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攻略対象file4:最恐の暗殺者

97.フェリアルの伴侶

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「ライネス、かっこいい…!」


 キラキラという効果音が聞こえてきそうな程の輝き。
 藍色に近い檳榔子黒の正装には、所々金色の刺繍が施されている。全体的な色合いとデザインは僕が着ているものとほぼ同じ。まるでお揃いみたいな格好に嬉しくなって、思わずとたとたと駆け寄った。


「すてき、ライネスとってもすてき…!」

「ッぐ!!いつにも増して破壊力が…ッ!」


 ぎゅーっと抱き着いてお腹に顔を埋めると、頭上からぐふっとした呻き声が聞こえてくる。苦しかったな…と慌てて離れようとすると、ライネスはひょいっと僕を持ち上げて全身を隈なく眺め始めた。


「……やっぱり黒にして正解だった。エロ…こほんっ、とってもカッコいい!」

「ほんと?僕、かっこいい?」

「うんうん!すーっごくカッコいいよ!今日の舞踏会、フェリのカッコよさを超える人間は現れないだろうね」


 ぱあぁっと表情が輝く。いつもは小さいだとか可愛いだとか不服な言葉を投げかけられる僕だけれど、今日はそんなにかっこいいのか。うれしい、そわそわ。

 抱っこされるともっとかっこよくなるって以前教わったから、更なるかっこいいを求めてライネスをぎゅっと抱き締める。うりうりと首元に頬擦りすると、あまりのカッコよさに萎縮したのかライネスが天を仰いで深呼吸し始めた。


「下界に天使を産んでくれたこの世の全てに感謝…ありがとう世界…」


 何だかライネスの様子がおかしい。大丈夫かなとつんつんすると、ライネスはすんっと満面の笑みで顔を戻した。


「そういえばフェリ。さっきの話、第二皇子と結婚するって…一体何のこと?フェリって、第二皇子と接点あったっけ」


 不意に問われたのは、ついさっきまでシモンと話していた内容について。
 この尋ね方から察するに、どうやらライネスは僕が第二皇子と結婚したがっていると誤解しているらしい。実際は接点なんてないし、第二皇子の姿さえ知らない。結婚なんてありえないのに。

 慌ててふるふると首を横に振ると、ライネスの完璧すぎるほど爽やかな笑顔がほんの少しだけ和らいだ。


「ちがうの。シモンとね、せーじてきないとについて話してたの」

「せーじてき…?あぁ、政治的な意図か。なるほど。フェリは招待状の意図を知らなかったんだね」

「う…だ、だって…ただ、あそびにきてねって意味かと…」

「うんうん。そうだよね、良いんだよフェリは大人の汚い策謀なんて知らなくて。そんな意図、知ってても応える必要無いんだから」


 そうなの…?とぱちぱち瞬く。ライネスは当然と言わんばかりに深く頷いた。シモンもぶんぶんっと頷いているのを見るに、本当に応える必要はないらしい。


「でも、大人になったらせーりゃく結婚、することになるんじゃ…」


 僕として大人になる未来は無いだろうけれど。そんな後ろ向きな思考が過ぎった瞬間、ライネスが強い意志の籠った瞳で答えた。



「何言ってるのフェリ。フェリが不幸になるような未来は私が許さないよ」



 それはともすれば、決められた運命に向けた宣戦布告のようにも聞こえて。だからだろうか、形容の難しい感情が勢いよく湧き上がってどうしようもなかった。


「僕が、不幸になる未来…?」

「そんなものは絶対に訪れないよ。フェリは自由に生きて、好きな人と結ばれる。そうじゃないと許さない」


 未来という言葉を聞くのが辛い。それは僕では辿り着けないものだから。
 僕は所詮何処まで行ったってフェリアルになれない。けれど、ゲームとは違う皆の絆や愛情が、僕という存在に向けられている事実は痛いほど自覚している。今までの人生でゆっくりと自覚していった。
 だからこそ余計に辛い。でも、すごく嬉しいのも本当だ。

 僕を心から想ってくれる人がいる。愛してくれる人がいる。もうそれだけで十分だなんて、そんな物分かりの良い言葉を並べたって堪え切れない。
 本当は、大切な人達とずっと一緒にいたい。


 悪役だって、ハッピーエンドのその先に行ってみたい。
 そんな子供じみた我儘を、思うだけなら世界も僕を許してくれるだろうか。


「うん…うん。せーりゃく結婚はしない。好きな人と一緒になる」


 ふにゃりと緩く微笑む。ライネスは満足げに頷いて、分かればよろしいと笑顔を浮かべた。


「…でも、好きな人いつ会える?すてきな人と、はんりょになれるかな」


 考えると何だか照れくさくてぽっと頬を染める。そんな僕を見たライネスはピシッと石像みたいに固まって、かと思うと「何だろう…何だか落ち着かない…」と小さく呟いた。

 僕を片腕で抱き上げて、もう片方を自分の心臓の辺りに添えるライネス。何やら鼓動がざわざわするみたいで、訝し気に首を傾げていた。
 大丈夫?と眉を下げると、ライネスはハッとした様子で笑顔を作る。一瞬いつもの余裕が消え失せたように感じて気になったけれど、瞬きの後はいつものライネスに戻っていたからまぁいいかと結論付けた。


「そうだなぁ…好きな人とか運命の人って、案外近くにいるものらしいよ」

「近く…?そばに、僕のはんりょがいる?」


 ふとライネスが意味深に語った言葉に瞬いた。どうやら僕の好きな人は、もうすぐ近くにいるらしい。

 そう思うと途端にそわそわしてきて、近くにいる人といえば…と思考を巡らせる。何やら期待の籠った視線を向けてくるライネスにきょとんとしながら考えて、やがてある答えに辿り着いた。

 そうだ。僕の一番近くにいて、いつも一緒にいる人。それは一人しかいない…!



「……。…えっ、俺ですか!?」



 ばっ!と振り向いてきらきらした瞳を向けると、視線の先の人物…シモンが数秒遅れて大きく目を見開いた。


「シモン、いちばん近くにいる人。僕のはんりょ!」

「え、えっ、光栄すぎるんですがそれは…!?」

「僕のおよめさん」

「あっ、そっち!?俺そっちでしたか!いや、フェリアル様が望むなら解釈違いも喜んで受け入れますけどね!」


 でもそっちか…そっかぁ…いや待て、意外とイケる…?とあたふた呟くシモン。
 あれ?近くに運命の人がいるならシモンに違いないと思ったけれど、何だかあまり嬉しくなさそうだ。シモンじゃなかったのかな、僕の伴侶。


「思ってたのと違う…っ」

「…?ライネス、どうかした?」

「ううん何でもないよ。ちょっと想定外に混乱しているだけ」


 ぐぬぬと呻きだしたライネスが気になって見上げると、少し歪んだそれは直ぐにすんっと笑顔を取り戻して首を振る。様子が何だかおかしい気がしたけれど、どうやら気のせいだったらしい。


「フェリ…私もせめて候補に浮かぶくらいにはなれるように頑張るから!私のことも忘れないでね!」

「…?うん。忘れない」


 突然どうしたのだろう、僕がライネスのことを忘れるはずないのに。
 悶々とぶつぶつ独り言を呟くシモンと何やら瞳に決意を宿すライネス。これから重大任務があるのに大丈夫かな…と不安になりながら、早く行こうと二人を促した。


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