羅刹伝 雪華

こうた

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第三十二章-羅刹的オンラインゲーム-

第239話「謎の襲撃者」

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「清楚な女なんて現実には存在しないんやで」
「おい。怜唯様を忘れるな」
 沙菜と真哉のやり取り。
 うわさをすればなんとやらで、とある兄妹がやってきた。
「やあ、楽しんでいるみたいだね」
「兄上」
「瞬兄じゃないですか」
 如月怜唯の実兄・如月瞬。
 彼のことを、真哉と沙菜が揃って『兄』と呼んだ。
 真哉にとっては義理の兄、沙菜にとっては従兄だ。
「せっかくみんなが楽しく遊んでいるというのに、怜唯はつまらない仕事に精を出して参加していないと聞いてね。ほら、ちゃんと仲間に入れてもらいなさい」
「に、兄さん……」
 兄にとって弟や妹というのは、いつまで経っても小さな子供のイメージなのだろう。
 引っ張ってこられた怜唯は困惑気味だ。
「失礼いたしました。私がお連れすべきところを……」
 立ち上がって頭を下げようとする真哉を瞬は制する。
「いいんだよ。僕は怜唯の自主性を伸ばしたいんだから」
 怜唯に求められていたのは仕事への自主性ではなく、遊びへの自主性だったか。
 瞬はため息を一つ。
「昔から怜唯は愛想がなくてね……」
「そうなんですか?」
 付き合いは短いが優月も意外に思った。
「だから朴念仁だと言ったでしょう? 子供の頃、私が遊びに誘っても『興味ない』の一点張りでしたからね」
 沙菜は五年前の事件で性格が歪んだが、元々は無邪気な子供だったという話だった。
 逆に怜唯が無愛想だったとは、人の過去は分からないものだ。
「惟月様に弟子入りして礼儀作法を身につけたようですが、それ以前は態度が悪いのなんの。なんか爪をかむ癖もありましたし」
「さ、沙菜さん……! 昔のことはそれぐらいで……!」
 怜唯は本気であせっている。
 真哉に幻滅されたくないという思いは優月にも理解できる。
「瞬兄。今日も体調がいいんですか?」
「ああ。それに、前々から沙菜君の言っていたゲームというものに興味があったんだ。よかったら僕の分も用意してくれるかい?」
「喜んで。瞬兄のような色男は大歓迎ですよ」
「うれしいことを言ってくれるね」
 やはり沙菜と瞬は仲が良さそうだ。沙菜と男性が笑い合っているところなど、他ではあまり見ることがない。
「如月隊長! お目にかかれて光栄です! 第五霊隊に入隊しました天宮雨音です!」
 雨音が起立して敬礼する。
「ああ、君が新しく入って第三位に就いたっていう。優月君といい、君といい、僕が去った後の隊に優秀な子が増えてうれしいよ」
「戦前から既に市民に寄り添って活動する隊を作り上げていらっしゃったその先見性はお父様も高く評価していました」
 雨音が第五霊隊を志望したのも、かつて瞬の存在があったが故のようだ。
「つーか、人に話す時は『父』って言わねーのか?」
 涼太が雨音の言葉遣いにつっこみを入れる。
 確かに、目上の人と話すに当たって自分の父を『お父様』と呼ぶのは敬語として正しくない。
「いいんだよ、そういう細かいことは。英利や瑞穂たちもそういったことは気にしないタチだろう?」
 瞬にとって現・第五霊隊隊長の八条英利や副隊長の瑞穂は後輩だ。
 口振りからすると気心の知れた仲だったのだろう。
「真哉さんと一緒に遊ぶにはどうすればいいのでしょう?」
「こちらからパーティへ勧誘するメッセージをお送りいたします。そこで『加入する』を選択していただければ」
 怜唯にゲームの仕様を解説する真哉。
 その態度は相変わらず恭しい。
 おそらく家での真哉は、怜唯より後に寝て、怜唯より先に起きているのだろう。
 怜唯が真哉とパーティを組んでゲーム再開。
「弓を射る動作まで現実の通りに再現されているんですね」
 怜唯はゲーム内でも弓を使う職業を選んだようだ。
「はい。俺が敵に近づいて注意を引き付けますので、後方から矢を撃ってください」
 怜唯を守るという真哉の信念はゲームでも変わらない。
 ところどころ怜唯の知らない単語が出てくるため、先にゲームを始めていた真哉がその都度説明している。
「ところで、怜唯の修行は順調かな?」
 瞬は沙菜の方に話しかける。
「まあ、ぼちぼちですね。弓の腕がずいぶんなまっていたようですが」
 如月京子に幽閉された一件以来、沙菜が怜唯を鍛えているらしい。
 沙菜といえば、気に食わない人間を容赦なく殺すことと美少女が嫌いだということで有名だ。
 そんな沙菜が修行の中で怜唯を殺す可能性については優月も考えたが、瞬の頼みを聞いての修行なので心配はなさそうだ。
「――! なにかありましたね」
「ああ」
 沙菜と瞬が反応したかと思うと、緊急警報音が鳴り出した。
「この音は……」
「敵襲です」
 沙菜の答えを聞くのとほぼ同時に、優月も敵の気配を感じ取った。
 門が突破されたようだ。
 そこから、敵集団が室内に突入してくるまではあっという間だった。
「動くな! 抵抗しなければ危害は加えない!」
「なにが目的です?」
 沙菜が謎の集団を冷たく見据える。
「研究室のデータを渡してもらう」
「そうやすやすと譲れるものではありませんよ」
 沙菜が研究室を代表して敵の要求を突っぱねた。
「ならば痛い目を見てもらうことになる」
 敵の集団が、それぞれ武器を構える。
 刀が多いが、両刃の剣や槍の者もいる。
 何者かは分からないが、迎撃する必要があるのは間違いない。
 優月も羅刹化する心の準備はしていたが。
「僕も久しぶりに戦いに参加しようか」
 まず、瞬が立ち上がり、懐に差し込んでいた扇子を抜いた。
霊扇れいせん花鳥風月かちょうふうげつ
 瞬は魂装霊倶である扇子から激しい風を放つ。
 この風には霊気が込められており、敵は吹き飛ばされながら斬り裂かれる。
 体勢を崩した敵に対し、さらなる追い打ちをかける瞬。
「霊法百三十一式・裂火裂風陣れっかれっぷうじん
 駆け巡る暴風に炎熱の力を乗せた極致霊法。かつてこの術で細切れにされた喰人種は多い。
 手心を加えていたため死んではいないが、今室内にいる敵は全員深手を負った。
 負傷者が後退すると共に、新手が攻め込んでくる。
「まったく。命知らずな連中です。霊槍れいそう・朧月」
「そうですね。霊刀・紫苑しおん
「あたしだってやる時はやるんだからねっ。霊剣・陽炎かげろう!」
「怜唯様の兄君が戦線に立たれるというなら加勢しない理由はない。霊剣・叢雲!」
「オレも真哉くんに負けてられないな。霊刀・獅子王ししおう!」
「わ、私も……。霊弓れいきゅう白百合しらゆり
 それぞれの得物を手にする、沙菜、昇太、若菜、真哉、千尋、怜唯。
(さすがに侵入者の人たちが気の毒だなぁ……)
 自分も戦おうかとは思っていたのだが、こちらの戦力が圧倒的すぎる。
 敵は瞬く間に無力化され、優月の出番はなかった。
「くっ……。うわさに違わぬ実力か……。仕方ない、撤退だ」
 襲撃者のリーダーと思しき人物が投げた球形のなにかが爆発し、煙幕となる。
「なにッ!?」
「これは――」
 真哉と沙菜が同時に声を上げる。
 霊気を飛ばしても煙幕は晴れず、さらに毒気を含んでいるため、うかつに近づけなかった。
「ちっ。取り逃がしました」
 舌打ちして朧月を納める沙菜。
 敵たちの霊気は尽きていた。にもかかわらず、道具を使い、こちらの探知能力を阻害して逃げおおせたのだ。
「この私の追撃を阻止するとは……」
 沙菜は忌々しげに目を細める。
 ここには戦力が過剰に揃っていたため余裕だったが、如月家の使用人たちが簡単に倒されたということは敵も相当な手練れの者だということだ。
「最後の煙……僕の風で下手に拡散させたら周りが危なかっただろうね……」
 瞬も口惜しそうな様子だ。
 煙は時間経過で消えてくれたが、真哉たちの霊気を受けても浄化されなかったのだ。直接触れたらただでは済まなかった。
 今回の侵入者たちの上にもっと強大な力の持ち主がおり、その者が配下に特別な装備を持たせていた、といったところか。
「今のが主力ということはないでしょう……。警備体制を見直すべきかもしれません」
 沙菜は、自家に攻め込まれたことについて思案している。
 もしも警備の薄い時に主力がやってきたらどうなるのか、まだ優月が知ることはなかった。
「――? 雨音さん、どうかしましたか?」
 優月が振り返ってみると、雨音がやけに後ろの方まで下がっていた。
「いえ、ああも派手に突入してきたなら、後方にも別動隊がいるのではないかと思ったのですが杞憂だったようです」
 ただボケっとしていた優月と違い、ちゃんと考えていたらしい。
「読みは悪くないと思いますよ。僕が敵集団の頭だったら、そちらの方に誰かしら配置しておきますから」
「そ、そうですね……」
 微妙に緊張感があるような昇太と雨音のやり取り。
 二人の間に他の者が知らないなにかがあるのだろうか。
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