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攻略対象file3:冷酷な大公子
55.双子とお別れ
しおりを挟む「ディラン兄様、ガイゼル兄様。もう時間が」
「分かっている。あと五分」
「ディラン兄様。五分まえも、同じこと言ってた」
「行きたくねぇ…校舎爆発しろ…」
「ガイゼル兄様。そんなこといっちゃ、だめ」
両サイドからぎゅうっと抱きついてくる兄様達。この状態になってかれこれ二十分が経過している。
正門の前に待機している馬車に視線を向けて、そわそわと時間を確認する御者さんに眉を下げた。何だか物凄く気を遣わせてしまっている。
御者さんだけではない。学園へ向かう兄様達の護衛をする騎士達や、お見送りに来ているお父様達。皆が兄様達に切実そうな瞳を向けていた。遅刻するかもしれないから早く行ってほしい、という言葉を強くは言えないのだろう。
公爵邸から学園まではかなり距離があるから、本来ならもっと早く出発しなければならない。けれど兄様達は早朝の出発を決して譲らなかった。
ディラン兄様曰く「フェリの睡眠を邪魔する訳にはいかないだろ」とのこと。僕の見送りが無いのなら行かないと宣言した結果、お父様が渋々早朝の出発を認めたらしい。
「フェリ、長期休暇は必ず帰って来る」
「変な奴と仲良くなるなよ?チビ」
名残惜しそうに体を離しながら、兄様達は僕の頭を撫で回してそう語る。
それにしっかりと頷いて「任せてください」と胸を叩くと、二人は眉を下げて「心配だ…」と呟いた。どうして。変な人に関わらないという約束事くらい簡単に守れるに決まっている。
他にもいくつか約束と心配事を聞いて、それら全てにこくこくと頷いた。
言われなくとも知らない人には着いていかないし、僕はもうお兄さんだから、悪夢を見て兄様達のベッドに潜り込むようなこともしない。そんなに心配しなくても大丈夫だ。
兄様達こそ知らない人には着いて行ってはだめ、ということを伝えると、二人は何故か苦笑しながら頷いた。
「お前達、そろそろ時間だぞ」
不意に背後からお父様が歩み寄ってくる。流石に痺れを切らしたのか、懐中時計をチラリと見下ろしながらの笑顔の発言だ。
そろそろと言っているけれど、本音はとっくに時間が過ぎているということを言いたいのだろう。
お父様の言葉を聞いて見るからに表情を沈めた兄様達だったけれど、僕が「頑張ってください」と応援すると少し瞳に光が戻った。
「フェリ…」
「チビ…」
僕を呼びながらチラリと何度も振り返る。その繰り返しでようやく馬車に乗り込んだ二人を見届け、騎士の一人がほっとしたような清々しい表情で扉を閉めた。
やっと出発出来る、と安堵しているのだろうか。
「フェリ。兄様が居なくても本当に大丈夫なのか?」
「チビ!やっぱ不安なんじゃねぇのか!?俺らマジで行っちまうぞ良いのか!?」
馬車の窓から大きく叫ぶ二人。
お父様の「不安なのはお前達だろう…」という小さな呟きに苦笑しつつ、兄様達に「大丈夫です」と手を振って返した。
それ以外にも何やら叫んでたけれど、馬車が問答無用で出発したことでその声も徐々に遠くなる。
慌てて振る手を大きくし、小さくなっていく馬車を完全に見えなくなるまで見送った。
手を下ろすと同時に堪えていた衝動がぶわっと湧き上がって、一気に視界を滲ませる。唇を引き結んでそれに耐えていると、近付いてきたお父様に優しく抱き上げられた。
「フェリアル」
「…、……」
「寂しいか?」
ぽんぽん、と髪を梳くように撫でてくる大きな手。お父様の肩に顔を埋めて擦り寄ると、抱擁は更に力を増した。
「……だいじょぶ…です…」
震える声でそう返すと、お父様は柔らかく微笑んで「そうか」と頷いた。
* * *
「フェリアル様。やっぱり寂しいんでしょう?」
兄様達が出発して直ぐ、僕は自室に引き篭ってソファに蹲った。ウサくんをぎゅうっと抱き締めて。
そんな僕を見て苦笑したシモンがそう語る。認めてしまえば更に寂しさが募ってしまうから、寂しくなんかないと首を振った。
するとシモンの足音が近付いてきて、何だろうと思った瞬間頭をふわりと撫でられる。柔いその仕草に思わず顔を上げると、そこには優しく緩んだシモンの笑顔があった。
「気持ちを紛らわせるには、外出が一番だと良く言いますよ」
「外出、おでかけ…?」
きょとんと首を傾げると、シモンはにこりと笑って頷く。お出かけと言ってもどこに…と瞬く僕に、その質問を待っていたと言わんばかりにシモンが立ち上がった。
どこからともなくバッ!と取り出して掲げたのは、日除けに良さそうな麦わら帽子。
「ピクニックに行きましょう!」
キラキラッと表情を輝かせるシモン。あまりの迫力に思わず帽子を受け取りながら、呆然と瞬いた状態でその言葉を復唱した。
「ぴくにっく?」
ピクニック…って、あのピクニック…?
草原にレジャーシートを敷いて、皆で一緒に走り回って遊んだり、隠れんぼしたり、蝶々を見たりして…そしてお昼にはたくさんのお弁当とお菓子を皆と食べる、あのピクニックのこと…?
「……」
「フェリアル様…?」
俯いたまま何も言わない僕を心配したのか、頭上からシモンの恐る恐ると言ったような声が降ってくる。
余計なことを言ってしまったかとおろおろするシモンの気配。その様子に頬を緩ませながら、持っていた麦わら帽子を被ってみた。
ウサくんをぎゅっと抱いたまま立ち上がり、未だ心配そうな表情を崩さないシモンを見上げる。
シモンは心躍らせる僕のぱあっとした顔を見るなり、沈んでいた表情を嬉しそうに輝かせた。
「いく!ピクニック、いきたい!」
ピクニック。想像するだけでわくわくが止まらない言葉にぴょんぴょん跳ねる。
そんな僕の様子を見たシモンは「グハッ」といつもの発作を起こし、苦しそうに胸を抑えた状態で膝をついた。
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