237 / 399
【聖者の薔薇園-開幕】
254.結末まであと、
しおりを挟む遠くから微かに聞こえた聞き慣れた大人達の声。
パパにお父様。心なしか仲が悪そうに聞こえたけれど、気のせいだろうか。会話というより口論に近かったような…。
しょんと眉を下げて困惑。状況の把握が追い付かず助けを求めるようにライネスに視線を向けると、そこには呆れたような苦笑があった。
「全くあの二人は…」
「ライネス。どういうこと…?どうしてパパとお父様が?」
神殿内に一斉に入っていく騎士達の姿が窓から見えて呆然とする。騎士団と神殿は暗黙的に不可侵のようなものがあったはず。民達の信仰を集める神殿には事実上手を出せなかったはずなのに、どうして。
隠し切れない困惑を顕にしながら問い掛ける。ライネスは得意気に笑って答えた。
「神殿への不可侵が暗黙の了解になっていたのは、民の信仰心を独占されていたからだ。つまり、民の信仰心を不信感に変えてしまえば、神殿はただのハリボテになってしまうんだよ」
何処か腹黒い色のある笑顔。つまり…どういうことだってばよ…?
きょとんぱちくりと困惑が抜けない僕に、ライネスは苦笑しながらも教えてくれた。
どうやら神殿の強力な立場と権力は意外に脆いもののようで、主にライネスとパパはその脆い部分を確実に突く策を実行したようだ。
神殿に害を及ぼせないのは、帝国民の殆どが神殿を擁護するから。
当然だ。生まれつき信仰している絶対的な女神が愛する、光属性の神官達が多く属している神殿。そんな場所が害されれば、民は怒りを顕にして神殿の敵を糾弾するだろう。前世の僕が実際にそうなったように。
神殿は帝国において、裏の支配者と呼ばれるほど絶対的な地位を確立している。けれど言ってしまえば、向けられる数多の信仰心を全て無にしてしまえば、神殿の影響力など実質ゼロも同然となるのだ。
「信仰を不信感に変えるという行為は、実はそう難しくない。神聖且つ潔白、そんな神殿のイメージを覆してしまえば権威を失墜させるなんて簡単だ」
「いめーじ?」
「そう。神殿は罪とは無縁だというイメージ。一言で言ってしまえば、神殿の汚い罪を白日の下に晒してしまえばいいだけ」
神殿の罪。ライネスが言うには、神殿は以前から水面下で多くの犯罪に手を染めていたらしい。ただ、それを裏付ける証拠がなかった。だから今まで神殿に手を出せないでいたようだ。
転機は例の拉致事件だと言う。神官の変態お兄さんに連れ去られて貞操の危機に陥った例のあれだ。
あの事件の後、何やら逆鱗を刺激されたらしい騎士団と大公家が本気で動いてくれたみたい。うーむありがたやー。
その際に事件が神殿と繋がっていることが判明し、騎士団は秘密裏に疑いのある他の事件の捜査もやり直すことに。そうして芋づる式に神殿の罪が発覚し、その切り札を今回使ってくれたようだ。
「父上が率いているから、言い逃れなんて絶対にさせないはず。あの薄気味悪い大神官ももう終わりだ」
その時、ライネスの黒い笑顔とパパの魔王みたいな不敵な笑みが完全に重なって見えた。
優しいお兄さんなライネスと俺様なパパは正反対だと思っていたけれど、やっぱり親子だ。こうしてみるととっても似ている。
「大事なものに手を出された借りはしっかり返さないとね」
頭をなでなでされて首を傾げる。
優しい手の温もりを感じながらきょとんと瞬いた。
「ライネス。大事なもの、傷付けられたの…?」
「そう。一番…と言うより、唯一大切なものを傷付けられちゃったんだ。私だけじゃない、沢山の人にとっての一番大切なものをね」
だからこうして今、大勢の人達がここに集っているんだよ。そう語るライネスの瞳はとっても穏やかで、その視線に射抜かれると何だか擽ったい気持ちになった。
何となく身を捩って、擽ったい感覚をそっと払う。たくさんの人が大切にするもの、それって一体何なんだろう。大勢が大切だと言うくらいだから、きっととても素敵なものなのだろうけれど。
いつも笑顔で人に優しいけれど、基本的には何事にも興味を示さないライネス。そんなライネスに一番…いや、唯一大切だと思えるものがあったなんて。
想像するとほんのちょっぴり寂しくなって、けれそ直ぐにその感情を掻き消した。新しい目標が増えて良かったと喜ばないと。
僕の最終的な目的はマーテルを倒し、数千年続いたこの物語を終わらせること。そして、大切な人達のハッピーエンドを守ること。
ライネスを守って、ライネスの大切なものも守る。そうすればライネスも幸せな結末を迎えられるはずだ。
「さぁフェリ、皆が待ってるよ。一緒に帰ろう」
差し伸べられた手をじっと見つめる。
本心では優しい手に縋ってしまいたかったけれど、それは駄目だと警鐘が鳴ってぐっと堪えた。
ここで縋っちゃいけない。僕には僕の役割がある。
もう自己犠牲だなんて思わない。これは物語を終わらせてハッピーエンドを迎えたいという僕の我儘。みんなの意思も好意も全て無碍にするような決断。
僕の身勝手な答えでしかないけれど。
「……うぅん。まだ、帰れない」
まだなんて、その場しのぎの言葉を付け加えてしまった自分に苦笑する。
案の定ライネスは訝し気に動きを止めて僕を見下ろした。心配の色が滲む瞳に胸が痛くなった瞬間、本当に鋭い痛みが心臓に走った。
「ッ…ぁ…」
「フェリ!?」
ビリッと、まるで電流が轟いたような痛み。思わず手を当てて確認してみるけれど、鼓動には特に異変が無い。心臓というよりも、これは…魂の痛みだ。
蹲った僕に目線を合わせるようにライネスも膝をつく。慌てた様子で背中を撫でる大きな手がぽかぽか暖かくて、途端に緩んでしまいそうな涙腺を必死に堪えた。
零れそうな涙は痛いからじゃない。原因は痛みじゃなくて、咄嗟に理解した事実に対してだ。
「ライネス…僕は帰れない…先に行って…」
「フェリ…?どうしてそんなこと言うの?痛いなら一緒に帰ろう。一緒に帰って、お医者様に診て貰おう?」
ただ力無く首を横に振る。応えたくても、その頼みには応えられないのだ。
心臓を…魂が溶け込んでいる辺りにぐっと拳を当てる。痛みはさっきの一瞬で収まったけれど、今度はまた別の症状が現れた。
開いた両手を見下ろす。その視線を追ったライネスが目を見開いて息を呑んだ。
「フェリ…手が…っ」
見えるのは肌の色じゃなく、その先にある真っ白な地面。完全にでは無いけれど、半透明になって白が透けて見えている。
僕の魂は本来とっくに寿命を迎えている。今生きているのはマーテルが呪いによって僕の魂を縛っているからに過ぎない。けれど今、透明な魂の影響がついに体に現れ始めたらしい。
透けた手を見て全てを理解する。マーテルが僕を追わず、待つという柄じゃない選択をした意味をようやく理解した。
マーテルはただ待とうとしたんじゃない。僕が自分の元に来るという確信を持ってそれを選択したんだ。透明な魂の影響が現れ始めたのがその証拠。
彼も僕と同じ。魂の寿命がもうすぐそこまで迫っているのだ。
426
あなたにおすすめの小説
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。