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第十一章-英雄VS殺戮者-
第65話「一翼の黄金竜」
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「戰戻――隻翼金剛朧月」
沙菜が霊魂回帰すると、黄金の鎧と共に、竜のそれを模した巨大な翼が左側に一枚だけ現れた。
そしてその翼は、大気から、木々から、大地から、周囲のあらゆるものから霊子を吸収していく。
「なっ!? なんだよこれ!?」
沙菜の戰戻は防御能力が非常に高い鎧とだけ聞いていた。それ以外にも能力があるなどとは聞いていない。
「今まで私が使っていた戰戻の正式名称を教えましょう。『隻翼金剛朧月・翼折形態』――霊魂回帰しつつも真の力を隠しておく為に用意した姿ですよ」
こうして喋りながらも、沙菜の翼は自然界に存在している霊子をどんどん吸い上げていった。
街道の脇に生えていた木々が徐々に枯れていくのが分かる。
終極戰戻を発動した大和の命は長くは持たない。一刻も早く沙菜を倒さなければ。
沙菜の戰戻に隠された能力があったとはいえ、全生命力を戦闘能力に変えている今の自分なら互角に戦えるはず。
大和は流身で空中に飛び上がり沙菜に斬りかかる。
沙菜は霊槍・朧月の柄で大和の刃を弾き、霊気の球を飛ばしてくる。
戦い方は幻影とそれほど変わっていない。――そう思いながら一旦地面に足をつけると。
「ぐあッ!」
突然足元で爆発が起こった。
「対霊地雷。ここら一帯には、第四研究室で開発した地雷をばら撒いてありますよ」
大和が沙菜の幻影と戦っている間にそんなものまで仕掛けていたのか。
大和は流身による空中戦をあまり得意とはしていない。だが、これでは迂闊に地に足をつけられないことになった。
「霊戦技――地裂刃!」
まずは地雷の数を減らそうと、地を這う斬撃を放つ。
「霊戦技――月光刃」
すると、上空から沙菜の霊気による斬撃が飛んできて大和の肩を裂いた。
やはり地雷の相手をしていては、その間に敵の攻撃を受けてしまう。
「はははっ! 命と引き換えに力を得てもその程度ですか。所詮あなたは副隊長などという器ではないんですよ」
「てめえはなんでこんなことをしてるんだ!? 命を懸けて世界を守った如月隊長が今のてめえを見たらどう思う!?」
前第五霊隊隊長・如月瞬。沙菜の従兄だ。
彼はかつて異世界から魔神と呼ばれる存在が来襲した時に、誰より早くそのことに気付き、代償霊法という術式を用いてこれを撃退した。
羅仙界に大きな被害が出ることを未然に防いだ為、一般市民の中には彼の活躍を知らない者もいるが、騎士団においては英雄として見られている。
『代償霊法』はある意味で終極戰戻に近い性質の能力だ。自らの身体、あるいは能力と引き換えにして強大な術を放つのである。
代償にするものは術によって様々で、片腕であったり、内臓であったり、視力であったりする。
瞬は魂魄全体を構成している霊子をまんべんなく代償として使い術を発動した。その結果として、今は虚弱体質となり床に臥せっていることが多い。
「瞬兄にもしばらく会ってないですね。一度見舞いにでも行きましょうか」
瞬の戦いを思い出したことは大和に良い影響を与えた。
(何をビビッてんだ! オレにはもう失うもんなんてねえじゃねえか! 刺し違えてでもこいつを倒す!!)
終極戰戻によって得た力の全てを一発の断劾に込める。そんなことができるかは分からなかったが、如月沙菜という強敵を倒すにはそれしかない。
「秘奥戦技――玲光覇弾」
沙菜が巨大な霊気の球を放ってくる。
大和はそれを、躱すことも防御することもせず、その身に受けた上で――。
「断劾――狼牙一閃破!!」
極大の斬撃を沙菜のいる上空へと放った。
攻撃直後で隙のできていた沙菜は、その一撃で斧槍ごと斬り裂かれた。
身体から鮮血が吹き出す沙菜が、地面に激突する。
まだ立ち上がる沙菜だったが、戰戻の翼と鎧は風に吹かれた砂塵のごとくバラバラになって消えていく。
大和も沙菜の攻撃を受けてボロボロの状態だったが、こちらの戰戻状態はまだ続いていた。
「如月。てめえが如月家の本当の娘じゃなかったって話は聞いてる。だけどな、どんな事情があったってこんなことをしていい理由にはならねえんだよ」
沙菜は父親と血の繋がりがない。母親と浮気相手の間に生まれた子だ。
そうした事情が彼女の心に何らかの闇を与えたのだろうと思っていたが。
「本当の娘じゃない――。はは、やっぱり履き違えていますねえ」
「何……?」
「『血が繋がってないから本当の子供じゃない』なんて言い出すようなクズは如月家にはいないんですよ」
「じゃあなんで……」
沙菜が、柄が折れ刃こぼれした斧槍を向けてくる。
「もうやめろ。いくらてめえが強くても魂装状態で終極戰戻と戦える訳がねえ」
戰戻は通常のものであっても命を削る性質を持っている。その為、本人が死に瀕したら自動的に解除されるのだ。
「そっちも履き違えてましたか。誰が戰戻を解いたんです?」
予想外の言葉に目を見開く大和。
(戰戻を解いてない?)
それなら何故、鎧と翼は消えたのか。
「私の断劾の名前、知っているでしょう? 煌刃月影弾は、魂装状態で放てば守天、戰戻状態で放てば破天。ネーミングからするともう一つあるとは思いませんか?」
「な――ッ!?」
沙菜の握っていた霊槍・朧月も粉々になって散っていく。
「霊子吸収によって集めに集めた霊気。その全てを消費する煌刃月影弾の最終形態。断劾――煌刃月影弾・離天」
戦域の全てが球状の光に包まれた。
その光は、第三、第四霊隊の隊員たちの死体も、敵である大和も、大地そのものもことごとく消し飛ばした。
地面が抉り取られてできたクレーターのような大穴の上に浮かぶ沙菜は誰に告げるともなく呟く。
「悪党と戦って死ぬなら本望でしょう? 温室育ちの凡人風情が……」
力を使い果たした沙菜は地の底へと落下していった。
霊子学研究所第一研究室。
「朝霧大和、口ほどにもないわね。あの女の奥の手をどれだけ引き出してくれるかと思えば、霊子吸収の範囲を拡大する戰戻、吸収した霊気を全消費する断劾、どっちもあることは分かりきってた能力じゃない」
沙菜の戦いを監視していた第一研究室副室長・八条瑠璃はつまらなそうに言った。
目の前の霊子端末の画面は真っ暗。
先ほど沙菜が放った断劾によって、偵察用霊機――小型のカメラのような外見をしており、飛行できる――を破壊された為だ。
瑠璃の姉は騎士団の第五霊隊で隊長をしており、姉妹揃って、長い茶髪で起伏のあるスタイル、洋風な羅刹装束と似たような風貌をしている。
似たような風貌とはいっても、性格は真逆といってもいい。
姉の英利は人当たりのいい性格で第五霊隊自体も市民に寄り添った活動をしている。一方、瑠璃はプライドが高く、変人揃いの第四研究室の面々を見下しており、特に沙菜とは犬猿の仲だ。
「神崎君。お茶入れてきなさい」
同じ研究室の部下である少年をあごで使う瑠璃。
「はっ、はいっ」
指示された少年・神崎颯斗はいそいそと給湯室に向かう。
彼の方を見ようともしない瑠璃は吐き捨てるように呟いた。
「これで如月沙菜が死んでくれてるならいいんだけどね」
沙菜が霊魂回帰すると、黄金の鎧と共に、竜のそれを模した巨大な翼が左側に一枚だけ現れた。
そしてその翼は、大気から、木々から、大地から、周囲のあらゆるものから霊子を吸収していく。
「なっ!? なんだよこれ!?」
沙菜の戰戻は防御能力が非常に高い鎧とだけ聞いていた。それ以外にも能力があるなどとは聞いていない。
「今まで私が使っていた戰戻の正式名称を教えましょう。『隻翼金剛朧月・翼折形態』――霊魂回帰しつつも真の力を隠しておく為に用意した姿ですよ」
こうして喋りながらも、沙菜の翼は自然界に存在している霊子をどんどん吸い上げていった。
街道の脇に生えていた木々が徐々に枯れていくのが分かる。
終極戰戻を発動した大和の命は長くは持たない。一刻も早く沙菜を倒さなければ。
沙菜の戰戻に隠された能力があったとはいえ、全生命力を戦闘能力に変えている今の自分なら互角に戦えるはず。
大和は流身で空中に飛び上がり沙菜に斬りかかる。
沙菜は霊槍・朧月の柄で大和の刃を弾き、霊気の球を飛ばしてくる。
戦い方は幻影とそれほど変わっていない。――そう思いながら一旦地面に足をつけると。
「ぐあッ!」
突然足元で爆発が起こった。
「対霊地雷。ここら一帯には、第四研究室で開発した地雷をばら撒いてありますよ」
大和が沙菜の幻影と戦っている間にそんなものまで仕掛けていたのか。
大和は流身による空中戦をあまり得意とはしていない。だが、これでは迂闊に地に足をつけられないことになった。
「霊戦技――地裂刃!」
まずは地雷の数を減らそうと、地を這う斬撃を放つ。
「霊戦技――月光刃」
すると、上空から沙菜の霊気による斬撃が飛んできて大和の肩を裂いた。
やはり地雷の相手をしていては、その間に敵の攻撃を受けてしまう。
「はははっ! 命と引き換えに力を得てもその程度ですか。所詮あなたは副隊長などという器ではないんですよ」
「てめえはなんでこんなことをしてるんだ!? 命を懸けて世界を守った如月隊長が今のてめえを見たらどう思う!?」
前第五霊隊隊長・如月瞬。沙菜の従兄だ。
彼はかつて異世界から魔神と呼ばれる存在が来襲した時に、誰より早くそのことに気付き、代償霊法という術式を用いてこれを撃退した。
羅仙界に大きな被害が出ることを未然に防いだ為、一般市民の中には彼の活躍を知らない者もいるが、騎士団においては英雄として見られている。
『代償霊法』はある意味で終極戰戻に近い性質の能力だ。自らの身体、あるいは能力と引き換えにして強大な術を放つのである。
代償にするものは術によって様々で、片腕であったり、内臓であったり、視力であったりする。
瞬は魂魄全体を構成している霊子をまんべんなく代償として使い術を発動した。その結果として、今は虚弱体質となり床に臥せっていることが多い。
「瞬兄にもしばらく会ってないですね。一度見舞いにでも行きましょうか」
瞬の戦いを思い出したことは大和に良い影響を与えた。
(何をビビッてんだ! オレにはもう失うもんなんてねえじゃねえか! 刺し違えてでもこいつを倒す!!)
終極戰戻によって得た力の全てを一発の断劾に込める。そんなことができるかは分からなかったが、如月沙菜という強敵を倒すにはそれしかない。
「秘奥戦技――玲光覇弾」
沙菜が巨大な霊気の球を放ってくる。
大和はそれを、躱すことも防御することもせず、その身に受けた上で――。
「断劾――狼牙一閃破!!」
極大の斬撃を沙菜のいる上空へと放った。
攻撃直後で隙のできていた沙菜は、その一撃で斧槍ごと斬り裂かれた。
身体から鮮血が吹き出す沙菜が、地面に激突する。
まだ立ち上がる沙菜だったが、戰戻の翼と鎧は風に吹かれた砂塵のごとくバラバラになって消えていく。
大和も沙菜の攻撃を受けてボロボロの状態だったが、こちらの戰戻状態はまだ続いていた。
「如月。てめえが如月家の本当の娘じゃなかったって話は聞いてる。だけどな、どんな事情があったってこんなことをしていい理由にはならねえんだよ」
沙菜は父親と血の繋がりがない。母親と浮気相手の間に生まれた子だ。
そうした事情が彼女の心に何らかの闇を与えたのだろうと思っていたが。
「本当の娘じゃない――。はは、やっぱり履き違えていますねえ」
「何……?」
「『血が繋がってないから本当の子供じゃない』なんて言い出すようなクズは如月家にはいないんですよ」
「じゃあなんで……」
沙菜が、柄が折れ刃こぼれした斧槍を向けてくる。
「もうやめろ。いくらてめえが強くても魂装状態で終極戰戻と戦える訳がねえ」
戰戻は通常のものであっても命を削る性質を持っている。その為、本人が死に瀕したら自動的に解除されるのだ。
「そっちも履き違えてましたか。誰が戰戻を解いたんです?」
予想外の言葉に目を見開く大和。
(戰戻を解いてない?)
それなら何故、鎧と翼は消えたのか。
「私の断劾の名前、知っているでしょう? 煌刃月影弾は、魂装状態で放てば守天、戰戻状態で放てば破天。ネーミングからするともう一つあるとは思いませんか?」
「な――ッ!?」
沙菜の握っていた霊槍・朧月も粉々になって散っていく。
「霊子吸収によって集めに集めた霊気。その全てを消費する煌刃月影弾の最終形態。断劾――煌刃月影弾・離天」
戦域の全てが球状の光に包まれた。
その光は、第三、第四霊隊の隊員たちの死体も、敵である大和も、大地そのものもことごとく消し飛ばした。
地面が抉り取られてできたクレーターのような大穴の上に浮かぶ沙菜は誰に告げるともなく呟く。
「悪党と戦って死ぬなら本望でしょう? 温室育ちの凡人風情が……」
力を使い果たした沙菜は地の底へと落下していった。
霊子学研究所第一研究室。
「朝霧大和、口ほどにもないわね。あの女の奥の手をどれだけ引き出してくれるかと思えば、霊子吸収の範囲を拡大する戰戻、吸収した霊気を全消費する断劾、どっちもあることは分かりきってた能力じゃない」
沙菜の戦いを監視していた第一研究室副室長・八条瑠璃はつまらなそうに言った。
目の前の霊子端末の画面は真っ暗。
先ほど沙菜が放った断劾によって、偵察用霊機――小型のカメラのような外見をしており、飛行できる――を破壊された為だ。
瑠璃の姉は騎士団の第五霊隊で隊長をしており、姉妹揃って、長い茶髪で起伏のあるスタイル、洋風な羅刹装束と似たような風貌をしている。
似たような風貌とはいっても、性格は真逆といってもいい。
姉の英利は人当たりのいい性格で第五霊隊自体も市民に寄り添った活動をしている。一方、瑠璃はプライドが高く、変人揃いの第四研究室の面々を見下しており、特に沙菜とは犬猿の仲だ。
「神崎君。お茶入れてきなさい」
同じ研究室の部下である少年をあごで使う瑠璃。
「はっ、はいっ」
指示された少年・神崎颯斗はいそいそと給湯室に向かう。
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