余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

閑話.わくわくかくれんぼ(5)

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 そろーり。そろりそろり。
 カーテンをそーっと摘まんで裏側を覗き込もうとした瞬間。突然わっと伸びてきた手が僕を捕らえて、ぴゃーっとカーテン裏に引き摺り込んだ。


「はわわっ!」


 カーテンのお化けだ!お化けに捕まってしまったんだ!
 頭の中はあわあわ真っ白。ぐるぐる目を回しながらぱたぱた抵抗すると、体を拘束する力が更に強くなってしまった。何かにひょいっと抱っこされ、むぎゅーっと抱き締められる感覚に少しだけ震えが収まる。
 お化けが相手と言えど、むぎゅーで暖かい感覚を抱くと安心してしまうらしい。腕の中にすっぽり収まってぱちくり。そーっと顔を上げて目を見開いた。

 視線の先。真っ黒い長髪がはらりと頬に降ってきて、擽ったさに思わず身を縮める。
 金色の瞳が優しく甘く細められて、嬉しそうにすりすりと頬擦りされた。


「ふふっ、見つかっちゃった」


 嬉々とした声。にまーっと頬を緩めたライネスが、むぎゅーっと抱き締めた僕の頭をうりうりし始めた。


「んー…かわいい…会いたかったよフェリ…」


 衝動を堪え切れないとでも言うようにうりうりすんすんするライネス。はわわーっと悶絶する様子に首を傾げる。

 ずっとひとりぼっちで暗い部屋にいたから、寂しかったのかな。怖くてがくぶるしながら僕が来るのを待っていたのかも。
 そう考えるとしょん…と眉が下がって、早く見つけられなくてごめんねとむぎゅーを返した。自分の立場で考えても、暗い部屋に長時間ひとりぼっちは確かに怖い。
 首筋をすんすんするライネスの頭に手を伸ばし、怖かったねよしよしとなでなで。頭を抱えるようにぎゅーっと抱き締めながら、見つけたよーの宣言をした。


「ライネス、見つけた。つかまえた!」


 捕まっちゃったなー残念だなーとにこにこするライネス。シモン同様、とても残念そうには見えない様子にほくほくした。ひとりぼっち、そんなに寂しかったのねふむふむ。
 この後は寂しくさせないように、ライネスも一緒に行こうと誘うことに。ぱたぱた抵抗して床に下ろしてもらい、そのままライネスの手をわしっと掴んで引っ張った。


「ライネスも行こう。一緒に来て」

「うん?私も一緒に行っていいの?」


 うむと頷く。もちろんいいよーとこくこくすると、嬉しそうな笑顔が返ってきてえへへと頬が緩んだ。
 ひとりぼっちが寂しくてしょぼぼんするライネスより、にこにこライネスの方が僕も嬉しくて好きだ。

 これで付き添いは三人になった。ガイゼル兄様にシモンにライネス。みんなで楽しくディラン兄様を探すのだ、とわくわくしながら部屋の外へ出る。
 背後でこそこそ、三人が何やら内緒話をしていることには気付かずに。


「……ディランの奴はどこに隠れてんだ?」

「確か初めはフェリの後を追って…タイミングを見計らって目の前に隠れるって言っていたよ」

「えー…それ、隠れるって言います?」

「てめぇは人のこと言えねぇだろうが」




 * * *




 とことこ歩いて体感長い時間が経った。
 そろそろ疲労も溜まってきて、ディラン兄様が見つからない虚しさも襲ってくるものだからしょぼぼんとしてしまう。
 眉を下げて肩を落として。しょんしょんと力無く歩いていると、ふと少し先から物音が聞こえてはっと顔を上げた。

 視線の先には応接室の扉。その扉がなぜか突然キーッと開いて、僅かな隙間を作って動きを止めた。
 明らかな怪奇現象。やっぱり公爵邸の中にはお化けがいるんだ、と蒼白しつつ立ち止まり硬直する。ぴしゃっと固まった僕を見た三人がスタスタ近寄ってきて、何やら元気に語り出した。


「あれれー?扉の開き方、なんだか焦ってる感じでしたね。ま、まさか!これってもしかして、誰かがフェリアル様を見て急いで部屋に駆け込んだ、って感じでは!?」

「チビを見て何焦ってたんだろうなぁ。焦るような奴が駆け込んだ、ってことだよな。何でだろうなー」

「うーん、この状況でフェリに見つかりたくない人…誰だろう、不思議だね、気になるねぇ」


 大袈裟に語るシモン、棒読みガイゼル兄様、わざとらしいライネス。
 どうしてこんなに白々しさを感じるのだろう、ときょとんしながらもふむふむと考える。名探偵フェリアル、発動でござる。

 うーむ、誰かが僕を見て突然部屋に駆け込んだ…それはつまり、僕に姿を見られたくないということ…それはどうして?
 うむうむ…はっ!ぴこーん!賢いお兄さんの僕、とっても賢いので分かってしまった。この謎を解いてしまった。
 答えはずばり…!



「謎はすべてとけた!」



 うぃーん…がちゃん!脳内で大きな扉が閉まる音。
 答えはしーえむの後である。

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