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【聖者の薔薇園-プロローグ】
168.パパと皇太子
しおりを挟むはわ…と目を瞬かせる。つい一秒前まで正面に立っていたはずのギデオンが、瞬きの直後には遠い垣根に突っ込むように吹き飛ばされていた。
ピクリともしないギデオンが心配になり慌てて駆け寄るよりも前に、背後から伸びてきた腕にひょいっと抱き上げられてむぎゅっと拘束されてしまう。
なんだなんだ、なにものだと顔を上げると、そこにはあまりの眩しさに目を瞑ってしまいそうな程のきらきらな美貌が。
艶のあるサラサラの黒髪に、獲物を逃さない猛獣のような金色の瞳。もふもふのファーがついた漆黒のペリースや所々に施された金の刺繍の服装も相まって、その相貌は完全に物語に出てくるラスボスのようだ。
例えるなら、魔王みたいなそんな印象。
「パパ!」
「ん、ちゃんと俺のこと覚えてたな」
きらきら。瞳を輝かせてむぎゅーっと抱き着く。
パパ…ライネスのお父様で、北部の主のヴィアス大公は、初めて会った時から一切の老いを感じさせない姿で不意に現れた。
よしよし、といい子いい子するように頭を撫でてくれる大きな手。それがあったかくて、思わずむふふと頬を緩めながらすりすりと擦り寄る。
そんな僕を見て目を細めたパパが、ちゅっと音を立てて頭のてっぺんに口付けを落とした。相変わらず大人の余裕を感じさせる人だ。
「伯父上…何故ここに?」
ふと声を上げたのは、何だか少し不機嫌な顔のレオだ。レオはさっき、パパが僕の頭を撫でたりちゅっとしたあたりから突然機嫌が悪くなり始めた。どうしたのだろう。
きょとんとする僕をなでなでしながら、パパは不機嫌な甥に揶揄うような視線を向けて首を傾げる。
まるで全てを見透かしているみたいな余裕を帯びた表情。レオはそんなパパの愉快気な微笑に、居心地悪そうに身を捩った。
「愛する弟とその息子の近況を確認しに来たんだよ。家族なんだから用も無く来ても良いだろ」
「白々しい…。私が産まれた時は手紙一枚寄越すだけで何の確認にも来なかったようですが?」
「そん時は忙しかったからノーカンだ」
首の裏をこしょこしょと撫でる手の動き。顎をさすさすと撫でる手の動き。
会話の途中にも絶えず動き続けるパパの手はプロみたいにとっても上手くて、思わず「にゃぁ…」とおかしな声を出してふにゃふにゃになってしまった。
「気持ちイイかフェリアル。そのエロい声、今後はライネス以外には聞かせんなよ」
「にゃ…むぅ…?…うむ」
「よしいい子だ。よしよししてやる」
「ちょ…やめてください伯父上!フェリを返して下さい!!」
パパのこしょこしょ攻撃にふにゃふにゃになっていると、不意に顔を真っ赤にしたレオが声を上げた。
どうしたのだろうときょとんとすると、レオの揺れる瞳が更に大きくゆらゆらと揺れる。
「公子にだって聞かせては…」ともごもご何かを口にするレオ。
何を言っているか聞き取れなかった僕と違い、どうやらパパには小声が全て聞こえたらしい。意外そうに目を丸くしたかと思うと、今度は「ふぅん…」と面白い獲物を見つけたかのように金色の瞳を僅かに輝かせた。
「なんだレナード。お前にも春が来たのか。従兄弟と同じ獲物を狙うたぁ、お前中々やるじゃねぇか」
「何がですかやめてください…。茶化すだけが目的ならさっさと帰ってください」
愉快気に笑うパパと、そんなパパから疲れた様子で視線を逸らすレオ。何故かは分からないけれど、どうやらレオはパパが苦手らしい。
「俺は良いと思うぜ。まぁ若い内から争奪戦くらいは経験しとかねぇとな。そんくらい経験してこその男ってやつだ」
「何の話ですか…別に、私は争奪だなんて…相手の迷惑になるような自分勝手なこと…」
「はぁ…ったくどいつもこいつもヘタレた野郎ばっかだなオイ。世界にテメェと相手しか居ねぇ訳じゃねぇんだ、どっかで争奪戦は必ず起こるんだよ」
怠そうに溜め息を吐くパパ。
二人が何の話をしているかは分からないけれど、争奪と言っているからたぶんいけないことだ。
そわそわと緊迫した面持ちで見守る。レオはパパの言葉にぐっと言葉を詰まらせて「そんな…」と眉を下げた。
「私は伯父上のように相手を既成事実で手篭めにすることなんて出来ません…」
「別にそこまでしろとは言ってねぇよ。寧ろうちの嫁にんな事したらぶっ飛ばすぞ」
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