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攻略対象file5:狡猾な魔塔主

137.フェリアルの任務代行

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 僕の堂々宣言からすぐに魔塔へ手紙を送ると、驚くことに返答の手紙はその日の夜のうちに届いた。まるで僕が手紙を送るのを待っていたみたいなお返しの速度だ。
 物理的にただ送るだけじゃ今日中には間に合わないだろうから、何か魔法でも使ったのだろう。まさか手紙を届ける為だけに高度な転移魔術を使ったわけもないし…ない、よね?

 シュタイン伯爵は既に帰ったことになっているけれど、ローズはどこから情報を嗅ぎ付けたのか手紙が届いた瞬間公爵邸に戻って来た。
 来たというより僕の自室のバルコニーからの堂々とした侵入だけれど、今となってはローズだからまぁいいかなんて思っている。
 実際、バルコニーから侵入出来る人間はローズくらいだろうから。それもあって不安が薄れているのかもしれない。

 そんなローズとシモンに、面会了承の手紙をどやぁと掲げたのがつい数秒前のこと。
 別の使用人に渡された手紙をシモンにも内緒にしていたから、深夜も近くなった今ようやくお披露目出来たことにどや顔が収まらない。

 二人はぎょっと目を見開いて、そんなまさかと僕の手から手紙を取って覗き込んだ。


「まさか…あの変人魔塔主が本当に面会を受け入れるなんて…」

「あの偏屈ジジイ、どうやら相当フェリアルを気に入っているらしいな」


 二人並んで手紙をじっと読むシモンとローズ。
 どやどや、どやぁ。ふふんと胸を張る僕を振り返ると、二人は平伏する勢いで膝をついてうりうり抱き締めてきた。


「ん、む…?」

「どや顔フェリアル様尊い…かわいい…」

「子供は何をしても可愛く見えるものなんだな。いや…もしやフェリアルだけか?」


 よくわからないけれど、あったかいのが嬉しかったのでぎゅーっと抱き締め返してみる。
 流石に二人分のぽかぽかをもらうと少しだけ熱くて、苦しくて、うーっと顔を真っ赤にして呻き始めたところで慌てた様子の二人に解放された。

 はふはふと息をする僕に更に悶えるシモンと静かに動かなくなるローズ…深夜てんしょん、と言うのだろうか。二人のリアクションが昼より大袈裟な気がする。


「二人とも。信じた?僕すごい、かしこい、えらい。信じた?」

「あぁ信じた。疑った俺が馬鹿だったな、フェリアルは正真正銘凄い子だ」

「俺は初めから信じてましたよ!微塵も疑ってませんでしたよ!!」


 ぱたぱたと腕を振って問うと、二人ともうんうんと頷いて認めてくれた。
 あの日僕は確かに魔塔主様を助けたのだ、それから攻略対象者の次期魔塔主も。ゲームの内容は覚えているけれど、現実は如何せん昔のことなので記憶が曖昧だ。

 そういえば現実の攻略対象者は、どんな人だったっけ。


「手紙には明日の朝に迎えを寄越すと書いてあったな。……ん?おい侍従、この妙な文章が読めるか」

「え?……いやこれ、普通の文章じゃないですか。あなた宛みたいですし、現実から逃避してないで向き合ってください」


 妙な文章なんてあったかな、と二人の下でぴょんぴょん跳ねる。みせてみせてと体全体で伝えると、気付いた二人はふわふわと穏やかに目を細めて目線の高さまでしゃがみこんでくれた。

 向けられた手紙をもう一度読んでみる。確かに一番下の行に小さく、注意書きみたいな文章が書かれていた。


「"暗殺者は魔塔への立ち入りを禁ず"……?」

「まぁ確かに、暗殺者を懐に招こうなんて人間は居ませんよね。普通に怖いですし」

「待て。まずどうして俺の正体がバレている」


 暗殺者を受け入れない…つまり、ローズは来ちゃダメってことだろうか。
 何だかこちらの現状を見透かされているみたいで少し怖い。僕が暗殺者と関わっているのも、ローズが暗殺者であることも、魔塔主様には全部お見通しみたいだ。

 魔塔主に送った手紙には、同行者に侍従のシモンとシュタイン伯爵の名を書いた。
 暗殺者と明記している辺り、魔塔主様はシュタイン伯爵が暗殺者であることを確実に知っているのだろう。


「俺が行けないなら意味が無いじゃないか」

「確かに。これそもそもあなたの用事ですしね」

「むむむ…」


 これは予想外の事態である。
 僕の名前で手紙を送ったはいいものの、僕自身には特に用事がない。元々ローズを魔塔に入れるための作戦だったし…。

 けれどこちらが行きたい、会いたいと手紙を出しておいて、やっぱり行きませんなんて言うのは流石に失礼が過ぎる。
 ローズが行けないとしても、僕が行くことはもう確定なわけで…それなら、とあることを思い付いた。


「ローズの任務、僕が代わりにすいこーする!」

「何…?お前が任務を遂行するだと?」


 ばばん、と宣言する。
 おー!とシモンがぱちぱち拍手する横で、ローズは不安そうに眉を顰めた。


「……お前のことだ、どうせ口を滑らせて自爆…自白してしまうだろう」

「あ、なんか分かります。フェリアル様なら面会早々"任務を遂行しにきた!"とか言いそうですよね、かわいい」

「いわないもん…お口ちゃっくするもん…」


 そんなにおバカさんじゃないよ、と唇を尖らせて拗ねていることを訴える。
 僕は今拗ねている、ぷくっとなってる。むすっとなっているんだよと表情全体で訴えると、シモンは「ぐはっ!!」と呻いて蹲った。

 シモンと同じように、何やら悶えてぷるぷる震えていたローズ。やがて通常の無表情を戻すと、僕の頭をぽんと撫でて呟いた。


「……分かった、良いだろう。お前に任務を与える」

「……!にんむ!」

「あぁ。だが口頭ではお前の小さな頭からすっぽ抜けてしまう可能性が高い。俺がリストにして紙を持たせてやろう」

「りすと!」


 ポケットからスッとメモ帳のようなものを取り出して、スラスラと箇条書きで何かを書き始めるローズ。
 ビリッと破いたそれを手渡され、わくわくと覗き込む。その紙の一番上には『最重要任務』と書かれていて、更にわくわくが跳ね上がった。

 きらきらと瞳を輝かせる僕の傍らで、シモンが不意に揶揄うような笑みをローズに向けた。


「何だかんだ言って面倒見良いですよね。フェリアル様が任務を遂行出来なかったらどうするんです?任務失敗を告げたらディラン様に殺されるのでは?」

「問題無い。その場合の切り札として、確実に失敗を見逃して貰える物を用意している。フェリアルが兄の為に怒りを顕にした例の件、全て魔道具で録音済みだ」

「いつの間に…!?」

「取引材料としては不足ないだろう」

「寧ろそっちの方が需要高いのでは…って言うか俺にもそれ売ってください」


 何やらコソコソと内緒話をする二人。
 きょとんと様子を窺っていると、やがて二人は重要な交渉を成立させた後みたいにガシッと熱い握手を交わして深く頷いた。一体何が通じ合ったのだろうか。

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