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【聖者の薔薇園-プロローグ】
174.レオの大切なおはなし
しおりを挟む「むぐ…む、落ちついた?」
「あぁ。悪いな。少しだけ正気を失った」
少しだけ…?と小さな呟きをレオが発したのはスルーで、パパは僕をむぎゅむぎゅしながら顔を上げた。
さっきのどんより顔は消えて、何だかすっきり清々しい表情だ。寂しいのも悲しいのも、とりあえずは無くなったようでよかった。パパにはやっぱり、余裕を纏った不敵な笑みが一番似合う。
「……ジジイが言ってた通りだな。お前は俺達の希望だ。リベラが愛し子に選んだ理由がよく分かる」
きょとん。首を傾げる僕を優しい瞳が見下ろす。パパのものとは思えないほどの穏やかな表情は、向けられると何だか擽ったくて思わず身を捩った。
純粋な甘さを含む視線が少し照れくさくてぽわわっと頬を染める。
ほんのり赤らんだ頬をふくふくとつんつんされたり、もちもちびよーんと伸ばされたり忙しない。どうやらパパは僕のほっぺを気に入ったようだ。
手のひらでうにゅうにゅと撫で回されていると、不意にレオが静かに声を上げた。
「……あまりフェリの頬を伸ばさないで下さい。腫れてしまったらどうするのですか」
「あ?お前な、羨ましいなら素直にそう言えよ。そういう察してちゃんなところ最高にメンヘラって感じでキメェぞ」
「ぐっ…む、むかつく…」
パパの容赦ない一撃は真っ直ぐにレオにクリティカルヒットしたようだ。ぐぬぬと歪む顔がいつもの爽やかオーラを掻き消してしまっている。
「レオ。めんへら?」
「なっ…ち、ちがっ…!」
「あぁそうだ。コイツは普通に病んでるから気を付けろ。この手の野郎は総じて面倒な人種である確率が高い」
「別に病んでいませんし…少し情緒が不安定なだけです…」
「それを世間では病んでるっつーんだよ」
レオ、自覚あったんだ。とは言えない。むぐっと口を噤んでふむふむと見守るだけに留めた。
突然引き籠ってしまうのもそうだけれど、やっぱりレオは少し情緒が不安定なところがあるようだ。
性格や理性は属性に引っ張られるとはよく言うけれど、レオの場合は光属性と闇属性という対極の力だから、体や心も不安定な状態がデフォルトになってしまっているのかも。
そういえば、レオはどうして闇属性を持っているのだろうか。皇族がマーテルの影響を強く受ける血筋なら、それこそレオは純粋な光属性にでもなりそうな気がするけれど。
この疑問にも、もしかしてリベラ様が関わっているのかな。
「レオだいじょぶ。僕、レオいいこいいこする。めんど、じゃない」
「フェリ…!」
「おい馬鹿。お前な、メンヘラ甘やかしても碌な事になんねぇぞ」
ふふん、と胸を張って宣言する。
だいじょぶだいじょぶ、レオが不安定になったら支えてあげればいいだけだ。寂しくなってたら、よしよしってぎゅーしてあげて、悲しくなってたら、いいこいいこと傍にくっ付いてあげればいい。そうしたら、いつかは気分も晴れるはず。
面倒なことなんて何もない。レオが不安定なのは僕もそわそわだから、レオがいつでも元気でいてくれることに越したことはない。
だいすきなお友達のレオには、ずーっと笑顔のままでいてほしいから。それは不安定な精神の末に、操られたことによって生まれる笑顔でもなくて。
今世ではよく表情に浮かべるようになった、あの自然な柔い笑顔を。
「レオぎゅ。ぎゅーすれば、悲しくない。しょぼんなったら、ぎゅーするの」
しょぼぼん…って気持ちが落ち込んだら、誰か大好きな人とぎゅーをすればいいのだ。
そうしたら悲しい気持ちも無くなるよ、って。そう言うと、レオは一瞬何かを堪えるような顔をして、次の瞬間覚悟を決めるような表情でひとつ頷いた。
「……うん。ぎゅーをすれば、悲しくない。やっぱり私には…心の安寧の為にも、フェリがどうしても必要ということになりますね」
ほんの少し纏う雰囲気が変わったレオにきょとんとする。
頭上でパパが呆れたような溜め息を吐いたように感じたのは、僕の気のせいだろうか。
レオは不意にガタリと立ち上がると、僕に手を差し出して淡く微笑んだ。
「フェリに大切なお話があります。聞いてくれますか?」
「たいせつな、はなし…?」
大切な話…はて何のことだろうかと首を傾げる僕を、パパが更に強くぎゅーっと抱き締めた。
パパは睨みにも似た鋭い視線をレオに向けると、地面を這うような低い声で小さく語る。
「……おいレナード。今伝えても意味ねぇことくらい分かんだろ。さっきまでメンタル死にかけてたくせに何だその謎の自信は。情緒不安定にも程があるだろうが」
「失礼な。別に私だってイケるかもなんて思っていませんよ。ただ伝えたいだけです。それに…こういうのは先を越される程不利になってしまうものでしょう?」
だからほら、とパパに両手を差し出すレオ。いまいち状況が掴めずぱちぱちしている僕を、不意に長い溜め息を吐いたパパがひょいっと抱き上げた。
パパは僕に巻き付けていたペリースを剥がすと、そのまま徐にレオの腕の中へ僕を移す。なんだなんだと混乱中の僕をぎゅっとしたレオは、何だかとんでもなく甘い瞳と微笑みをこちらに向けてきた。
レオから注がれる視線はいつも甘いけれど、今は特に甘々だ。ちょっとだけ擽ったくなってそわそわもじもじとしてくらいには甘い。
ひとりもぞもぞする僕を撫でたレオは、一転してパパに真剣な色の視線を向けた。
「すみません伯父上。貴方の息子よりも先を行ってしまいますが」
「あぁ…まぁこういうのは早い者勝ちみてぇな所あるからな。既成事実作るくらいが勝ち確なんだが…今時の若いのはそういう強引な手は使わねぇんだったか」
「言っておきますけれど、そんな強引な手段を本気で実行するのは伯父上くらいですからね」
何だかよくわからない話をしている…まったく話に入れなくてちょっぴりしょんぼりだ。
しょん…と肩を落として眉も下げた僕に気が付いたのか、レオはやがてハッとしたように話を止めて僕をなでなでした。途端に気分が良くなってレオをむぎゅむぎゅすると、頭上から嬉しそうな笑い声が微かに聞こえてくる。
そんなレオをじっと見据えたパパは、やがて呆れ顔でしっしと手を軽く振った。
「さっさと行け、言うならさっさと話せ。こういうのは八割方その場のノリだからな、気が変わる前に動いた方がいいぞ」
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