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第一章
第三節 奪還の対価は代償と共に2
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--これも、試練なのでしょうか?--
幼き頃の記憶が瞼に映る。それはまだ父が病に伏せていなかった頃の夢。
「見てみよアサギリ!やはりここはエリシュ様の隠れ家だったのだ!」
そこはフォルノーム山……湖畔の精霊アクエラ・エリスの住む湖のある山の山頂付近にある洞窟だった。
「だ、だめですよビキニ様~!バチがあたりますよ~」
決して狭くはない鍾乳洞であった。辺りの壁面はほんのりと湿った岩壁であるが、薄くエメラルドの光沢を放ち辺りを照らす。
自然に出来たものであるにも関わらずそこは虫ひとつおらず、汚れを一切感じさせない。空気に含まれる魔力も柔らかく暖かい。
まだ何も知らない幼子であってもそこが『神聖』であることは本能でわかる。そんな幻想の箱庭であった。
「ふははー!何を言うか!エリシュ様が最近だるいとか腑抜けたことを言うて湖畔から姿を消したのが悪いのだ!きっとこの洞窟に隠れているに違いないぞ!ふははー!」
「うええ~、ここきっとエリス様の聖域ですって~!入ったら誰であってもバチがあたるんですよ~?」
まだ呂律もうまく回らないくらいの幼子が、二人。
白地に透き通る空色のレースをあしらえたドレスを振りつつ少女ビキニはズカズカとほをすすめる。
大人が付けても身に余る大きさの三角帽子に深紫のローブ、さながら古典的な魔女を連想させるぶかぶかの衣装に身を包んだ少女は半べそをかきつつもそのあとを追う。
と、少し進んだ先に小さな湖が見えた。透き通るように不純物のない水の海。覗けば遥か底まで見えるようで、しかし揺蕩う光鱗に溶けて消える。
「はえ~、綺麗な湖~!」
「だめですってば~!」
そこは幻想を箱詰めそのものであった。誰が来てもその光景を見れば心が奪われる。
事実、そこは霊場としてはかなり上級の結界であり、常人であればまず入ることも出来ない程の秘匿の神秘であった。
「いけませんよ姫様。エリス様の祭壇に入るなど不敬にすぎます」
「ふえっ!?」
不意に後方から届いた険のない温和な窘め声。芯の通るも叱る意思のない温かさを含んだ忠告に2人は思わず振り返った。
「げげっ、ミナチュキ!」
ザルツバーク王国守護騎士団団長、ミナツキ=バンへスト。ザルツバーク最強の騎士団長である。ザルツバークの特性上、騎士の価値が他国に比べ格段に低い中での最上位職につくこの青年は、しかしまだ20代後半の顔立ちの割に落ち着きがあり、既に貫禄を見せている。
そんな中で騎士長はやれやれと言った調子で中に入っていく。
「お遊びが過ぎますよ姫様、エリス様は我が国の守護精霊です。あまり姫様の遊びに煩わせてはいけません」
「う、うるしゃいな!これはサボってるエリシュ様を見つけて激を入れるというれっきとしたお仕事なの!ミナチュキはどっかいっててて……ってひゃあっ!」
「姫様!」
スっと慣れた手つきでビキニをお姫様抱っこするミナツキ。すっと反転して出口へと向かう。
「何するんだこのー!あはは!これ楽ー!」
暴れるかと思いきや一瞬で興味がお姫様抱っこに移る姫様。その様子に溜息をつきつつ追従するアサギリに苦い笑顔で騎士長は返す。
「姫様のお相手は大変ですね、マギナ(魔術師)・アサギリ」
「恐れ多いですぅ騎士長様~」
それは毎日どの時でも楽しかったかつての記憶。小さな冒険と探検、様々な好奇の溢れる日々の1ページ。
それを……それをなぜ…………
今になって思い出したのであろう……?
幼き頃の記憶が瞼に映る。それはまだ父が病に伏せていなかった頃の夢。
「見てみよアサギリ!やはりここはエリシュ様の隠れ家だったのだ!」
そこはフォルノーム山……湖畔の精霊アクエラ・エリスの住む湖のある山の山頂付近にある洞窟だった。
「だ、だめですよビキニ様~!バチがあたりますよ~」
決して狭くはない鍾乳洞であった。辺りの壁面はほんのりと湿った岩壁であるが、薄くエメラルドの光沢を放ち辺りを照らす。
自然に出来たものであるにも関わらずそこは虫ひとつおらず、汚れを一切感じさせない。空気に含まれる魔力も柔らかく暖かい。
まだ何も知らない幼子であってもそこが『神聖』であることは本能でわかる。そんな幻想の箱庭であった。
「ふははー!何を言うか!エリシュ様が最近だるいとか腑抜けたことを言うて湖畔から姿を消したのが悪いのだ!きっとこの洞窟に隠れているに違いないぞ!ふははー!」
「うええ~、ここきっとエリス様の聖域ですって~!入ったら誰であってもバチがあたるんですよ~?」
まだ呂律もうまく回らないくらいの幼子が、二人。
白地に透き通る空色のレースをあしらえたドレスを振りつつ少女ビキニはズカズカとほをすすめる。
大人が付けても身に余る大きさの三角帽子に深紫のローブ、さながら古典的な魔女を連想させるぶかぶかの衣装に身を包んだ少女は半べそをかきつつもそのあとを追う。
と、少し進んだ先に小さな湖が見えた。透き通るように不純物のない水の海。覗けば遥か底まで見えるようで、しかし揺蕩う光鱗に溶けて消える。
「はえ~、綺麗な湖~!」
「だめですってば~!」
そこは幻想を箱詰めそのものであった。誰が来てもその光景を見れば心が奪われる。
事実、そこは霊場としてはかなり上級の結界であり、常人であればまず入ることも出来ない程の秘匿の神秘であった。
「いけませんよ姫様。エリス様の祭壇に入るなど不敬にすぎます」
「ふえっ!?」
不意に後方から届いた険のない温和な窘め声。芯の通るも叱る意思のない温かさを含んだ忠告に2人は思わず振り返った。
「げげっ、ミナチュキ!」
ザルツバーク王国守護騎士団団長、ミナツキ=バンへスト。ザルツバーク最強の騎士団長である。ザルツバークの特性上、騎士の価値が他国に比べ格段に低い中での最上位職につくこの青年は、しかしまだ20代後半の顔立ちの割に落ち着きがあり、既に貫禄を見せている。
そんな中で騎士長はやれやれと言った調子で中に入っていく。
「お遊びが過ぎますよ姫様、エリス様は我が国の守護精霊です。あまり姫様の遊びに煩わせてはいけません」
「う、うるしゃいな!これはサボってるエリシュ様を見つけて激を入れるというれっきとしたお仕事なの!ミナチュキはどっかいっててて……ってひゃあっ!」
「姫様!」
スっと慣れた手つきでビキニをお姫様抱っこするミナツキ。すっと反転して出口へと向かう。
「何するんだこのー!あはは!これ楽ー!」
暴れるかと思いきや一瞬で興味がお姫様抱っこに移る姫様。その様子に溜息をつきつつ追従するアサギリに苦い笑顔で騎士長は返す。
「姫様のお相手は大変ですね、マギナ(魔術師)・アサギリ」
「恐れ多いですぅ騎士長様~」
それは毎日どの時でも楽しかったかつての記憶。小さな冒険と探検、様々な好奇の溢れる日々の1ページ。
それを……それをなぜ…………
今になって思い出したのであろう……?
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