱え始めた。
小声な上に全く発音が聞き取れない。人間には聞き取れない、神様の言語みたいだ。
ゼウス様の声に反応するように陣が光り出し、ふわっと光の玉のようなものが浮かび上がる。それに包まれ始めた瞬間、陣の外側にいたはずのリベラ様の声がなぜか耳元で響いて聞こえた。
「マーテルの処分が決まった後、再び会おう」
目を見開いて、すぐにふにゃりと頬を緩めた。
よかった。ここにいる大事な人ともまた会えるんだ。リベラ様とお別れするわけじゃない。
マーテルのことも…正直これで終わるには未練があったから、その後を知る約束が出来て良かった。本当は今のうちにマーテルの今後を知りたかったけれど、何やらみんな僕の帰りを急いでいたから。
『時間がない』と言っていたけれど…そういえばあれはどういう意味だったのだろう?
「……!」
ふと浮かんだ疑問に気が逸れた瞬間、体が足元からふわっと崩れ落ちるような感覚に襲われた。
瞬いた後、視界に映ったのは神界ではなく澄んだ青空。眩しい太陽の光。
風を切るように落っこちていく感覚に驚いて振り返り、ぎょっと目を見開いた。
遠くに真上から見える大きなお城と、たくさんの屋根。ゼウス様が言っていた通りだ、と蒼白する。
僕は今、高い空の上から落っこちているんだ。
あばばばーっ!とぶるぶるする口を「むーっ!」と閉じる。無理やり風を切っているから、顔が酷いことになっているかもしれない。スカイダイビングをする人はこういう感覚をいつも味わっているのか…。
命綱的なものは何も無いけれど大丈夫。ゼウス様もリベラ様も大丈夫って言っていたもんね、ふふんっと抱いていた余裕は数秒後に地に堕ちた。
ハッ…!と本当の顔面蒼白をしてしまった理由は、自分の体を見下ろしてしまったから。
「な、なっ…!」
真ん丸に見開いた目が、視界に映る光景を信じたくないあまりにぐるぐる回る。
広大な空に絶望の声が響き渡った。
「すっぽんぽーん!!」
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