174 / 397
【聖者の薔薇園-プロローグ】
182.帰路の遭遇
しおりを挟むあのあとトラードとは別れ、三日後にまた会う事になった。
孤児院を出てすぐ。辻馬車を拾うべくとたとた歩いていると、ふとすれ違った黒い馬車がすぐ横で停まった。関係ないだろうなと思いつつ顔を上げてぎょっとする。
「フェリ!?どうしてここに…!」
停まった馬車の中から目を丸くして出て来たのはライネスだった。
パパに似た綺麗な顔に驚愕を浮かべたライネスは、ぱちくりしながら降りてきて、かと思えばぎゅぎゅっと強く抱き締めてきた。ぎゅーはだめなのよ、と思いながら身を捩るけれど、むむ…絶対に離さないという強い意志を感じる…。
諦めてむぎゅむぎゅを受け入れていると、ライネスは不意にバッと体を離して両肩をガシッと鷲掴む。なにごと、と瞬く僕に眉を垂れ下げた心配そうな表情を向けてきた。
「父上から聞いたよ。レナードに何か言われたんだって?」
「む?うん。すき、けっこんする。言われた」
「…………は???」
ぴたっ。ライネスの動きが完全に停止した。
突然どうしたのだろう。大丈夫かなとそわそわ見守っていると、やがて鉄みたいに硬直していた体がふらりと動き始める。蒼白顔で地面に両手をついたライネスに驚いてあわわ…!と焦ってしまった。
「ライネス。どうしたの、いたいいたいなの?」
「……ううん…ごめんね…ちょっと…衝撃で…」
確かにそうか。なんて思いむぐっと口を噤んだ。
従兄弟が突然引き籠りがちになって心配していたら、ふとその従兄弟がプロポーズやらを経験したと教えられる。ライネスの立場なら、なぬっ!と混乱しても仕方ない。
がっくし、というように両手をついて青褪めるライネスをそわそわ見つめていると、やがて長い深呼吸をして顔をぶんぶんっと振ったライネスが緊張した面持ちで声を上げた。
すごく控えめで、期待の色が少し不安が七割くらいの声音。その複雑そうな顔色は何なのだろうと思いながら、ライネスの問いに答えた。
「フェリは…その、プロポーズ…?承諾、したのかな…?」
「してない。してないつもり」
「そっかそうだよねよかっ…!……うん?つもり??」
なぜか嬉しそうに笑いかけたライネスは、後半に付け加えた言葉を聞くなりぴくっと肩を揺らした。
うむ、と頷いてもじもじする。僕はプロポーズをお断りしたつもりだけれど、レオは何だか気分が良さそうでかなしみしているようには見えなかった。だから少し不安、ということを伝えると、ライネスは「あいつ…」と何やら憎々しげに顔を歪ませた。
「どうして…どうして急に無敵になったんだ…?何かあったのか…?聞くべきか…?いやでもそれで惚気とかフェリの口から聞かされたら死…──」
「ライネス?どしたの」
「ううん何でもないよ!ちょっと考え事をしていただけ!」
ぶつぶつぶつぶつ。口元を手で覆って何かを早口で呟くライネス。やっぱり具合悪いのかなと問い掛けるけれど、返ってくるのは案の定優しい笑顔だけ。
僕には隠したいことなのかな、となんとなく察したので「そっかぁ」と単純に頷いておいた。
「そういえば!フェリはここで何をしていたの?そんな恰好で歩いて…可愛さが全く隠せていないから本当に心配…襲われてしまうよ」
「だいじょぶ。僕、そのへんにいる子ども。違和感なし」
「いや違和感ありまくりだよ??遠目から見るとキラキラ天使がボロボロ布切れ着てるみたいな感じだったからね??」
えっへんとどやるけれど、ライネスはそっかそっかすごいねえらいねとは褒めてくれなかった。なぬっ…かなしみ。しょぼぼん。
しゅんとしてしまった僕をライネスが「あぁ泣かないで!」と抱き上げてよしよしする。僕はお兄さんだから、褒められなかったくらいでは泣くわけないのだ。ぐすっ、しくしく。
無防備にぎゅーしない!という約束も忘れてライネスとむぎゅむぎゅする。ライネスの抱っこの仕方はシモンに似て安定感というか、がっしり包み込まれている感じがしてとてもよきだ。ぬくぬくすりすりしてしまう。
「あの…邪魔してすみません。そろそろ分かれるか、中に入るかしませんか?すみません、さっきからフェリアル様の白い肌が日焼けしないかだけが心配で心配で」
「まっくろこげ、なっちゃう」
「それは由々しき事態だね。早く馬車の中に入ろう」
「あ、解散とかじゃないんですね。意地でもフェリアル様とは離れたくないんですね」
むぎゅむぎゅしていた僕をそのまま抱っこして、ライネスはそそくさ黒い馬車の中へ戻った。
281
お気に入りに追加
13,546
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました
ぽんちゃん
BL
双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。
そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。
この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。
だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。
そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。
両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。
しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。
幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。
そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。
アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。
初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。


ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。