羅刹伝 雪華

こうた

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第九章-最強の羅刹-

第57話「真の羅刹」

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「霊魂回帰――!」
 雷斗の身体から光が放たれ、それは惟月の身体に吸収された。
「戰戻――紅蓮城雪月華ぐれんじょうせつげっか
 白夜の刃から雷斗を守るように氷の城が形成されていく。
「これは……」
 木々を押し倒し顕現した巨大な城塞を前に目を見開く白夜。
 これが惟月の戰戻だ。
 惟月は雷斗に力を譲るにあたって、自身の魂魄を分離して与えていた。
 霊魂回帰によって、雷斗に与えていた分の力を惟月が取り戻したのだった。
「ふむ……」
 白夜は外から城を見上げる。
 一方、城の内部では――。
「大丈夫ですか、雷斗さん」
「…………」
 惟月に力が戻ったことで、雷斗はまた混血の時と同じ状態に戻っていた。
 ――劣血と呼ばれ、蔑まれていたあの頃のように霊気が弱まっていた。
 ――結局、自分には力を持つだけの資格はなかったのか。
 外から白夜が城に向かって攻撃する音が聞こえる。
 惟月は今まで研究してきた霊子学を活用して、城の霊子構成を巧みに組み替え白夜の攻撃を防いでいた。
 防戦一方とはいえ、惟月には白夜の攻撃を防ぐほどの能力がある。
(私の存在は本当に必要だったのか……?)
 分からない。自分が力を得たことは一体何だったのか。
「霊法七十八式・命活陣めいかつじん
 惟月は雷斗を囲むように治癒の結界を設置した。
「私の戰戻で時間を稼ぎます。その間に傷を癒して――もう一度戦っていただけませんか?」
 まだ戦えというのか。力を譲り受けていた状態でも敗れたというのに、力を失った今、傷を治したところで勝ち目があるとは到底思えない。
 それでもなお惟月は雷斗の治療と城による防御を並行して続けていた。
「はっ……、はっ……」
 城にダメージが与えられる度、惟月の精神力が削られていく。
 惟月一人なら逃げることもできよう。だが、このままでは二人共、白夜の手にかかって死ぬだけだ。
「惟月……」
「私は大丈夫です。雷斗さんは、ご自身のことだけ考えてください」
 惟月の視線からは確かな信頼が感じられた。自分が時さえ稼げば、雷斗は白夜に勝利するという。
 ――何故ここまで信じられるのか。
 氷で造られた玉座の間に亀裂が入る。守りの限界が近づいていた。
「く……」
 亀裂が部屋中に広がったかと思うと、惟月の戰戻だった氷の城は崩壊した。
 雷斗と惟月は、氷の破片と共に地面に落ちる。
 そして――。
「素晴らしいな、霊子学というものは。沙菜から聞いていた通りだ」
 眼前には白夜が迫っていた。
「蓮乗院惟月。そなたもまた私が斬るに値する者だろう」
鋭氷剣えいひょうけん!」
 戰戻の解けた惟月は氷のレイピアを作り出し白夜と向かい合う。
 ――このまま惟月が斬られるのを見ていていいのか。
 ――せめて自分が混血などでなければ。
 そこでふと思う。
 雷斗は以前から霊子学研究所第二研究室に出入りして、霊力障害の治療法について調べていた。霊力障害は人間の血が混ざっていると発症のリスクが急激に高まる。では、人間の血を取り除くことができるとしたらどうなのか。
 さらに、優月が羅刹化の修行をした時のことを思い出す。
 彼女は人間としての本能に抗って羅刹の刀をその身に受け入れることで羅刹化を実現した。
(ならば――)
 自分の傷口から流れ出て地面に溜まっていた血に片手を添える。
 そこに羅刹としての力――霊力を込めると、血液は鋭い刃と化す。
 雷斗は迷いなくその刃を自らの胸に突き立てた。

 剣戟の末、惟月は白夜の前に膝を突いていた。
「蓮乗院惟月。この霊刀・残月の糧となってもらおう」
 勝利を確信し、惟月に刃を突きつけていた白夜だが。
「――!」
 かつてないほどの強い霊光が二人の間を駆け抜け、白夜は目を見張った。
「これは――」
 白夜が光の出処に目を向けると、そこには傷が完治し戦いを始める前以上の霊気を纏った雷斗が立っていた。
 羅刹装束にも変化が見られる。通常の着物の上にスタンドカラーが付いた上着。左腕だけを覆うマント。全体的に以前より豪華な装いだ。
「そなた……、月詠雷斗か……?」
「そうだ。――如月白夜、今一度私が相手になる」
 雷斗は先ほど、自らの霊気を注ぎ込んだ血の刃で己の心臓を貫いた。
 人間の血が枷となっているならば、それを殺してしまえばいい。それが雷斗の辿りついた答えだった。
 当然、自身に真の羅刹たる器がなければ血液の半分を失って死に至る。惟月から力を与えられて、羅刹としての戦いを経験してきた今だからこそ全ての血を羅刹のものに変え、完全な羅刹へと進化を遂げられたのだ。
 新たに生み出されたスキアヴォーナ型の魂装霊俱、霊剣・月下げっかを手に、再び白夜と対峙する雷斗。
「混血だったとはいえ、人間の血を持つ者の完全な羅刹への進化――。初代羅刹王以来の快挙か……! 素晴らしい、本当に素晴らしいな。そなたらは」
 完全に羅刹化を果たした雷斗を前に今までにない高揚感を覚える白夜。
「断劾――唯覇残月刃ゆいはざんげつじん
 白夜の刃が薄っすらと霊光を纏う。
「恐れることはない。私の断劾に特殊な効果は何もない。ただ触れれたもの全てを斬り伏せるのみ」
 霊刀・残月を手に、白夜が全力で斬りかかってくる。
 ――刹那、白夜は雷斗を見失った。
 目に見える姿だけではない。霊気を感じ取ることもできず、魄気で存在を探知することもできなかった。
 白夜の背後を取った雷斗は霊剣・月下の切先を差し向ける。
「断劾――電迅争覇・椿つばき
 白夜を破る為に最速で作り上げた新たな断劾。花弁の如く幾重にも折り重なった紫電の刃が白夜を襲う。
 白夜の能力――『絶対強度』は速力には影響しない。技の霊子構成を組み替える速さで勝った雷斗は白夜を打ち倒すことに成功した。
「如月白夜。最強の力、確かに見せてもらった」



「う……」
 気絶していた白夜が目を覚ます。
「そなたら……」
 自分たちと白夜の傷を治して待っていた惟月と雷斗。
「何のつもりだ……? 自分たちを殺そうとした私を生かすなど――」
「恐れ入りますが、白夜様、あなたの能力を解析させていただきました」
 白夜の能力が惟月によって解析された――。それは今の白夜では彼らに対抗できないということを意味する。
「如月白夜。貴方の力は羅仙界にとって必要なものだ。貴方を殺す気はない」
 雷斗も含め、白夜の存在価値を認めていた為、彼は生かされることとなった。
 そんな雷斗たちを眺めて笑みを浮かべる白夜。
「今後私の力が増して、再びそなたらを殺せるようになるやもしれぬぞ?」
 白夜の言葉に対し雷斗は毅然たる態度で答えた。
「その時は何度でも相手になろう」
 答えを聞いた白夜は立ち上がり、二人に背を向ける。
「ふっ、そなたらを殺すのが惜しくなった。生きてまた刃を交えたいものだ」
 長い銀髪を風になびかせ、白夜は森の奥へと消えていった。

 『最強』と称された羅刹・如月白夜との戦いを通して、雷斗は完全なる羅刹として覚醒した。
 そのことが何を意味するのか。それを知る者はまだ少ない。


第九章-最強の羅刹- 完
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