余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

139.緊急みっしょん:囚われの二人をたすける

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「……うん…?」


 微かな冷気が頬を撫でる。その感触で目が覚めた。
 思わず眉間に皺を寄せて起き上がり、寝惚け眼で辺りをぽーっと見渡す。

 石造りの暗い部屋の中。まるで地下牢みたいな密室には物が一切置かれていなくて、扉が一つある以外は窓も何もない。唯一、扉の横に掛けられた蝋燭の灯が辛うじて視界を支えていた。
 何だ夢かぁと納得しかけて、すぐにはっとして首をぶんぶん横に振る。違う、これは夢じゃない。
 ハーフパンツから覗く足を撫でる冷気も、触れた石造りの地面の感触も、全て夢とは思えないほどリアルなものだ。

 体に掛けられていたふかふかもふもふの毛布を取ると、たちまち寒気が走ってぷるぷると震えが止まらなくなる。
 毛布で体を包み直すと、最上級のふかふか生地に包まれてすぐに体がぽかぽかと暖まってきた。

 段々と状況を理解し始めてゆっくりと目を見開き、やがて勢いよくバッ!と立ち上がった。


「どこ…?ルル…シモン…?」


 眠っている間に一体何があったのか。
 まさか、ここに来るまでに奇襲にでもあったのだろうか。ルルとシモンも捕まって、僕とは別の場所に監禁されているのだろうか。

 なんて、転移を使った公爵家から魔塔への直接移動だったことをすっかり忘れた僕は、奇襲の可能性を予想して青褪めたままぐるぐると考え込んだ。
 どうすれば良いのだろう。ルルとシモンを探しに行くべき…?探して、救出しに行くべきだろうか…?でも、僕が行ったところで敵に勝てるとは思えない…。

 どうしようどうしようと悩んでいると、不意に扉がガチャリと開かれた。


「っ……!」

「目が覚めたんだね!体に痛いところはないかな?怪我してないかな?」

「っ……?」


 奇襲を仕掛けた犯人か、と身構えて待つと、入って来たのは予想とは全く逸れた格好をした仮面の男性だった。

 それもピエロのような不気味な仮面ではなく、にっこりと笑うにこちゃんの仮面だ。
 怖がらせようと言う意図が全く感じられないけれど、大丈夫だろうか。にこちゃん、かわいいけど。大丈夫だろうか。
 顔以外を全て覆い隠すローブも、ところどころにくまさんやうさぎさんのアップリケが貼られていて全く怖くない。くまさんもうさぎさんもとってもかわいい。

 はてなを沢山浮かべる僕の前まで来ると、にこちゃんは抱えていた箱を横に置き、礼儀正しく正座をして視線を合わせようとしてくれた。
 流石に正座をしている人の前で立つのは憚られたので、困惑しながらも僕もしおしおと正座する。


「あの…ここどこ…?シモンは…ルルは…?」

「きちんと説明するから安心してね!……じゃない!…えぇっと…こほんっ!」


 なんだか優しそうな人だ、と安心したのも束の間。にこちゃんは慌てた様子で咳ばらいをして、明らかに声をわざと低くし始めた。


「お…お前の大事な侍従と魔術師は、俺たちが預かった!」

「なっ…!なに…!ふたりになにをする気…!?」


 シモンとルルが預けられてしまった…!
 この人は…いや、この人たちは一体何者なのか。一体二人に何をするつもりなのか。
 酷いことをするつもりなら許さないぞ、ぐぬぬ…と睨むと、にこちゃんは「ぐはっ!!」と呻いて軽く蹲った。
 正直、ずっとにこにこしているから脅すような口調で話されてもあまり怖くない。

 やがて復活したにこちゃんは、はぁはぁとした息切れを直して話の続きを再開した。大丈夫?まだ休んでなくても平気かな。


「二人を返してほしくば、今から言ういくつかの勝負に勝ってみせろ!全て突破出来れば二人を返し、お前のことも解放してやろう…」

「勝負?かてば、二人助かる?一緒にかいほーしてくれる?」

「あぁもちろん解放してやる。俺達は約束は破らない!」

「おー!」


 やるやる!はいはい!と手を挙げると、にこちゃんはすかさず僕の動きを手で制して「待ちたまえ」とかっこよく首を振った。
 にこちゃんだから、顔はずっとにこにこのままなのが少しシュールだけれど。


「勝負なに?なにすればいい?」

「今から説明するから暫し待て!……ちょっと待ってね、わかりやすいように紙芝居作ってきたんだ。魔塔主も…いや間違えた。うちのボスも、子供相手だからなるべく分かり易いようにって言ってたからさ」

「そうなの?ぼす、やさしい」


 ごそごそと箱の中から厚い紙を取り出すにこちゃん。時折キャラが変わるのは一体何なのだろう。

 それにしても、説明のためにわざわざ紙芝居まで用意してくれるなんて、ボスは優しいなぁ。本当は良い人なのかな、なんてそわそわ思って更に緊張感が無くなってしまう。


「よし、準備完了だ!一度しかルール説明してやらないからよーく見てよーく聞け!……最後に分からなかったところの質問タイム挟むから、気を張らないでリラックスしてみてね」

「わかった」


 こくりと頷く。始まった紙芝居をじーっと見つめ、しっかり一度で見て聞こうと集中を始めた。


「時は約一時間前!俺達は金目の物を持っていそうなお前たちを見つけ、アジトに拉致した!」


 あ、そこから話してくれるんだ。やさしい。
 そうだ。僕は眠っている間のことを何も知らないから、正直途中から説明されても理解が追い付かない。最初からきちんと説明してくれる配慮にはとても安心だ、ありがとう。


「そして侍従と魔術師を適当にぐるぐる巻きにしたあと、一番弱そうなお前を別室に閉じ込めた!」


 縄でぐるぐる巻きにされる二人が紙に描かれている。
 なんだか二人ともすごく弱そうに見えるけれど、こんなに簡単にぐるぐる巻きにされてしまうほどの実力だったかな…あの二人。特にシモン。

 でも、実際にこうなっているのなら大変だ。あわあわと焦る気持ちのまま、僕はにこちゃんに涙目で訴えた。


「まって…!二人はほんとにぶじ…?声ききたい…」

「ぐっ…!!ま…まぁ、声を聞くだけなら許してやろう…」


 あ、やっぱり優しい。言えば意外とどんなことでも許してくれそうだ。


「こんな事もあろうかと、奴らの声をリアルタイムで録音しているものがこちらだ!」

「おお…!」


 すごい。用意周到だ。
 まるで僕がこう訴えると予想していたかのような周到さだ。


「でも…おたかいのでしょ?」

「ところがどっこい!今なら完全無料で聞けるぞ!!」

「おー!」


 ぱちぱちと拍手する。なんだろう、この状況を楽しんでしまっている自分がいる。

 しっかりしないと。たった今、大切なシモンもルルもこの人たちに囚われているという状況。
 これを打開できるのは僕しかいない。ぽわぽわしていないで、今こそしっかりしたお兄さんの僕を発揮する時だ。

 わくわく、そわそわと体を揺らす僕に何やら魔道具を掲げたにこちゃんは、それを使って現在の会話を再生した。


『──本当に…危険な事はさせないと誓えるんでしょうね?』

『──もう何度も誓ったじゃないか。そろそろ信用してくれても』

『──いや無理でしょ。まず第一印象が最悪過ぎますし。急に眠らせるとか普通に敵かと思いましたよ』

『──と…とにかく!ちょっと"確かめたい事"があるだけだから!台本通りにしてくれればあの子にもすぐネタ晴らしするから!』


 ぶちっ。


 静かに二人の会話を聞いていると、突然にこちゃんがそれをぶちっと切ってしまった。
 もう終わり…?と悲しくなって顔を上げる。視線の先では、何故か"やっべ"みたいな空気を醸し出したにこちゃんがぷるぷる震えていた。
 心なしか、仮面にも大量の冷や汗が流れているような気がする。

 どうしたのだろうと首を傾げる。
 にこちゃんは懐中時計をちらりと確認して「二十秒早かったか…」とぶつぶつ呟き、仕切り直すように魔道具を掲げた。


「今のは違うやつだ!今からがお前の大切な侍従と魔術師の音声だ!」

「…?…さっきの、シモンとルル、ちがう?」

「さっきのはお前の仲間ではない!お前の仲間に良く似た声の俺の仲間だ!!」


 そ、そんな…誰が聞いてもシモンとルルの声だったと思うけれど…。
 いや、でも、僕の耳がおかしかったという可能性も否めない。もう一度ちゃんと聞こう、と新たな魔道具に耳を澄ませる。
 その魔道具から流れてきた声は、確かにシモンのものだった。さっきの声と、全く変わらないような…。


『わーどうしましょう。あくのそしきにつかまってしまいましたー』


 何だかやけに棒読みのシモンの声。全く怖がっているように聞こえないけれど…って、いやいや。
 悪の組織に捕まってしまったと言っているじゃないか、きっととっても怖くてがくがく震えているに違いない。


『だれかー、たすけてくださいー。おれをたすけてくれるかっこいいおにいさん、たすけてくださいー』

「……!!」


 シモンが助けを求めている。
 かっこいいお兄さんがかっこよく助けに行けば、とってもかっこいいと言っている。

 これは、これは…行くしかない!


「……こんな棒読み演技に騙されてくれるわけ……」

「僕、たすける!シモンとルル助ける!かっこいいお兄さんになる!」

「えっ、うそ、チョロ……」


 どどん!と宣言して立ち上がる。両拳をぐっと天に上げて覚悟を決め、にこちゃんをむっと見下ろした。


「勝負する。ぜったい勝つの。僕がふたりを助けるの」

「ぐっ…なんて健気ないい子……じゃない…!ふんっ!勝てるものなら勝ってみろ!!」


 ハーハッハー!と高笑いしながら箱の中の厚紙をかき集めるにこちゃん。
 トントン、と横や縦を揃えて正座すると、またもやキャラがぶれぶれになり始めた。


「ではルール説明を再開する!!……あっ、無理に正座しなくてもいいからね。足痺れちゃうからね」

「わかった」


 こくりと頷いて、にこちゃんの前にすとんと座る。
 そわそわと揺れながら、救出作戦実行のためのルール説明を真剣に聞くことにした。

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