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第十章-戦う理由-
第61話「人羅戦争開戦」
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霊京一番街。王城にて。
霊神騎士団第二霊隊隊長・百済継一の訃報が朱姫のもとに届いていた。
「そんな……。百済隊長が……」
どうしてあれだけの傷を負っていながら、一人で戦いに向かったのか。
配下の騎士の死に胸を痛め、涙を浮かべる朱姫。
「……こうなったら戦争よ!! 霊神騎士団の全軍を挙げて逆賊を討伐しましょう!!」
百済継一と藤森明日菜を撃破した優月たちは、如月邸に戻りしばしの休息を取っていた。
「やるじゃないですか、優月さん。私のサポートがあったとはいえ百済隊長を倒すなんて」
「沙菜さん……」
「如月。お前はおれたちの味方ってことでいいのか?」
「敵になるなんて言いましたか?」
まだ警戒を完全に解いていない涼太に対し、飄々とした態度で答える沙菜。
「皆さんが疑うのも無理はありません。ですが、彼女があなたたちに危害を加えることはありません。その点に関しては安心してください。――五年前の事件についても、いずれ落ち着いて話せる時がきたら本人の口から説明してくれるでしょう」
惟月は沙菜との関係についてフォローを入れてくれた。
五年前の事件について、惟月が把握してくれているというのは確かに安心だ。
事件の真相については全ての戦いが終わってから。
そう、戦いはまだ終わっていない。
重罪人の誅殺を主要任務とする第二霊隊の隊長が死んだとはいえ、これで敵が人間の侵入を許すということはないだろう。むしろ仲間の敵討ちの為に動き出すものと考えられる。
「如月沙菜、及び、その一党に告ぐ!」
突然、霊法により転送されてきた少女の声が邸内に響く。
「この声は……?」
「現羅刹王・真羅朱姫ですよ」
優月の疑問に対し、沙菜が説明を加えた。
「人間を羅仙界へ侵入させる行為、騎士団員に対する傷害、そして――第二霊隊隊長・百済継一の殺害、これらの凶行を以って貴公らを賊軍と見なし宣戦布告を行う!」
「ふむ……。私が答えても構いませんが、ここは総大将に出てもらうことにしましょうか」
沙菜に促され朱姫の呼びかけに応答したのは――。
「朱姫さん。そちらの宣戦布告、確かに受け取りました」
「惟月!? どうしてあなたが――!?」
惟月の声を聞いた朱姫は明らかに狼狽している。敵は如月沙菜と如月白夜、そして人間たちだけだと思い込んでいたのだ。
「『賊軍』というのは、私たち『羅仙革命軍』のことでしょう? 私たちはこれからあなたたちと戦います」
朱姫と惟月のやり取りを聞きながら、涼太と龍次がひそひそ声で話す。
「惟月が総大将だったのか……」
「俺も雷斗がリーダーなのかと思ってた……」
惟月はさらに言葉を続ける。
「私が一度でも、あなたを王太女として扱いましたか?」
「……っ」
惟月は初めから一貫して朱姫のことを、さん付けで呼んでいた。それは彼女たち王族の存在を認めていないからだ。
そこに沙菜が横から口を挟んでくる。
「惟月様から名前で呼ばれていたのは、王族という身分に囚われない親愛の証だとでも思ってましたか? ハハハッ! こいつは傑作だ」
「黙れ如月」
雷斗に咎められ、沙菜は大人しく引き下がった。
「この戦い、日没までに終わらせます。民間人に不安を与えるのはお互い本意ではない。私かあなた、どちらかの死を以って決着としましょう」
「そんな! 惟月! 惟月ッ!!」
朱姫の声を無視して通信を終える惟月。
そして、優月たちの方へ振り返る。
「巻き込んでしまって申し訳ありません。私たちは羅仙界の身分制度を――ひいては掟そのものを変える為に戦います。優月さん、ここから先も力を貸してくださいませんか?」
羅仙界の掟――。自分たちが騎士団に狙われることになったそもそもの理由がそれだ。
その掟が変わらなければ、また龍次たちを危険に晒すことになるかもしれない。
優月は頷いた。
「はい。わたしがどれだけ力になれるか分かりませんけど……」
「では、私たちは先に王城に向かいます」
そう言って惟月は雷斗と共に神速の流身でバルコニーから飛び立っていった。
「さて、私たちもぼちぼち出かけましょうか」
沙菜は優月を連れて部屋を出ようとするが。
「ちょっと待って、優月さん。もうこれ以上君が戦うことなんて……」
龍次は優月を引き留めたいようだった。
優月としては、ここまできたからには龍次を守る為に最後まで戦いたいと思っていたが、本人から止められてしまうと、どうすればいいか分からなくなる。
そこで龍次を説得したのは、意外にも沙菜だった。
「龍次さん。優月さんは強い。あなたは守られてもいいんですよ」
妙にいい顔をして告げる沙菜に対して、龍次は反論する気が起こらないようだった。
「沙菜さん……」
自分の思いを代弁してくれた沙菜には感謝の気持ちを抱く。敵かもしれないと疑っていたのが申し訳ないところだ。
「――といっても、この如月家を襲撃する部隊もあるはずですからね。留守番も安全とは限りませんよ。うちの使用人や研究員と力を合わせて乗りきってください」
沙菜の言う通り、戦争というからには、騎士団の全部隊が動くのだろう。
龍次の傍についていたいとも思うが――。
「優月。こっちのことはおれに任せとけ。今更日向先輩に怪我はさせない」
涼太が龍次の護衛については引き受けてくれるようだ。
「ありがとう、涼太。龍次さん、行ってきます」
二人に頭を下げた優月は、この戦いに終止符を打つべく沙菜と共に出撃する。
「優月さん! 信じてるから……!」
龍次からの信頼を胸に優月は決意を新たにした。
第十章-戦う理由- 完
霊神騎士団第二霊隊隊長・百済継一の訃報が朱姫のもとに届いていた。
「そんな……。百済隊長が……」
どうしてあれだけの傷を負っていながら、一人で戦いに向かったのか。
配下の騎士の死に胸を痛め、涙を浮かべる朱姫。
「……こうなったら戦争よ!! 霊神騎士団の全軍を挙げて逆賊を討伐しましょう!!」
百済継一と藤森明日菜を撃破した優月たちは、如月邸に戻りしばしの休息を取っていた。
「やるじゃないですか、優月さん。私のサポートがあったとはいえ百済隊長を倒すなんて」
「沙菜さん……」
「如月。お前はおれたちの味方ってことでいいのか?」
「敵になるなんて言いましたか?」
まだ警戒を完全に解いていない涼太に対し、飄々とした態度で答える沙菜。
「皆さんが疑うのも無理はありません。ですが、彼女があなたたちに危害を加えることはありません。その点に関しては安心してください。――五年前の事件についても、いずれ落ち着いて話せる時がきたら本人の口から説明してくれるでしょう」
惟月は沙菜との関係についてフォローを入れてくれた。
五年前の事件について、惟月が把握してくれているというのは確かに安心だ。
事件の真相については全ての戦いが終わってから。
そう、戦いはまだ終わっていない。
重罪人の誅殺を主要任務とする第二霊隊の隊長が死んだとはいえ、これで敵が人間の侵入を許すということはないだろう。むしろ仲間の敵討ちの為に動き出すものと考えられる。
「如月沙菜、及び、その一党に告ぐ!」
突然、霊法により転送されてきた少女の声が邸内に響く。
「この声は……?」
「現羅刹王・真羅朱姫ですよ」
優月の疑問に対し、沙菜が説明を加えた。
「人間を羅仙界へ侵入させる行為、騎士団員に対する傷害、そして――第二霊隊隊長・百済継一の殺害、これらの凶行を以って貴公らを賊軍と見なし宣戦布告を行う!」
「ふむ……。私が答えても構いませんが、ここは総大将に出てもらうことにしましょうか」
沙菜に促され朱姫の呼びかけに応答したのは――。
「朱姫さん。そちらの宣戦布告、確かに受け取りました」
「惟月!? どうしてあなたが――!?」
惟月の声を聞いた朱姫は明らかに狼狽している。敵は如月沙菜と如月白夜、そして人間たちだけだと思い込んでいたのだ。
「『賊軍』というのは、私たち『羅仙革命軍』のことでしょう? 私たちはこれからあなたたちと戦います」
朱姫と惟月のやり取りを聞きながら、涼太と龍次がひそひそ声で話す。
「惟月が総大将だったのか……」
「俺も雷斗がリーダーなのかと思ってた……」
惟月はさらに言葉を続ける。
「私が一度でも、あなたを王太女として扱いましたか?」
「……っ」
惟月は初めから一貫して朱姫のことを、さん付けで呼んでいた。それは彼女たち王族の存在を認めていないからだ。
そこに沙菜が横から口を挟んでくる。
「惟月様から名前で呼ばれていたのは、王族という身分に囚われない親愛の証だとでも思ってましたか? ハハハッ! こいつは傑作だ」
「黙れ如月」
雷斗に咎められ、沙菜は大人しく引き下がった。
「この戦い、日没までに終わらせます。民間人に不安を与えるのはお互い本意ではない。私かあなた、どちらかの死を以って決着としましょう」
「そんな! 惟月! 惟月ッ!!」
朱姫の声を無視して通信を終える惟月。
そして、優月たちの方へ振り返る。
「巻き込んでしまって申し訳ありません。私たちは羅仙界の身分制度を――ひいては掟そのものを変える為に戦います。優月さん、ここから先も力を貸してくださいませんか?」
羅仙界の掟――。自分たちが騎士団に狙われることになったそもそもの理由がそれだ。
その掟が変わらなければ、また龍次たちを危険に晒すことになるかもしれない。
優月は頷いた。
「はい。わたしがどれだけ力になれるか分かりませんけど……」
「では、私たちは先に王城に向かいます」
そう言って惟月は雷斗と共に神速の流身でバルコニーから飛び立っていった。
「さて、私たちもぼちぼち出かけましょうか」
沙菜は優月を連れて部屋を出ようとするが。
「ちょっと待って、優月さん。もうこれ以上君が戦うことなんて……」
龍次は優月を引き留めたいようだった。
優月としては、ここまできたからには龍次を守る為に最後まで戦いたいと思っていたが、本人から止められてしまうと、どうすればいいか分からなくなる。
そこで龍次を説得したのは、意外にも沙菜だった。
「龍次さん。優月さんは強い。あなたは守られてもいいんですよ」
妙にいい顔をして告げる沙菜に対して、龍次は反論する気が起こらないようだった。
「沙菜さん……」
自分の思いを代弁してくれた沙菜には感謝の気持ちを抱く。敵かもしれないと疑っていたのが申し訳ないところだ。
「――といっても、この如月家を襲撃する部隊もあるはずですからね。留守番も安全とは限りませんよ。うちの使用人や研究員と力を合わせて乗りきってください」
沙菜の言う通り、戦争というからには、騎士団の全部隊が動くのだろう。
龍次の傍についていたいとも思うが――。
「優月。こっちのことはおれに任せとけ。今更日向先輩に怪我はさせない」
涼太が龍次の護衛については引き受けてくれるようだ。
「ありがとう、涼太。龍次さん、行ってきます」
二人に頭を下げた優月は、この戦いに終止符を打つべく沙菜と共に出撃する。
「優月さん! 信じてるから……!」
龍次からの信頼を胸に優月は決意を新たにした。
第十章-戦う理由- 完
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