127 / 400
攻略対象file5:狡猾な魔塔主
137.フェリアルの任務代行
しおりを挟む僕の堂々宣言からすぐに魔塔へ手紙を送ると、驚くことに返答の手紙はその日の夜のうちに届いた。まるで僕が手紙を送るのを待っていたみたいなお返しの速度だ。
物理的にただ送るだけじゃ今日中には間に合わないだろうから、何か魔法でも使ったのだろう。まさか手紙を届ける為だけに高度な転移魔術を使ったわけもないし…ない、よね?
シュタイン伯爵は既に帰ったことになっているけれど、ローズはどこから情報を嗅ぎ付けたのか手紙が届いた瞬間公爵邸に戻って来た。
来たというより僕の自室のバルコニーからの堂々とした侵入だけれど、今となってはローズだからまぁいいかなんて思っている。
実際、バルコニーから侵入出来る人間はローズくらいだろうから。それもあって不安が薄れているのかもしれない。
そんなローズとシモンに、面会了承の手紙をどやぁと掲げたのがつい数秒前のこと。
別の使用人に渡された手紙をシモンにも内緒にしていたから、深夜も近くなった今ようやくお披露目出来たことにどや顔が収まらない。
二人はぎょっと目を見開いて、そんなまさかと僕の手から手紙を取って覗き込んだ。
「まさか…あの変人魔塔主が本当に面会を受け入れるなんて…」
「あの偏屈ジジイ、どうやら相当フェリアルを気に入っているらしいな」
二人並んで手紙をじっと読むシモンとローズ。
どやどや、どやぁ。ふふんと胸を張る僕を振り返ると、二人は平伏する勢いで膝をついてうりうり抱き締めてきた。
「ん、む…?」
「どや顔フェリアル様尊い…かわいい…」
「子供は何をしても可愛く見えるものなんだな。いや…もしやフェリアルだけか?」
よくわからないけれど、あったかいのが嬉しかったのでぎゅーっと抱き締め返してみる。
流石に二人分のぽかぽかをもらうと少しだけ熱くて、苦しくて、うーっと顔を真っ赤にして呻き始めたところで慌てた様子の二人に解放された。
はふはふと息をする僕に更に悶えるシモンと静かに動かなくなるローズ…深夜てんしょん、と言うのだろうか。二人のリアクションが昼より大袈裟な気がする。
「二人とも。信じた?僕すごい、かしこい、えらい。信じた?」
「あぁ信じた。疑った俺が馬鹿だったな、フェリアルは正真正銘凄い子だ」
「俺は初めから信じてましたよ!微塵も疑ってませんでしたよ!!」
ぱたぱたと腕を振って問うと、二人ともうんうんと頷いて認めてくれた。
あの日僕は確かに魔塔主様を助けたのだ、それから攻略対象者の次期魔塔主も。ゲームの内容は覚えているけれど、現実は如何せん昔のことなので記憶が曖昧だ。
そういえば現実の攻略対象者は、どんな人だったっけ。
「手紙には明日の朝に迎えを寄越すと書いてあったな。……ん?おい侍従、この妙な文章が読めるか」
「え?……いやこれ、普通の文章じゃないですか。あなた宛みたいですし、現実から逃避してないで向き合ってください」
妙な文章なんてあったかな、と二人の下でぴょんぴょん跳ねる。みせてみせてと体全体で伝えると、気付いた二人はふわふわと穏やかに目を細めて目線の高さまでしゃがみこんでくれた。
向けられた手紙をもう一度読んでみる。確かに一番下の行に小さく、注意書きみたいな文章が書かれていた。
「"暗殺者は魔塔への立ち入りを禁ず"……?」
「まぁ確かに、暗殺者を懐に招こうなんて人間は居ませんよね。普通に怖いですし」
「待て。まずどうして俺の正体がバレている」
暗殺者を受け入れない…つまり、ローズは来ちゃダメってことだろうか。
何だかこちらの現状を見透かされているみたいで少し怖い。僕が暗殺者と関わっているのも、ローズが暗殺者であることも、魔塔主様には全部お見通しみたいだ。
魔塔主に送った手紙には、同行者に侍従のシモンとシュタイン伯爵の名を書いた。
暗殺者と明記している辺り、魔塔主様はシュタイン伯爵が暗殺者であることを確実に知っているのだろう。
「俺が行けないなら意味が無いじゃないか」
「確かに。これそもそもあなたの用事ですしね」
「むむむ…」
これは予想外の事態である。
僕の名前で手紙を送ったはいいものの、僕自身には特に用事がない。元々ローズを魔塔に入れるための作戦だったし…。
けれどこちらが行きたい、会いたいと手紙を出しておいて、やっぱり行きませんなんて言うのは流石に失礼が過ぎる。
ローズが行けないとしても、僕が行くことはもう確定なわけで…それなら、とあることを思い付いた。
「ローズの任務、僕が代わりにすいこーする!」
「何…?お前が任務を遂行するだと?」
ばばん、と宣言する。
おー!とシモンがぱちぱち拍手する横で、ローズは不安そうに眉を顰めた。
「……お前のことだ、どうせ口を滑らせて自爆…自白してしまうだろう」
「あ、なんか分かります。フェリアル様なら面会早々"任務を遂行しにきた!"とか言いそうですよね、かわいい」
「いわないもん…お口ちゃっくするもん…」
そんなにおバカさんじゃないよ、と唇を尖らせて拗ねていることを訴える。
僕は今拗ねている、ぷくっとなってる。むすっとなっているんだよと表情全体で訴えると、シモンは「ぐはっ!!」と呻いて蹲った。
シモンと同じように、何やら悶えてぷるぷる震えていたローズ。やがて通常の無表情を戻すと、僕の頭をぽんと撫でて呟いた。
「……分かった、良いだろう。お前に任務を与える」
「……!にんむ!」
「あぁ。だが口頭ではお前の小さな頭からすっぽ抜けてしまう可能性が高い。俺がリストにして紙を持たせてやろう」
「りすと!」
ポケットからスッとメモ帳のようなものを取り出して、スラスラと箇条書きで何かを書き始めるローズ。
ビリッと破いたそれを手渡され、わくわくと覗き込む。その紙の一番上には『最重要任務』と書かれていて、更にわくわくが跳ね上がった。
きらきらと瞳を輝かせる僕の傍らで、シモンが不意に揶揄うような笑みをローズに向けた。
「何だかんだ言って面倒見良いですよね。フェリアル様が任務を遂行出来なかったらどうするんです?任務失敗を告げたらディラン様に殺されるのでは?」
「問題無い。その場合の切り札として、確実に失敗を見逃して貰える物を用意している。フェリアルが兄の為に怒りを顕にした例の件、全て魔道具で録音済みだ」
「いつの間に…!?」
「取引材料としては不足ないだろう」
「寧ろそっちの方が需要高いのでは…って言うか俺にもそれ売ってください」
何やらコソコソと内緒話をする二人。
きょとんと様子を窺っていると、やがて二人は重要な交渉を成立させた後みたいにガシッと熱い握手を交わして深く頷いた。一体何が通じ合ったのだろうか。
210
お気に入りに追加
13,343
あなたにおすすめの小説
気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話
上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。
と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。
動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。
通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました
綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜
【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】
*真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息
「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」
婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。
(……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!)
悪役令息、ダリル・コッドは知っている。
この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。
ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。
最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。
そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。
そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。
(もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!)
学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。
そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……――
元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。