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エピローグ-再戦・優月VS雷斗-
第144話「守るために」
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実戦形式の修行のために蓮乗院家・修練場に移動した優月と雷斗。
優月は知らないことだが、ここは雷斗が久遠と手合わせをした場所でもある。
「どんな手段を使っても構わん。私に一太刀浴びせてみせろ。話はそれからだ」
雷斗を囲むように紫色の霊気の球がいくつも湧き出してきた。
一つ一つが人ひとりを飲み込めるぐらいの大きさだ。
対する優月は、羅刹化して霊刀・雪華を構える。
雷斗に一太刀浴びせることがどれだけ困難かは理解しているつもりだ。
たとえ彼の霊力が戻りかけでも羅刹の頂点に君臨する四大霊極の一人であることに違いはない。
霊気の球の一つが向かってきた。
優月は、それを全力で迎え撃つ。
「氷刀一閃」
断劾で生み出した極大の氷の刃が雷斗の霊気とぶつかり合う。
「……!」
さすがに相殺するぐらいはできるかと思いきや、霊気の球は氷を砕いて直進してくる。
かわすのは間に合わず、優月は霊気の球に触れることに。
すると、何本もの刃を受けたように身体中を斬り裂かれた。
「どうした、こんなものか」
足元に血が溜まっていくが、優月は雷斗から目をそらさない。
「戰戻――」
力の差は百も承知。相手が魂装したままでも、こちらは霊魂回帰して挑むべきだ。
「氷雪纏衣」
今、命を懸けなければ、この先の戦いで龍次と涼太を危険にさらす。優月にとっての唯一の誇りのために退くことはできない。
霊光の放出と共に羽衣をまとった優月は、流身で加速して雷斗に斬りかかる。
適当に技を撃ったのでは、いずれかの霊気の球に打ち砕かれる。
ならば、まずは接近しなければ。
しかし、霊気の球は威力だけでなく速度も予想以上で、移動に力を割いていてもかわすことができずに吹き飛ばされた。
戰戻で霊力が上がった分ダメージは減っているが、それでもすぐには体勢を立て直せずさらなる攻撃を叩き込まれる。
「うっ……、あ……」
覚悟はしていたつもりだったが、どんどん深くなっていく傷の痛みは耐えがたかった。
優月の感じている苦痛などまるで意識していないかのように雷斗は攻撃の手を休めない。
接近して一太刀浴びせるはずが、霊気の球に繰り返し吹き飛ばされて後退してしまっていた。
優月は、何度も立ち上がり、断劾で抵抗を試みるが手も足も出ない。
霊力戦闘は霊子構成の読み合い。
雷斗の攻撃の霊子構成を見極めようとしているが、無数に展開された球のそれぞれが異なる霊子構成を持っている上、次々襲ってくるため、有効な反撃手段が見出せない。
追い詰められた優月を、雷斗は冷ややかに見下ろす。
「ふっ……。まさか今さら殺されることなどないだろうとでも思ったか?」
雷斗は、うっすらと笑みを浮かべている。やはり優月に対するいたわりは微塵も感じられない。
「私の目的は霊刀・雪華を鍛えること。貴様の命に興味はない」
かつて雷斗は、王室に奪われた父の形見である霊刀・村雨を取り戻すことを目指して力を磨いていた。
霊刀・雪華は惟月の母の形見。惟月の盟友として刀の存在を重く見ているのだろう。
「あれは……!」
霊気の衝突を感じた龍次が、涼太を伴って修練場のそばまで走ってきた。
そこには惟月の姿もある。
「なんで優月さんがまた雷斗と戦ってるんだ!?」
満身創痍の優月を見て龍次は声を上げる。
「あなたたちを守るためです」
戦況を見守っていた惟月は振り返って龍次たちに答えた。
「さすがにやりすぎじゃないか?」
「優月さん……どうしてそこまで……」
龍次には、優月が戦いを選ぶ理由が分からない。
誰よりも争いを嫌っていたのだから、そう思われるのは当然だろう。
「優月さんは不器用な人です。誰かの力になる手段が、代わりに自分が傷つくことしかないんです。あなたたち二人と交際されることを選んだのも同じではありませんか?」
「ど、どういう意味だ……?」
龍次は、急に話題が恋愛に移って混乱している。
惟月は、物憂げな表情で優月の生き方について語っていく。
「浮気というのは人間界でも羅仙界でも道義に反する行為でしょう。道義に反すれば後ろ指をさされて生きることになります。優月さんは自分の株が下がってもお二人共に幸せになってもらいたかったんですよ」
「なるほどな……。自分の幸せだけなら日向先輩一人いれば十分だしな……」
涼太は、龍次とだけでなく自分とまで付き合うことにした優月の選択について、改めて考える。
「戦いでも人を傷つけたい訳ではありません。人を殺める罪を自身が引き受けようとしているんです」
相手がどんな存在であれ、人を殺すことは罪だ。少なくとも優月はそう思っている。
自覚があるかはともかく、自らの名誉を投げ打ってでも他の人を守るのが優月の信条だ。
「謙虚な優月さんが唯一誇りに思っているのが、あなたたちを守れることです。彼女の誇りを殺さないためにも、黙って見ていることはできませんか?」
「…………」
惟月の問いに龍次は答えることができなかった。
だが、戦っている優月と雷斗の間に割って入ろうとはしなかった。
「まあ、優月は昔から変わってたからな。特殊な生き方を選ぶなら、ついていくのも悪くはないか」
優月と一番付き合いが長い涼太は、ある程度納得ができているようだ。
沙菜も修練場の上空に浮かんで、戦いを眺めている。
「さすが雷斗様。人間の血を引いてるのは同じでも優月さんとは格がち――がッ!」
雷斗は、無数に放たれていた霊気の球の一つを飛ばして沙菜を撃ち落とす。
別に今は悪いことはしていなかった気がするが、沙菜だからいいだろう。
度重なる攻撃を受けて優月の身体はボロボロになっていた。
雷斗と直接戦うなど無謀だったのか。もっと楽な道を選ぶべきだったのか。
(違う……。わたしが龍次さんと涼太にしたことを考えたら……)
優月は、血だまりの中、刀を支えに立ち上がった。
「ふん……。面白い女だ……」
雷斗も、多少は優月に興味が出てきたらしい。
(……!)
突如、目の前が真っ暗になった。
いくら目を凝らしても何も見えない。
今頃になって雷斗が光を司る霊極だということを思い出した。
百済継一が真の力を解放した時、いったん風がやんだように、光を支配する雷斗は敵の光を奪うぐらいのことは容易くできるのだ。
多くの者は暗闇の恐怖に負けてしまうところだろう。
しかし、優月にとって恐怖は戦う原動力だ。
目が見えなくなったことで別の感覚が鋭敏化される。
羅刹の戦いにおいて、周囲の状況は目で見て確認するものではない。
魄気によって雷斗の霊気を感じ取ると、抜け道はあることが分かった。
視覚に頼ることをやめた優月は、霊気の球をかいくぐって雷斗に接近。
刀を振ろうとしたところで違和感に気付く。
(これは雷斗さまじゃない。幻影だ)
優月は雷斗とそれほど長い時間を共にした訳ではないが、彼のことは見ていた。
幻影の横に本物の雷斗の気配を見つけ、刀を振る。
「……なんの真似だ」
霊刀・雪華の刃が雷斗の身体に触れることはなく、寸止めされている。
触れていたら刀の方が折れていた可能性もあるが、優月の意図は別にあった。
「修行のためでも、わたしには雷斗さまを斬ることはできません……。雷斗さまもわたしにとって大切な人です」
我ながら八方美人だとは思う。
しかし、自分が傷ついてまで戦うのは大切な人を守るためだ。
怒りを買うのではないかという危惧もあったが、本音を伝えることにした。
対する雷斗は――。
「ふん。殊勝なことだな」
表情は冷めたままだが、わずかに好感を示した。
羅刹王を討ったとはいえ、優月の羅刹としての戦いは、まだ途上にあるのだった。
エピローグ-再戦・優月VS雷斗- 完
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「どんな手段を使っても構わん。私に一太刀浴びせてみせろ。話はそれからだ」
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一つ一つが人ひとりを飲み込めるぐらいの大きさだ。
対する優月は、羅刹化して霊刀・雪華を構える。
雷斗に一太刀浴びせることがどれだけ困難かは理解しているつもりだ。
たとえ彼の霊力が戻りかけでも羅刹の頂点に君臨する四大霊極の一人であることに違いはない。
霊気の球の一つが向かってきた。
優月は、それを全力で迎え撃つ。
「氷刀一閃」
断劾で生み出した極大の氷の刃が雷斗の霊気とぶつかり合う。
「……!」
さすがに相殺するぐらいはできるかと思いきや、霊気の球は氷を砕いて直進してくる。
かわすのは間に合わず、優月は霊気の球に触れることに。
すると、何本もの刃を受けたように身体中を斬り裂かれた。
「どうした、こんなものか」
足元に血が溜まっていくが、優月は雷斗から目をそらさない。
「戰戻――」
力の差は百も承知。相手が魂装したままでも、こちらは霊魂回帰して挑むべきだ。
「氷雪纏衣」
今、命を懸けなければ、この先の戦いで龍次と涼太を危険にさらす。優月にとっての唯一の誇りのために退くことはできない。
霊光の放出と共に羽衣をまとった優月は、流身で加速して雷斗に斬りかかる。
適当に技を撃ったのでは、いずれかの霊気の球に打ち砕かれる。
ならば、まずは接近しなければ。
しかし、霊気の球は威力だけでなく速度も予想以上で、移動に力を割いていてもかわすことができずに吹き飛ばされた。
戰戻で霊力が上がった分ダメージは減っているが、それでもすぐには体勢を立て直せずさらなる攻撃を叩き込まれる。
「うっ……、あ……」
覚悟はしていたつもりだったが、どんどん深くなっていく傷の痛みは耐えがたかった。
優月の感じている苦痛などまるで意識していないかのように雷斗は攻撃の手を休めない。
接近して一太刀浴びせるはずが、霊気の球に繰り返し吹き飛ばされて後退してしまっていた。
優月は、何度も立ち上がり、断劾で抵抗を試みるが手も足も出ない。
霊力戦闘は霊子構成の読み合い。
雷斗の攻撃の霊子構成を見極めようとしているが、無数に展開された球のそれぞれが異なる霊子構成を持っている上、次々襲ってくるため、有効な反撃手段が見出せない。
追い詰められた優月を、雷斗は冷ややかに見下ろす。
「ふっ……。まさか今さら殺されることなどないだろうとでも思ったか?」
雷斗は、うっすらと笑みを浮かべている。やはり優月に対するいたわりは微塵も感じられない。
「私の目的は霊刀・雪華を鍛えること。貴様の命に興味はない」
かつて雷斗は、王室に奪われた父の形見である霊刀・村雨を取り戻すことを目指して力を磨いていた。
霊刀・雪華は惟月の母の形見。惟月の盟友として刀の存在を重く見ているのだろう。
「あれは……!」
霊気の衝突を感じた龍次が、涼太を伴って修練場のそばまで走ってきた。
そこには惟月の姿もある。
「なんで優月さんがまた雷斗と戦ってるんだ!?」
満身創痍の優月を見て龍次は声を上げる。
「あなたたちを守るためです」
戦況を見守っていた惟月は振り返って龍次たちに答えた。
「さすがにやりすぎじゃないか?」
「優月さん……どうしてそこまで……」
龍次には、優月が戦いを選ぶ理由が分からない。
誰よりも争いを嫌っていたのだから、そう思われるのは当然だろう。
「優月さんは不器用な人です。誰かの力になる手段が、代わりに自分が傷つくことしかないんです。あなたたち二人と交際されることを選んだのも同じではありませんか?」
「ど、どういう意味だ……?」
龍次は、急に話題が恋愛に移って混乱している。
惟月は、物憂げな表情で優月の生き方について語っていく。
「浮気というのは人間界でも羅仙界でも道義に反する行為でしょう。道義に反すれば後ろ指をさされて生きることになります。優月さんは自分の株が下がってもお二人共に幸せになってもらいたかったんですよ」
「なるほどな……。自分の幸せだけなら日向先輩一人いれば十分だしな……」
涼太は、龍次とだけでなく自分とまで付き合うことにした優月の選択について、改めて考える。
「戦いでも人を傷つけたい訳ではありません。人を殺める罪を自身が引き受けようとしているんです」
相手がどんな存在であれ、人を殺すことは罪だ。少なくとも優月はそう思っている。
自覚があるかはともかく、自らの名誉を投げ打ってでも他の人を守るのが優月の信条だ。
「謙虚な優月さんが唯一誇りに思っているのが、あなたたちを守れることです。彼女の誇りを殺さないためにも、黙って見ていることはできませんか?」
「…………」
惟月の問いに龍次は答えることができなかった。
だが、戦っている優月と雷斗の間に割って入ろうとはしなかった。
「まあ、優月は昔から変わってたからな。特殊な生き方を選ぶなら、ついていくのも悪くはないか」
優月と一番付き合いが長い涼太は、ある程度納得ができているようだ。
沙菜も修練場の上空に浮かんで、戦いを眺めている。
「さすが雷斗様。人間の血を引いてるのは同じでも優月さんとは格がち――がッ!」
雷斗は、無数に放たれていた霊気の球の一つを飛ばして沙菜を撃ち落とす。
別に今は悪いことはしていなかった気がするが、沙菜だからいいだろう。
度重なる攻撃を受けて優月の身体はボロボロになっていた。
雷斗と直接戦うなど無謀だったのか。もっと楽な道を選ぶべきだったのか。
(違う……。わたしが龍次さんと涼太にしたことを考えたら……)
優月は、血だまりの中、刀を支えに立ち上がった。
「ふん……。面白い女だ……」
雷斗も、多少は優月に興味が出てきたらしい。
(……!)
突如、目の前が真っ暗になった。
いくら目を凝らしても何も見えない。
今頃になって雷斗が光を司る霊極だということを思い出した。
百済継一が真の力を解放した時、いったん風がやんだように、光を支配する雷斗は敵の光を奪うぐらいのことは容易くできるのだ。
多くの者は暗闇の恐怖に負けてしまうところだろう。
しかし、優月にとって恐怖は戦う原動力だ。
目が見えなくなったことで別の感覚が鋭敏化される。
羅刹の戦いにおいて、周囲の状況は目で見て確認するものではない。
魄気によって雷斗の霊気を感じ取ると、抜け道はあることが分かった。
視覚に頼ることをやめた優月は、霊気の球をかいくぐって雷斗に接近。
刀を振ろうとしたところで違和感に気付く。
(これは雷斗さまじゃない。幻影だ)
優月は雷斗とそれほど長い時間を共にした訳ではないが、彼のことは見ていた。
幻影の横に本物の雷斗の気配を見つけ、刀を振る。
「……なんの真似だ」
霊刀・雪華の刃が雷斗の身体に触れることはなく、寸止めされている。
触れていたら刀の方が折れていた可能性もあるが、優月の意図は別にあった。
「修行のためでも、わたしには雷斗さまを斬ることはできません……。雷斗さまもわたしにとって大切な人です」
我ながら八方美人だとは思う。
しかし、自分が傷ついてまで戦うのは大切な人を守るためだ。
怒りを買うのではないかという危惧もあったが、本音を伝えることにした。
対する雷斗は――。
「ふん。殊勝なことだな」
表情は冷めたままだが、わずかに好感を示した。
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