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第三十二章-羅刹的オンラインゲーム-
第236話「モンスター戦」
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如月研究室。
オンラインゲームのテストプレイ中。
今年の正月に従姉が涼太にくっついているのを見て嫌な気持ちになったことを思い出した。
優月がそんな思い出に浸っていると、真哉が口を開いた。
「それが分からんな。大抵血のつながった相手は異性として好きにならないものじゃないのか?」
真哉の疑問に対しては、沙菜が一つの説を唱える。
「それは生物としての本能の話でしょう? 本能を超越した存在に血のつながりは関係ありませんよ」
沙菜は、真の羅刹ならば本能に従うべきでないと考えている。
だからこそ、生物としての常識から外れた優月を応援しているのだ。
そうこう言っているうちに、全員準備完了。パーティを組んで冒険を開始した。
街の外に出るとモンスターが多数うろついている。
序盤に出てくるモンスターは好戦的でなく、こちらから攻撃を仕掛けないとなにもしてこない。
だが、優月は遠慮なく斬りかかっていった。
ゲームの中だけの存在など、沙菜の言葉ではないが『いくら殺しても構わない』。
戦闘が始まると周囲のモンスターも集まってきたが、こちらは十人パーティだ。そうそう負けることはない。
西洋風の衣装に身を包んだ優月のキャラクターが両刃の剣を振るう。
流身と同じ原理で動くというだけあって、キャラクターが斬りかかる速度や角度まで細かく表現されている。
「斬る角度でダメージって変わるんですか?」
『大ざっぱに前面・側面・背面で変わるだけです』
優月が声で聞くと、沙菜はゲーム内のチャットで返してきた。
パーティ用のチャットなので他の者のところにも表示されているはずだ。
優月のキャラクターはタンクと呼ばれる敵の攻撃を引き付ける役職。
HPの多い優月が正面で敵の攻撃を受け、ヒーラーの惟月が回復魔法をかけてくれる。
その間にアタッカーの涼太が敵の背後に回って斬りつける。
現実で戦う時と似たような役割分担だ。
違う点といえば。
「俺も現実でこんな風に戦えればいいんだけど」
龍次もバッチリ攻撃役を務められるということだ。
補助機能によって、わずかな霊気でも十分にキャラクターを動かすことができ、攻撃の威力はゲーム中で入手した武器の性能に依存する。
ゲームの中ならこのようにいくらでも強くなれる。
しかし、優月と一対一で交際できないことと同じぐらい龍次の頭を悩ませているのが、現実における戦闘への適性のなさだった。
人間界から来た中では優月がダントツで強いが、涼太も最近になって羅刹化を習得し、いよいよ龍次だけ置いてけぼりを食らっている状況なのだ。
「弱者がわざわざ強くなろうとしなくていいんですよ。ただ強者が弱者をいたわる心を持てばいいだけです」
民間人を平気で殺しているとは思えない口振りの沙菜。
「こいつ、言うことは立派なんだよな」
涼太はあきれ返った様子。
考えていることはみな同じだろう。
昇太も龍次へのフォローをするが、これも微妙な話になる。
「僕も若菜先輩に守ってもらいますからね。気にすることありませんよ」
「お前は東雲より強いだろ」
涼太につっこみを入れられながらも、昇太は妖艶な笑顔のままだ。
冥獄鬼の侵攻があった際には、昇太が若菜を助けたとのことだったが、先に若菜を戦わせたらしい。
一応、若菜が戦っている間に昇太が敵の能力を解析していたので、意味のある役割分担ではあったようだ。
「わたしも弱いから沙菜ちゃんに守ってもらってるよ。龍次くんとお仲間だね」
穂高も彼女なりに龍次を気遣っているようだ。
弱いは余計だと思うが、気持ちは伝わったようで、龍次も明るさを取り戻す。
「そうだね。自分のできることをやって仲間の役に立てばいいんだよね。よし、今はゲームを楽しもう」
まずはレベルを上げなければいけないので、街付近の平原でモンスターを狩る。
「少しでも効率が上がるよう、全員に私の魔法をかけておきましょう」
沙菜が使っているキャラクターは、味方の能力を上げたり敵の能力を下げたりできる特殊な魔法使いだ。
「このバフとかデバフっていうのは?」
「あ、バフはキャラクターを強化する効果で、デバフは弱体化する効果です」
ゲームに詳しくない龍次に、優月が説明する。
「そうなんだ。如月が文末にやたらつけてるダブリューはなに?」
「笑いの意味です。ローマ字表記の頭文字を取って」
「優月さん、物知りだね」
ゲームの知識でほめられてしまった。
「ふむ……。よくできているな。これなら怜唯様をお誘いしてもよさそうだが、このように敵と戦うゲームを怜唯様が好まれるかどうかが分からんな……」
沙菜を敵視している真哉もゲームの完成度には感心している。
「お父様にもやってもらいたいですけど、完成はいつ頃になるんでしょう?」
今までゲームをほとんどしてこなかったらしい雨音もだんだん夢中になっていた。
「今年中にと言いたいところですが、まずはオープンベータですかね」
沙菜が口にした『オープンベータテスト』とは、一般から広く参加者を募集するもの。今やっているのは『クローズドベータテスト』だ。
「これはぜひともお父様とパーティを組んで……」
ブツブツとつぶやく雨音の表情には、期待以外のなにかもあるように感じられる。どちらかというと不安や悲しみのような。
(雨音さん……なんで時々こういう顔するんだろう……?)
惟月と違って優月に他人の心を読み取る能力はない。
雨音がどんな心境でいるのかは気になるが、軽々しく立ち入っていい問題でもなさそうに思えた。
モンスターを倒しながら山を登っていくと雷斗の姿があった。彼も自身をスキャンしてのキャラメイクをしたようだ。
服装は侍のような着物。武器は打刀だ。
本物の雷斗は和洋折衷の羅刹装束にスキアヴォーナなので、どことなく新鮮に見える。
『惟月か』
『雷斗さんもご一緒にどうですか?』
惟月がチャットで雷斗を誘う。
『いいだろう』
送ってくる文章は短いが、ちゃんとパーティに加入してくれた。
「雷斗さまとチャットするのも緊張しますね……。定型文のあいさつだけではまずいでしょうか……?」
雷斗のことは好きだが、かなり厳格な人だとも思っている。
どんな形であれ、礼を失したら殺されるのではないか、と。
「雷斗様はファッション冷酷なので、そんな簡単に怒りませんよ」
この『ファッション冷酷』などというのは沙菜による造語だが、確かに雷斗は本当に冷酷だというより、それを装っているようでもある。
「討伐士は、対象が喰人種とはいえ、人を殺める職業です。雷斗さんは優しさを持っているからこそ、戦いに身を置くご自身を冷酷な存在として捉えていらっしゃるのでしょう」
雷斗の盟友たる惟月の語ることなら十分信用できる。
戦いの最中でも態度を硬化させない優月とは形こそ違うが、雷斗も根底にある感情は案外近いのかもしれない。
山の中にある洞窟を進んでいくと、封印されている扉があった。
「この中に入るとボス戦です。範囲が表示される攻撃は確実に避けてくださいね。一人でも食らうと全滅するんで」
沙菜としてはもっと簡単にしたかったが、瑠璃が難しくないと面白くないと言ったため、妥協してボスだけは強くしたとのこと。
「自分の美学だけを貫けないのがチーム制作のつらいところなんですよねえ」
沙菜は肩をすくめる。
「瑠璃さんはそんなに難しいのが好きなんですか?」
下手の横好きにすぎない優月は簡単な方がありがたいのだが、上手い人は高難度を求めるのだろうか。
「八条瑠璃はコンプレックスの塊ですからね。ゲームの腕でマウントを取らずにいられないんですよ」
たっぷりと嫌みを込めて答える沙菜。
そういえば、沙菜は『達成感を得たいなら現実でなにかを成し遂げればいい』と主張していた。確か、まだ人間界にいた頃の話だ。
「前に、八条瑠璃の作ったゲームがネットで配布されてたからやってみたんですが、ザコにも理不尽に殺される上、ボスは特定の攻略法を使わない限り絶対勝てないクソゲーでしたね。あれならボールペンにキャップはめてた方が楽しいですよ」
言いながら沙菜は戦闘準備完了。
「どういう比較なんだよ」
涼太も準備完了。
扉が開くと、ボス戦専用のフィールドが現れた。
中心には当然ながら巨大なボスがいる。なんとなく喰人種完全変異体を思わせる巨獣だ。
ボスが地面を踏み鳴らすと、赤い円がいくつか表示された。
「これです。この円に入らないようにしてください」
今回は沙菜も口頭で説明した。
雷斗がシステムを知っているならチャットを使う必要はない。
「こ、こっちなら大丈夫かな……」
龍次も不安げながら、どうにか退避できた。
先ほどまで赤く光っていた場所には岩が降ってきた。これに当たったら大ダメージを受けるらしい。
「なんか……現実のわたしたちよりキャラの方が弱くないですか……?」
羅刹化した優月は単なる岩の下敷きになった程度では死なない。
「人間界のゲームを参考にしてますからね。ところどころ羅仙界の基準だと不自然な箇所があるんですよ」
沙菜が人間界から持ち帰ったゲームを研究員がプレイしてテレビゲームの作り方を学んだということか。
本格的に戦い始めると、雷斗は持ち前の俊敏さで敵の攻撃を巧みにかわしつつ高いダメージを与えていく。
沙菜もゲームが上手い訳ではないが、制作に関わっていただけあってボスの行動パターンを知っているらしく、早め早めに攻撃範囲の外へ移動している。
優月はというと、足を引っ張らないようにするだけで精一杯だ。
それでも優月はゲームに馴染みがある。問題は龍次。
「む、難しいね。ゲームやる人はこんなに速く動けるものなの?」
ゲームに慣れていない龍次はボスの攻撃をかわし損ねることが多い。
戦いで足を引っ張ることが、龍次のコンプレックスを刺激してしまわないといいのだが。
「言ったでしょう? 八条瑠璃が無駄に難しくしてるんですよ。こんなボスは倒せなくてもゲーマーを名乗れます」
ゲーマーを名乗るかはともかく、沙菜がフォローしてくれたのはありがたい。
遊んでいる時の沙菜は普通にいい人なのだ。
惟月も気遣ってくれているようで、龍次の操作キャラクターが戦闘不能にならないよう重点的に回復魔法をかけている。
昇太は沙菜同様ゲームに慣れており、なおかつ操作が上手いのでアタッカーとしてガンガンボスのHPを減らしていった。
千尋も昇太に近いプレイ。
真哉や雨音は戦力として可もなく不可もなく。
穂高は龍次とあまり変わらない。普段すごくトロいのに、龍次と比べてそこまで下手でないのは沙菜と一緒にゲームを遊ぶ機会が多いからだろう。
互いにフォローし合って強敵に立ち向かう――これはこれで楽しいものだ。
「ゲームなんてものは、ゆるーく和気あいあいと遊べればいいと思うんですけどね」
沙菜は人間界でもオンラインゲームをやって、パーティメンバーがギスギスした関係になっているのを見たことがあるのだろう。
確かに、特別仲がよくない人たちと一緒にこのボス戦をやれと言われたら気が重い。
「殺人鬼のセリフとは思えねーな」
涼太の意見にみな同意している。
そこから十五分ほど経過。
「よし。やりましたね」
沙菜が操作キャラクターにガッツポーズをさせる。
仲間たちの連携プレイの前に、最初のボスは倒れた。
この人数での共闘は、羅刹として経験してこなかったものだ。
(うん。面白いな、これ)
人間界でゲーマーだった優月も納得の出来だった。
オンラインゲームのテストプレイ中。
今年の正月に従姉が涼太にくっついているのを見て嫌な気持ちになったことを思い出した。
優月がそんな思い出に浸っていると、真哉が口を開いた。
「それが分からんな。大抵血のつながった相手は異性として好きにならないものじゃないのか?」
真哉の疑問に対しては、沙菜が一つの説を唱える。
「それは生物としての本能の話でしょう? 本能を超越した存在に血のつながりは関係ありませんよ」
沙菜は、真の羅刹ならば本能に従うべきでないと考えている。
だからこそ、生物としての常識から外れた優月を応援しているのだ。
そうこう言っているうちに、全員準備完了。パーティを組んで冒険を開始した。
街の外に出るとモンスターが多数うろついている。
序盤に出てくるモンスターは好戦的でなく、こちらから攻撃を仕掛けないとなにもしてこない。
だが、優月は遠慮なく斬りかかっていった。
ゲームの中だけの存在など、沙菜の言葉ではないが『いくら殺しても構わない』。
戦闘が始まると周囲のモンスターも集まってきたが、こちらは十人パーティだ。そうそう負けることはない。
西洋風の衣装に身を包んだ優月のキャラクターが両刃の剣を振るう。
流身と同じ原理で動くというだけあって、キャラクターが斬りかかる速度や角度まで細かく表現されている。
「斬る角度でダメージって変わるんですか?」
『大ざっぱに前面・側面・背面で変わるだけです』
優月が声で聞くと、沙菜はゲーム内のチャットで返してきた。
パーティ用のチャットなので他の者のところにも表示されているはずだ。
優月のキャラクターはタンクと呼ばれる敵の攻撃を引き付ける役職。
HPの多い優月が正面で敵の攻撃を受け、ヒーラーの惟月が回復魔法をかけてくれる。
その間にアタッカーの涼太が敵の背後に回って斬りつける。
現実で戦う時と似たような役割分担だ。
違う点といえば。
「俺も現実でこんな風に戦えればいいんだけど」
龍次もバッチリ攻撃役を務められるということだ。
補助機能によって、わずかな霊気でも十分にキャラクターを動かすことができ、攻撃の威力はゲーム中で入手した武器の性能に依存する。
ゲームの中ならこのようにいくらでも強くなれる。
しかし、優月と一対一で交際できないことと同じぐらい龍次の頭を悩ませているのが、現実における戦闘への適性のなさだった。
人間界から来た中では優月がダントツで強いが、涼太も最近になって羅刹化を習得し、いよいよ龍次だけ置いてけぼりを食らっている状況なのだ。
「弱者がわざわざ強くなろうとしなくていいんですよ。ただ強者が弱者をいたわる心を持てばいいだけです」
民間人を平気で殺しているとは思えない口振りの沙菜。
「こいつ、言うことは立派なんだよな」
涼太はあきれ返った様子。
考えていることはみな同じだろう。
昇太も龍次へのフォローをするが、これも微妙な話になる。
「僕も若菜先輩に守ってもらいますからね。気にすることありませんよ」
「お前は東雲より強いだろ」
涼太につっこみを入れられながらも、昇太は妖艶な笑顔のままだ。
冥獄鬼の侵攻があった際には、昇太が若菜を助けたとのことだったが、先に若菜を戦わせたらしい。
一応、若菜が戦っている間に昇太が敵の能力を解析していたので、意味のある役割分担ではあったようだ。
「わたしも弱いから沙菜ちゃんに守ってもらってるよ。龍次くんとお仲間だね」
穂高も彼女なりに龍次を気遣っているようだ。
弱いは余計だと思うが、気持ちは伝わったようで、龍次も明るさを取り戻す。
「そうだね。自分のできることをやって仲間の役に立てばいいんだよね。よし、今はゲームを楽しもう」
まずはレベルを上げなければいけないので、街付近の平原でモンスターを狩る。
「少しでも効率が上がるよう、全員に私の魔法をかけておきましょう」
沙菜が使っているキャラクターは、味方の能力を上げたり敵の能力を下げたりできる特殊な魔法使いだ。
「このバフとかデバフっていうのは?」
「あ、バフはキャラクターを強化する効果で、デバフは弱体化する効果です」
ゲームに詳しくない龍次に、優月が説明する。
「そうなんだ。如月が文末にやたらつけてるダブリューはなに?」
「笑いの意味です。ローマ字表記の頭文字を取って」
「優月さん、物知りだね」
ゲームの知識でほめられてしまった。
「ふむ……。よくできているな。これなら怜唯様をお誘いしてもよさそうだが、このように敵と戦うゲームを怜唯様が好まれるかどうかが分からんな……」
沙菜を敵視している真哉もゲームの完成度には感心している。
「お父様にもやってもらいたいですけど、完成はいつ頃になるんでしょう?」
今までゲームをほとんどしてこなかったらしい雨音もだんだん夢中になっていた。
「今年中にと言いたいところですが、まずはオープンベータですかね」
沙菜が口にした『オープンベータテスト』とは、一般から広く参加者を募集するもの。今やっているのは『クローズドベータテスト』だ。
「これはぜひともお父様とパーティを組んで……」
ブツブツとつぶやく雨音の表情には、期待以外のなにかもあるように感じられる。どちらかというと不安や悲しみのような。
(雨音さん……なんで時々こういう顔するんだろう……?)
惟月と違って優月に他人の心を読み取る能力はない。
雨音がどんな心境でいるのかは気になるが、軽々しく立ち入っていい問題でもなさそうに思えた。
モンスターを倒しながら山を登っていくと雷斗の姿があった。彼も自身をスキャンしてのキャラメイクをしたようだ。
服装は侍のような着物。武器は打刀だ。
本物の雷斗は和洋折衷の羅刹装束にスキアヴォーナなので、どことなく新鮮に見える。
『惟月か』
『雷斗さんもご一緒にどうですか?』
惟月がチャットで雷斗を誘う。
『いいだろう』
送ってくる文章は短いが、ちゃんとパーティに加入してくれた。
「雷斗さまとチャットするのも緊張しますね……。定型文のあいさつだけではまずいでしょうか……?」
雷斗のことは好きだが、かなり厳格な人だとも思っている。
どんな形であれ、礼を失したら殺されるのではないか、と。
「雷斗様はファッション冷酷なので、そんな簡単に怒りませんよ」
この『ファッション冷酷』などというのは沙菜による造語だが、確かに雷斗は本当に冷酷だというより、それを装っているようでもある。
「討伐士は、対象が喰人種とはいえ、人を殺める職業です。雷斗さんは優しさを持っているからこそ、戦いに身を置くご自身を冷酷な存在として捉えていらっしゃるのでしょう」
雷斗の盟友たる惟月の語ることなら十分信用できる。
戦いの最中でも態度を硬化させない優月とは形こそ違うが、雷斗も根底にある感情は案外近いのかもしれない。
山の中にある洞窟を進んでいくと、封印されている扉があった。
「この中に入るとボス戦です。範囲が表示される攻撃は確実に避けてくださいね。一人でも食らうと全滅するんで」
沙菜としてはもっと簡単にしたかったが、瑠璃が難しくないと面白くないと言ったため、妥協してボスだけは強くしたとのこと。
「自分の美学だけを貫けないのがチーム制作のつらいところなんですよねえ」
沙菜は肩をすくめる。
「瑠璃さんはそんなに難しいのが好きなんですか?」
下手の横好きにすぎない優月は簡単な方がありがたいのだが、上手い人は高難度を求めるのだろうか。
「八条瑠璃はコンプレックスの塊ですからね。ゲームの腕でマウントを取らずにいられないんですよ」
たっぷりと嫌みを込めて答える沙菜。
そういえば、沙菜は『達成感を得たいなら現実でなにかを成し遂げればいい』と主張していた。確か、まだ人間界にいた頃の話だ。
「前に、八条瑠璃の作ったゲームがネットで配布されてたからやってみたんですが、ザコにも理不尽に殺される上、ボスは特定の攻略法を使わない限り絶対勝てないクソゲーでしたね。あれならボールペンにキャップはめてた方が楽しいですよ」
言いながら沙菜は戦闘準備完了。
「どういう比較なんだよ」
涼太も準備完了。
扉が開くと、ボス戦専用のフィールドが現れた。
中心には当然ながら巨大なボスがいる。なんとなく喰人種完全変異体を思わせる巨獣だ。
ボスが地面を踏み鳴らすと、赤い円がいくつか表示された。
「これです。この円に入らないようにしてください」
今回は沙菜も口頭で説明した。
雷斗がシステムを知っているならチャットを使う必要はない。
「こ、こっちなら大丈夫かな……」
龍次も不安げながら、どうにか退避できた。
先ほどまで赤く光っていた場所には岩が降ってきた。これに当たったら大ダメージを受けるらしい。
「なんか……現実のわたしたちよりキャラの方が弱くないですか……?」
羅刹化した優月は単なる岩の下敷きになった程度では死なない。
「人間界のゲームを参考にしてますからね。ところどころ羅仙界の基準だと不自然な箇所があるんですよ」
沙菜が人間界から持ち帰ったゲームを研究員がプレイしてテレビゲームの作り方を学んだということか。
本格的に戦い始めると、雷斗は持ち前の俊敏さで敵の攻撃を巧みにかわしつつ高いダメージを与えていく。
沙菜もゲームが上手い訳ではないが、制作に関わっていただけあってボスの行動パターンを知っているらしく、早め早めに攻撃範囲の外へ移動している。
優月はというと、足を引っ張らないようにするだけで精一杯だ。
それでも優月はゲームに馴染みがある。問題は龍次。
「む、難しいね。ゲームやる人はこんなに速く動けるものなの?」
ゲームに慣れていない龍次はボスの攻撃をかわし損ねることが多い。
戦いで足を引っ張ることが、龍次のコンプレックスを刺激してしまわないといいのだが。
「言ったでしょう? 八条瑠璃が無駄に難しくしてるんですよ。こんなボスは倒せなくてもゲーマーを名乗れます」
ゲーマーを名乗るかはともかく、沙菜がフォローしてくれたのはありがたい。
遊んでいる時の沙菜は普通にいい人なのだ。
惟月も気遣ってくれているようで、龍次の操作キャラクターが戦闘不能にならないよう重点的に回復魔法をかけている。
昇太は沙菜同様ゲームに慣れており、なおかつ操作が上手いのでアタッカーとしてガンガンボスのHPを減らしていった。
千尋も昇太に近いプレイ。
真哉や雨音は戦力として可もなく不可もなく。
穂高は龍次とあまり変わらない。普段すごくトロいのに、龍次と比べてそこまで下手でないのは沙菜と一緒にゲームを遊ぶ機会が多いからだろう。
互いにフォローし合って強敵に立ち向かう――これはこれで楽しいものだ。
「ゲームなんてものは、ゆるーく和気あいあいと遊べればいいと思うんですけどね」
沙菜は人間界でもオンラインゲームをやって、パーティメンバーがギスギスした関係になっているのを見たことがあるのだろう。
確かに、特別仲がよくない人たちと一緒にこのボス戦をやれと言われたら気が重い。
「殺人鬼のセリフとは思えねーな」
涼太の意見にみな同意している。
そこから十五分ほど経過。
「よし。やりましたね」
沙菜が操作キャラクターにガッツポーズをさせる。
仲間たちの連携プレイの前に、最初のボスは倒れた。
この人数での共闘は、羅刹として経験してこなかったものだ。
(うん。面白いな、これ)
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