余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓

文字の大きさ
上 下
34 / 397
攻略対象file3:冷酷な大公子

55.双子とお別れ

しおりを挟む
 

「ディラン兄様、ガイゼル兄様。もう時間が」

「分かっている。あと五分」

「ディラン兄様。五分まえも、同じこと言ってた」

「行きたくねぇ…校舎爆発しろ…」

「ガイゼル兄様。そんなこといっちゃ、だめ」


 両サイドからぎゅうっと抱きついてくる兄様達。この状態になってかれこれ二十分が経過している。

 正門の前に待機している馬車に視線を向けて、そわそわと時間を確認する御者さんに眉を下げた。何だか物凄く気を遣わせてしまっている。
 御者さんだけではない。学園へ向かう兄様達の護衛をする騎士達や、お見送りに来ているお父様達。皆が兄様達に切実そうな瞳を向けていた。遅刻するかもしれないから早く行ってほしい、という言葉を強くは言えないのだろう。

 公爵邸から学園まではかなり距離があるから、本来ならもっと早く出発しなければならない。けれど兄様達は早朝の出発を決して譲らなかった。
 ディラン兄様曰く「フェリの睡眠を邪魔する訳にはいかないだろ」とのこと。僕の見送りが無いのなら行かないと宣言した結果、お父様が渋々早朝の出発を認めたらしい。


「フェリ、長期休暇は必ず帰って来る」

「変な奴と仲良くなるなよ?チビ」


 名残惜しそうに体を離しながら、兄様達は僕の頭を撫で回してそう語る。
 それにしっかりと頷いて「任せてください」と胸を叩くと、二人は眉を下げて「心配だ…」と呟いた。どうして。変な人に関わらないという約束事くらい簡単に守れるに決まっている。

 他にもいくつか約束と心配事を聞いて、それら全てにこくこくと頷いた。
 言われなくとも知らない人には着いていかないし、僕はもうお兄さんだから、悪夢を見て兄様達のベッドに潜り込むようなこともしない。そんなに心配しなくても大丈夫だ。
 兄様達こそ知らない人には着いて行ってはだめ、ということを伝えると、二人は何故か苦笑しながら頷いた。


「お前達、そろそろ時間だぞ」


 不意に背後からお父様が歩み寄ってくる。流石に痺れを切らしたのか、懐中時計をチラリと見下ろしながらの笑顔の発言だ。
 そろそろと言っているけれど、本音はとっくに時間が過ぎているということを言いたいのだろう。

 お父様の言葉を聞いて見るからに表情を沈めた兄様達だったけれど、僕が「頑張ってください」と応援すると少し瞳に光が戻った。


「フェリ…」

「チビ…」


 僕を呼びながらチラリと何度も振り返る。その繰り返しでようやく馬車に乗り込んだ二人を見届け、騎士の一人がほっとしたような清々しい表情で扉を閉めた。
 やっと出発出来る、と安堵しているのだろうか。


「フェリ。兄様が居なくても本当に大丈夫なのか?」

「チビ!やっぱ不安なんじゃねぇのか!?俺らマジで行っちまうぞ良いのか!?」


 馬車の窓から大きく叫ぶ二人。
 お父様の「不安なのはお前達だろう…」という小さな呟きに苦笑しつつ、兄様達に「大丈夫です」と手を振って返した。

 それ以外にも何やら叫んでたけれど、馬車が問答無用で出発したことでその声も徐々に遠くなる。
 慌てて振る手を大きくし、小さくなっていく馬車を完全に見えなくなるまで見送った。

 手を下ろすと同時に堪えていた衝動がぶわっと湧き上がって、一気に視界を滲ませる。唇を引き結んでそれに耐えていると、近付いてきたお父様に優しく抱き上げられた。


「フェリアル」

「…、……」

「寂しいか?」


 ぽんぽん、と髪を梳くように撫でてくる大きな手。お父様の肩に顔を埋めて擦り寄ると、抱擁は更に力を増した。


「……だいじょぶ…です…」


 震える声でそう返すと、お父様は柔らかく微笑んで「そうか」と頷いた。




 * * *




「フェリアル様。やっぱり寂しいんでしょう?」


 兄様達が出発して直ぐ、僕は自室に引き篭ってソファに蹲った。ウサくんをぎゅうっと抱き締めて。
 そんな僕を見て苦笑したシモンがそう語る。認めてしまえば更に寂しさが募ってしまうから、寂しくなんかないと首を振った。

 するとシモンの足音が近付いてきて、何だろうと思った瞬間頭をふわりと撫でられる。柔いその仕草に思わず顔を上げると、そこには優しく緩んだシモンの笑顔があった。


「気持ちを紛らわせるには、外出が一番だと良く言いますよ」

「外出、おでかけ…?」


 きょとんと首を傾げると、シモンはにこりと笑って頷く。お出かけと言ってもどこに…と瞬く僕に、その質問を待っていたと言わんばかりにシモンが立ち上がった。

 どこからともなくバッ!と取り出して掲げたのは、日除けに良さそうな麦わら帽子。


「ピクニックに行きましょう!」


 キラキラッと表情を輝かせるシモン。あまりの迫力に思わず帽子を受け取りながら、呆然と瞬いた状態でその言葉を復唱した。


「ぴくにっく?」


 ピクニック…って、あのピクニック…?
 草原にレジャーシートを敷いて、皆で一緒に走り回って遊んだり、隠れんぼしたり、蝶々を見たりして…そしてお昼にはたくさんのお弁当とお菓子を皆と食べる、あのピクニックのこと…?


「……」

「フェリアル様…?」


 俯いたまま何も言わない僕を心配したのか、頭上からシモンの恐る恐ると言ったような声が降ってくる。

 余計なことを言ってしまったかとおろおろするシモンの気配。その様子に頬を緩ませながら、持っていた麦わら帽子を被ってみた。
 ウサくんをぎゅっと抱いたまま立ち上がり、未だ心配そうな表情を崩さないシモンを見上げる。

 シモンは心躍らせる僕のぱあっとした顔を見るなり、沈んでいた表情を嬉しそうに輝かせた。



「いく!ピクニック、いきたい!」



 ピクニック。想像するだけでわくわくが止まらない言葉にぴょんぴょん跳ねる。
 そんな僕の様子を見たシモンは「グハッ」といつもの発作を起こし、苦しそうに胸を抑えた状態で膝をついた。

しおりを挟む
感想 1,700

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

悪役令息を引き継いだら、愛が重めの婚約者が付いてきました

ぽんちゃん
BL
 双子が忌み嫌われる国で生まれたアデル・グランデは、辺鄙な田舎でひっそりと暮らしていた。  そして、双子の兄――アダムは、格上の公爵子息と婚約中。  この婚約が白紙になれば、公爵家と共同事業を始めたグランデ侯爵家はおしまいである。  だが、アダムは自身のメイドと愛を育んでいた。  そこでアダムから、人生を入れ替えないかと持ちかけられることに。  両親にも会いたいアデルは、アダム・グランデとして生きていくことを決めた。  しかし、約束の日に会ったアダムは、体はバキバキに鍛えており、肌はこんがりと日に焼けていた。  幼少期は瓜二つだったが、ベッドで生活していた色白で病弱なアデルとは、あまり似ていなかったのだ。  そのため、化粧でなんとか誤魔化したアデルは、アダムになりきり、両親のために王都へ向かった。  アダムとして平和に暮らしたいアデルだが、婚約者のヴィンセントは塩対応。  初めてのデート(アデルにとって)では、いきなり店前に置き去りにされてしまい――!?  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。  ※ 感想欄はネタバレを含みますので、お気をつけください‼︎(><)

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。