余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-開幕】

238.変転

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 聖者が口を開く。何を紡ぐのか気になって口を閉ざした瞬間、不意に何処からか何を殴るような音が聞こえてきてハッとした。
 振り向いた先にあるのは背の高い本棚。ぐらっと揺れて数冊床に零れ落ちたかと思うと、次の瞬間大きな音を立てて本棚が勢いよく蹴飛ばされた。


「……?」


 倒れたんじゃない。裏から誰かが、本棚を思い切り蹴飛ばしたのだ。強い勢いで吹き飛んで倒れた本棚から大量の本が落ちたり散ったり。
 足元に届くくらいまで飛んできた本も数冊。埃が舞うのを呆然と見つめていると、やがて本棚の裏からざわめきが聞こえてきた。

「秘密通路の意味ねぇじゃねーか!」やら「……喧しい」やら聞き慣れた声が数人分。
 ハッとして立ち上がると同時に、数人のうち一人が勢いよく剣を振る。埃が散って視界が晴れたところから、見覚えのある黒いフェイスベールが覗いた。


「ふむ。この部屋から変態の気配を察知しました」

「お前じゃい!」

「……鏡見ろ変態」


 淡々と低い声を発する黒いフェイスベールの大柄な騎士。それにツッコむ見覚えがありすぎる暗殺者二人。

 ぽかんと硬直する僕の存在にようやく気が付いたのか、こちらに視線を向けた三人が不意にぴたりと固まった。ざわめきもすとんと収まり、妙な沈黙が室内に流れ始める。
 ぱちりと視線を合わせて数秒。初めに「あー!!」と声を上げたのは、片目を眼帯で隠した彼だった。


「フェリちゃんいんじゃん!?ラッキー!てか超おひさだよね!元気してた?」

「トラード。そういうのは後にしろ、時間が無い」


 無表情の相棒に「ちぇっ」と不貞腐れるトラードを見てぱちくり瞬く。どうして二人がここに…というより、ギデオンと一緒に…?謎の組み合わせだ。

 ニコニコ顔を浮かべて近付いてくるトラード。「フェリちゃん久しぶり!」と手を振る姿に、直前まであった緊張感がふっと解れた。
 堪えていた不安も恐怖も全て決壊する。ぶわっと涙を流して駆け寄ると、ぎょっと目を見開いたトラードに「なになにどした!?」と抱きとめられた。


「どうしたフェリちゃん!?そこの変態に何かされたのか!?殺すか!?」

「……殺す」


 チャキッとナイフを取り出すローズ。事情を何も知らないだろうに問答無用の殺意を聖者に向ける二人に、慌ててあわわっとしがみついた。
 その横を静かに通り過ぎる騎士が一人。無表情をフェイスベールで隠したギデオンが、一度は鞘に戻した剣をスルッと抜いて聖者に向けた。


「啼かせるならいざ知らず、ショタを泣かせるとは何事か」

「だからお前じゃい」

「私がショタを啼かせるのは寝台の上でのみです」

「やかましいわ」


 淡々と進む会話。ついさっきまでの真剣な空気が一気にのほほんとしたものに変わる。
 ギデオンにツッコミを入れるトラードが同時に僕の頭をよしよし撫でて、ふと視線を下ろしたかと思うと「フェリちゃんなんでゴミ持ってんの?」と純粋な疑問を向けてきた。
 視線の先には灰となりボロボロになったクマくん。途端に気持ちがずーんと沈んだ。

 再びぶわっと涙を流す。ぐすぐすめそめそと嗚咽を漏らし始めた僕を見てこれまたぎょっとするトラード。それを見たローズが聖者に向けていたナイフの切っ先をトラードに向けた。なにゆえ…。


「ちょちょっ!誤解!俺何もしてねーから!」

「……なら何故フェリアルは泣いている」

「ショタを泣かせましたね。貴方も死刑です」


 あわわ再び。
 ギデオンが二本目の剣を抜いてトラードに向ける。すごい、ギデオン二刀流も出来るのか。

 ぽろぽろと涙を流しながら感動していると、トラードが眉を下げてごめんねと謝罪の言葉を紡いだ。それにぶんぶんっと首を横に振る。トラードは何も悪くない。事情を知らないのだから。
 しょんぼりしながらクマくんを掲げ、簡単に説明してあげた。


「ゴミじゃないの。僕のお友達」


 ぱちぱち。瞬いた三人は何やら輪になってひそひそ話を始める。突然どうしたのだろう。
 きょとんとしながらクマくんむぎゅー。ちらっと振り返ると、聖者は未だこの状況に追い付いていないのか、それとも僕の言葉の衝撃から戻ってこれていないのか。ちーんと目を丸くしたまま硬直していた。


「……ゴミにまで慈愛を向けるのかアイツは。何なんだ」

「いや全然有り得る。木の枝とかぬいぐるみとかも友達にする子だぞあの子は」

「純粋過ぎるのがショタの醍醐味ですから。実際今ので私、興奮して勃起してしまいました」

「聞いてねーよその爪楊枝しまえ」

「爪楊枝?ちゃちな例えが過ぎますよ。笑えない冗談は辞めて頂きたいですね」


 ひそひそ、こそこそ。仲間外れ酷いなーなんて思いながら待っていると、やがて内緒話を終えた三人が戻って来た。お話は無事終わったみたいだ。

 キラキラッと輝く満面の笑顔のトラード。ちらっとクマくんを一瞥して一瞬困惑した様子を見せたトラードだったけれど、すぐに笑顔を戻してにこにこ頷いた。
 トラードを筆頭に三人がうんうんと言葉を訂正する。ローズとギデオンは相変わらず無表情だけれど。



「そうだね!よく見たら全然友達だった!全然ゴミじゃなかった!」

「愛らしいご友人ですね。お名前はゴミ子ちゃんでしょうか、それともゴミ男くんでしょうか」

「……お前少し黙ってろ」


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