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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

141.お宝の行方(後半???side)

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 鐘の音とともに探し始めた宝物。
 赤色は目立つからすぐにみつかるだろう、なんて甘い考えは体感十分ほどがすぎた辺りで徐々に崩れていった。
 赤が目立つと言っても、宝物自体はビー玉と同じくらいの大きさでとっても小さい。どこか棚や箱の中にあるのなら、そもそも見渡したところで見えないから意味がない。
 そのことに気付いたとき、僕は愕然と硬直してしまった。

 与えられた制限時間は三十分。
 十分をこれだけ無駄に使い、残りの二十分で果たして宝物が見つかるだろうか。確率としては絶望的でしかない。


「どうしよ…」


 どうしよう。このままでは二人を助けられない。にこちゃんも救えない。
 赤色のビー玉を探し当てることが出来なければ、僕は悪の博士たちに負けてしまうんだ。そして、きっと何かとっても怖い研究の材料にされてしまうんだ。


「……」


 ちらりと振り返る。じーっと僕の動きを観察していた二人は、僕が振り返るなり「おっ、どうした?」と言わんばかりに肩を揺らして手を振ってきた。
 それにひらひらと力なく手を振り返して、しょんぼりした顔のまましゅんと俯く。落ち込んでいないで何か策を考えないと、なんて思ってもどうしてもしょんぼりが収まらない。

 魔法の使用を推奨するとトラ博士は言った。
 きっと魔法を使えば簡単に突破できる試練なのだろう。けれど、無念なことに僕は魔法が使えない。属性すらわからないという段階だ。魔法なんて使えるとは思えない。
 現状僕が自覚していて出来ることなんて、傷や呪いを癒すことだけ。物が散乱した部屋の中で小さなビー玉ひとつ探すだなんて、よく考えなくても難題だったのに。

 今からでも僕が魔法が使えないのだと言えば、難易度を少しだけ下げてもらえるだろうか。いや、敵にそんな温情を施す悪の研究者はいないか、とまたしょんぼりしてしまう。
 どうしようと考えているうちに数分が経過していたようで、ふとトラ博士の「残り時間あと半分だぞー」という声が聞こえてはっとした。


「は、はんぶん…」


 もう、半分しか時間が残されていない。
 あと半分で探し出せる?赤いビー玉、赤いビー玉…と焦燥を抱えながら辺りをきょろきょろ見渡し、手の届く場所にある箱の中を手当たり次第に覗き込む。

 ない、ない…ここにもない…どこにもない…。
 頑張って探しても見つからず、溢れそうな悲しい気持ちと涙を必死に堪えて唇を噛み締めた。
 ぐっと口を噤んだ状態でそろりと立ち上がり、一粒滲んだ雫をごしごしと拭う。落ち込んでいても仕方ない、絶対に勝つと決めたのだから、どんな突飛な策でもとにかく実行してみるのみだ。

 がんばる。僕がんばる。こくこくと頷きながら、二人のもとにとぼとぼと戻った。


「おっ、ちっこいの!宝は見つかったか?」


 ふるふると力なく首を横に振る。
 不思議そうに首を傾げる二人に、鞄からごそごそと取り出したそれを控えめに差し出した。


「……ん?なんだこれ?」

「飴…?」


 レモン味の飴を二人の手のひらにそれぞれぽいっと置く。もじもじと体を揺らしながら、眉をへにゃりと下げて小さく呟いた。


「飴…おいしいの…。とってもおいしい、お宝なの…。お宝…飴じゃ、だめ…?」


 ぽろぽろと雫が床に零れる。時々ファーのもこもこに雫が落ちて、そこがしっとりと濡れていくのを滲んだ視界の中ぼんやり見つめた。
 ぐすんと鼻を啜って、二人の返事をじっと待つ。きっと「ダメに決まってるだろう」と即答されると思っていたのに、いつまで経っても返事は来なかった。

 それを不思議に思いちらりと顔を上げる。博士たちはピタッと硬直し、トラとクマの面をぷるぷる震わせていた。


「……おい、俺はもういいと思うんだが、お前はどう思うよ?」

「……小さな子がこれだけ必死に頑張ったのだから、花丸で問題ないと思う」


 こそこそと内緒話をしていた二人が僕に向き直る。魔法だろうか、何もない空中に突如パッとクラッカーを出現させると、それをぽんっ!と引いて紙吹雪を舞い散らせた。


「わ……!」

「合格だちっこいの!よく頑張ったなぁ!!」

「大変よくできたで賞を授けてあげよう。賞品はこちら、クマさんのぬいぐるみだよ」


 しゃららーん、となんだかおめでたい音楽が鳴り響く。
 クマ博士から受け取ったクマさんのぬいぐるみをじっと見つめ、きらきらと瞳を輝かせた。どうやらウサくんにお友達ができたらしい。
 ぎゅーっとクマさんを抱き締めてうりうり頬擦りし、よろしくねと頬を緩める。やがて二人に視線を向け直し、しっかりとお礼の言葉を口にした。


「ありがとう。くま博士。とら博士」

「礼には及ばねぇよ、お前はちゃぁんと宝を探し出して俺達に渡したんだからな」

「うん。ルールに則って見事勝負に勝利した。紛れもない、少年の圧勝と言っていいね」

「あっしょう…!」


 僕、悪の博士を二人相手にして圧勝した…!
 これはもう、ベテランお兄さんを名乗ることを許されてもいいのでは…。シモンすらこえた最高のお兄さんになってしまったのでは…!

 ほくほくと喜びを抱えながら、やったやったぁとぴょんぴょん跳ねる。
 ぱちぱちと拍手する博士たちにぺこりとお辞儀して、えへへと微笑んだ。


「僕の勝ち。僕、つよい」

「そうだなぁ。すっげぇ強いなぁ」

「これは次の勝負も圧勝に違いないね」


 クマ博士がぱちんっと指を鳴らす。すると背後から不意に音が聞こえてきて、振り返ると壁だったはずの場所にぽつんと扉が現れていた。
 びっくりして固まっている僕に、クマさんは優しく導くような声で語った。


「次の試練はあの扉の先に待ち受けているよ。勝負はあと二度。無理をしない範囲で取り組むように」

「わかった」


 ぽんぽん、と頭を撫でられてほわぁとなる。クマ博士のなでなではプロレベルだ、とっても気持ちが良い。
 次も圧勝を目指すぞーと振り返る直前、不意に思い出して慌てて二人に向き直った。


「もう悪い研究しちゃだめ。約束ね」


 絶対だめだよと念を押すと、二人は驚いたように硬直した。やがてお互いに顔を見合わせると、同時に吹き出して大きく笑いだす。

 笑うところ、あったかな…と困惑する僕の頭をぐりぐり撫でる二人。ちょっとだけ痛いかも…。
 はてなを更に増やす僕に、二人は分かっているよと笑いながら頷いた。








 少年が部屋から出て行くのを見届け、トラ博士改めジェイと同時に面を取る。ジェイは魔塔の管轄下に置かれている魔術研究室の副室長で、私の右腕だ。
 基本的に魔術と研究以外に興味が無い彼だが、どうやらあの子には何か感じたようで、猛獣のような鋭い目をギラギラと輝かせている。


「ありゃ何だ?魔力を一切感じねぇ…だが人間離れした圧倒的な力…あのちっこいのの中身はまるで予想がつかねぇぜ」

「魔塔主が興味を抱いた理由が、漸く理解出来たな」


 涎すら垂らしそうな勢いで扉を見つめるジェイ。そんなに見つめても少年は既に見える場所にいないというのに、全く困った友人だ。


「にしても……魔法使えねぇなら、この試験も意味無いんじゃねぇのか」

「そこは魔塔主も理解しているだろうから、他に何か目的があるのかもね」

「目的、ねぇ……」


 ジェイは少年からもらった飴を口に放りながら、唸るようにして考え込む。
 思考を魔術の研究の為にしか使わないと豪語するほど魔術バカのジェイが、ここまで他人に思考を使うなんて……余程あの子が気に入ったのだろうか。

 やがて名案を思い付いたようにハッとしたジェイは、瞳を少年のように輝かせて言った。


「あのちっこいの、魔塔に勧誘とか出来ねぇのかな。出来れば研究室に……」

「馬鹿。お前は少年を研究材料に使うつもりか?それはいけないよジェイ」

「ちっ、ちげぇよ……マスコット?癒しアイテム?とか…そっち系の用途だよ……」

「マスコット…癒しアイテム?ふむ……それなら分からなくも無いね」


 気が狂うような作業をひたすら繰り返すのが研究者としての性。そんな平坦な動きの繰り返しの中、あの小さな少年が傍に居てくれたらどうなるだろうか。

 きっとちょこまかと視界の端で走り回る姿が気になり、研究なんて手が付かなくなるだろう。すごい、かっこいいなんて褒められたら、飴を一生分贈呈してしまうに違いない。
 あの子を魔塔に勧誘…是非とも魔塔主、そして次期魔塔主と名高いルドルフ殿にも頑張って欲しいところだ。


「あのちっこいのにダボダボの白衣着せてぇ……裾踏んづけて転んで泣いてるところに颯爽と現れて慰めてぇ……」

「ジェイ。何だか思考が危うい方に向かっていないか」


 そういえばジェイはショタコンだったか、と不意に思い出す。
 ……ふむ、やはり魔塔勧誘は一先ず保留にしておいた方が良さそうだ。

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