羅刹伝 雪華

こうた

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第六章-動き出す騎士団-

第41話「霊神騎士団」

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「よく躱したわね。でも次はないわよ、人間」
 突如として上空に現れた霊気は、急降下してきて先ほどまで優月の立っていた地面を抉った。
 落ちてきたのは、中華風の戦袍せんぽうを纏った長身の女。 
「え、えっと……、どういうことでしょう……?」
 優月が混乱していると、女は長い銀髪を風になびかせながら力強く名乗りを上げた。
「私は、羅仙界を守護する霊神騎士団の第二霊隊第七位・十勝とかち蒼穹そうきゅう! 羅仙界に侵入した邪悪な人間を排除せよとの命を受けたわ!」
 ――変わった名前だ、などと考えている場合ではない。相手は敵意をむき出しにしている。
「ま、待ってください。その……」
 何と説明すればいいか。自分たちがこの世界に渡る時、それが禁止されていることだとは知らなかった。知らされてからも、そこまで悪いことだと思わなかった。
 口下手であることがこんな時にまで仇となっている。
「問答無用よ! 羅仙界の掟は絶対。侵入した人間は全員生かして帰さないわ!」
 全員――と聞いて優月の意識が変わった。
 この蒼穹という女騎士は自分だけでなく龍次や涼太も殺すつもりなのだ。
 蒼穹は腰に差していた柳葉刀を抜き放ち斬りかかってきた。
 優月も霊刀・雪華の変化を解き受け止める。
「その刀、羅刹の……? ――まあ、どうでもいいわ!」
 蒼穹は刃を合わせたまま優月の横腹に蹴りを入れてくる。
「う……ッ」
 蹴り飛ばされる優月。
 全力を出さずに勝てる相手ではない。優月は自身の霊力を高め羅刹化する。
 羅刹化に伴い着ていた服も月白の羅刹装束に変化した。
「人間が羅刹化した? よく分からないけど、羅刹の刀を持とうが羅刹装束を着ようが人間には変わりないわ!」
 宙に舞い上がった蒼穹は魂装霊倶の変化を解く。
「霊槍・蒼牙そうが
 本来の姿を解放した霊槍を手に空中から落下しながら攻撃してくる。
 素早い身のこなしに優月は羅刹化してもなお躱すのがやっと。
「人間にしては大した反応じゃない。私の『跳躍攻撃』を二度も躱すなんて」
 蒼穹の能力『跳躍攻撃』――上下に移動した距離に応じて霊的な攻撃力が増す。
 二撃目は一撃目ほどの威力ではなかったが、それでも直撃を受ければひとたまりもない。
 一刻も早く決着をつけなければ、と断劾を放つ為刀身に霊気を集中させるが――。
「遅いッ!」
 一瞬で間合いを詰めた蒼穹がその拳で優月を殴り飛ばす。
 攻撃を受けたことで、刀身に集めていた霊気は霧散してしまった。
 優月の断劾『霜天雪破』を司る副霊源は霊刀・雪華の中にある。断劾を放つ為には必要な量の霊気が副霊源を通過しなければならない。
 その後も霊気を操ってなんとか断劾を発動しようとするが、蒼穹の体術で潰されてしまう。
 流身体術――体内に存在する霊気を操って肉体を移動させる流身の性質を利用して超人的な体さばきを実現し攻撃する。
 人間の龍次が応戦できていた赤烏はおそらくこの術は使えなかった、あるいは使えなくなっていたのだろう。
 しかし、今度の相手は違う。万全の霊力を持ち、騎士団においても一定の地位に就いているようだ。
 せめて霊戦技の『氷柱撃』を放とうとするも、隙のない連撃でことごとく阻止される。
 槍による攻撃を受ければ致命傷を負いかねない。どうにかそれだけは避けているが、連続して繰り出される打撃で優月の体力はどんどん削られていった。
「一つ訊くわ。その紋章、蓮乗院家のものでしょう? 一体どこでその刀を手に入れたの?」
 戦いながら蒼穹は、優月の着物の胸に入った紋章を指して尋ねてくる。
「……いただいたんです。六年前に」
「もらった? ありえないわね。いくら蓮乗院家が人間界に協力的だっていっても、人間ごときにそんないい刀をあげるなんて」
 それは自分でも思ったことだ。霊刀・雪華は本来羅刹の物だというだけでなく、惟月にとっては母親の形見でもあったはず。それを――多少は力を示したとはいえ――簡単に譲ってしまって良かったのだろうか。
 考えてみれば惟月も羅仙界の掟で人間の侵入が禁じられていることについては教えてくれなかった。まさか、何か別の狙いがあったのか――。
 惟月が自分に向けてくれた柔らかな笑顔を思い出して首を振る。
(惟月さんがわたしたちを騙そうとしてるなんて、そんなこと……)
 あるはずがない。そう信じたかった。
 真実を知る為にも今は目の前の敵を撃退しなければならない。
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