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第十四章-新たなる世界-
第76話「騎士団再編会議(前編)」
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少女は緊張していた。
巨大な城の一室で大きなテーブルを、進化した人間――羅刹たちと共に囲んでいる状況だからだ。
少女の名は天堂優月。羅刹の世界を作り変える戦い――人羅戦争と呼ばれる――で、敵の総大将を討った革命軍の戦士である。
優月自身は、半分羅刹半分普通の人間という特殊な存在だ。
他にテーブルを囲んでいるのは、革命軍の同志が四人、戦争で敗北した霊神騎士団の生き残りである各部隊の隊長・隊長代理が合計八人。
(うう……、偉い人がいっぱいいる……)
この集まりは、甚大な被害を受けた騎士団の今後について決めるための会議だ。
優月は勝利した革命軍の筆頭戦士であるにも関わらず、敗軍の面々に気後れしてしまっている。
「みなさん、今日はお集りいただき、ありがとうございます」
優月の右隣で、髪を三つ編みにし蒼白の着物をまとった中性的な美少年が感謝の言葉を述べた。
彼は蓮乗院惟月。革命軍の総大将であり、革命前の体制では貴族とされていた者の一人だ。
この会議では、主に惟月が、隊長・副隊長の座が空白となった隊の人事を決めることになっている。
「まあ、戦争に負けた以上、集まれと言われて断る権利なんてないんですけどね」
惟月のさらに右隣でうさんくさい笑みを浮かべている女が如月沙菜。後ろ髪を高い位置でくくり、平凡な顔立ちとは対照的に豪華な印象を与える金色の羅刹装束を着ている。
羅刹装束の多くは、基本的に着物に洋のテイストが入って現代風になったものだ。
「沙菜君の言う通りだ。今の我々には何らの権利もない。惟月、すべてお前の指示に従おう」
沙菜の二つ右隣にいる、長い黒髪で黒の羅刹装束をまとった青年は惟月の兄・蓮乗院久遠。
久遠は、霊神騎士団において団長を務めていた。その後の処遇については惟月次第だが、実力者であるのは間違いない。
「まあ、そう固くなる必要もないでしょう。みなさん何か飲まれますか?」
惟月がにこやかに話すと、如月家の執事・相賀和都が現れた。
「まずは、惟月様からうかがいましょうか」
「私はココアをいただきます」
「じゃあ私は――」
「お嬢は最後でいいだろ」
自家の執事にスルーされる如月家の令嬢・沙菜。
「次は騎士団長様にうかがいましょう。どうされますか」
「私は水で構わない」
敗者である久遠は、そもそも自分が処刑されるべきだと考えていたぐらいだ。まともな飲み物を注文する資格もないと考えているのだろう。
「団長が水でいいというのに、我々が他の物を頼める道理もない」
久遠の右隣で、彼の副官だった重光戒が目を伏せながら言う。
残りの騎士団員も異論はないようだった。
「では、みなさんミネラルウォーターということで」
騎士団側の注文はあっさり決まってしまった。
今度は惟月以外の革命軍側だが。
「優月嬢ちゃん、何にする?」
「えっ……、あ……、わたしですか……?」
「革命軍の筆頭戦士な訳だし、次は君でいいだろ」
「じゃ、じゃあ、わたしは水道水で……」
偉大な騎士団長や、その他優秀な騎士団の隊長・副隊長が水と言っているのだから、自分はもっと下のものを頼まなければと思ってしまった。
この卑屈さが天堂優月の特徴である。
「さすがに水道水は出せねえなあ」
渋い顔をする相賀に対して優月はというと。
「な、なんなら下水でも……」
すっかり自虐モードに入ってしまっている。
優月なら本気で下水でも飲みかねない。
「彼女にはミルクセーキを」
見かねて惟月が代わりに注文してくれた。
彼は、優月の好みをよく分かってくれている。
「次、鳳君は?」
「僕はホットミルクで。先輩と一緒に遅くまで作業してた時なんかによく飲んだものです」
優月の左隣に座っている鳳昇太――華奢な体型と整った顔立ちで庇護欲をそそる彼は、革命軍の諜報員で騎士団にも籍を置いている。
騎士団には第一霊隊から第七霊隊までの主要任務の異なる部隊が存在するが、昇太は第一霊隊の第五位だった。
先輩というのは、同隊第四位の東雲若菜のことである。
若菜は、戦争中に裏切った昇太に刺されて、その一件がショックで病室に籠りきりになってしまっていた。
この昇太という少年、どこかで見たことがあると思ったら、龍次が倒れた時に延命処置をしてくれた研究員だ。
思い返してみれば、第二霊隊隊長の百済継一が第四研究室で確かめたかったこととは、昇太のことだったのかもしれない。
「あとは……、八条瑠璃さん?」
呼びかけられた女性のスタイルを見て優月は衝撃を受けた。衝撃を受けると共に、非常に落ち込んだ。
自分とは比較にならないほど身体が起伏に富んでいて、見るだけで鬱になってくる。
優月はスタイルの悪さがコンプレックスだった。それ以外にもコンプレックスはたくさんあるが。
「私、紅茶」
ものすごく素っ気ない態度で答える瑠璃。
彼女も革命軍側の所属だが、優月は彼女に会ったことがなかった。惟月が設立した霊子学研究所の研究員らしい。
白衣を身につけたその姿は、確かにいかにも研究者らしい雰囲気を醸し出している。
「なんで紅茶がいいんですかね? コーヒー好きじゃなかったんですか?」
沙菜がニヤニヤしながら、割り込んでくる。
「何を頼もうと私の勝手でしょ? あなたいちいち人のすることにケチをつけないと気が済まないの?」
冷静ではあるが、明らかに不機嫌そうな瑠璃を見て優月までヒヤヒヤしてしまう。というか沙菜本人は何とも思っていない。
「あおんな、お嬢。で? お嬢は何にすんだよ?」
「私はバナナオレをもらいましょう」
こうして各人の注文が決まり、本格的に会議を始めることとなる。
巨大な城の一室で大きなテーブルを、進化した人間――羅刹たちと共に囲んでいる状況だからだ。
少女の名は天堂優月。羅刹の世界を作り変える戦い――人羅戦争と呼ばれる――で、敵の総大将を討った革命軍の戦士である。
優月自身は、半分羅刹半分普通の人間という特殊な存在だ。
他にテーブルを囲んでいるのは、革命軍の同志が四人、戦争で敗北した霊神騎士団の生き残りである各部隊の隊長・隊長代理が合計八人。
(うう……、偉い人がいっぱいいる……)
この集まりは、甚大な被害を受けた騎士団の今後について決めるための会議だ。
優月は勝利した革命軍の筆頭戦士であるにも関わらず、敗軍の面々に気後れしてしまっている。
「みなさん、今日はお集りいただき、ありがとうございます」
優月の右隣で、髪を三つ編みにし蒼白の着物をまとった中性的な美少年が感謝の言葉を述べた。
彼は蓮乗院惟月。革命軍の総大将であり、革命前の体制では貴族とされていた者の一人だ。
この会議では、主に惟月が、隊長・副隊長の座が空白となった隊の人事を決めることになっている。
「まあ、戦争に負けた以上、集まれと言われて断る権利なんてないんですけどね」
惟月のさらに右隣でうさんくさい笑みを浮かべている女が如月沙菜。後ろ髪を高い位置でくくり、平凡な顔立ちとは対照的に豪華な印象を与える金色の羅刹装束を着ている。
羅刹装束の多くは、基本的に着物に洋のテイストが入って現代風になったものだ。
「沙菜君の言う通りだ。今の我々には何らの権利もない。惟月、すべてお前の指示に従おう」
沙菜の二つ右隣にいる、長い黒髪で黒の羅刹装束をまとった青年は惟月の兄・蓮乗院久遠。
久遠は、霊神騎士団において団長を務めていた。その後の処遇については惟月次第だが、実力者であるのは間違いない。
「まあ、そう固くなる必要もないでしょう。みなさん何か飲まれますか?」
惟月がにこやかに話すと、如月家の執事・相賀和都が現れた。
「まずは、惟月様からうかがいましょうか」
「私はココアをいただきます」
「じゃあ私は――」
「お嬢は最後でいいだろ」
自家の執事にスルーされる如月家の令嬢・沙菜。
「次は騎士団長様にうかがいましょう。どうされますか」
「私は水で構わない」
敗者である久遠は、そもそも自分が処刑されるべきだと考えていたぐらいだ。まともな飲み物を注文する資格もないと考えているのだろう。
「団長が水でいいというのに、我々が他の物を頼める道理もない」
久遠の右隣で、彼の副官だった重光戒が目を伏せながら言う。
残りの騎士団員も異論はないようだった。
「では、みなさんミネラルウォーターということで」
騎士団側の注文はあっさり決まってしまった。
今度は惟月以外の革命軍側だが。
「優月嬢ちゃん、何にする?」
「えっ……、あ……、わたしですか……?」
「革命軍の筆頭戦士な訳だし、次は君でいいだろ」
「じゃ、じゃあ、わたしは水道水で……」
偉大な騎士団長や、その他優秀な騎士団の隊長・副隊長が水と言っているのだから、自分はもっと下のものを頼まなければと思ってしまった。
この卑屈さが天堂優月の特徴である。
「さすがに水道水は出せねえなあ」
渋い顔をする相賀に対して優月はというと。
「な、なんなら下水でも……」
すっかり自虐モードに入ってしまっている。
優月なら本気で下水でも飲みかねない。
「彼女にはミルクセーキを」
見かねて惟月が代わりに注文してくれた。
彼は、優月の好みをよく分かってくれている。
「次、鳳君は?」
「僕はホットミルクで。先輩と一緒に遅くまで作業してた時なんかによく飲んだものです」
優月の左隣に座っている鳳昇太――華奢な体型と整った顔立ちで庇護欲をそそる彼は、革命軍の諜報員で騎士団にも籍を置いている。
騎士団には第一霊隊から第七霊隊までの主要任務の異なる部隊が存在するが、昇太は第一霊隊の第五位だった。
先輩というのは、同隊第四位の東雲若菜のことである。
若菜は、戦争中に裏切った昇太に刺されて、その一件がショックで病室に籠りきりになってしまっていた。
この昇太という少年、どこかで見たことがあると思ったら、龍次が倒れた時に延命処置をしてくれた研究員だ。
思い返してみれば、第二霊隊隊長の百済継一が第四研究室で確かめたかったこととは、昇太のことだったのかもしれない。
「あとは……、八条瑠璃さん?」
呼びかけられた女性のスタイルを見て優月は衝撃を受けた。衝撃を受けると共に、非常に落ち込んだ。
自分とは比較にならないほど身体が起伏に富んでいて、見るだけで鬱になってくる。
優月はスタイルの悪さがコンプレックスだった。それ以外にもコンプレックスはたくさんあるが。
「私、紅茶」
ものすごく素っ気ない態度で答える瑠璃。
彼女も革命軍側の所属だが、優月は彼女に会ったことがなかった。惟月が設立した霊子学研究所の研究員らしい。
白衣を身につけたその姿は、確かにいかにも研究者らしい雰囲気を醸し出している。
「なんで紅茶がいいんですかね? コーヒー好きじゃなかったんですか?」
沙菜がニヤニヤしながら、割り込んでくる。
「何を頼もうと私の勝手でしょ? あなたいちいち人のすることにケチをつけないと気が済まないの?」
冷静ではあるが、明らかに不機嫌そうな瑠璃を見て優月までヒヤヒヤしてしまう。というか沙菜本人は何とも思っていない。
「あおんな、お嬢。で? お嬢は何にすんだよ?」
「私はバナナオレをもらいましょう」
こうして各人の注文が決まり、本格的に会議を始めることとなる。
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