余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

閑話.フェリアルまっちょ化計画!(1)

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「剣術を習いたい?」


 ある日の朝。動きやすい服装に着替えて訓練所に訪れた僕は、副団長であるサムさんにとある頼みごとをした。


「うん。ちょっとでいいの。剣の使い方だけでもいいから、教わりたいの」


 案の定、サムさんは困った様子で「いや、でもなぁ…」と渋る。
 言いたいことはもちろん分かる。懸念しているのは僕が三歳のころから発令している、僕に対する剣術禁止令のことだろう。
 訓練所は武器がたくさんあって危ないから。それに加えて、三歳の時に起こったような事故が二度と再発しないように。
 僕に対する心配と過保護によって生まれたその了解は、未だにエーデルス家の全ての人間が承知して頑なに守り続けている。

 僕もそれを受け入れていたわけだけれど…流石に、もう十一歳になるという段階でも禁止令が解けないのは少しおかしいのでは気が付いた。
 お父様に言ってみたけれど即答で断固拒否されたし、お母様もまぁまぁと言いながらのらりくらりと話題を逸らした。
 これはもう、完全に僕に剣術はさせない教育方針が確定しているらしい。


「みんな、僕は心が強いっていう。でも、やっぱり違うの。僕は、見た目もちからも、カッコよくなりたいの!」

「見た目も力も、カッコよく…ですか」

「うん。僕、まっちょになる」

「ぶっ…!!マ、マッチョですか…!?」

「うん。むきむき。さいきょーぱわー、手に入れる」


 両腕の肘を曲げて、みんなよく知るマッチョのポーズを実演してみる。
 こぶになっているところを触ってみたまえ、とマッチョポーズでむきむきすると、僕の二の腕辺りをさすさすと撫でたシモンが「はうっ…!!」と悶絶しだした。

 にゅるっと出てきて困惑しただろうけれど、シモンは今日も元気に護衛をしているだけである。僕がいる場所にシモンあり。もはや常識である。


「ふにふに…すべすべ…筋肉のきの字もない最高の滑らかさ…!」

「シモンは褒めてるみたいですけど、筋肉のきの字も無いっていうのは駄目なんですよね?フェリアル様的に」

「だめかも」

「ですよね?フェリアル様はムキムキが良いんですもんね?って…ほらシモン、お前もあからさまにしょんぼりした顔するな」


 こつんっとシモンの頭を小突くサムさん。
 少しずつだけれど、二人は昔よりも交流するようになった。本当に血縁関係があるのかと疑うくらいの淡白さをお互い見せていたけれど、やっぱり本当は仲が良いみたいだ。

 よきかなと思いながら辺りをきょろきょろ見渡し、僕の武器はどこかなと剣を探してみる。
 とたとたとその場を離れ、訓練所の隅にずらーっと並んでいる剣たちの前でしゃがみこんだ。
 予想はしていたけれど、やっぱりすごく大きい。扱う騎士の身長や体格に合わせているからか、僕の背と同じくらいの剣まであった。


「む……」


 ここにあるのは全部、相棒が決まっている剣みたいだ。
 僕みたいなよそ者が勝手に使えば、剣がげきおこしてしまうかもしれない。
 そう思い、その場は離れてもう一度きょろきょろ辺りを見渡した。


「むむ……!」


 ふと、僕の剣センサーがビビッと反応した。
 どこだどこだと振り返り、訓練所と庭園の狭間くらいの場所にとことこ走る。

 草むらにしょん…と落ちているそれを見つけ、瞳がキラキラと輝いた。


「見つけた!あいぼー!」


 わしっと手に取り、どどどやぁと空に掲げる。
 ゲームなら、たった今下の方に『聖剣をてにいれた!』というテロップが表示されていることだろう。

 僕の身長にもしっかり対応。金属製じゃないから、重くなくてとっても軽い。持ちやすい。
 試しにぶんぶんっと振り回してみても、素早く動かせるし本当に素晴らしい武器だ。
 僕だけの聖剣を手に入れたことが嬉しくて、えへへと頬を緩ませながら二人の元へとたとたと戻った。

 いつの間に口論を止めていたのか、二人は静かにじーっと僕の様子を見守っていたらしい。
 聖剣を振り回しながらとたとた戻ってくる僕を見て、なぜか心配そうにそわそわあわあわと瞳を揺らしている。
 転ぶことも怪我することもなく無事に戻ると、二人は心底ほっとした様子で息を吐いた。


「みてみて。僕の相棒。木の枝のきのくん」

「わ、わぁ……どこからツッコめばいいんだろう……」

「何この天使……きゃわたん過ぎません……?」

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