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第三十三章-天界での異変-
第250話「死ねば治る病」
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聖天使・結愛を撃破した沙菜。
せっかく天界に来たのだから、ある人物をおちょくってやろうと思い寄り道をしていた。
目当ての人物は、ちょうど試練を一つ終えて建物から出てきたところだった。
「おお、探しましたよ。真面目に転生の試練なんて受けていたんですね、三下のくせに」
「て、てめえは……!」
沙菜が探していたのは、元・第三霊隊副隊長の朝霧大和だ。
彼は沙菜の姿を見て驚愕の表情を浮かべている。
「如月……。なんでこんなところに……。死んではいない……みたいだな……」
「さすがに三下でもそのぐらいは分かりますか」
かなり動揺している大和に対し、沙菜は滑稽とばかりに笑っている。
「まさか最近の戦いは……!」
予想通りというべきか、狙い通りというべきか、大和は、ここのところ天界で発生している戦闘の原因を沙菜が作っているものと勘違いしたようだ。
「これ以上人を殺そうっていうなら、女でも容赦しねえぞ!」
天界で生物を殺すこと――それは魂を完全に消滅させるということを意味する。
しかし、沙菜には誤解を解くより前に言っておきたいことがあった。
「女でも? それはわざわざ口にすることですか?」
「なに……?」
眉をひそめる大和。
沙菜は、今まで大和がどんな風に戦ってきたかを知っている。
「あなたは戦いの度に言っていましたね。『女に手を上げるんじゃねえ』『女に剣は向けられねえ』。女を対等の存在として見ていなかった」
「…………」
自分の価値観の歪みを指摘されて、大和は沈黙した。
「大和!」
こちらの会話を聞いて、駆け寄ってくる少女が一人。
「ほう。四番隊の雑兵ですか」
沙菜が『雑兵』と呼んだのは、元・第四霊隊隊員の水無陽菜だ。
大和の幼馴染であり、客観的に見ると恋人でもあった。
「如月沙菜……! また大和を殺す気!?」
生前は素直になれず大和とケンカばかりしていた陽菜だが、状況が状況だけに剣を構えて大和の横に立った。
「ちょうどいい機会です。あなたにも教えておいてあげましょう。オスがメスを守るなどというのは生物としての本能にすぎません。羅刹として生きるならそんなものに振り回されるべきではない」
語りながら沙菜は陽菜を指差す。
「そこの雑兵が頼りないから守るというならそれでもいい。ただ、女全部をそいつと一緒にしないでもらいましょうか」
人羅戦争において、第四霊隊は男性部隊と女性部隊に分かれて革命軍と戦った。
そのことは陽菜も覚えているだろう。そこにどんな意図があったかも。
第四霊隊の任務では、大抵男性隊員が危険な役割を引き受けることになっていた。
その結果、雷斗の相手は男性隊員が、沙菜の相手は女性隊員がすることになったのだ。
雷斗は大霊極で、沙菜は準霊極。普通に考えれば、沙菜と戦う方が楽だ。
「雑兵、あなたはなんの能もないくせに三下の庇護を受けていましたね。その上、男を尻に敷いていた。本来権利を持つのは価値のある者だけです。あなたには守られる権利も支配する権利もないのですよ」
「…………」
女としての立場に甘えていた事実を突かれて、陽菜も黙ってしまった。
陽菜は大和と共闘する場面でも、特に危険な役回りは大和に任せていたのだ。
「朝霧大和。あなたが悪人だとは言いませんよ」
自身が極悪人でありながら、大和を『悪人ではない』などと評する沙菜。
「あなたはただのバカです。女に都合よく使われていただけなんですよ。卑怯な女どもから救ってやった私に感謝してほしいものですね」
よく世間で『男はバカだ』と言われる。それは大和のような男がいるせいだ。
沙菜は、大和とは違う賢い男性が好きだ。
信仰している雷斗が大和と同じ『男』という枠に入れられるとしたら、その価値観の持ち主を間違いなく殺す。
「お前、オレたちに説教をしにきたのか……?」
ようやく口を開いた大和は、沙菜が天界を訪れた理由を確認する。
「今、天界では聖天使の一部が、浄化されてここに来た喰人種を消滅させようと動いています。私はそれを止めにきました」
「一体なんのために……」
大和の中の沙菜は世界に仇をなす凶悪な殺人鬼だ。
沙菜の狙い通りに思考を誘導されているとすれば、惟月たちを操って世界を滅ぼそうとした、もしくはもう滅ぼしたものと思っているはず。
喰人種であれなんであれ、沙菜が誰かを救おうとしていたら不自然に感じるだろう。
「惟月様のご意向ですよ。喰人種は邪気を帯びていても本人が悪という訳ではない。ちゃんと転生させてやるべきだと」
「待て、惟月様は生きてるのか?」
大和の立場なら、沙菜が惟月を利用した上で殺したものと想像していてもおかしくはない。
「私ごときの力で惟月様を殺せる訳がないじゃないですか。あの戦いは惟月様ご自身が世界をより良くするために仕組んだものですよ。犠牲となった者たちに対する罪悪感はあるようですがね」
大和と沙菜が戦った時のやり取りは次の通り。
『全部、全部、てめえの仕業か!!』
『まさか疑っていたんですか? 惟月様を。とち狂って世界を滅ぼそうとしているとでも? あなたにとって信頼というのはその程度のものなんですかね?』
沙菜は自分が黒幕だなどと一切言っていない。
大和は愕然としている。
無理もないことか。現世で戦った時に真相だと思っていたことがすべて覆されたのだから。
「ま、惟月様も優しいばかりの人ではないということです。しかし、あの時死んだ者は誰一人として地獄に落ちていない。全員天界へと送られてきているでしょう?」
沙菜が邪眼の力を用いて敵を殺せば、その敵を地獄に送ることができる。
それをしないのは、沙菜にも『死後の世界でまで苦しむ必要はない』という慈悲があるからだ。
「そういえば……お前、断劾を使えるんだったか……」
頭の鈍い大和はようやく気付いたらしい。
断劾は慈悲心による浄化の技。邪悪なだけの存在には使うことができない。
「もし……もしも、アタシたちが雷斗様と戦いにいってたら……」
陽菜も口を開いた。
「そう。男性隊員も女性隊員も関係なく雷斗様と戦っていれば、少なくとも私に皆殺しにされることはありませんでしたよ」
沙菜が嫌悪していたのは、女性を弱者と見なす風潮だ。
「三番隊にしても、達兄を虐待していた犯人を素直に差し出して、自分たちは助けてくれと懇願すればよかっただけ。あなたたちの選択ミスが破滅を招いたのですよ」
沙菜は、嫌悪の対象ではない単なる敵が相手であれば命乞いを認める。『逆らう者は皆殺し』が沙菜の信条ではあるが、死にたくなければ死なずに済む方法はあったのだ。
「たつ……、そうか……真田達也か……!」
沙菜の口にした名前に心当たりがあったようで、大和は目を見張る。
「確かに第三霊隊には監獄の管理をする中で囚人に虐待をする奴がいた……。そうか……それで……」
副隊長といえども、隊員すべてを十分監視できる訳ではない。非道な部下を止められないことには口惜しさを感じていたに違いない。
いつの間にか、大和たちの戦意は消えていた。
「アタシ……間違ってたかも……。誰かを守るために騎士になったのに、一番前に立って戦わなきゃいけないのは男の人だって……」
「オレも……女は守るものだって決めつけてた……」
陽菜も大和も、死んだあとになって沙菜の誇り高さを理解した。
殺戮は許されないにせよ、自分たちに沙菜を糾弾する資格がないことは悟ったのだ。
「沙菜……!」
「……!」
終始尊大に語っていた沙菜だが、想定していなかった人物の声に目を見開いた。
「達……兄……」
先ほど名前を出した――無実の罪で収監された挙句、第三霊隊に虐待されて自殺した真田達也だ。
姿を見られたことはうれしいものの、沙菜はすぐ背を向けた。
「沙菜。死んでここに来たんじゃないよな? 無事に生きてるんだよな?」
「この通りピンピンしています」
最低限の答えを返してその場を去ろうとする。
「せっかくこうして会えたんだ。ちょっとぐらい話していかないか?」
達也は沙菜の霊気を感じ取って会いにきてくれたようだ。
「今の私にはもはや達兄に合わせる顔がありませんよ。私は達兄を守ることもできず、達兄が愛した少女を殺したんですからね」
どうせその少女の死を悼むはずの達也は生きていない。ならば、誘拐の濡れ衣を着せられる原因となった少女など生かす価値もない。そう考えたのだ。
なにより、好きな人を守れなかった自分自身が許せなかった。どんな悪行を働いても抱くことのない自責の念だ。
「そうか……じゃあ、真田達也の遺言だけでも聞いてくれ」
達也が逮捕された事実を新聞で知ってから、とうとう再会することは叶わなかった。
そんな沙菜に達也の最期の想いを告げる、かつて真田達也だった魂。
「俺は死の誘惑に勝てなかったけど、最後まで気がかりだったのは沙菜のことだったよ。お前を残して死んでいいのかって。だから、俺の仇なんて討たなくていいから、幸せになってほしい」
振り返ることのない沙菜の頬から雫が落ちる。
「涙なんて……もう何年も流していなかったというのに……」
乾ききってしまったものと思っていた。
ここにいるのは死者ばかり。そう分かっていても、生前の想いを知らされて心を揺さぶられてしまった。
「天界は今、不穏な状態です。ですが、達兄の魂魄はひとかけらも残さず新たな命の素として転生させてください。その邪魔をすることは、私が許しません」
誰にともなく宣言する。
歩き出した沙菜の後ろで、大和と陽菜がうなずき合った。
「分かった。オレたちが二度とこの人の魂は傷つけさせない」
「アタシたちは騎士として、真田さんを守るわ」
達也にはもう顔を見せられない。三下と雑兵に泣き顔を見られるのもシャクだ。
雷斗の霊気を追って飛び立つ沙菜は、皮肉めいた言葉を残していく。
「どうやら、バカは死ねば治るようですね」
せっかく天界に来たのだから、ある人物をおちょくってやろうと思い寄り道をしていた。
目当ての人物は、ちょうど試練を一つ終えて建物から出てきたところだった。
「おお、探しましたよ。真面目に転生の試練なんて受けていたんですね、三下のくせに」
「て、てめえは……!」
沙菜が探していたのは、元・第三霊隊副隊長の朝霧大和だ。
彼は沙菜の姿を見て驚愕の表情を浮かべている。
「如月……。なんでこんなところに……。死んではいない……みたいだな……」
「さすがに三下でもそのぐらいは分かりますか」
かなり動揺している大和に対し、沙菜は滑稽とばかりに笑っている。
「まさか最近の戦いは……!」
予想通りというべきか、狙い通りというべきか、大和は、ここのところ天界で発生している戦闘の原因を沙菜が作っているものと勘違いしたようだ。
「これ以上人を殺そうっていうなら、女でも容赦しねえぞ!」
天界で生物を殺すこと――それは魂を完全に消滅させるということを意味する。
しかし、沙菜には誤解を解くより前に言っておきたいことがあった。
「女でも? それはわざわざ口にすることですか?」
「なに……?」
眉をひそめる大和。
沙菜は、今まで大和がどんな風に戦ってきたかを知っている。
「あなたは戦いの度に言っていましたね。『女に手を上げるんじゃねえ』『女に剣は向けられねえ』。女を対等の存在として見ていなかった」
「…………」
自分の価値観の歪みを指摘されて、大和は沈黙した。
「大和!」
こちらの会話を聞いて、駆け寄ってくる少女が一人。
「ほう。四番隊の雑兵ですか」
沙菜が『雑兵』と呼んだのは、元・第四霊隊隊員の水無陽菜だ。
大和の幼馴染であり、客観的に見ると恋人でもあった。
「如月沙菜……! また大和を殺す気!?」
生前は素直になれず大和とケンカばかりしていた陽菜だが、状況が状況だけに剣を構えて大和の横に立った。
「ちょうどいい機会です。あなたにも教えておいてあげましょう。オスがメスを守るなどというのは生物としての本能にすぎません。羅刹として生きるならそんなものに振り回されるべきではない」
語りながら沙菜は陽菜を指差す。
「そこの雑兵が頼りないから守るというならそれでもいい。ただ、女全部をそいつと一緒にしないでもらいましょうか」
人羅戦争において、第四霊隊は男性部隊と女性部隊に分かれて革命軍と戦った。
そのことは陽菜も覚えているだろう。そこにどんな意図があったかも。
第四霊隊の任務では、大抵男性隊員が危険な役割を引き受けることになっていた。
その結果、雷斗の相手は男性隊員が、沙菜の相手は女性隊員がすることになったのだ。
雷斗は大霊極で、沙菜は準霊極。普通に考えれば、沙菜と戦う方が楽だ。
「雑兵、あなたはなんの能もないくせに三下の庇護を受けていましたね。その上、男を尻に敷いていた。本来権利を持つのは価値のある者だけです。あなたには守られる権利も支配する権利もないのですよ」
「…………」
女としての立場に甘えていた事実を突かれて、陽菜も黙ってしまった。
陽菜は大和と共闘する場面でも、特に危険な役回りは大和に任せていたのだ。
「朝霧大和。あなたが悪人だとは言いませんよ」
自身が極悪人でありながら、大和を『悪人ではない』などと評する沙菜。
「あなたはただのバカです。女に都合よく使われていただけなんですよ。卑怯な女どもから救ってやった私に感謝してほしいものですね」
よく世間で『男はバカだ』と言われる。それは大和のような男がいるせいだ。
沙菜は、大和とは違う賢い男性が好きだ。
信仰している雷斗が大和と同じ『男』という枠に入れられるとしたら、その価値観の持ち主を間違いなく殺す。
「お前、オレたちに説教をしにきたのか……?」
ようやく口を開いた大和は、沙菜が天界を訪れた理由を確認する。
「今、天界では聖天使の一部が、浄化されてここに来た喰人種を消滅させようと動いています。私はそれを止めにきました」
「一体なんのために……」
大和の中の沙菜は世界に仇をなす凶悪な殺人鬼だ。
沙菜の狙い通りに思考を誘導されているとすれば、惟月たちを操って世界を滅ぼそうとした、もしくはもう滅ぼしたものと思っているはず。
喰人種であれなんであれ、沙菜が誰かを救おうとしていたら不自然に感じるだろう。
「惟月様のご意向ですよ。喰人種は邪気を帯びていても本人が悪という訳ではない。ちゃんと転生させてやるべきだと」
「待て、惟月様は生きてるのか?」
大和の立場なら、沙菜が惟月を利用した上で殺したものと想像していてもおかしくはない。
「私ごときの力で惟月様を殺せる訳がないじゃないですか。あの戦いは惟月様ご自身が世界をより良くするために仕組んだものですよ。犠牲となった者たちに対する罪悪感はあるようですがね」
大和と沙菜が戦った時のやり取りは次の通り。
『全部、全部、てめえの仕業か!!』
『まさか疑っていたんですか? 惟月様を。とち狂って世界を滅ぼそうとしているとでも? あなたにとって信頼というのはその程度のものなんですかね?』
沙菜は自分が黒幕だなどと一切言っていない。
大和は愕然としている。
無理もないことか。現世で戦った時に真相だと思っていたことがすべて覆されたのだから。
「ま、惟月様も優しいばかりの人ではないということです。しかし、あの時死んだ者は誰一人として地獄に落ちていない。全員天界へと送られてきているでしょう?」
沙菜が邪眼の力を用いて敵を殺せば、その敵を地獄に送ることができる。
それをしないのは、沙菜にも『死後の世界でまで苦しむ必要はない』という慈悲があるからだ。
「そういえば……お前、断劾を使えるんだったか……」
頭の鈍い大和はようやく気付いたらしい。
断劾は慈悲心による浄化の技。邪悪なだけの存在には使うことができない。
「もし……もしも、アタシたちが雷斗様と戦いにいってたら……」
陽菜も口を開いた。
「そう。男性隊員も女性隊員も関係なく雷斗様と戦っていれば、少なくとも私に皆殺しにされることはありませんでしたよ」
沙菜が嫌悪していたのは、女性を弱者と見なす風潮だ。
「三番隊にしても、達兄を虐待していた犯人を素直に差し出して、自分たちは助けてくれと懇願すればよかっただけ。あなたたちの選択ミスが破滅を招いたのですよ」
沙菜は、嫌悪の対象ではない単なる敵が相手であれば命乞いを認める。『逆らう者は皆殺し』が沙菜の信条ではあるが、死にたくなければ死なずに済む方法はあったのだ。
「たつ……、そうか……真田達也か……!」
沙菜の口にした名前に心当たりがあったようで、大和は目を見張る。
「確かに第三霊隊には監獄の管理をする中で囚人に虐待をする奴がいた……。そうか……それで……」
副隊長といえども、隊員すべてを十分監視できる訳ではない。非道な部下を止められないことには口惜しさを感じていたに違いない。
いつの間にか、大和たちの戦意は消えていた。
「アタシ……間違ってたかも……。誰かを守るために騎士になったのに、一番前に立って戦わなきゃいけないのは男の人だって……」
「オレも……女は守るものだって決めつけてた……」
陽菜も大和も、死んだあとになって沙菜の誇り高さを理解した。
殺戮は許されないにせよ、自分たちに沙菜を糾弾する資格がないことは悟ったのだ。
「沙菜……!」
「……!」
終始尊大に語っていた沙菜だが、想定していなかった人物の声に目を見開いた。
「達……兄……」
先ほど名前を出した――無実の罪で収監された挙句、第三霊隊に虐待されて自殺した真田達也だ。
姿を見られたことはうれしいものの、沙菜はすぐ背を向けた。
「沙菜。死んでここに来たんじゃないよな? 無事に生きてるんだよな?」
「この通りピンピンしています」
最低限の答えを返してその場を去ろうとする。
「せっかくこうして会えたんだ。ちょっとぐらい話していかないか?」
達也は沙菜の霊気を感じ取って会いにきてくれたようだ。
「今の私にはもはや達兄に合わせる顔がありませんよ。私は達兄を守ることもできず、達兄が愛した少女を殺したんですからね」
どうせその少女の死を悼むはずの達也は生きていない。ならば、誘拐の濡れ衣を着せられる原因となった少女など生かす価値もない。そう考えたのだ。
なにより、好きな人を守れなかった自分自身が許せなかった。どんな悪行を働いても抱くことのない自責の念だ。
「そうか……じゃあ、真田達也の遺言だけでも聞いてくれ」
達也が逮捕された事実を新聞で知ってから、とうとう再会することは叶わなかった。
そんな沙菜に達也の最期の想いを告げる、かつて真田達也だった魂。
「俺は死の誘惑に勝てなかったけど、最後まで気がかりだったのは沙菜のことだったよ。お前を残して死んでいいのかって。だから、俺の仇なんて討たなくていいから、幸せになってほしい」
振り返ることのない沙菜の頬から雫が落ちる。
「涙なんて……もう何年も流していなかったというのに……」
乾ききってしまったものと思っていた。
ここにいるのは死者ばかり。そう分かっていても、生前の想いを知らされて心を揺さぶられてしまった。
「天界は今、不穏な状態です。ですが、達兄の魂魄はひとかけらも残さず新たな命の素として転生させてください。その邪魔をすることは、私が許しません」
誰にともなく宣言する。
歩き出した沙菜の後ろで、大和と陽菜がうなずき合った。
「分かった。オレたちが二度とこの人の魂は傷つけさせない」
「アタシたちは騎士として、真田さんを守るわ」
達也にはもう顔を見せられない。三下と雑兵に泣き顔を見られるのもシャクだ。
雷斗の霊気を追って飛び立つ沙菜は、皮肉めいた言葉を残していく。
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