余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

閑話.わくわくかくれんぼ(2)

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「ガイゼル兄様!」


 ぎょっと目を見開いて柵へ近付く。
 ちょこんと柵の向こう側を見下ろしてみると、そこには冷静な表情ですんとバルコニーから垂れ下がるガイゼル兄様がいた。

 慌てて手をぎゅっと握り引き上げようとしたものの、ガイゼル兄様は僕の力を一切利用することなくひょいっと上がって策を乗り越えてきた。
 懸垂の要領だ。息切れもしていないし特に冷や汗もかいていない。落ちそうになっていた訳でも無く、どうやら本当にすんと垂れ下がっていただけらしい。


「わりぃなチビ。ちょっと位置変えようと思っただけだったんだが、お前の足掴んじまった」

「だ、だいじょぶ。ガイゼル兄様は大丈夫…?」

「ん?あぁ全然平気だぜ。いい運動になった。ここの柵は筋トレに最適だな」


 満足気に柵をぽんぽん撫でるガイゼル兄様。
 こんな危ないところを筋トレに利用するなんて…と心配すると同時にハッとする。そうだ、あまりに衝撃的なことが起こったものだから忘れていた。
 今はかくれんぼの途中。ガイゼル兄様は隠れる側で、僕は見つけて捕まえる側なのだ。

 こうしちゃいられない。慌ててガイゼル兄様にぴとっと抱きつきお腹に顔を埋める。
 むぎゅーっとしながら顔を上げ、キラリンと瞳を輝かせて宣言した。


「ガイゼル兄様、つかまえた!」


 ぴしっと硬直するガイゼル兄様。
 わくわくと反応を窺う僕を見下ろすと、ふとガイゼル兄様がニヤリと笑って僕をひょひょいっと抱き上げた。
 ぎゅーっと抱っこされ、ふわふわの髪にスンスンと顔を埋められ。ぱちくりする僕にガイゼル兄様が笑みを混じって呟く。


「あーあ。捕まっちまったなぁ」


 残念だ、と語るガイゼル兄様にえっへんする。
 僕ってば天才。賢いお兄さん。こんな短時間で一人目を既に見つけてしまうなんて。流石お兄さんの僕である。どどどやぁ。


「カーテンがひらひらしてたの。それでびびっときた!」

「へぇ?すげぇなチビ!めーたんてーだ」

「うむ!名探偵!」


 ひらひらっと体全体で表現。ガイゼル兄様はおかしそうにクスクス笑って、えっへんどどどやぁする僕をむぎゅーっと強く抱き締めた。何やら悶絶するような動きだ。

 えへへとぎゅーを返して足をパタパタ。次の人を探しに行くのだとふんすすると、ガイゼル兄様は一度きょとんとして頷いた。
 バルコニーからスタスタ出て行く僕の後を追ってくるガイゼル兄様。雛鳥のようにちょこちょことついてくるガイゼル兄様にぱちくりする。
 瞬く僕を見下ろして、ガイゼル兄様がふと語った。


「俺は捕まっちまってやることねぇからな。チビに着いてくぜ」


 ぐっと親指を立てるガイゼル兄様にぱぁっと表情を輝かせる。
 名探偵の助手だ。ガイゼル兄様は僕の助手さんで相棒なんだ。ふわふわ興奮して、わくわくと軽くスキップしながら部屋を出た。

 背後から、ガイゼル兄様が顔を手のひらで覆って何やら呟いていることなど知らずに。


「んだそれ…可愛すぎんだろ…」





 場所は変わって、今度は厨房にやってきた。
 僕の部屋から出発して、ある程度順番に部屋を見て来たけれど誰も居なかった。いなかったと思う。
 順番通りに歩いた末がここ、厨房だ。今は仕事がないからか、中には誰も居ない。静かな厨房の中に忍び足で侵入し、ふとぴたっと立ち止まる。


「むむっ!」


 びびっとセンサー反応!
 きょろきょろしつつセンサーが反応する場所までとてとて。ぴょんぴょん跳ねて台の上を見ると、そこには美味しそうなマカロンが置いてあった。
 色とりどりのマカロン。センサー…美味しい匂いふすふすセンサーに反応したのは君であったか、美味しそうでござるなー。


「むぅ…まかろん…」

「何だ、食いてぇのかチビ」


 眉を寄せてマカロンに手を伸ばす。けれど決して手を届かせることはしない。掴んだ瞬間口の中にホームランさせてしまいそうだから。

 良い子の僕はきちんと我慢したというのに、あろうことか不意に横から腕を伸ばしたガイゼル兄様がマカロンを一つひょいっと掴んだ。
 兄様だけずるい…としょぼぼんした直後、ぷくっと膨らませた頬をつんっと萎められてびっくり顔を浮かべる。ぱっと開いた口にマカロンを放られた。


「むぐっ!?…もぐもぐ…」


 びっくりしたのはほんの一瞬。
 すぐにもぐもぐと口を動かして味を堪能。ごっくんしてぷはーとお腹を擦った。


「おうチビ、うめーか?」

「うむ…うまし…」


 満足満足…とお昼寝の為に部屋へ戻ろうとしてハッとする。
 こんなことをしている場合じゃない。隠れている他のみんなも見つけなければ!

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