余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
165 / 398
【聖者の薔薇園-プロローグ】

191.ほーむらん

しおりを挟む
 

「うーむ…」


 扉の前でうろうろ。格子がついているのでそこから覗いてみたけれど、見えるのは壁だけで、他は視角が狭くて確認することが出来なかった。
 けれど分かったことも少しある。ここはどうやら地下牢ではなく、かなり高い位置にある部屋だということ。石造りの室内にある唯一の窓からふと見えた列をなした鳥の群は、いつも見上げるよりも明らかに近く見えたから。

 扉がだめなら格子窓によじ登ってなんとか脱出しようと思ったけれど、ここが高所なら格子を外せたとして逃げ出すことはできない。ゆーかい犯さんはここまで想定済みだったのかな。


「ぐぬぬ…」


 石壁の僅かなでっぱりを駆使して窓に近付く。と言っても、窓まではまだ全然遠いけれど。
 よっこらせよっこらせと登っていたがために、部屋の扉がガチャリと開く音にも気が付かなかったらしい。スタスタと背後から足音が聞こえたかと思うと、直後に後ろから伸びてきた手にぺりっと壁からはがされ、ひょいっと軽く持ち上げられてしまった。

 なにもの、と反射的に振り返る。
 至近距離に現れた顔は、まったく知らない男性のものだった。にっこりと不自然なくらい満面に笑顔を浮かべる男性に、突然ベッドの上に戻されてぽすっと押し倒される。
 無言で覆い被さってきた男性にきょとんとすると、笑顔がようやく動き、男性が声を発した。


「今、何をしようとしていたんだい?」

「む…?おそと、みたいなと思った」

「正直だねぇ。いい子だけど、行動は褒められたものじゃないな」

「おじさんだれですか」

「おじさんじゃなくてお兄さんね」


 おじさんじゃない。お兄さんらしい。ごめんなさいしつつ「おにいさん」と呼び方を改める。お兄さんは満足気に頷いて、額に浮かべた青筋をすっと消した。


「私はマーテル様の遣い。悪魔の子である君の魂を浄化してあげる。本来神聖な光が闇如きに慈悲を施すことは無いけれど、君は美しいから特別。光栄に思ってくれていいからね」

「…………うん…?」


 どうしよう…なにを言っているのかまったく理解できないでござる…。

 発言からして、恐らくこの人はマーテルの味方…という解釈でいいのだろうか。僕のことを悪魔の子と言っているから、きっと良い印象を僕に抱いているわけじゃない。
 けれど特別と言うのなら、悪い印象を抱いているわけでもない…?うーむ、よくわからない…。


「一刻も早く儀式をしてあげたくて、少々強引な出会いになってしまったけれど…まぁ、別に構わないよね。闇属性の穢らわしい侍従も、あの悪魔の息子も。美しい君には毒でしかないのだから」


 するっと頬を撫でられる。いつもはあったかくて優しくて、心がぽかぽかする仕草のはずなのに。
 なぜかお兄さんに撫でられるとぽかぽかというよりも、ぞわぞわが勝って少し気分が悪い。こんなことを思うのは失礼だろうけれど。

 擽ったいのから逃れるみたいに、けれど実際はぞわぞわから逃れるために。さりげなく身を捩って手から離れると、お兄さんはそれを見てするりと目を細めた。


「ぼく…儀式いらない…」


 よくわからないけれど、その儀式というものに良い感覚を抱けない。眉をへにゃりと下げてか細く言うと、お兄さんの手がピクッと震えて硬直した。


「……だめだよ。君には儀式が必要だ。私が痛くないように優しく君を導いてあげるから、何も不安なんて無いからね」


 言いながら、お兄さんは緩やかに体をなでなでしてくる。薄い布の上から腰を掴んだり、服と肌の境界線をなぞるみたいに太腿に触れたり。
 これが儀式…?なんだか、とっても怖い。流石にこの状況だとぽややっとした思考も硬くなって、なにか悪いことをされているのだと本能が悟る。危機的状況になって初めて、消えかけていた前世の知識が微かに蘇った。

 これはいけないことだと、前世の自我が警鐘を鳴らす。


「い、いやなの…儀式しない。仲よくない人とぎゅーするのは、だめなの。僕、しってる」

「ッ……!!」


 はぁはぁって、お兄さんの息が徐々に切れていく。体力が無くなるような激しい動きはしていないのに、息切れに加えて顔が赤くなったり瞳が熱く潤んだり。
 なにかおかしい。なにか変だ。そう思った時、苦しそうに呻いていたお兄さんがふと硬直を解いて動きを再開した。


「はぁッ…最高だッ…くっ…大丈夫、私がきちんと奥まで浄化してあげるからね…」


 悪魔の子は浄化しないといけないから、これは神が御赦しになった不可抗力だから。
 そればかり、まるで僕だけじゃなく自分自身にまで言い聞かせるみたいにお兄さんがぶつぶつ呟く。


「だ、大丈夫だからね、怖くないからね…暴れちゃだめだよ、美しい君に手荒な真似はしたくないから…だから、ね?いい子にしていようね」


 境界線をなぞっていた指がするりと布の下に潜り込む。直で腰を撫でる手にぞわっと悪寒がして思わず声を上げそうになった途端。
 僅かに開いた口をがしっともう片方の手で塞がれ、悲鳴が外に出ることはなかった。

 ばたばたと強く抵抗しようと思ったけれど、あまりに突然で衝撃的な出来事に体が金縛りにあったみたいに硬直してしまう。
 滲む涙を興奮したような表情で見下ろすお兄さんの姿が怖くて、まるで悪魔みたいだと思った。この人は僕のことを悪魔の子だと言ったけれど、今の僕には、彼の方が恐ろしい怪物みたいに見えて仕方ない。


「っ…ん…ぅ…」

「あぁッ…涙も美しいなんて…ッ!奥まで暴けば…もっと美しい表情を見せてくれるのかな…?」


 ぽろぽろ。吐き出せない悲鳴の代わりに、不安と恐怖が涙になって零れ落ちた。
 腰を撫でていた大きな手は徐々に下に伝って、太腿の内側を執拗に撫でたり揉んだりし始める。風邪を引いたとき、具合が悪いときじゃなくても、吐き気や眩暈は起こるものなのだと。混乱のせいか、そんなことを冷静に考えてしまった。


「ん…うぅ…っ」


 ぽろりと涙を流しながら、それでも体全体にぐぅっと力を籠めていく。うごけうごけ、嫌ならせめて、何かちょっとした抵抗だけでも。そう思って、力を籠めて。

 不意に黙り込んで動きを止めた僕が、抵抗を諦めたと思ったのだろう。お兄さんが口を塞いでいた手を外した瞬間、金縛りの間に溜まった力が思い切り解放された。
 それはつまり、動かそうとしていた手足が勢いよく振り上げられるということで。



「ふんっ!」

「がッ…!?」





 ちーん。





 聞くだけで痛そうだと分かる、お兄さんの迫真の呻き声。
 思い切り振り上げられた右足、その膝頭。それがお兄さんの攻撃しちゃだめなところに、もきゅっとほーむらんした。


しおりを挟む
感想 1,709

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます

大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。 オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。 地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

婚約破棄から50年後

あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。 そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。