余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

182.帰路の遭遇

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 あのあとトラードとは別れ、三日後にまた会う事になった。

 孤児院を出てすぐ。辻馬車を拾うべくとたとた歩いていると、ふとすれ違った黒い馬車がすぐ横で停まった。関係ないだろうなと思いつつ顔を上げてぎょっとする。


「フェリ!?どうしてここに…!」


 停まった馬車の中から目を丸くして出て来たのはライネスだった。
 パパに似た綺麗な顔に驚愕を浮かべたライネスは、ぱちくりしながら降りてきて、かと思えばぎゅぎゅっと強く抱き締めてきた。ぎゅーはだめなのよ、と思いながら身を捩るけれど、むむ…絶対に離さないという強い意志を感じる…。

 諦めてむぎゅむぎゅを受け入れていると、ライネスは不意にバッと体を離して両肩をガシッと鷲掴む。なにごと、と瞬く僕に眉を垂れ下げた心配そうな表情を向けてきた。


「父上から聞いたよ。レナードに何か言われたんだって?」

「む?うん。すき、けっこんする。言われた」

「…………は???」


 ぴたっ。ライネスの動きが完全に停止した。
 突然どうしたのだろう。大丈夫かなとそわそわ見守っていると、やがて鉄みたいに硬直していた体がふらりと動き始める。蒼白顔で地面に両手をついたライネスに驚いてあわわ…!と焦ってしまった。


「ライネス。どうしたの、いたいいたいなの?」

「……ううん…ごめんね…ちょっと…衝撃で…」


 確かにそうか。なんて思いむぐっと口を噤んだ。
 従兄弟が突然引き籠りがちになって心配していたら、ふとその従兄弟がプロポーズやらを経験したと教えられる。ライネスの立場なら、なぬっ!と混乱しても仕方ない。

 がっくし、というように両手をついて青褪めるライネスをそわそわ見つめていると、やがて長い深呼吸をして顔をぶんぶんっと振ったライネスが緊張した面持ちで声を上げた。
 すごく控えめで、期待の色が少し不安が七割くらいの声音。その複雑そうな顔色は何なのだろうと思いながら、ライネスの問いに答えた。


「フェリは…その、プロポーズ…?承諾、したのかな…?」

「してない。してないつもり」

「そっかそうだよねよかっ…!……うん?つもり??」


 なぜか嬉しそうに笑いかけたライネスは、後半に付け加えた言葉を聞くなりぴくっと肩を揺らした。

 うむ、と頷いてもじもじする。僕はプロポーズをお断りしたつもりだけれど、レオは何だか気分が良さそうでかなしみしているようには見えなかった。だから少し不安、ということを伝えると、ライネスは「あいつ…」と何やら憎々しげに顔を歪ませた。


「どうして…どうして急に無敵になったんだ…?何かあったのか…?聞くべきか…?いやでもそれで惚気とかフェリの口から聞かされたら死…──」

「ライネス?どしたの」

「ううん何でもないよ!ちょっと考え事をしていただけ!」


 ぶつぶつぶつぶつ。口元を手で覆って何かを早口で呟くライネス。やっぱり具合悪いのかなと問い掛けるけれど、返ってくるのは案の定優しい笑顔だけ。
 僕には隠したいことなのかな、となんとなく察したので「そっかぁ」と単純に頷いておいた。


「そういえば!フェリはここで何をしていたの?そんな恰好で歩いて…可愛さが全く隠せていないから本当に心配…襲われてしまうよ」

「だいじょぶ。僕、そのへんにいる子ども。違和感なし」

「いや違和感ありまくりだよ??遠目から見るとキラキラ天使がボロボロ布切れ着てるみたいな感じだったからね??」


 えっへんとどやるけれど、ライネスはそっかそっかすごいねえらいねとは褒めてくれなかった。なぬっ…かなしみ。しょぼぼん。

 しゅんとしてしまった僕をライネスが「あぁ泣かないで!」と抱き上げてよしよしする。僕はお兄さんだから、褒められなかったくらいでは泣くわけないのだ。ぐすっ、しくしく。
 無防備にぎゅーしない!という約束も忘れてライネスとむぎゅむぎゅする。ライネスの抱っこの仕方はシモンに似て安定感というか、がっしり包み込まれている感じがしてとてもよきだ。ぬくぬくすりすりしてしまう。


「あの…邪魔してすみません。そろそろ分かれるか、中に入るかしませんか?すみません、さっきからフェリアル様の白い肌が日焼けしないかだけが心配で心配で」

「まっくろこげ、なっちゃう」

「それは由々しき事態だね。早く馬車の中に入ろう」

「あ、解散とかじゃないんですね。意地でもフェリアル様とは離れたくないんですね」


 むぎゅむぎゅしていた僕をそのまま抱っこして、ライネスはそそくさ黒い馬車の中へ戻った。
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