余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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【聖者の薔薇園-プロローグ】

166.ぱんぱん

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「フェリ!大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」


 ひょいっ。体を軽々と持ち上げられその場に立たされる。呆然とする僕の体をあわあわと確認したレオは、擦り剥いた膝を見るなりさーっと顔を青褪めた。

 蒼白顔で膝に手を翳し、小さく何かを呟く。すると淡い光が広がって、その光が収まった頃には膝の傷は跡形もなく消えていた。
 それを見て、そういえばレオは光属性なのだったと思い出す。どちらかというと闇属性の印象の方が強くて、彼が光属性で治癒魔法を使えることをすっかり忘れていた。


「ごめんなさい…フェリに走らせるだなんて危険な行為をさせてしまって…」

「……?だいじょぶ…」


 思わずきょとんとしてしまった。走ること自体は全く危険な行為じゃないのに、どういう結論の至り方なのか。困惑して小さく頷くことしかできなかった。


「痛くありませんか?」

「だいじょぶ。治った。レオのおかげ」


 ようやく止まった涙。残っている涙を全てぽろぽろ零しながら「ありがと」と頭を下げると、レオは何かをぐっと堪えるような顔を見せてぎゅーっと抱き締めてきた。
 むぎゅむぎゅと抱き締められるとぽかぽかがあったかく広がって、滲む涙を押し付けるように思わずレオの肩に顔を埋める。ぴとっと抱き着いて無言ですりすりすると、頭上から「っぐぅ…」という謎の呻き声が聞こえてきた。


「涙も、止まりましたか…?」

「……ん、げんき」


 ふにゃあと頬を緩める。顔を上げると、レオは安堵した様子で息を吐きながらも、なぜか顔を赤く染めて「そ、そうですか…」と軽く視線を逸らした。

 その姿を見てしょんぼりと肩を落とす。やっぱりレオは僕のことが嫌いになってしまったのだろうか。
 さっきから妙に避けられるし、僕を見るなり真っ赤な怒りんぼの顔をする。呼びかけられたら真っ先に逃げるくらいって、かなり…いや、とっても嫌われている方なのではなかろうか。


「レオ…僕、わるいことした…?ごめんなさいする……」

「え…?」

「ごめんなさい、する…ごめんなさい…」


 逃げられないようぎゅーっと抱き着き、レオの首元に顔をうりうりしながら懇願する。ごめんなさいをするから、どうか許してほしいと。

 嫌われたのなら、きっと自分では気が付かないうちにレオに悪いことをしてしまったのだろう。なにかレオが傷付くようなことを、無意識でしてしまったのだろう。
 それならきちんとごめんなさいをする。だから嫌いにならないで。ぽろぽろと再び溢れる涙をそのままに言うと、レオは焦ったようにぶんぶんっと首を横に振った。


「ちが、違います!フェリは何も悪くありません!ごめんなさいする必要もありませんよ!?」

「ぐすっ…そ、なの…?」

「そうです!フェリはなんにも悪くないです!悪いのはっ…悪いのは私なんです…」


 猛省するように肩を落として、長い長い溜め息を吐くレオ。
 悪いのはレオって、どういうことだろう。どうしてレオが悪いことをしたら、僕のことを避けなければならないのだろう。
 不思議に思ってきょとんとすると、レオはまたもや激おこな赤い表情を浮かべた。


「す…すみません…色々、複雑な感情が渦巻いていて…上手く説明することが出来ないのですが…」

「ふくざつ?」

「えぇ。一度に自覚した感情が多すぎて…その、なんと言うか…」


 レオはしばらくもごもごと小さく話すと、やがて何かを吹っ切るように顔をぶんぶんっと振り、自分の頬をぱちんと両手で包むように叩いた。
 ぎゅっとしていた僕の体をおもむろに引き離すと、静かに立ち上がって一歩下がる。明らかに距離を取られたと分かり、またもや視界がぐにゃりと滲んだ。


「きらい…?」

「あぁっ!違います!嫌いじゃないです!嫌いではないのですが、そのっ…」

「だいきらい…?」

「ぐぁっ!違います!それは絶対に絶対に違います!!」


 嫌いでも大嫌いでもないなら、一体なんだというのか。
 嫌いじゃないのに避ける理由ってなんだろう。ふと考えてみるけれど、その答えはひとつも浮かばない。

 やっぱり嫌いなんじゃないか。
 しょぼん…しょぼぼん…と空気を重くしていく僕に、レオはあたふたと動揺した様子を見せてそわそわし始めた。
 不意に背後から足音が聞こえたかと思うと、ふと隣に鍛え上げられた大きな体躯の彼が立った。


「ぎでおん…」

「舌足らずショタ最高。ぐちゃぐちゃに犯したい」

「……うん?」

「おっと間違えました。こほん、お気になさらずフェリアル様。殿下は現在大人の階段を登っておられるだけですので」


 つい建前と本音が逆に、と無表情で淡々と訂正するギデオン。一番初めの言葉を僕が理解する前に、ギデオンはいっそ爽やかなくらいの空気で話を再開した。


「殿下は思春期真っ只中なのです。今この瞬間も、制御の効かない己自身を必死に抑えている最中なのです」

「おい、やめてください。フェリに余計なこと教えるな」

「せいぎょ…?」


 きらきら。気になる話に瞳をきらりんと輝かせる。
 内なる自分を抑えるのに必死…ということだろうか。本当に僕のことは嫌っていなくて、このそっけなさも全て修行のためということ…?
 なにそれかっこいい…!きらきら、きらきら。僕のきらきら顔にこくこく頷いたギデオンは淡々と答える。


「無知シチュ最高。手取り足取り教えたい」

「……うん?」

「おっと間違えました。こほん、良いですかフェリアル様。己を制御中の獣に近寄ってはなりません。強制的に襲われても文句言えませんから」

「けもの?あむあむされる?」

「どちらかと言うとパンパンですかね。激しい場合はどちゅどちゅくらい鳴ります」

「ぱんぱん…?どちゅどちゅ…?」


 獣に襲われるとぱんぱん、どちゅどちゅという音が鳴るらしい。ふむふむと脳内メモにかきかきしていると、突然レオが勢いよく踏み出してギデオンの胸倉を掴み上げた。

 急な出来事にぽかん…あわあわとする僕を背に、レオは小声でギデオンに何やら呟く。僕の耳には届かなかったけれど。


「純粋なフェリに余計なこと教えるなと言っているでしょう…いい加減殺しますよ」

「おっと。パンパンは流石にライン越えでしたか」

「お前は存在自体がライン越えです」

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