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第二十二章-憎悪と愛情-
第134話「協力」
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「――断劾『蛇紋灼炎陣』」
立体的に組み上げられた紅色の結界。
優月と梓、二人が気付いた時には、ちょうど梓が飛び退いた辺りを囲むように霊剣・紅大蛇の刃が散らばっていた。
これは優月と梓が戦っている最中に涼太が設置していたものだ。
涼太は、梓が追い詰められて距離を取るのを待っていた。追い打ちをかけて仕留めるために――。
「人間が張った結界など……!」
梓が結界破りの超能力を発動するより早く、結界の内部で大爆発が起こった。
爆風が外に逃げることはなく、病院の床も壁も破壊しない。それ故に中にいる梓にはその威力が容赦なく襲いかかる。
以前、羅仙界で騎士団員を相手に使った時は技が未完成で、平面に展開した結界から火柱が上がるだけで破壊力が無駄になっていた。
それが今回は立体的に組み上げることができていた。強くなっているのは優月だけではなかったのだ。
「ぐほっ……」
黒煙の中から身体に火傷を負った梓が姿を現す。
「涼太、ありがとう」
振り返ることなく頼れる弟に礼を言う。
ようやく手傷を負わせるに至った。このまま一息に勝負をつけたいところだ。
「よくぞここまで私を追い詰めた。ならば全霊を以って君たちを葬るとしよう」
梓がこれまでにない鬼気迫る表情をしている。
まずいと直感した。今までは、まだ敵が霊魂回帰していなかったから、こちらにも余裕があったのだ。
「霊魂回――」
『霊法サポートアプリ起動します』
能力測定機能を使う時同様の機械的な音声が聞こえてきた。続いて――。
「霊法四十四式・封輪枷!」
背後に差し向けられていた梓の右腕に光の輪がはめられた。左腕、両脚も同様の輪に締めつけられる。
弾き飛ばされていたメスから抜け出た魂魄と融合しようとしていた梓は、いったん動きを封じられ霊魂回帰に失敗した。
「俺だって何もしてこなかった訳じゃない!」
今の霊法は龍次が発動したものだ。
霊法は羅刹の頭脳を以ってしても学習が難しく、投げ出す者も多い術だ。それを不得意な羅刹、ひいては人間でも使用可能にするのが霊法アポートアプリである。
「日向先輩、ひょっとしてその機能、八条瑠璃に?」
「ああ、そうだけど」
霊子学研究所第一研究室からの帰り道、能力測定機能をつけることに加えもう一つ用件があったと言って龍次が戻った理由がこれだった。
外見だけでいえば瑠璃と龍次はお似合いといえるかもしれないが、龍次の目的は優月の力になることだけだった。龍次は一途に優月のことを想っている。
嫌な予感などというものは、単なる杞憂でしかなかった。
龍次には霊力戦闘の才能がないと言われてしまっていたが、戦闘に適さない者ほど補助系の霊法には適性がある場合が多い。霊源移植も含め、龍次は十分優月のために戦えている。
「この程度の術で私を止められるとでも思うか!」
両腕を打ち合わせて光の輪を砕く梓。
せっかく龍次が作ってくれた隙を無駄にしてはならないと、再び斬りかかる。
拘束が解かれた右手を向けて優月を迎え撃とうとする梓に、今度は銀の鎖が巻き付く。
「霊法八十九式・白銀鎖!」
これも龍次の霊法だ。霊法は番号が大きくなるほど扱いが難しい。アプリケーションのサポートがあるとはいえ、人間の龍次が上級霊法を使えるのは驚きである。
「優月さん、今だ!」
龍次のかけ声を背に、優月は全力で霊刀・雪華を振るう。
「断劾『氷刀一閃』」
殺傷力を一切抜いていない極大の氷の刃が梓の身体に叩き込まれる。
両断するには至らないものの、刃は深く食い込んでいく。
傷口は氷結して出血はしない。
血しぶきを上げることもなく梓は吹き飛ばされた。
(やった……)
強敵ではあったが、龍次や涼太と協力することでなんとか勝つことができた――そう思った途端、安心したのか眠気が襲ってきた。
(え……?)
いくら何でも強烈すぎる睡魔に違和感を覚える。そもそも今まで戦いに勝利した時に眠くなるなどということはなかった。それより殺した相手への罪悪感が胸を占めていたのだ。
「さすがに驚いた……。人間の血を引いている羅刹は『劣血』などと揶揄されるものだが、君は本物の羅刹だな……」
深手を負いながらも梓が立ち上がっていた。
肩から腰にかけて斬り裂かれ、その表面を覆う氷に力を削がれているのだが、それでもまだ霊力が残っている。
「他の超能力者たちも追い詰められれば新しい力に目覚めていたはずだ。私とて例外ではない」
この睡魔が、梓が持っていた何かしらの超能力が発展して生まれた能力なのか。
この状況で眠ったりすれば、間違いなく殺される。
優月は、なんとか意識を保とうと自分で自分の肩に霊刀・雪華を突き立てる。
痛みで目が覚めるかと思いきや、視界は歪んでいき、床に片膝を突いた体勢で目を閉じてしまった。
「なに、恐れることはない。満たされた気持ちのまま最期を迎えることができるよ」
悪魔のささやきのような声が聞こえたかと思うと、周りの世界が変わっていた。
立体的に組み上げられた紅色の結界。
優月と梓、二人が気付いた時には、ちょうど梓が飛び退いた辺りを囲むように霊剣・紅大蛇の刃が散らばっていた。
これは優月と梓が戦っている最中に涼太が設置していたものだ。
涼太は、梓が追い詰められて距離を取るのを待っていた。追い打ちをかけて仕留めるために――。
「人間が張った結界など……!」
梓が結界破りの超能力を発動するより早く、結界の内部で大爆発が起こった。
爆風が外に逃げることはなく、病院の床も壁も破壊しない。それ故に中にいる梓にはその威力が容赦なく襲いかかる。
以前、羅仙界で騎士団員を相手に使った時は技が未完成で、平面に展開した結界から火柱が上がるだけで破壊力が無駄になっていた。
それが今回は立体的に組み上げることができていた。強くなっているのは優月だけではなかったのだ。
「ぐほっ……」
黒煙の中から身体に火傷を負った梓が姿を現す。
「涼太、ありがとう」
振り返ることなく頼れる弟に礼を言う。
ようやく手傷を負わせるに至った。このまま一息に勝負をつけたいところだ。
「よくぞここまで私を追い詰めた。ならば全霊を以って君たちを葬るとしよう」
梓がこれまでにない鬼気迫る表情をしている。
まずいと直感した。今までは、まだ敵が霊魂回帰していなかったから、こちらにも余裕があったのだ。
「霊魂回――」
『霊法サポートアプリ起動します』
能力測定機能を使う時同様の機械的な音声が聞こえてきた。続いて――。
「霊法四十四式・封輪枷!」
背後に差し向けられていた梓の右腕に光の輪がはめられた。左腕、両脚も同様の輪に締めつけられる。
弾き飛ばされていたメスから抜け出た魂魄と融合しようとしていた梓は、いったん動きを封じられ霊魂回帰に失敗した。
「俺だって何もしてこなかった訳じゃない!」
今の霊法は龍次が発動したものだ。
霊法は羅刹の頭脳を以ってしても学習が難しく、投げ出す者も多い術だ。それを不得意な羅刹、ひいては人間でも使用可能にするのが霊法アポートアプリである。
「日向先輩、ひょっとしてその機能、八条瑠璃に?」
「ああ、そうだけど」
霊子学研究所第一研究室からの帰り道、能力測定機能をつけることに加えもう一つ用件があったと言って龍次が戻った理由がこれだった。
外見だけでいえば瑠璃と龍次はお似合いといえるかもしれないが、龍次の目的は優月の力になることだけだった。龍次は一途に優月のことを想っている。
嫌な予感などというものは、単なる杞憂でしかなかった。
龍次には霊力戦闘の才能がないと言われてしまっていたが、戦闘に適さない者ほど補助系の霊法には適性がある場合が多い。霊源移植も含め、龍次は十分優月のために戦えている。
「この程度の術で私を止められるとでも思うか!」
両腕を打ち合わせて光の輪を砕く梓。
せっかく龍次が作ってくれた隙を無駄にしてはならないと、再び斬りかかる。
拘束が解かれた右手を向けて優月を迎え撃とうとする梓に、今度は銀の鎖が巻き付く。
「霊法八十九式・白銀鎖!」
これも龍次の霊法だ。霊法は番号が大きくなるほど扱いが難しい。アプリケーションのサポートがあるとはいえ、人間の龍次が上級霊法を使えるのは驚きである。
「優月さん、今だ!」
龍次のかけ声を背に、優月は全力で霊刀・雪華を振るう。
「断劾『氷刀一閃』」
殺傷力を一切抜いていない極大の氷の刃が梓の身体に叩き込まれる。
両断するには至らないものの、刃は深く食い込んでいく。
傷口は氷結して出血はしない。
血しぶきを上げることもなく梓は吹き飛ばされた。
(やった……)
強敵ではあったが、龍次や涼太と協力することでなんとか勝つことができた――そう思った途端、安心したのか眠気が襲ってきた。
(え……?)
いくら何でも強烈すぎる睡魔に違和感を覚える。そもそも今まで戦いに勝利した時に眠くなるなどということはなかった。それより殺した相手への罪悪感が胸を占めていたのだ。
「さすがに驚いた……。人間の血を引いている羅刹は『劣血』などと揶揄されるものだが、君は本物の羅刹だな……」
深手を負いながらも梓が立ち上がっていた。
肩から腰にかけて斬り裂かれ、その表面を覆う氷に力を削がれているのだが、それでもまだ霊力が残っている。
「他の超能力者たちも追い詰められれば新しい力に目覚めていたはずだ。私とて例外ではない」
この睡魔が、梓が持っていた何かしらの超能力が発展して生まれた能力なのか。
この状況で眠ったりすれば、間違いなく殺される。
優月は、なんとか意識を保とうと自分で自分の肩に霊刀・雪華を突き立てる。
痛みで目が覚めるかと思いきや、視界は歪んでいき、床に片膝を突いた体勢で目を閉じてしまった。
「なに、恐れることはない。満たされた気持ちのまま最期を迎えることができるよ」
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