旅姫〜でも異世界からは帰りたい！！〜

名前のある人

5

「雨宮たちも、お昼？」
「そうだけど。」

時雨の返事はそっけない。
ふーんとキノコさんはその様子を見ると、時雨の持った商品を引ったくった。

「ちょっ、何⁉︎」

キノコさんは店内からいくつか物を持ってくると、人のいるカウンターへ向かう。

「ありゃーっす。」
「出合、なにすんの？」

時雨がジトッとした視線を向けると、キノコさんは細い目をさらに細くして笑う。

「1821円っす。」
「コレで。」

キノコさんはカードをその人に渡す。

「袋いらんよ。」
「ごりゃやぁー」

…さっきから、あのカウンターの向こうの人が、何言ってるのかさっぱりだ。

キノコさんは渡される商品を、持ち前の袋に入れている。
袋には、乾燥しきったキノコの亡骸が描いてある。


「あいよ。」

キノコさんは、袋をひょいと私に渡した。

「え、出合？」

時雨の方が動揺している。

「食うもん食わんと、この暑さじゃバテるぜ。」
「…ありがと。」
「オススメ入れといたから！」
「俺の分は？」

後ろから高間さんがそう言う。

「高間サンには、いつものっすよ！」

そう言って、カウンターに残ったままの商品を渡した。
高間さんはしばらくそれを見つめると、突然顔を上げる。

「分かってんなぁ！」
「そりゃ、伊達に何年も一緒にいないっすから！」

2人は肩を組み合って笑っている。

「…おっさん。」
「なんだ、出合と同い年だろ！」
「うるさいよおっさん。」
「かわいくねぇなあ！」

そう言いつつも、高間さんは嬉しそうだ。

「今からどこに行くんだ？」
「マリオソスドに。」
「なら平気か、ミータナンに物騒な奴らがいるって噂でさ。」

時雨は片眉だけツイっと持ち上げた。

「どう言う系の？」
「わからん、シルクスネークじゃあ無いみたい。」
「なんだろうね。」

シルクスネークは、地元のやさぐれた若者の集団らしい。
ただ、裏に大組織が張り付いている事もあり、警察との付き合いは秩序的だと。
決まりに反くような真似は、見る限りしていないらしい。

「シルクスネークにしては下品だから、多分別の奴らだ。」
「…大事にならないといいね。」
「あんがと。」

高間さんはヘラッと笑うと、出合さんを引っ捕まえた。


「さ、俺らも行くぞ！」
「ハイっ、じゃあな雨宮！」

2人は手を振りながらコンビニを出て行った。

「…どっと疲れた。」

時雨はそう言って髪をかき上げた。
…相変わらず綺麗な顔ね。


ーー


私達は車に戻ると、時雨は出合さんから貰った袋を渡してくる。

「好きなの食べて。」
「あ、ありがとう。」

私は時雨の真似をして、手のひらサイズの三角形のパッケージをとった。

…これ、どうやって開けるの？